ようこそ傍若無人なやつがいる教室へ 作:僕ですよ僕ぅ
誤字脱字等は随時更新します
まず初めに、人は"平等"であるか否か。
このトピックは世の中の様々な場面で抗議されている。男女平等、人種差別反対、人権、最低限度の生活。これらの根本は全て人が平等に生きる権利があることで成り立つ事柄だ。俺はそれらを"嘘"と呼ぶ。
男女平等なんてこの世には存在しないし、人種差別は未だに多いし、人権は与えられていないような子供がいて、最低限度の生活は送れていない人もいる。
真に平等と呼べる世の中など存在しない。俺はこの答えが先程のトピックに当てはまるものだと思う。そしてこの答えは世間の人々でも簡単に思いつく答えだ。
何が言いたいのかって?それは俺も知らない。誰かに言わされたって?そんな事はない。じゃあ本当に何がしたいのかって?そんなのお前には関係ない。
俺という人間を言葉で表すなら『傍若無人』つまり自分に興味しかない自分至上主義な人間だ。自分が幸せであればそれでいい、他人なんて興味がない。物心ついた頃から俺はそのスタンスでずっと生きてきた。
もちろんそんな俺は周りの意見も耳に入れない。そんな俺は両親との相性が最悪だ。主に父親だが。
父はいつも俺に厳しく当たった。自分の息子が将来大きくなる事を願って俺に英才教育をもたらした。そのほとんどを拒絶するように生きてきた俺は立派じゃないが。
所詮親は育成ゲームをしてるだけ。自分の子供を思うがままにカスタマイズしてるだけ。傍若無人な俺からすれば、そんな両親はクソ喰らえだ。
そんな両親から逃れたかった俺は死に物狂いで勉強してとある高校を受験した。
『高度育成高等学校』そこに合格した俺は人生初めてといえる転機に大興奮した。
そうして迎えた高校1年生の春。俺は両親を起こさず早朝に支度をし、行ってきますの一言もなく家を出た。
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桜の花が舞い散るバスの中で俺、椎名裕人は本を読んでいた。
バスの中では極力騒がないでほしいのだが、残念なことに大人の女性と学生が車内で揉めているようだった。
余計なノイズが気になりどうも本に集中しきれない。
「…………はぁ」
ついため息をついてしまう。読んでいる本のジャンルは恋愛系の小説だから、できれば物語や登場人物に感情移入して没頭したいところだが、騒がしいバス車内ではどうもそれが出来ない。すぐにでも静かになってほしいものだ。
「いい加減に席を譲ってあげなさいよ!」
「実にナンセンスだね〜」
不毛な言い争いをしているのを横目に苛立ちが溜まっていく中、俺の隣に座っている少女が突然ツンツンと肩を触り、話しかけてきた。
「それ、『容疑者愛、盗難事件』ですか?」
「え……まぁ、そうだけど」
「名作ですよね。私、ミステリー小説が好きなんですけど、題名が気になって手に取って読んでみたら恋愛小説でして、想像と違くて少し後悔したんですけど、読んでみたら意外と面白くて、最近恋愛小説も見てるんですよ。あ、その作品の作者といえば織田見張さんですけど、織田見張さんの作品でいえば他にも『純恋沼地』や『東京愛越す』などの恋愛小説もオススメで、中でも私のイチオシは」
「ちょ、待って。落ち着いて」
その少女は目を輝かせながら熱く小説について語ってくる。少女の容姿は大変優れており、俺は初めて自分が美少女と呼べる少女を見て緊張してしまった。
「あ、すみません。少し喋り過ぎましたね」
「まぁ、うん。大丈夫」
そう言って俺はまた読書を再開する。目を合わせるとドキドキしてしまうので極力隣は見ないように読書に集中することにした。
「………………」
「……………………あ」
本を読んでいるとページとページの間から一枚の広告紙がひらりと落ちてきた。拾わないわけにはいかないので俺は自身の足元に落ちた広告紙を拾おうとし、本から手を離すと少女がそれを止めた。
「え?」
「読書をやめないでください。その作品は没頭して初めて面白いと思える作品です。広告紙は私が拾いますから本から手を離さないでください」
「えぇ…………はい」
すると少女は笑みを浮かべ、俺の太腿から膝にかけて身体を入れてきた。ふわっと香る女の子ならではの良い匂いが鼻を通過し、俺は一瞬脳が麻痺しかける。
「…………っと」
「……………………」
長い。拾うのに意外にも時間がかかる。少女は頑張って裕人の足元を手で探るが、直接見ながら探しているわけではないので中々見つからない。
俺にとっては、美少女が下半身辺りでゴソゴソ動いているこの状況が長く続くということ。悶々とした感情が心臓の辺りでブレイクダンスを踊っているかのような緊張具合だ。読書に集中しろと言われても無理だ、仕方ない。だって男の子だもの。
「…………っ!?」
「わっ」
すると突然バスが緊急停止した。その影響で車内の人は一斉に揺れる。俺と少女も例外なく揺れてしまい、少女の頭部が俺の股間付近に当たってしまう。少女の髪が制服のズボンを貫通し、チクッとした感覚が内腿を刺激する。身体がゾクゾクっと無意識に震え、俺は全てを悟った。少女はほんの少し揺れにビックリした声を出した。
「ありました」
そう言って少女は上半身を起き上がらせ、広告紙を笑顔で俺に見せ、渡そうとする。
「………………ありがとう」
「ん?お腹でも痛いのですか?」
俺は少し、前のめりになった。
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バスが到着し、高度育成高等学校の門をくぐる。この瞬間にもう一人立ちしたかのような感覚だ。
そのまま歩きクラス名簿を確認すると、椎名裕人という名前はCクラスの名簿に記載されていた。
そこで俺は気づく。
(ん?なんか同じ苗字のやつがいるな……椎名ひより?家系図では見たことないし、たまたま同じ苗字なだけか)
他人には心底興味がないが、椎名、という苗字で被ることはなかったので少し驚く。しかしすぐにどうでもいいと思い、教室へと向かった。
教室へ着き、記載された窓側列の一列隣の列の一番後ろの席に座ると目の前がデカい一人の大男のたくましい背中で黒板が見えなくなっていた。
明らかに日本人じゃないように見える。黒人、ムキムキ、デカい、サングラス。まるで日本のアニメが作り出す日本人ならではの黒人への偏見が詰まった、存在自体が人種差別のようだ。
(これじゃぁ授業もまともに受けることが出来ないな)
そう思い仕方なく俺は目の前の外人に話しかけて席を入れ替えてもらおうとする。
「あー、excuse me?」
「yeah?」
英語で話しかけると反応し、俺と視線を合わせる。グラサン越しじゃどこを見ているのか分からないが。
「would you switch seats with me?」
「sure」
「thanks」
自然な流れで席を入れ替える。外人が座っていた席へと移動すると、隣の席からふわっと嗅ぎ覚えのある香りがした。窓の外を見るように隣を見ると、そこには車内で裕人の裕人を元気にさせてくれた美少女が座って本を読んでいた。
日光に照らされ、外から流れ吹いてくる風で靡く綺麗な髪は輝きを発し、黒いリボンが可愛らしくふわふわと揺れており、それだけで一枚の絵になるほどの美しさを放っている。他人に興味がない俺の印象に残るほどの美少女。周りの生徒を見ても彼女を上回る存在はいないと裕人は思っている。
本を読みながらしばらく待っていると、教室へと一人の男性教師が入って教壇の上に立った。
「皆さん初めまして。これからこのCクラスを担任することになった、坂上数馬です。普段は数学を担当しております。この学校では3年間クラス替えが行われませんので、3年間よろしくお願いします」
坂上と名乗る先生は自己紹介を軽く終えると複数枚の資料を配った。
「そちらの資料は本校についての詳細と、本校ならではの特徴、Sシステムについて記載されています。それによく目を通しながら、説明を聞いてください」
そう言って坂上先生は説明を始めた。
この高度育成高等学校は最初に言った通り外部との接触、連絡が一切禁じられており、就職率100%を誇る超名門校だ。その就職率100%の秘密の裏にはとあるシステムが存在している。
それがSシステム。
これから配られる端末型の学生証にあらかじめ入っているプライベートポイントを使用することで、学校の敷地内にある様々な施設を利用できる。
1ポイント=1円と想定されており、敷地内には飲食店やゲームセンターやショッピングモールや映画館など、様々な施設が設備されている。
「今皆さんの端末にはすでに10万プライベートポイントが支給されているはずです。これは入学時点での君たちの価値を表しています。倍率の高い当校に合格した皆さんにはそれだけの価値があります。このポイントは毎月の1日に配布されます」
毎月10万円の配布に教室中の生徒がざわつく。いくら超名門校の生徒とはいえども毎月10万円はやりすぎなのではないかと思う。
「待ってくれよ坂上」
ざわついている生徒の中から一人、敬語も使わずに立ち上がり先生の説明に待ったをかけた生徒がいた。
その生徒はロン毛で目つきが悪く、不良のようにも見える。
「なんですか?龍園君。あと、敬語は使いましょうね」
「確認だが、このポイントは毎月1日に"10万ポイント"配られるのか?」
龍園と呼ばれる生徒がそう質問をすると坂上先生は少々不適な笑みを浮かべる。
「毎月1日に配布される、今言えるのはこれだけです」
「はっ、なるほどな。分かった分かった、よーく分かった」
そう言って龍園は席に座る。今の質問に何の意味があるのか、ほとんどの生徒は把握していなかった。そんな所に疑問を持つ必要などないと考えているからだろう。だが俺は少し違う。
「では説明は以上となります。何か質問等ありますか?」
「先生、俺から一ついいですか?」
説明があらかた終わり、質問タイムに入った途端に俺は手を挙げた。
「椎名裕人君ですね。どうぞ」
「毎月もらえるポイントに変動はありますか?」
「………………というと?」
俺は純粋な疑問をぶつける。先生はその質問があまりにも核心をついているかのような焦りをみせ、龍園は不気味な笑みを浮かべている。
「え、というと?えーっと、一人に毎月10万円分あげてたら、いずれ赤字になると思うんですよ。だから流石に毎月もらえるポイントが減ったりすんのかなぁって。俺、自分が良ければいいっていう人間なんで、逆に増えたら最高ですけど」
「龍園君の質問と変わりはありませんね。今のところは毎月ポイントが支給されるとしか言えません」
「分かりました」
そう言って俺は静かに席に着く。もしも貰えるポイントが減ったりしたら自分に投資しまくる俺の生活費が危うくなるかもしれない。龍園も同じ理由で質問したのかは知らないが、困った事に曖昧な答えを返されてしまった。その後他に質問がある生徒がいなかったため、坂上先生は教室を後にした。
その後は入学式まで教室内で生徒同士が交流を深める時間となる。もちろん俺は今まで友達などできた事がない、というより作る気がなかったので、相変わらず本を取り出して読もうとした。が、それを遮るように本を奪い、俺の目の前に龍園が現れた。
「よぉ椎名。俺は龍園翔だ。よろしくな」
「……あぁ、よろしく。本返して」
「あ?なんかいけ好かねぇやつだな。想像と違ったか。まぁいい。お前、さっき坂上にした質問、ありゃどういう意味だ?」
龍園は俺を期待と警戒が混ざった視線で睨む。
「意味って…………まぁ言っといた方が楽か」
「聞かせろ」
「俺は自分が一番好きだ。自分が幸せでいれればそれでいい。他人なんて興味ない。毎月10万円もらえるって話だが、多分俺は幸せに暮らそうとすれば月10万じゃ足りない気がする。ゲームだってたくさん買いたいし色んなところで一人遊びしまくりたいし、本だってたくさん買いたい。だからもし毎月10万円分もらえるものが減ったりしたら困るなぁと思ったんだ」
「なるほどな。ナルシストのさらに上をいった存在か」
「違う。決して俺は自分カッケェーなんて思ってない」
「ククッ、そうかそうか。あともう一つ質問がある」
「なんだよ」
「校舎内、いや敷地内に多数設置されている監視カメラについてなんだが」
「ん?なんだそれ。監視カメラ?そんなんあるのか?」
「………………あぁ?」
俺は監視カメラというワードに混乱し、マジかと言わんばかりの表情をしている。そんな俺を見て龍園は目を丸くして想定外といった感じだ。
「まて、監視カメラの存在にすら気づいてないのか?」
「知らない知らない。怖い事に気づくんだなお前」
「………………なんだ、使えねぇやつだったか」
「え?」
龍園はそう吐き捨てて本を床に投げて教室から出ていった。なんか悪口を言われたような感覚がして非常にムズムズする。
「なんだあいつ?ってか本投げんなよ……」
「どうぞ」
投げられた本を回収しようとすると、すでに隣の席の美少女が本を拾ってくれていた。
「あ、どうも」
「いえ、広告紙の次は本ですか。偶然ですかね」
「アー、アサトナリニスワッテタヒトー?」
俺は何故か白々しく美少女の存在に今気づいたフリをした。そんな事しても意味なんてないのに。
「そうですよ。同じクラスとは驚きました、椎名くん、でしたよね?」
「うん。よろしく。君は?」
「私は椎名です」
「そっか椎名……ん?それ俺じゃね?君の名前を聞いてるんだけど」
「だから、椎名です。椎名ひより」
「…………あ」
記憶が蘇る。確か同じクラスに同じ苗字で、名前がひよりの生徒がいたような。
俺は全てを思い出し、珍しく大声をあげて驚いた。
「あ──ー!!!もう一人の!?」
「はい。私は椎名ひよりで、あなたが椎名裕人くんですよね」
「マジか。君がひよりさんか」
「はい、私がひよりさんです。苗字が被ったの初めてですよ」
「それはお互いさまだな。俺も初めて」
「そうなんですか。それにお互い本好きで、目の形も似ているような……兄妹とかだったらどうします?」
「んなまさか」
一瞬でも妹の椎名を想像してしまい、すぐに正気に戻る。馬鹿馬鹿しいと思いつつ本を読み進めた。