3学期がスタートしてから最初の木曜日、クラス毎にバスに乗ってどこかへ向かっている。数日分の着替えを用意させられたあたり、またもや予定狂わせな特別試験のようだ。私物の持ち込みも許可されているので、本を持ち込めるのは救いだろう。『混合合宿』という名前の試験らしい。
7泊8日の全学年が参加する試験のようで、男女に分かれてグループを組んで行うようだ。1年生は1グループあたり10人から15人で1グループ、計6グループを男女それぞれ作る必要がある。グループ単位で競い合い、成績の優劣で順位がついてポイントの増減が1人ずつ行われる。例えば1位のグループならそ1万プライベートポイントと3クラスポイントを与えられ、6位なら逆に失う事になる。後、グループから1人責任者を決める事と、同じクラスだけのグループで固めるのは駄目なようで最低でも別の1クラスの奴とグループを組まなければならない。代わりに3クラス混合だと2倍、4クラス混合だと3倍と、与えられるポイントが増える。グループの成績が3位以内に入らなければプラスにならないので、4位以下は何の恩恵も無いが。
また総人数/10の倍率でポイント増が行われるのと、責任者と同じクラスだと報酬が2倍とされる。だが、一番重要な事はそこではないようだ。
「最下位かつ用意されたボーダーラインを割ったら責任者が退学で、ボーダーラインを割ったグループメンバー1人を道連れに出来る、か…。このルールだと綾小路を仕留め切るのは難しそうだな。」
「…一応聞いておくが、お前は何を考えているんだ?」
「脳内シミュだな、如何にして綾小路清隆を退学に追い込むかっていう。どうあっても責任者に追い込むのも不可能そうだし、ボーダーラインを下回りそうにないからまず失敗するだろうな。ハッハッハ。」
「…笑いながらやるような事か?」
「笑いながらやるような事だ、敵に回る事は多分ねえだろうしな。お前さえ突破出来れば大抵の奴はどうにかなるだろうから仮想敵にしたけどクソゲーすぎる、ナーフ待ったなしだ。」
運動が得意な代わりに学力が高いのがうちの綾小路くんである。なんなら武力もあるし謀も可能な知能も持ち合わせてる、無敵か。
「まあ仮想敵を省いた前提も考えてみたんだが、例えばAクラス以外が手を組んで、Aクラスの誰かを責任者にして手抜きしまくるか、道連れに追い込む。んで、その際に発生するペナルティ…退学の100クラスポイントと2000万プライベートポイントと今回の試験の特例になってる300クラスポイントの支払いを契約とかして折半すれば、Aクラスに一番ダメージが行く。」
配られた資料にはいかなる理由でも脱退とメンバーの入れ替えが出来ないと書かれているので、Aクラスの生徒が1人だけグループ入りした場合が一番嵌め易いだろう。
「道連れにする場合は誰かの目の無い所でじわじわと嬲る様に弱らせて成績を落とさせる。………もっと外道な事を追加するなら、一緒に退学する奴の救済も踏み倒してしまえばいい。そうすればAクラス、今年の場合で言えば堀北先輩の親しい人を退学に追い込めば、2000万プライベートポイントと400クラスポイントを失わせられるだろう。対して、他のクラスは33クラスポイントか34クラスポイントの損失で済む。」
「…。」
「とまあ、これをお前相手に脳内シミュで実行してみたんだが、どう足掻いても逃げ切られる結果しか見えなかった。お前が責任者になるリスクが見えてないはずもないし、大人しくボーダーラインを割られるような雑魚でもない。徒労に終わるだろうな。」
「…それはそれとして、仮定とはいえ友達相手に容赦が無さすぎじゃないか?」
「所詮実行しない策だから好き放題考えてみた、ちょっぴり反省はしてる。まあ、例に挙げた通りやるなら3年が一番有効で、成功したら最後の特別試験で逆転が容易になるならってとこだろうな。1年がそれをやるには今後がリスキーだし、2年も同様だ。…で、この策は点数を付けるなら何点くらいだ?」
「…この試験で一番の落とし穴を利用した、悪くない策だと思う。だが、どうやって作戦まで持ち込むかが課題だろうな。実際に協力し合うためにそれなりの出費を支払う必要があるかもしれないし、土壇場で裏切られる可能性もあるだろう。」
「あー、まあ確かになあ。」
「3クラス合同で行う事を考えると、クラスポイントを横並びにしなければBクラス以外はやる意味が薄い問題もある。やれるかどうか分からないが、『混合合宿が終わった時点のB・C・Dクラスのクラスポイントを合算して、3等分して配分する』という感じの重い契約が必要そうだ。これも大きな問題だろ。」
「意外とイケるんじゃねえか?」と思っていたが、結構でかい問題があぶり出される。言われてから気付いたが、同じクラスの奴らすら納得できずに実行できない可能性もあるのだ、大分粗が多かった。
「それらを加味して点数を付けるなら、60点だな。」
「…意外と貰えるんだな、問題が大きいからもっと減点されそうだと思ったんだが。」
「問題を無視できないのと同様に、メリットも無視できないくらい大きいからな。後少しで卒業という時期で、こんな形で仕切り直しをさせられたならガタガタになってもおかしくない。やってみる価値が十分ある、という事でこの点数になった。」
パッと思いついた事を言った割には良い点数を貰えた。まあ、俺たちはやる側ではなくやられる側になるが。雑談を切り上げて資料に改めて目を通そうとしたが、右側から若干の重さと柔らかさを感じる。
「合宿、やだ………。合宿の間だけ男扱いされたい…。」
「…いや、どう考えても真澄を男扱いは無理があるだろう。」
離れたくないと言ってくれるのは嬉しいが、大分無茶な事を言ってらっしゃる。
「………今だけ八幡が女の子になってくれれば…。」
「真澄、ちょっと冷静になろうか。もう試験は始まってる、油断しないで切り替えよう。」
「…うん。」
夏休みの途中から冬休みの間で一緒に過ごした時間が長かったから余計に寂しいのだろう、俺も寂しいから気持ちはよく分かる。真澄が甘えてきてくれると疲れが吹っ飛んだような気分になるし、作ってくれる料理は美味しいし明日も頑張ろうという気力が湧いてくる。なので8日間の真澄ロスは大分嫌だったりする。ついでに言えば、真澄ロスだけじゃないのがダメージに拍車をかけているのだが。
「…それにしても、八幡も結構怖い事考えるのね。」
「考えるだけで実行する気概もねえんだけどな、そういう意味でも俺にはリーダー適性が無い。それ以上にやる気が無いし、さらにそれ以上にカリスマも無いんだが。」
前の席で相談をしている有栖と帆波、葛城を見る。よくもまあ同じクラスにリーダーシップを取れる奴が多く集まったものだと思う。移籍組は特に口出しする気が無いと意見を一致させているが、多分俺以外はやれなくもないだろう。
「八幡ならリーダーでもやっていけると思うけど…。」
「無理とは言い切らねえけど慣れない仕事になる。だから実際にやる場合は、真澄たちに構える時間が激減するかな…。遊びに行くのも難しくなるだろう、改めて勉強しなきゃいけない事も増えるから。」
「…慣れない事はやらなくていいわね、うん。」
「そうだな、比企谷にリーダーを無理矢理やらせても旨味が無い。それ以外にやれる事がいくらでもあるからな、料理とか。」
「…君ら結構現金ね。」
2人とも呑気だなあと思いつつ、資料に目を通し直した。これ以上の嵌めもなさそうだ。どういうグループ分けになるかは分からないが、何時も通り出たとこ勝負でいいかと判断した。どうせ余り者グループに入る事になりそうだし。
「どうやったらコイツを嵌められるかな…」と、八幡君は試験の度に仮想していたりします。「この程度でコイツがどうにかなる訳が無い」という信頼があるので、無理難題に挑戦しているのを楽しんでます。