クソボケ谷八幡君 in よう実   作:結構暇なひと

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ちまちま進めてたら一か月以上経っていました。


1年D組クソボケ谷君54

3日目は風呂場での下らない比べ合い以外は問題も無く、4日目は休みなので綾小路に少しばかり護身術の基本的な動き方を教わった。去年の暮れにああいう事が有った以上覚えるべきという理由もあるが、なんとなく今からでもすぐに覚えた方が良いと言う根拠の無い胸騒ぎに駆られているのもある。近いうちに強大な存在と対峙するかのような感じである、そんな奴は居ないはずなのだが。

 

 

幸い身を守るだけなら早くモノにできるとお墨付きが貰えた。でも怪我しにくいように手にタオルを巻きつけてたとはいえ、基礎の動きで捌けるからって結構な速度で殴ってきたのは容赦なかった。何とか捌いたら感嘆したかのような雰囲気をちょっぴり出した後、龍園をボコった時くらいの動きで再開しやがったし。何気にあの男、スパルタが過ぎる。

 

 

ちなみに俺から殴り掛かる場合は、何となく人を殴るのは嫌というのが体にも染み付いているようでストレートに弱いと言われた。なので、合気道みたく敵を傷つけないで無力化出来る技術を学んでいく方向へと舵を切る事になった。つまり今後の難易度が跳ね上がった。

 

 

綾小路からの「とにかく最初は下手でもいい。動きをきっちり覚えて自分の中に落とし込んで、どんな局面にも応用が利かせられるようにしていけばいい」という有難い言葉を思い出しつつ、消灯後にまた抜け出して待っている間に反復練習を重ねる。上手く立ち回るための足捌きと、綾小路との組手での動きを思い出しながら手を動かす。他の奴とやった事が無いから綾小路くらいしか仮想敵に出来ないので、難易度スーパーハード感が否めない。友達相手でも仕留め切るようなパンチ飛ばせる奴なのは知っているので、想像の綾小路すら全く手加減した動きをしてくれない。

 

 

いいのを何回か貰ったなという感じの動きだったが、こんなもんかと一息付く。どうやら結構集中していたようで、左右から腕を掴まれる感触で待たせていたのを悟った。

 

 

「…八幡くん、確保です。帆波隊長、どうしましょうか?」

 

 

「4日ぶりの新鮮な八幡くんだからねー、人目のつかない所で2人掛かりでたっぷり八幡くんをキメちゃおうか、ひより副隊長。」

 

 

「…なんだかよく分からんが、お手柔らかに頼む。」

 

 

妙なテンションになっておられる。とは言っても、同棲を始めてからの帆波は結構はっちゃける時もあった。友達付き合いみたいなのが多かったりでタイミングが合わないのが続き、寮で一緒の時間があまり取れなかった日が続いた事がある。それが原因でフラストレーションが溜まりに溜まったのか、部屋に戻ったら「ひろってください」と書かれた段ボールに猫耳付けながら入ってにゃーにゃー言って来た時がある。

 

 

『にゃー。拾ってくださいにゃー。』

 

 

『………何してんだ?いや、確かに可愛いけどさあ…。』

 

 

『寂しいから拾ってくださいにゃー。』

 

 

『…箱のサイズがデカすぎて子猫って言うよりは成猫だな、自力で餌を取れそうな。拾わなくても強く逞しく生きていけそうだ。』

 

 

『………ふしゃー!いいから拾うにゃー!』

 

 

思った事を素直に言ったら餌にされた記憶が蘇る。餌にされたと言ってもしがみついて離れないくらいのものだったが、飯と風呂とトイレ以外では離れなかった。俺なりに頭を撫でたり大して柔らかくもねえ膝枕をしたりキスをしたりと甘やかしたが、寝る前まで「もうちょっと」と言い続けられて全く離れる気配が無かった。最後は「いつまでやってんだ」と桔梗から頬を引っ張られながら雷落とされた。俺らの中で頂点に立っているのは桔梗かもしれないと、甘やかしすぎだと注意されながら思ったものである。ちなみに、絶妙に邪魔にならないように部屋の端に設置された段ボールは今でも撤去されていない。

 

 

一昨日と同じ場所へ移動してからお姫様抱っこをする。先にひよりからとの事らしいが、帆波はともかくひよりは体育祭の練習でへろへろだった時にやってたから新鮮味は無いと思う。ただ、ひよりの顔を見ると嬉しそうな表情をしているので、お気に召しているようだ。

 

 

「八幡くん、重くなったら言って下さいね。ずっとこうして貰いたい気持ちは有りますが、特別試験に支障が出てしまってはいけませんから。」

 

 

「…悪いが言えそうに無いな。そもそも重くないし、ひより相手に絶対言いたくない言葉だ。…気心の知れた友人でもあったからな。」

 

 

「ふふっ、そうですね。…そういえば、あの頃の八幡くんはあまり人を寄せようとしない雰囲気を出されていましたね。」

 

 

「………少し拗らせてたからな。」

 

 

少しどころか、バッチリ拗らせていた。俺にとって完全に黒歴史だが、他人に求めるハードルの高さが知らず知らずのうちに真澄になっていたため勝手に失望していた。勉強に集中するためという目的で図書館に行ってなかったらこの子とも出会えず、さらに斜に構えて捻くれていたであろう事は想像に難くない。

 

 

「八幡くんと別のクラスになってしまった時はしょんぼりしちゃいましたけど、クラスの事情をお構いなしに会いに来てくれた時は申し訳なさより嬉しさが勝っちゃいました。」

 

 

「学費が浮くのと、それなりに不自由なく過ごせりゃよかったからな。そこら辺は壁にならないし、何よりお前さんの顔を見たかったからな。…ひよりたちが居ないなら5月で退学でも良かったくらいには面倒な学校だと今でも思ってるぞ。」

 

 

「なんとなくそんな気はしていました。不真面目という訳ではなかったでしょうけど、どこか傍観者のような印象でしたから。」

 

 

「…俺、そんなに分かり易かった?」

 

 

「他の方が気付かなくても私にはお見通しです、一番のお友達でしたから。」

 

 

控えめなピースをしながら言って来た、相変わらず可愛い仕草をする子である。受験シーズンというのもあって、この学校に入る前までは互いに受験の邪魔にならないくらいの付き合いではあった。ただ、俺が決まった時間を勉強に費やしていたので終わる時間が迫ると「まだかな、まだかな」みたいに期待した表情でちょっとだけそわそわしてる様子は、微笑ましさを感じると同時に「なんだあの可愛い生き物は」と結構心をざわつかせられていた。

 

 

「…まあ、ひよりに弱みを掴まれてる感覚は有ったな。しかも邪気が全く無いし体当たりのような懸命さも感じ取れたから無碍にする気も全く起きなかったぞ。しかも甘え方まで上手いと来てる、無敵か?」

 

 

「…八幡くんが女の子に人気が有るのが悪いんですよ。足踏みしてる余裕もなかったですから。この学校に到着してすぐに帆波さんが八幡くんに抱き着いた時に、積極的に行かないと私なんか埋もれてしまうって焦っちゃいました。」

 

 

「埋もれる訳がねえんだけどなあ………一目惚れしそうになった子がさらに可愛くなっていってるんだし。」

 

 

「……………すみません、よく聞き取れなかったのでもう一度耳元で囁くように言ってくれませんか?」

 

 

…体育祭以来そこそこ囁く事を求められてきたが、今までで一番期待した目をしている。ばっちり聞こえてるのに聞こえないと言う辺り、余程やってほしいという事になる。というか断っても文句は言わないだろうけど、スッゲェしょんぼりするのが目に見えるからNoと言えない。とにかく素直に思ってる事を言うしかあるまい。

 

 

ひよりを降ろして、軽く抱き締めながら耳元に口を寄せる。

 

 

「ひより………初めて出会った時から多分死ぬまで、ずっと大好きだ。…ずっと俺のモノで居て貰う、覚悟しておいてくれ。」

 

 

ひよりが何かを言う前に唇を奪う。短く済ませて反応を窺ったが、ボーっとした表情をしている。スベったかなと思ってたらひよりが口を開いた。

 

 

「………これ、週1回お願いします。」

 

 

「いや、流石に断るよ?本心だけど死ぬほど恥ずかしかったし。…まあ、とりあえずひよりの後ろで物欲しそうな目で見てる子が待ってるから交代だ。」

 

 

ちょっぴり不満そうなひよりの頭を軽く撫で、帆波に顔を向ける。目が合うと小走りで近づいて来て、そのまま飛ぶように抱き着いてきた。4月の帆波のままだったらそもそもこうやって抜け出す事も否定的だった気がするが、この子は弾けた。中学時代は生徒会長をやっていたらしいが、今は重い役職を担ってないので気楽になったのが影響している、と本人は言っていた。

 

 

「えへへー、久しぶりの距離感だー。特別試験中だから仕方ないのもあるけど、1日1回はこうしたいんだよねー。」

 

 

「男女の接触をほとんど断つ試験だからな、恨むなら学校を恨んでくれ。俺もちょっとは恨んでる。」

 

 

よく知らない奴と組んで成果を上げるように動くのは実践的とも言えるが、寮での生活が俺の中に浸透しているので少し味気ないと感じている。ぼっちだったからこそ人との関わりを欲していたんだと痛感させられている。

 

 

「…今更だし嬉しい事だから別に良いんだが、帆波とここまで深い関係になるとは思ってなかったな。どこかで顔を合わせる事があったら、感謝されて終わりくらいだと思ってたぞ。」

 

 

「妹が嬉しそうにヘアクリップつけてる姿を見たお母さんに、事情を根掘り葉掘り聞かれてね?当然だけどすっごく怒られたよ。…それで、『助けてくれた子にお返しを渡さなくちゃ』って言われて、ようやくお礼をしなきゃいけない事に気付いたんだ。それから受験勉強に支障が出ないくらいにデパートとか男の子が行きそうな場所で八幡くんを探してたんだけど、全然見つからなかったからねー。お礼も返せないままこの学校に入学する日が来ちゃって、ちょっと沈んでたよ。…でも、バスで見かけた時は本当にびっくりしたし、バスを降りてから八幡くんを見たら私が誰なのか気付いてくれたから『見つけた!』って。嬉しくなっちゃって、つい抱き着いちゃった。」

 

 

「人気者だろうなって容姿の子が、それを帳消しにするレベルの暗い雰囲気だったからな。忘れられるわけが無いし、気持ち悪がられるとしても後を付けるって選択を取って良かったわ。ただ、抱き着かれた後にひよりが拗ねたのはちょっと苦慮したけどな。」

 

 

あの後「つーん」みたいな感じでぷいっと顔を背けられたからね。それでいて俺の手をぎゅっと掴んで離そうとしないという、なんともまあ可愛らしい拗ね方ではあった。帆波も思い出したのか、ちょっと笑っている。

 

 

「ひよりちゃんを見て焦りを覚えて戸惑ったのは今でもよく覚えてるよ。自分の事がまだよく分かってなかったけれど、多分好きになりかけてたんだろうね。有栖ちゃんや真澄ちゃんと出会ってさらに焦らされた事もよく覚えてるかな。」

 

 

「…あーうん、だから妙な空回りを見せてたのか。」

 

 

「ずっとお返しをしなくちゃって思ってたからね。『これから先、ポイントが重要になってくるからお返しとかは考えなくていい。…曇らずに学校生活を過ごせてるなら、それで十分報われてる』って八幡くんが言ってくれてようやく落ち着いたよ。………カッコよかったなー。」

 

 

5月になってすぐに言った事だからほとんど忘れられてると思っていたのだが、一言一句きっちり覚えていらっしゃる。恥ずかしくなってきたので少し強引にお姫様抱っこをして誤魔化す。帆波を見るときょとんとした顔をしていたが、えへへと嬉しそうな顔をしながら笑っている。

 

 

「他にもお母さんにまで気遣いしてくれてるから、返って来た手紙に『絶対に捕まえて私の前に顔を出させるように』って書かれてたよ。」

 

 

「書き方が怖ぇよ、いやまあ不気味にも思えるだろうけどさあ。こっちとしてもやれるかどうかのお試し気分での試みだったし、あの気紛れ屋がOKを出してくれた事の方に感謝するのが正しいな。」

 

 

「うん、高円寺くんにも感謝してる。二人のおかげで心配する事はもう無いよ、後はこの学校を無事卒業して元気な顔を見せる事だけ。…でも、本当によかったの?卒業する時に交換できるのに…。」

 

 

「良いんだよ、泡銭だから。それによ、人生苦い事ばかりなんだから、たまには甘い事があってもいいだろう?」

 

 

俺の言葉に帆波は目を細めて懐かしそうに微笑んでいる。夏休みに遡るが、綾小路が葛城の為に少し知恵を貸しており妹さんへプレゼントを贈るために部活の試合で学園外に出る須藤に協力してもらって目的を達成したそうだ。その話を聞いてやれなくもないなと、高円寺に3000万ポイントを2000万円で買わないかと取引を持ちかけた結果、成立したので全額帆波のお袋さんへ送金して貰った。差額は手間賃と、高円寺コンツェルンの信用を借りるためのお代と伝えたら高円寺も納得していた。俺名義で渡すより社会的地位がある人が渡すほうが強いからね。

 

 

「…八幡くんには一杯お礼をしなくちゃいけないにゃー。」

 

 

「…一応言うが、この合宿中はやらないよ?」

 

 

若干不服そうにしてる帆波を降ろして唇を重ねる。少し長めにキスをしてから顔を離すと、ちょっとスイッチ入りかけてたので顔をむにむにして軽くリセットさせる。「整ってるなあ」とか「すげえスベスベだ」とか言いながらやってたらまあまあご満悦な表情をしていたが、袖を引っ張られて振り向くと「私も!」みたいな表情のひよりがいた。こんな感じでじゃれ合ってやる気を補充して、時間をばっちりオーバーしてそれぞれの部屋に戻った。




この作品の帆波ちゃんは重責とか特に無いのではっちゃけてます。ひよりちゃんもはっちゃけてます。
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