「やあ、おはよう諸君!早朝のトレーニングほど気持ちの良い物はないねぇ!」
「…おう、おはよう。朝から精が出るなぁ。」
「いやいやいや、何受け入れてんだよ!」
2日目の朝6時に音楽で起こされ、高円寺の半裸によって覚醒する。コイツのマイペースっぷりは今に始まった事じゃないので普通に挨拶を返したが、石崎は高円寺の勝手な行動にご立腹らしい。とりあえず集合場所に移動する準備を促しつつ、宥めるために説明する。
「皆を起こさないように配慮してるし、実は消灯後に出歩くのはルール違反じゃねえんだ。だから高円寺に限らず、他の誰かがこっそり抜け出しても咎める気は無い。暗躍して俺を退学に陥れるとしてもな。…それに、俺も抜け出す予定はすでに有るから言えないってのもある。」
「姫さんたちと逢引でもするんだろうな。相変わらずの色男っぷりだぜ。」
「おそらく比企谷の事だから試験に集中したほうがいいと言っただろう。…だが神室と椎名あたりに嫌とでも言われたのだろう、2学期によく見た光景だ。」
橋本に茶化され鬼頭にバッチリ分析された。まあどちらも教室だろうとガッチリ抱き着いて来てたから、Aクラスの奴らには周知の事実なのだが。
「………とりあえず必要な事をサボらないのと、ルール違反をしなきゃいい。仮に破ったら……………」
「な、何をさせるつもりなんだよ…。」
「俺相手に、互いの全ポイントを賭けてのポーカーをさせようかなって。負けた方は払えなかったら、100万ポイントにつき1か月は絶対服従というルールでな。」
俺の言葉を聞いたほとんどの奴は何を言ってるのか分からない様子だが、綾小路はちょっと顔が引き攣っている。その様子を見た山田が綾小路に尋ね、返答を聞いた山田の顔の引き攣りからヤバいという事実が伝播した。全員何をやらされるか理解出来たようで何よりである、実際にはなんちゃってで終わらせるが。
全員準備を終えて集合場所へ向かったが、集合場所にはすでに先輩方が集まっていた。挨拶をしてから待っていると、真嶋先生がやってきて1日のスケジュールの説明を始めた。点呼を取ってから指定された区間と校舎内の清掃を毎朝行う。雨が降った場合は倍の時間をかけて校舎内の清掃を行う。清掃が終わったら道場に移動して、課題にもなっている座禅を組む。それが終わってからようやくキンッキンに冷えた朝食を摂れるらしい。飯くらいまともな状態で食わせてもらいたいものだが。
各々寒がりながら清掃を終わらせ、足がちょっとキツいなと思いながら座禅も済んだ。冷めた朝食を摂りながら試験について考えたが、今までの試験に比べると大分地味な気がしている。おそらく学校側からは退学者を出す気の無い試験なのだろう、生徒側がアクションを起こさない限りは比較的平穏に終わるタイプの。
朝食後は広めの教室に移動して、「入学してから何を学び、これから何を学ぶか」というテーマでスピーチを行う。特にこれと言って浮かばないので、最近目の当たりにする事となった「暴力」をテーマにしてスピーチをした。スピーチの前にいい加減俺もある程度立ち回れるようにならなくてはならないが。
スピーチの後の持久走は他の奴に合わせなくても良い分、気は楽だった。ただ、どうせやる気も無いだろうと思っていた高円寺が結構な速さだったので、ちょっとムキになって追い縋ったのだけは失敗だった。他の奴らが戻ってくるまでの間に体力は回復したが。
「…ふぅーっ、とんでもない奴と同じ時代に生まれたもんだ。御曹司なんて基本的に自力で出来る事が少ないって考えは偏見だったなあ…。」
「…ふぅーっ、事実は小説より奇なりって奴だろ。お前も人の事言えないけどな。」
「お前もな、平然と付いて来やがって。」
いつも通りの無表情で横ぴったりだったぞ、コイツ。っていうか綾小路は適当にやるのかと思っていたんだが。
「冬休みによれよれの堀北先輩を見かけて、事情を聞いてから少し興味が湧いていた。今の比企谷はどこまでやれるのかがな。」
「あの後二度寝する羽目になったけどな。堀北先輩のスタミナを0に追い込んだんだから上出来だろう。あの後どうしたのかは知らんけど。」
「他に関わりのある奴の連絡先を知らなかったから、堀北に電話をかけて引き取らせたぞ。『今この学校で堀北先輩が一番気を許せるのはお前だ。それに、動けない程消耗している堀北先輩をそのままにするのはよろしくない。だから、お前が自主的に世話を焼くのは仕方のない事なんだ』って言ったら乗って来た。」
「…見事なまでの殺し文句だわ。」
あの子お兄ちゃん大好きっ子だもんなあ、堀北先輩も内心喜んでるだろう。それにしても以前より、綾小路の口が上手くなってる気がする。なんていうか、人の機微というのが以前より分かっている動きをしている。
「比企谷を見て学んだよ、人はしょうがないと思える事や共感できる事に対しては気持ちが緩むって。今回はそれを参考にして誘導してみたけど、効果覿面だった。これからも上手い具合に活用していく。」
原因、俺だった。「そっかー」と返しつつちょっとバツが悪くなったので話題を逸らそう。
「試験が終わったら何か温かいものでも食べたいな。昼と夜は大丈夫だろうけど、朝はアレだったしな。」
「…おでんが良いな。去年の暮れに、森下がお前を引っ張って食べに行ったあの店の。」
「おでんか、渋いが良いチョイスだな。…そういやああの日、お前がいつも以上に表情が硬かったけど何かあったのか?おでん食い始めたら和らいでたけども。」
2人きりじゃなかったことに藍はちょっと不満そうだったが、あまりにも無機質に感じたのでなんとなく危機感を覚えて誘った。ちなみに余程気に入ったのか、びっくりするほどモリモリ食べていた。全種制覇した後に、特に気に入ったであろう卵と大根をさらにモリモリ食べてたし。…まあ、とても美味かったので俺も同じくらい食ったのだが。「あれだけ食べてなんで全然太ってないんですか、ずるいですよ」と藍に言われるくらいには。
「…お前が何となく訳ありなのは知ってるけど、巻き込むつもりなら予め言ってくれ。大して助けになれないだろうけど。」
「そうだな、仮にお前が敵に回る事態になったら目も当てられない。闇討ちも視野に入れる事になる。」
「容赦なさすぎじゃない?友達なんだからもう少し手心加えてくれても良くない?」
「世話になってる自覚もある。だからこそ、お前が動くのは何としても阻止しなくてはならないな。『貴様が目覚める前に止めを刺す』って奴だ。」
のっぴきならない事情なのかもしれないが、本当に容赦ねえ。初動すら許さないあたり、綾小路の本気っぷりが表れている。
「…ぶっちゃけると、俺も同じように動くだろうな。綾小路が動ける環境って時点で勝ち目が薄いし。場合によっては『戦術:高円寺六助』も辞さないな、動かす手段は全く浮かんでないけど。」
「…それ、お前も一緒に高円寺にやられるパターンじゃないか?」
「お前を完全に止めるなら、自分のライフくらい捨てなきゃ無理だろう。っと、山田が戻って来たな。…とりあえず合宿が終わったら、おでん食いに行く予定は入れておくわ。」
「ああ、楽しみにしてる。」
ヒーヒー言いながら戻ってくるグループメイトに労いの言葉をかける。全員が全員化け物を見るような目だったけど。この後の座禅で何人か苦しんでたのでストレッチを勧めつつ本日の授業は終わりを迎えた。
まあこの作品でのきよぽんパパは未来が確定しているので、無駄な覚悟でもあるんですけどね。