2学期が終わり冬休みに入った直後に、コンビニに行ってコーヒーを2,3本買って肉まんやチキンを購入してから1人で学校の屋上に向かった。誰も居ないのを確認した後、あまり風の来ない隅っこの方へと座って、まだまだ熱いコーヒーを開けて一口飲んだ。
皆との暮らしに不満は無いが、たまにこうやって誰も居ない所でのんびりしたい時がある。こうする時に似たような環境を選ぶ当たり、あまり広くなくて目立たない場所が好きなのだろう。ちょうどいい温度になっていた肉まんをかじりながらコーヒーで流し込みながら、漠然とそんな事を考えていた。
結構長居するつもりなので寒さ対策にコートとひざ掛けまで用意してから来ている。藍以外は見慣れた光景になっていたので、違和感を持たれずに「いってらっしゃい」と送り出されている。藍には「何勝手に楽しそうな事をしているんですか、私も連れて行って下さい」と言われたが、「おひとり様タイムだし、風邪を引くからダメ」と却下した。納得はまるでしていなかったが、今回は引き下がらせた。
普段は専ら本を読んで過ごす時間なのだが、今日は何もせず頭を休める為に寝転んで雲を眺める。しばらくぼーっとしていたが、なんとなくこの学校に来てからの事を思い返した。
「……………よく考えなくても6股は完全にアウトだよな、遺書でも書いておいた方がいいかな…。」
現状を考えると「お前の命は後2年と3か月だ」って言われても納得しかない。だが俺にその気が無いので解決できない問題だ、一旦置いておこう。頭の中で時を遡って、入学して間もない頃を思い返す。4人に会いに別クラスに突入して、その時に感じたクラス格差からクラス分けの法則は感じ取れていた。AクラスはまともだったけどCクラスはヤンチャしてきた奴みたいな集まりで、Dクラスに至っては品位を窓から投げ捨ててる有様だったし。
それでも当初は移籍するポイントが貯まるまでは、Dクラスのために働くつもりだった。その予定通りなら、船で大金を賭けたギャンブルはしなかったので大分時間もかかっていただろうし、ポイントもカツカツでの移籍になるのは想像に難くない。暴力的すぎる才なのは自覚している、そして誰かを破滅させたいわけでもない。よっぽど特別な理由が無い限りは控えめに終わらせていたはずだ、よっぽどの理由が出来てしまったが。
今更だが茶柱先生は、一体何がしたかったんだろうか。最初の一か月が終わった後の暴言は良い、あの時のDクラスは動物園としか言い様の無い有様だった。ボロクソ言って来ても「そら言いたくもなるわな」と思いながら聞いてたし。堀北を焚きつけるために俺らを利用するつもりだったのは、気に喰わないから突っぱねたがまあ分からなくもない。
しかし、最初の中間テストの試験範囲変更を知らせなかったのはマジで意味が分からない。たまたま変更を知らされた日に真澄と一緒に勉強をする事になっていて、真澄に「どうしてそこを勉強してるのかしら?」と聞かれて、桔梗に連絡をして聞いてみて貰ったところ「伝え忘れていた」と言って来たらしい。「アホしかいねえのかこのクラスはさあ!」と桔梗は切れ散らかしていたが、同感だった。
ちなみに過去問は模擬テストとして使えば結構便利だなと思ったので、大分早い段階で堀北先輩からコピーを頂いていた。欲しがる理由を聞かれて「教師も人間ですからね。問題をそのまま流用したり変化を少しだけ付けるなら、手間が省けるでしょうから」と言ったら、予想と違った回答だったらしいが面白い着眼点ではあったようだ。
まあ丸ごとそのまま出るなんて思っちゃいなかったので、コピーのコピーを取って一緒に勉強した時に使わせた結果、別クラスから100点満点を続出させてしまった訳だが。綾小路と桔梗にも渡していたが、綾小路からその事実を聞かされた時は背中から汗が流れるのを感じた。どのクラスも過去問を入手していたのでセーフ判定を貰ったが。
この後を追って考えるとやはり、審議の結果で綾小路がめちゃんこ使えると思ったんだろうなあ…。なんかすげえ形の雲…というか龍虎相打つみたいな感じになってて凄かったので写真を撮った。龍が奴なら虎は綾小路か、虎を檻に入れて運用すれば行けるって考えたのかなと当時の茶柱先生の行動について雲を見ながら考察した。檻は錆び付いてるし、なんなら虎は翼まで得てしまったわけだが。
自分の担当クラスをAクラスにしたかったのは理由としては分かっているが、その方法として綾小路を脅したのは今でもよく分からない。しかも退学させる云々はちょっと前にブラフだったと綾小路の口から聞いた。その事実に「俺が居なくてもどこかで絶対に破綻してたじゃねえか」と、思わず口に出してしまったくらいには困惑させられたのは記憶に新しい。
一応心配なので真嶋先生に茶柱先生の様子をちょいちょい聞いているが、以前より元気がなくなった気がすると仰っていた。なので、行き当たりばったりは宜しくないという反面教師として俺は教訓にした。
他の奴について考えると、筆頭はやはり龍園になるな。Dクラスは堀北が成長途中なのと高円寺はやる気を出してないのでまだ保留でもいい。Bクラスはゲームで言えば、油断をするつもりは無いのだが…ステータスは高いが特殊能力の無いバニラの集まり、という印象になってしまった。現時点で頭角を現す奴が居ないのも不気味ではあるが、そろそろ本腰入れないと手遅れになるだろうから居ないのかもしれない。
個人的な龍園の評価は、常に勝つための手札を増やしたり、ブレーキを捨ててるかのような倫理観ゼロの策でも有用ならやれるのでリーダーに向いているとは思っている。自分から動ける事を考えると、うちのボスとの知力の差を差し引いて同格かなと思っている。だが龍園の愉快な仲間たちがあまり育ってねえのを見ると、イケイケで行くのもリスクがあって難しいんだなと感じる。言い方が悪いが今のCクラスは、駒が弱かったら話にならねえのに駒が油断しているという状態に見えている。Dクラスにペーパーシャッフルで敗北したのは龍園も頭が痛かろうよ。
ちなみにAクラスは隙が無いかと聞かれたらそうでもない。お勉強が出来るだけのお利巧さんと龍園が揶揄した事があったが、あながち間違いじゃない部分もあるし。俺もそうだが、ラフプレー…主に暴力への対策は身に付けていく必要はあるだろう。教えて貰えそうな当てが堀北先輩になるのだが、今の時期は忙しいだろうから頼めない。またも先延ばしになりそうだ。
頭を休めに来たのに考えすぎたなと、考える事をやめてただぼーっと雲を眺め始めた。風も強くなかったし結構暖かい恰好だったのでウトウトしてしまい、気付いたら寝てしまっていた。結構熟睡してしまったらしく、誰かに体を揺らされて起きた時には空も暗くなり始めていた。うっすら目を開けた時に目の前に映ったのは山田だった。
「『…起きてください、比企谷さん。風邪引きますよ。』」
「『………おはよう。こんな事する奴は馬鹿だから大丈夫だろう。馬鹿は風邪をひかないって言うだろう?』」
冗談を言ったら山田はニヤリと笑った。俺は俺で様子を確認すると、龍園と愉快な仲間たちが集まっていた。軽井沢も居るのを確認して、誰が綾小路の駒なのかをようやく理解した。
「『………休みに入ったばっかなんだし、後日やってくれよー…。後日に延期出来ない?』」
「『無理ですね、ボスの判断に間違いは無いと信じていますから。』」
俺が頭を休める日にも働く龍園にちゃんと休めよと思いながら、どうやってこの修羅場を乗り切るかを考える事になった。龍園は龍園でこっちをめっちゃ睨んできてるし。
流石に八幡君も寝袋までは用意しませんでした。