「流石に有無を言えずに連行されるとは思ってなかったわ。一応責任者になったから断ったほうがいいかなと思ったんだが。」
「八幡くんって妙な責任感があるからね、口を開く前に押し切っちゃうのが早いかなって。話せば分かってくれる人たちで助かったよっ。」
「妙に義理堅いですからね、八幡は。…そこが良いのですが。」
宿泊部屋から食堂に移動して、入り口近くで待っていたであろう桔梗と藍に迎えられた。そして速攻で石崎たちを説得して見事に俺を連れ出した。桔梗のおねだりにデレッデレだったあたり、改めてこやつは人気者なんだなと認識する。以前よりも巧くなった気もしているが。
「それにしても八幡が責任者になるとは思っていませんでしたよ。あんな鬼畜戦法を編み出してたので、絶対に避けるものだと思っていました。」
「どこまで聞いたか知らんが、1年で実行できる奴はまず居ないはずだからそっちはどうでもいい。俺がやらなきゃまともに動かない男がグループ入りしたのが影響している。」
第一声が「では行こうか」だったからね。俺が拒否してたらどうしていたのかちょっと気になるが、高校生1人分動くなら問題は無いと判断した。0人分は許さないが。
「高円寺くんと同じグループになったんだね。自分の事情を優先するのは高円寺くんらしいって感じるね。」
「俺を測りたいってのもありそうだけどな。あるいはチャンスを窺っている。」
「チャンス、とは?」
「奇跡が拝みたいんだとさ、中々そのチャンスは巡ってこないけどな。」
少なくとも平時では不可能だと思っている。すぐに出来そうにないと分かったので、その場凌ぎとしてトランプで種も仕掛けも無いマジックを代わりに見せたらまあまあ満足していた。
「奇跡ならいつも起こしているようなものじゃないですか。可愛い彼女が6人も居る上に、その中に可愛い藍ちゃんまで彼女に居るんですから。」
「確かに、藍たちが隣に居てくれるのは奇跡で間違いないな。当たり前のように感じてるけど、だからこそ失ったら一番辛い日常になってる。」
「…八幡くんって、こういう事で照れ隠しとか全くしないよね。」
「誤魔化していい立場じゃねえからな。『恥ずかしいから言えません』とか舐め腐ってるとしか言えないだろう。」
それだけはしちゃいけないと俺が勝手に判断しているだけだが、ちゃんと口に出さない事が不和の原因になるとも聞く。そんなくだらない事で彼女たちを失うというのなら、いくらでも恥ずかしい思いをしてやろう。顔に出ないだけで、かなり恥ずかしいが。
「…じゃれあいは嫌いじゃないがひとまず置いておこう。女子のほうのグループ分けはどうなったんだ?」
「人数の差はあるけど、1グループは同じクラスの人を多く配分したのは男子とあまり変わらないかな。最低でも2人でグループ入りして孤立を避けてるよ。」
「6人とも同じグループにしたのか?」
「ううん、ペアみたいな形で3グループに分かれてるよ。有栖ちゃんと真澄ちゃんに、帆波ちゃんとひよりちゃん。それに私と、まだ顔の赤い藍ちゃんが一緒だよ。」
地味に追い打ちをかけておられるが、それはそれとしてスペックを考えるなら妥当な組み合わせだろう。抽象的な言葉でしか説明されていないからバランス重視の編成の方が良いし、女子の方が陰湿とも聞くから単身でグループ入りしないのが正解だろう。
夕食を受け取ってそのまま桔梗と藍の後をついて行くと、どうやら待ってくれていたようで準備だけ済ませた状態で4人が座っていた。促されるままに座り、皆の顔を見る。
「…じーっと見てきてるけど、どうしたの?」
「……いや、自分でもちょっと驚いてるんだが………顔を合わせる時間が短くなるのがなんかスゲェ寂しいから、今のうちに顔を拝んでおこうかなって。」
帆波に尋ねられたので素直に答えた。一緒に居た時間が長かったし、冬休み中けっこうベッタリだったからか結構な喪失感がある。
「ふふふっ、八幡くんの中で私たちが大きくなっているようで何よりです。その事なのですが、『休み時間や放課後に許可なく外へ出ることも禁止』と資料に書かれてましたので、裏を返せば消灯時間を過ぎてからならある程度自由に動いても良いみたいですよ。」
「…ああ、どこに抜け道作ったんだろうと思ってたけど夜遅くもだったか。廊下ですれ違った時にメモで連絡を取り合うくらいは想定していたが。」
「今回は逢引に利用させてもらうくらいですけどね。私たちも八幡君と顔を合わせられるのが夕食の時だけなのは嫌ですから。」
「…俺もそうしたいけど、流石に試験に集中した方が良くないか?それなりに疲労の溜まりそうな試験だと思うんだが。」
「嫌よ。」
「嫌です。」
真澄とひよりが即答してきた。面食らいながらも2人を見ると、おねだりをしてくる時の目をしている。俺が今まで拒んだ事が無いので少し味を占めているのかもしれない。実際の所、あっさりと陥落しているくらいに効果は絶大だが。
「…俺は大丈夫だけど、皆は寝不足で試験が駄目でしたってならんようにする必要はあるだろうな。」
「相変わらず2人には弱いねー…。でも確かに、試験の結果を落とすのは駄目だからね。……うーん、1日おきに2人ずつならどうかな?」
「それが妥当でしょうね。…出来れば3日とも、八幡と逢引したいですが。」
「駄目だよ?多分皆そう思ってるけどねっ。」
窘められる藍を見つつ、おかずを口に運ぶ。少しばかり不安要素を自ら作り出した気もするが、そういう悪巧みをするとしたらうちのボスくらいなので余程問題ないだろうという結論に達している。夜にこっそり抜け出して会いに行くのはちょっとロマンあるので楽しみだし。
「比企谷、女子にモテる秘訣を教えてくれ!」
「いや、知らねえよ。むしろ俺が知りたいわ。」
時間の許す限り談笑をしてから部屋に戻っていつでも寝られるように準備していると、石崎からそんな事を言われたので反射的に即答した。俺の場合は運が良かったとしか言えないので、あまりにも参考にならなさすぎる。とりあえず思いついた事を指を折りながら言っていく。
「自分のスペック…分かりやすく言えば学力と運動能力を上げたり、身嗜みを整える。意中の相手が興味の有る事に自分が興味を持てるか、あるいは持てなくても理解を示せるかどうか。相手に興味を持って貰える奴になれるかどうか。ある程度の我儘を受け入れる。後はまあシンプルに、自分と相性が良いかどうかと相手がフリーである事だな。」
「魔法みたいな手段は無いのか?これやったら絶対イケるみたいな。」
「告白が成功しそうなシチュエーションを整えれば………と思ったけど一発逆転なんてほとんど起こらないし、言い方は悪いけど相手のランクによって難易度が上昇する事でもある。しかも付き合えたとしても『合わない』の一言で破局しかねないもんなあ…。」
「ゆ、夢が無さすぎる…。」
あの子たちが特別なのを重々理解しているので一般的な女性で想定してみたが、全然上手く行く画が見えない。他人事なので難攻不落の要塞を攻めてる感だけあるのでちょっと面白い。とにかく案をもう少し考えてみる。
「…ああ、後は料理が上手いってのも良いかもな。仮にフラれても腐る技能じゃねえし、日々の飯が美味いってのはそれだけで活力になる。彼女と一緒に夕食を作るとかも悪くは無いだろう。」
「比企谷は出来るのか?」
「それなりに出来る。といっても家庭料理くらいで、派手な料理は出来ないけどな。」
ただし、任せっきりなのも悪いし雑な物を振舞うというのも気が引けるので一切手を抜いてはいない。口に合わないとか濃い薄いがあればすぐに言ってくれと、逐一アップデートも欠かしていない。色々と試しながら食べる楽しみも忘れていないが。
「…まあここまで言ったものの、女子はまず平田みたいな人当たりの良いイケメンに走るんだけどな。男子も可愛い子に走ったりするから文句は言えないが。」
「望みが断たれた気がしてきたぞ…。そういやあ、がっつくのも駄目だったりするのか?」
「相手次第だろうな。受け身よりは押せ押せで来て欲しいって女子も居るだろうし、そういう所も含めて相手に対する理解を深めるのが一番重要だと思う。結局の所、共感して貰えるって事が親しくなる事への一番の近道だし。」
「…そういえば比企谷も、椎名に抱き着かれて身動きを取れなくなっていたな。」
「ひよりはアレで結構計算高いからな、俺が振り解く事は無いと分かった上でやってたよ。」
「……………いや、椎名に抱き着かれて振り解ける奴はまず居ないんじゃねえか?」
それはそう。兎にも角にもやれそうな事を増やすのと、相手の事を思いやれるようになりましょうという当たり前の結論で決着が付いた。後、勉強はやっておいたほうが良いと伝えたらスゲェ渋そうな顔をされた。龍園のためにもやったほうが良いのだが、一応敵なので強くは言わなかった。
この作品の八幡君は恋愛強者に見えそうですが、実は凡庸です。付き合えた後は高得点取れるタイプですが。