ダンジョンにアサシンがいるのは間違っているのだろうか 作:匿名希望
ーーー1478年 イタリア。
兵士達の叫び声が聞こえる中、フィレンツェの街に一つの影が降りた。
目深に被ったフード、貴族の衣装のようなローブに質素なマントをかけた青年は、騒ぐ群衆に紛れ、壁をつたい、窓に手をかけ屋根を駈ける。
アサシン。
そう呼ばれる存在が彼だった。
歴史の影から人知れず、大いなる陰謀と戦ってきた存在。
歴史の転換期には彼等の姿があったと言う。
そしてまた、このイタリアもその転換期にいた。
青年、エツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェはその陰謀を止めるため、アサシンとなった。
そしてようやく、ようやくその影を踏んだ。
【リンゴ】と呼ばれる秘宝とテンプル騎士団。
奴らの目論見を突き止めたのだ。
「アサシンめ!追い詰めたぞ!!」
こうして自分を囲んでるのも騎士団の兵隊だ。
「男に迫られても嬉しくないんだけどな」
フードの中で苦笑しながら呟かれた。
アサシンとなってからの日常。
エツィオは追ってくる兵士達を尻目に、大聖堂の屋根を登っていく。
「adios!!」
息も絶え絶えになりながらこちらを鬼の形相で見つめる兵士たちに一言かけエツィオはその身を宙へと投げた。
◇◇◇
Lost Data復元開始。
ーーーー、データ復旧不能。
一部データをスキップし、再生。
◇◇◇
??? オラリオ。
「本当に……帰ってしまうんか?」
「あぁ、ここは俺のいるべき場所では無いからな」
2人の男女がそこにいた。
1人は後に2大派閥と呼ばれる組織の神、もう1人は後に『伝説』として語り継がれることになるアサシン。
「それで、こうしてウチを呼んだってことは何かを託したい……そういうことか?」
「他に頼めるやつもいないからな……悪いとは思っている」
「……ホンマにな……ウチのこと振っておいて頼み事だけはお願いしますーやなんて……ホンマ酷い男やで……なぁ?『アルタイル』」
「それでも…だ。お前に渡すものはいずれ来るだろう『同胞』にとって必ず必要になる」
その言葉を聞いた女は男の腰に下げてある球体に目を向ける。
「それも『リンゴ』で得た知識か?」
「あぁ……必ず、何時か必ずこの世界に俺と同じように迷い込む同胞が出てくる……その者の為にも俺はやらねばならない」
「はぁ……分かったわ。任せとき、必ず渡す」
「頼んだ」
◇◇◇
「……っ!!!」
エツィオは太陽の光で目を覚ました。
そして違和感に気づく。
自分はあの時大聖堂の下に見えた藁山に落ちたはず。
だと言うのに、自分が今受けてる感触は硬い石の感触なのだ。
落ちた時に頭を打ったのか?、疑問が過ぎるが自分がそんなにヘマをしたとは思えなかった。
「っ痛……はぁこんなんじゃ叔父上にどやされるな」
叔父上の事だ、訓練が足りないからだとか言ってきつい修業を課して来るに違いない。
そんなのはごめんだ。
「待て……意識を失ってたのに何で俺は死んでいない……」
そうだ。
あの時、確かに騎士団の兵隊がいた。
ならば自分を殺す好機を見逃すわけが無い。
「何がどうなっているんだ……」
分からない。
分からないが、じっとしてもいられない。
そんな時だった、声をかけられたのは。
「おはようさん」
「ッ!!これは失礼をシニョリーナ」
女性の声にエツィオは反射的に礼と共に頭を下げた。
「あぁ、そんなかしこまらんでええ……ウチとあんたは言わば同胞や」
そう言われて初めてエツィオは女の姿を目に入れた。
赤く燃えるような髪の女性。
閉じられた目は何処か胡散臭さを演出しているが、美しさを感じてならなかった。
「同胞……それは一体……」
エツィオが聞くより早く、女性は自身の手を見せた。
そこには薬指が存在していなかったのだ。
つまり、同胞。
アサシンに連なる者。
しかしそれはエツィオの知る証とは違った。
「これで分かるやろ?」
「いや……だが……その方法は現代に合わないからと……」
そう言いながらエツィオも自身の指に刻まれた焼印を見せる。
「ほぅ……アンタの時代ではそういう形で紡がれてるんやな」
「私の時代……先程から一体何を?」
「初めまして若きアサシン……ウチの名は『ロキ』。悪戯好きの神にして『アルタイル』と共に生きた女や」
そこで言葉を区切ったロキと名乗る女は、続いてこう告げてきた。
「そしてようこそ……『異世界』へ。歓迎するで」
これはアニムスから消されたデータの一部。
エツィオがイタリアから消えた空白の期間に起きた物語だ。