クリスマス当日、起こすのも悪いのでいつも通り起こさないようにベッドから抜け出す。まだ寝ている藍の顔を見てから風呂へ行き、シャワーを浴びてさっぱりする。着替えを済ませてリビングへ向かい、眠気覚ましのインスタントコーヒーを入れてちびちび飲む。ぶっちゃけ熱くて一気に飲めない。
昨晩の事を思い出し、改めて体力があるだけではやはり駄目だなと結論付けながら少し温度の下がったコーヒーに砂糖とミルクを入れる。目が覚めて来たので、もう苦いまま飲む理由は無い。自分好みの味に調整した飲み頃のコーヒーを先ほどよりペースアップして飲んでいると、扉が開くのが見えた。寝る前に着直していたパジャマのままなので、起きてそのまま直行してきたようだ。俺の姿を確認して近づいて来て、しゃがんでジト目でこっちを覗き込んできている。とりあえずテーブルにコーヒーを置いた。
「………この鬼、悪魔、鬼畜、女誑し。こうやって全員誑かしてきたんですか。」
「流石に違うわ。どうやればいいのかを今でも勉強してるだけだ、動画と実践で。」
「とんでもないドスケベ野郎じゃないですか。」
「………まあ、それは否定しない。」
実際の所、彼女たちの反応を楽しみながらやっている。触診するように指で反応を確かめてから、弱い所をいくつか見つけて反応を見ながら行動している。ジト目のまま俺の上に乗り、首に腕を回して抱き着いている藍にも例外なく実行した。というか1人で特攻するように俺の部屋にやってきて、どうしたのかと聞いたら煽られながらチャンスを貰ったと言ってきた。多分無理そうと思われながらいわれたんだろうなと思いつつも「手加減を知らんけど大丈夫か?」と聞いたら「つべこべ言わずとっとと抱いてください」と、顔を真っ赤にしながら返してきたので全力で最後までやった。それが影響して、藍は多分ここまで吹っ切れてる。
「正直あんまり抑える気が無いからやりたいようにやったけど、駄目だった所があったら言ってくれ。直すから。」
「…駄目だった所が分からないくらいの戦力差だったんですよ。本当に3か月ちょっと前まで未経験だったんですか?」
「やると決めた事には手を抜いてないだけだ。相手を見てどうすればいいのか、どうやればいいのかを確認しながらな。」
「そういえば貴方、人を見る目を養って来たと言ってましたね。………筒抜けだったという事ですか、くそぅ…。」
夜の事を思い出して耳を赤くしながら悔しがっているが、離れる様子は無い。頭で胸をちょい強めにグリグリしてきてるが。背中に手を回し、ポンポンと触ってから撫でる。
「こうやって自発的に抱き着いてきたあたり、ちょっとは慣れたっぽいな。お前さんは悪い男に引っかかるくらいの純情さだからなあ…。」
「…今の私はニュー藍ちゃんです、これまでと同じとは思わない事ですね。」
「………なんていうか、その物言いにちょっと安心したわ。借りてきた猫よりは、自由奔放な猫みたいな振る舞いの方がお前さんらしいし。」
他の奴に対しては例を挙げると、前の席の奴に消しカスを飛ばしまくってたり、忍び足で背後から真澄や帆波の胸をガッシリ掴んで「でけぇ…!」と言いながら自分の胸との差に勝手にダメージを食らってたりと、何やってんだアイツ感に溢れていた。ちなみに2人からはバッチリ仕返しとして、羽交い絞めにされながら脇腹をめっちゃくすぐられていた。大分愉快な女である。
まだ照れはしているが前よりも冷静さを保っているので、この子に対して言いそびれていた事を伝える。俺自身照れ臭いというのもあったが、この子がパンクしないように、という配慮もあったが。
「…あー、言うのが遅いかもしれないんだが。藍に対して言いたい事が一つあってな。」
「何ですか?今の私ならそう簡単に動じませんよ。ガンガン言ってください。」
「言ってなくて悪いなと思い続けてる事だったんだが………藍、大好きだ。出来るならずっと一緒に居て欲しい。」
「……………ひゃいっ。」
噛んだ上に首筋まで赤らんできた。だが離さないと言わんばかりに抱き締めてくる力は強くなってるので、想いは伝わったようだ。しばらくの間、ガッチリ掴まれっぱなしで身動きは取れなかったが。
今日の午後は俺以外は何やら予定が入ってるらしく、久々に1人での行動になった。少しばかり普段より空いてるであろうジムで筋トレしに行く途中、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。近いなと思いながら振り向くと、まだ本調子から遠そうな龍園が居た。
「…何か聞きたい事でもありそうだな。」
「…付いて来い。」
らしくもなく、あまり元気の無い声で言って来た。まだ傷心モードらしい。一応警戒しながら付いて行ったが、到着した場所はカフェなので流石に大丈夫だろうと判断した。他の客がギョッとした気がするが。
席についてそれぞれ飲み物を注文し終わると、龍園が口を開いた。
「…テメェは奴をどこまで知ってやがる?屋上に奴が1人で来た時、テメェは眉一つ動かさなかった。…あの時点で決着が見えていたかのように。」
「なんとなくやる奴だと思っていたが、1人で来たのは完全に予想外だった。…後、どこまで知ってるかって聞かれた所で、お前と大差ねえぞ。」
「ヘッ、どうだかなァ。」
綾小路に関しては、なんか探られるのは嫌そうだったから詮索しないでいる。何となく冗談で考えた「黒幕ぶっ潰しゾーンを単独突破出来るテロリスト育成塾出身の男」とかいうアホ推理を強く否定出来なくなってきたが。
「それにしてもわざわざそんな事を聞きに来たあたり、まだ闘志は潰えていないようだな。流石は龍園と言った所か。」
「…俺は退学するつもりだったがな。自分から仕掛けた勝負にボロ負けしちまった以上、俺にクラスの連中を従えられる程の権力は残っちゃいねえ。」
「………仮にお前が退学したとして、誰に次のリーダーを押し付けるつもりだったんだ?はっきり言って貧乏くじだぞ。」
「………。」
そもそも龍園が言う程、玉座から陥落していないだろう。暴力で支配してきたのはそうだが、それでもちゃんとした実績を積み重ねて来た。反発する奴も当然居るだろうが、龍園のおかげで戦っていけてると肌で感じてる奴も結構居るだろう。
頼んだ紅茶を一口啜るように飲む。Aクラスで卒業を目指すなら、目の前の男に退場してもらった方が楽だろう。そうするつもりが綾小路にも俺にも無いのだが。それに、目の前の男が居なくなったらクラス内の空気が緩む気もする。そう考えると、手強い敵は居た方がいいのだ。
「…テメェに聞きたい事が一つある。」
「…ん、何だ?」
「船で、どれだけ稼ごうと思えば稼げた?」
「…お前がどれくらい知っているのかは分からないが、限度一杯稼いだぞ。」
海の底に人を1人追加するわけにもいかないので、あれが精一杯なのは本当である。現金だったら沈められてるかもしれないが、ポイントなら大丈夫だろうという希望的観測だったが。実際沈められるとかそういう事には発展していないと真嶋先生に確認は取ってある。ただ、龍園が知りたいのはそういう事ではないのだろう。言う気は無いが。スンゲェ睨みつけてきて怖いが。
「………チッ、相変わらず読めねえ奴だ。」
「読ませる気が無いからな。…そろそろ行かせてもらうぞ、ジムで体を動かしたいんだ。」
「こんな日にまで何やってんだテメェは。」
「こんな日だから利用客が少なくて快適なんだよ。じゃあな。」
席を立ち、支払いを済ませてそのまま龍園と別れた。…仮に退学するとしても、出来得る限り情報を搾り取ってからにするつもりだったな、アイツ。そういう所があるから、あの男を生き残らせようとCクラスの連中が動くのは容易に想像出来た。
パワーレベリングにより、藍ちゃんのレベルは25くらいまで上がったんじゃないですかね。