ガンダムのおっちゃん   作:灯火011

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ガンダムのおっちゃん

「いやー、ガンダムさん、いつも話聞いてもろて、すんませんなぁ」

 

 リック・ディアスくんが、大きな手で頭をかくような仕草をしながら、ガンダムのおっちゃんに話しかける。格納庫の片隅は、いつものようにMSたちの休憩所兼、ガンダムのおっちゃんの相談所と化していた。

 

「ええってことよ、リック・ディアスくん。ワシはもう、ただの置物みたいなもんやからな。若い衆の話聞くくらいしか、能がないんや。ワハハ!」

 

 ガンダムのおっちゃんは、モニターアイを優しく細めて応じる。その口調は穏やかで、まるで長年連れ添った近所のおっちゃんそのものだ。

 

 「それが、最近のシミュレーター、新しいプログラムが入ってから、どうにもこうにも敵機の動きが読めんのですわ。特に、あの高機動型の新型ザクみたいなヤツ…」

 

 リック・ディアスくんが、大きなため息をつく。

 

「ほぉ、新型ザクねぇ。ワシの頃のザクくんは、もっと素直やったけどなぁ。まあ、時代も変わるっちゅうこっちゃな」

 

 ガンダムのおっちゃんは、のんびりとした相槌を打つ。

 

「それで、どうすればええと思われますか?ガンダムさん。何かコツとか…」

 

 リック・ディアスくんが、藁にもすがる思いで尋ねる。周りで聞いていたネモくんや、若いジムくんたちも、興味深そうに耳(センサー)をそばだてている。

 

 ガンダムのおっちゃんは、少し顎(メインカメラの下あたり)に手を当てるようなポーズをとり、うーん、と唸った。

 

「コツなぁ…まあ、色々あるやろうけど…要は、相手が何をしたいか、やなくて、何をされたら一番困るか、を考えたらええんちゃうか?」

「何をされたら…一番困るか、ですか?」

 

 リック・ディアスくんが、不思議そうに繰り返す。

 

「そうや。例えばな、その高機動型が、自分より速くて翻弄してくるんやったら、無理に追いかけんでもええ。むしろ、動けんようにしたらええんや」

 

「動けんように…?脚でも狙うんですか?」

 

「脚もええけどな。もっと手っ取り早いのは、コクピット潰すことやな。パイロットがおらんようになったら、どんなMSかてただの鉄クズや。ま、シミュレーターじゃそこまでせんでもええやろうけど。ワハハ!」

 

 ガンダムのおっちゃんは、いつものように豪快に笑う。

 

 しかし、その言葉を聞いたリック・ディアスくんや他のMSたちは、一瞬、駆動音を止めて固まっていた。

(コクピットを…潰す…?)

(確かに…一番手っ取り早いけど…発想が…)

(ガンダムさん…やっぱり、根本的なところが…)

 普段の温厚なガンダムさんからは想像もつかない、あまりにも合理的で、そして容赦のない「解決策」だった。

 

 

 別の日のこと。今度はZガンダムくんが、少し難しい顔でガンダムのおっちゃんに相談を持ち掛けていた。

 

「ガンダムさん、最近、新しいパイロットが配属されたんですが…どうにも、機体の性能を限界まで引き出そうとしすぎるきらいがありまして。無茶な機動が多くて、機体への負荷が心配なんです」

 

 生真面目なZガンダムくんらしい悩みだ。

 

「ほう、元気なパイロットくんやな。ええことやないか」

 

 ガンダムのおっちゃんは、ニコニコと聞いている。

 

「いえ、それが…このままでは、戦闘中に機体がもたない可能性も…何か、パイロットに上手く伝える方法はないでしょうか」

「うーん、そうやなぁ…まあ、パイロットくんも、勝ちたい一心なんやろ。せやったら、一回くらい、本当に機体が壊れかける寸前までやらせてみたらええんちゃうか?」

「えっ!?ガンダムさん、それは…!」

 

 Zガンダムくんが、驚いて声を上げる。

 

「いやいや、本当に壊れたらアカンで?けどな、口で言うより、身体で分からせた方が早いやろ。ギリギリのところで、『あ、これ以上やったらホンマにアカンやつや』ってパイロットくんが肝に銘じたら、次からはもうちょっと考えてくれるんちゃうか?ワシも昔、パイロットのボンに無茶させられて腕の一本や二本もげたことあったけど、それでアイツもちょっとは学習したみたいやしな。ま、結局はワシが無理やり合わせとったけど。ワハハ!」

 

 ガンダムのおっちゃんは、またしても豪快に笑う。

 

 Zガンダムくんは、言葉を失っていた。

 

(腕が…もげる…?それで学習…?)

(ガンダムさんとパイロットさんの関係って…一体…)

(やはり、この方の経験してきた戦場は、我々の想像を絶する…)

 

 その穏やかな笑顔の裏に隠された、壮絶な過去を垣間見た気がした。

 

 

 ある時は、整備を担当している若い整備兵くんが、新型兵器の運用についてガンダムのおっちゃんに意見を求めた。

 

「ガンダムさん、この新しいビーム・マグナム、威力は絶大なんですが、エネルギー消費が激しくて、連射が効かないんです。どう運用するのが効果的だと思われますか?」

 

 ガンダムのおっちゃんは、モニターに映し出されたスペック表を眺めながら、ふむ、と頷いた。

 

「ええやん、一発がデカいのは頼りになるわ。連射できんのやったら、確実に当てられる状況を作ってから撃つしかないわな」

「確実に当てられる状況、ですか…」

「そうや。例えば、敵さんの動きを止めるか、逃げ道を塞ぐか。ま、一番手っ取り早いのは、敵さんの武器を全部叩き落として、丸裸にしてから、ゆっくり狙いをつけることやけどな。抵抗できん相手に撃つんが、一番確実やろ?ワハハ!」

 

 整備兵くんは、笑顔で頷きながらも、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。

 

(武器を全部叩き落として…丸裸に…)

(ガンダムさん、笑顔でとんでもないこと言ってる…)

(これが…これが“白い悪魔”と呼ばれた所以なのか…)

 

 ガンダムのおっちゃんは、決して自分から過去の武勇伝を語ることはない。

 

 いつも穏やかで、若いMSたちの話に親身に耳を傾ける、気のいいおっちゃんだ。

 

 しかし、ふとした瞬間に口にするアドバイスや解決策は、あまりにも合理的で、効率的で、そして時には恐ろしいほど容赦がない。

 

 それは、数多の死線を潜り抜け、勝利のためにあらゆる手段を講じてきた者だけが持つ、究極の「実践哲学」なのかもしれない。

 

 今日も格納庫では、ガンダムのおっちゃんの周りにMSたちが集まっている。

 

「いやー、ガンダムさんに相談したら、なんかスッキリしましたわ!」

「ガンダムさん、また話聞いてもらえますか?」

 

 彼らは、ガンダムのおっちゃんの言葉の裏にある本当の凄みに気づきながらも、その温厚な人柄(機柄?)に惹かれて集まってくるのだった。

 

 そして、時折見せる「白い悪魔」の片鱗に、改めて畏敬の念を抱くのである。

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