深夜のシャーレに遊びに行ったら   作:33z

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二話目。アヤネがつかれる話。


アヤネ×つかれてる

「わ、私は対策委員会のみんなに嫌われてしまったんでしょうか……!!??」

 

”ちょ、ちょっとアヤネ!?一体どうしたの!?”

 

某月某日。時刻は15時。

 

着の身着のまま(体操服)の私はシャーレの執務室に駆け込むなり開口一番、先生にそう告げた。

 

───

──

 

”少し落ち着いた?”

 

「は、はい……すみません。取り乱してしまいました……」

 

”まあ、いきなりは驚いたけど……それにしても、何かあったんだね?今日はアヤネには当番をお願いしてなかったし”

給湯室から先生の、少し距離を挟んだ声。今先生は私の為に飲み物を準備してくれている。

 

「そうなんです……。私、みんなに……」

 

ぐすん。

思い返すと涙が出て来そうになってしまう。

 

”大丈夫だよ。落ち着いて。順番に事情を聞かせて?”

 

先生はそう言って、私の前にあったかいココアを出してくれる。ありがたく受け取って、一口すする。そうすると、不思議と気持ちが……落ち着く、と自分に言い聞かせる。そして。

すぅはぁ、と深呼吸一つ。意を決して口を開く。

 

「は、はい。事の起こりは──」

 

───

 

──事の起こりは二日前……だと思います。

いつもの通り起床した私は、ほんの少しだけ体調が悪いのかも……と感じました。頭痛と言うほどでもなく、熱があるでもなく。でもどことなく体のだるさを感じました。

 

季節の代わり目と言う事もあり、もし私が風邪を引いていたとしたらみんなにうつす訳にも行かないと思い……マスクを着けて登校したんです。

 

そして学校についてからはいつもの通りでした。

 

「おはよーアヤネちゃん。あれー?イメチェン?うへ~おじさんには難しそう~。ほら、おじさんもう年だから、紙が肌に合わないとチクチクしちゃってさぁ~」

「あはは……おはようございます、ホシノ先輩」

 

……なんて少しからかわれもしましたが。

 

その後もノノミ先輩、シロコ先輩、セリカちゃんに挨拶をして。午前中はBDで授業を受け。お昼御飯を食べて、午後も同じくBDで授業を。

少し変に思ったのは、その日の放課後からです。なにかみんなの言動に違和感があるというか……、おかしさ、みたいなものが生まれ始めたんです。

 

いつものように対策委員会の部室に集まって、借金返済のための対策会議を行っていたんですが……その中で。

──最初はホシノ先輩でした。

 

「……うんうん。それで今週は動いてみようか。ああでも、アヤネちゃんには関係のないスケジュールだねぇ~」

「──うへ~、なーんて、嘘だよー?」

 

……。

…………え?

 

……誤解のない様に先にお話ししておきますが、みんなで建てたスケジュールには当然対策委員会全員の予定が入っていましたし、当然私の予定もその中に入っています。だから、私に関係ないなんて、そんなことある訳ないんです。

 

普段あまり行動にやる気を見せないし、冗談ばっかり言っててその言動にセリカちゃんがぷりぷり怒ってたりするホシノ先輩ですが、それでもあまり言わないタイプの冗談でした。

 

その後は……ノノミ先輩。

 

「うんうん!今週はその予定で行きましょう!」

「あ、景気づけの為に私、スイーツ買って来たんです!これを食べて今週も頑張っていきましょう!……あ、でも当然」

「アヤネちゃんの分はありませんよ?」

「──なーんて。冗談ですよ!」

 

「あ、あはは……」

 

……。

…………。

 

そうしたノノミ先輩の宣言と共に置かれたスイーツ……どうやら新発売のプリンの様でしたが、確かに5人分……私の分もあったんです。

でも、ノノミ先輩はそういうことを言うタイプじゃなくて。でも、その段階だとまだ理解が追い付いていなかったから。

 

……普段言わない冗談を、その、柄にもなく言ってみたのかなって解釈するようにしてました。

 

 

その次は……シロコ先輩。

 

「ん、分かった。計画表に沿って動く。でも私は別途に銀行を襲う計画を立てた。こっちを使うなら今回のスケジュールの何十倍の稼ぎが─」

 

「─うへ~……シロコちゃ~ん?」

 

「……分かってる。銀行は襲わない」

 

「うんうん!シロコちゃんはそうでないと!」

 

「ああ、でもどちらにせよ。アヤネの協力は必要──」

 

──嘘。最初から当てになんてしていない。

 

……。

…………。

 

 

その、そう言ったシロコ先輩の表情が。あまりにもいつも通りで。なのに、言動だけが違和感があって。そして……なにより。他のみんなの様子に何も変わりが無くて。それ以上、顔を上げていられませんでした。

 

 

最後は、セリカちゃん。

 

 

「分かったわ!今週はバイトも調整効くから、この通りにやってみるわね!……サボったりしないでよホシノ先輩!」

 

「うへぇ~、わかってるよぉセリカちゃん」

 

「全く……しっかりしてよね!そして……アヤネちゃん!」

 

「……。……!は、はい!?なんでしょうセリカちゃん!?」

 

 

──何もしないでね。迷惑だから……なーんて、嘘よ。そんな顔しないでってば。

 

 

そう言って笑うセリカちゃんの顔には、何も変わった所が無くて。いつもの、委員会のために頑張って、たまにホシノ先輩に怒っている表情と。何も変わるところはありませんでした。

 

 

…………それを聞いてから。私は。

 

何も言う事が出来なくて。この時間が早く過ぎてくれないかって。

 

耳に残る談笑の中。頭を巡るのは、ただそれだけでした。

 

───

 

一度そこで言葉を切り、頂いたココアを一口。そこまでの量を話した訳ではなかったのに、思いのほか喉が渇いていたことに気づきました。

 

”……。それは。大変だったね”

 

 

先生は私の話を真剣に聞いてくれました。普段のみんなの人柄を知っている先生なら私の話を一笑に付してもおかしくはない。心のどこかでそう考えていたのに。

 

”生徒が、アヤネが真剣に相談しに来ているのに。そんなことする訳ないよ”

 

そう言って、私の緊張をほぐすかのように笑みを向けてくれます。

 

 

”でも、話はそれじゃあ終わらないんだよね?……それだけなら、誰かに相談するのはもっと早い筈だから”

 

「……はい。おっしゃる通りです。まだ、終わりじゃないんです」

 

喋りながらだんだんと冷静さを取り戻してきた私。シャーレに来たときはパニックになってしまって取り乱していたけど、思考を回せばみんなの「おかしさ」に目が止まる様になって来ていた。

 

 

「はい、もっと違和感が湧いてきたのは──」

 

もっとも、そう分析できるのは今この時だからこそ。渦中の私は、ただただ状況に翻弄されるだけだったから。

 

───

 

──会議は続いていましたが、私の耳は音を右から左へと通すだけで。具体的な内容は何一つ入ってきていませんでした。

 

ホシノ先輩がふざけて、シロコ先輩が乗っかって。セリカちゃんはそれに怒って、ノノミ先輩が朗らかに笑う。皆の様子はいつも通り。

ただ、私への言動だけが違う。表情も行動も変わらない。言葉だけが、私に棘を突き立てるような。そんな針の筵の様な時間でした。

 

そうして話を素通りさせながら下を向いていると、気づけば会議はお開きとなったようで。思い思いに帰り支度を始めていました。

 

そんな皆の背を見ながら、「ああ、もう帰る時間か」とぼんやりと考え。私ものろのろと帰路に付きます。

……正直に言うと少しだけホッとしていました。先輩達の、セリカちゃんの。言葉を聞くのが……怖くなってきていたので。

 

教室を出て、階段を降り。靴を履き替えて外へと。皆の輪と思わず距離取りながら歩みを進めていき、校門を出た所で。セリカちゃんが口を開きました。

「じゃあ私バイトだからこっち!じゃあね先輩達!あ、そうだ──……ん?」

 

──ちゃん。

──ネちゃん?

 

「アヤネちゃん?」

 

「ひっ……あっ……はい、なんでしょうセリカちゃん……」

 

今日の事が頭をぐるぐると周り思考が飛んでいたせいか、呼びかけられていた事に気づけず反応が遅れてしまっていたんです。……さっきまでのセリカちゃんなら。多分、また何か言って来るのではないか……そう身構えたのですが。

 

「何って、今日ずっと体調悪そうにしてたから。あんまり無理しないでね!……ほら!先輩達を止めるの私ひとりじゃ大変だし!」

 

恥ずかしいのか少し顔を赤くして話す彼女の姿に。先程まで私に辛辣な言葉を吐いては、

 

「嘘よ」

「冗談だってば」

 

と、そう告げていた面影はありませんでした。

 

 

会議中とは全く別の恐怖が、私の背筋を震わせました。セリカちゃんがいつも通りな様子が、怖かったんです。

辛辣な言葉を投げかけられるだけなら、私が何かしてしまったのか。私が何か気に障るようなことをしてしまったのか。

 

……私の事を嫌いになってしまったから、あんなに冷たい事を言っていたのか。

 

でもそれならまだ、悲しいですが納得は出来た筈なんです。少なくともセリカちゃんの、対策委員会(みんな)の私に対する言動に。嫌いだから冷たくする。それには理屈が通っていますから。

 

しかし。帰りがけには私を心配するかのような言葉。行動……いえ、言動があまりに食い違っていることが。

その事実にセリカちゃん自身は全く気付いていないような態度であることが。その時の私は嫌われてしまったのではないかと、そればっかりに集中してしまっていましたが……。それが、今思い返せば強烈な違和感でした。

 

え?その時の私がどう感じたか……ですか?……私の行動のどこが悪かったのか、そう考えてばっかりいたような気がします。……実はあんまり覚えていないんです。ちょっと体調が悪かったっていうのもあって。頭がぼーっとしている感じといいますか。

 

その後は言葉少なに先輩たちに別れの挨拶を告げ、帰宅しました。

体以上に心が疲れてしまった私は、すぐベッドに潜り込みました。……あっという間に眠りに落ちて、夢さえも見ない程泥のように眠れたのは不幸中の幸いでした。

 

……?先輩達は挨拶を返してきたのか、ですか?

ええ、確か皆さん口々にじゃーね、また明日、などと返して貰ったような気がします。……はい。普段通りの、先輩達でした。──セリカちゃんと同じく、です。

 

次の日、つまり昨日も結論から言ってしまうと同じような形でした。

 

ほんの少しだけだるさのある体を起こし。みんなにうつす訳には行かないのでマスクを着け。学校へ行き。挨拶を交わして。BDで授業を──

 

……え?その時挨拶を返してくれたのは……確かノノミ先輩だったはず、です。偶然、校門前で……ええと、またノノミ先輩に何か言われたら……と、そう怯えてしまっていたのであんまり記憶にないのですが……その、二日前の「冗談」は言われてなかったと思います。

 

 

お昼ごはんは自分の教室でセリカちゃんと一緒に。……はい、その時のことは覚えています。

 

「……でね!昨日のバイトったら本当にひどかったの!私達は真面目に働いてたのにさあ、いきなり外から『ここの地下水脈を発見したー!』なんて声が聞こえてきて!……ってごめんね、」

 

 

「私の話、アヤネちゃんに関係ないし」

 

「……あ、あの」

 

「──なーんて、嘘よ」

 

 

と、そう。まるで二日前の会議の時間と同じ様子で私に話しかけてきてましたから。

 

 

その後は、日中から放課後に至るまで私から何かを発言することはありませんでした。……すみません。周りの様子もほとんど覚えていません……何も考えたくなくて。早く一日が終わらないかと。そう願っていたような気がします。

 

そして放課後。

幸か不幸か、この日は対策委員会の部室に集まる予定は立っていなかったので、私はチャイムの音と同時に、逃げる様に帰宅しました。

いえ、ように、ではなく。逃げました。

正直、もう、限界でした。

 

…………確信してしまったんだと思います。

私はみんなに嫌われてしまったのだと。もうそれだけが頭を占めていて、今覚えている違和感はかけらも抱いていませんでした。

 

でも、どうしても否定したくて。せめて理由を聞きたくて。体を引きずるようにして登校したんです。昨日と同じように準備をして。

 

頑張って登校したんですけどね。本当は放課後に、対策会議の部室に集合した時にと思ってたんですけど。

 

……話は変わりますが。先生、アビドスの体育の授業形態ってご存じですか?……あはは、すみません。知らなくて当然です。

全校生徒でやるんですよ。なにせ人数が少ないですから。

 

ええと、さっきの時間は体育だったんです。……その、私が放課後ではなくこの時間に駆け込んできた理由です。

あの、さっき、言われたんです。アビドスの全校生徒、つまり対策委員会のみんなから。

まるで示し合わせたかのように。明確に私に向けて。一斉に私の目を見て。

 

「「「「今日の体育、頑張ろうね」」」」

 

「「「「ん?いつまで居るのアヤネ(ちゃん)」」」」

 

「「「「だって、居る意味ないじゃん」」」」

 

「「「「──ま、嘘だけど」」」」

 

 

その言葉が決壊のきっかけでした。私はパニックになって、耐えきれなくなって、ここに来たんです。

 

───

 

そうして私の疑問は冒頭のものへと戻って、改めて先生にぶつける。つまり。

 

「わ、私は対策委員会のみんなに嫌われてしまったんでしょうか……?」

 

そこまで話してようやく、一息つこうとしたけど先生が。

 

”いや。そんなことは絶対に無い。ある訳が無い。大丈夫。必ずみんなは元に戻る。──私の秘蔵コレクションを賭けたって良い”

なんて最後だけ冗談めかしてはいたけれど、食い気味に宣言してくれた。

 

そのあまりに自信に満ちた声色に。

 

──そうか。私が嫌われた訳じゃなかったんだ。

 

二日前から心の底から欲してた確信が与えられたと同時に、目から涙が零れてきて。

まだ何も解決していないし理由も分かっていない。それでも。……多分私は、私じゃない他の人から言ってほしかったんだ。誰も私を嫌っていないと。そうやって。

 

今一番欲しかった言葉を貰って。この二日間で初めて私は安心を抱くことができた。

 

 

”はい、これ。まずは……大変だったね。話してくれてありがとう”

そう言って先生はハンカチを渡してくれた。ありがたく受け取り、眼鏡を外して涙を拭う。

 

うん。大丈夫。やっと本当の意味で冷静さを取り戻すことができた。そして、怖さしか抱けなかったみんなの様子にきちんと向き合うことができる。

 

「それで、先生。先ほど……その、私が嫌われているから冷たい態度を取られている訳ではないと、なぜか確信的に言い切っておられましたが……。なにか根拠があるんでしょうか?」

私がぶつけた疑問に、先生は難しそうな顔をして唸っている。……もしかして今のはただの慰めで、本当はみんなにきらわ……。

 

ぐすん。

 

思わずまた涙が──

 

”──ああいや!違う違う!そうじゃなくてね、どこから説明すれば理解しやすいかって考えてたんだ”

先生はそのままひとしきり悩んだ後で、大きく頷いて話し始めた。

 

”まずは……そうだね。今回の話に必要なポイントはこの三つなんだ。先に要点に絞って説明していくから疑問点は後から質問してくれると助かるかな”

 

言いながら先生は立ち上がり。執務室に備え付けられたホワイトボードに近寄ると書き込みを始めた。しばらく待つと、完成したのか先生はボードをこちらに向けてくれて、そこにはこう書かれていた。

 

 

1.みんなの言動がおかしくなった訳

2.1を招いた原因

3.解決策

 

”別段の希望が無ければ1から説明していくけど、アヤネは大丈夫?”

 

「……あっ。はい、大丈夫です。説明お願いします」

 

……ここに来た時には、正直具体的な案があって駆け込んで来た訳ではなかった。ただあのままアビドスにいることが耐えられなくて、いわば避難先として逃げてきただけだのに。今は光明どころか解決策?とやらまで提示されている。その現状に驚きながら、説明を求めた。

 

”OK。じゃあまず1から”

”今回の原因は幽霊が原因……いや、まあ。アヤネがそういう顔をするのは最もなんだけども。……そうだね、逆にこう考えて欲しい”

”「あの」対策委員会の面々の様子を一晩で変えられる物なんて幽霊、もしくは超常現象くらいのもんじゃない?って”

 

 

私がどんな顔をしていたのかは残念ながら鏡が無くて確かめることは出来なかったけど。多分相応に驚いた表情をしていたと思う。

先生の言を疑う疑わないの前に、そんな言葉が出てくる可能性を想定していなかったから。

でも、同時にどこか腑に落ちてもいた。あんなに、その……個性的なみんなが、たった数日でおかしくなるなんて普通じゃ考えられない。

 

一癖も二癖もある……とは先生は口にしなかったけれど。「あの」に含まれた言外のニュアンスがそう物語っていた。

 

”細かく分類するなら幽霊(ゆうれい)じゃなくて幽霊(ポルターガイスト)……まあそこは大した問題じゃない”

”重要なのは、どんな幽霊に「つかれた」のかって事。”

……思わず息を飲む。いわばこの二日間の私の心労の、恐怖の原因そのものなのだから。

 

”今回原因になったのは「つっつき」、そう呼ばれている”

 

「つっつき……?」

私はそこまでオカルト話に詳しい訳ではないからかもしれないが……聞いたことが無い。

 

”「くちへん」に「つち」で吐く。それに祟られた、なんて時に使う「憑」く。合わせて「吐憑(つっつき)」。……訛って「とつき」って言い方になったりもするけどね。ほら嘘を()くなんて言うでしょ?だからそれを、人に憑いて強制的に、嘘をつかせる幽霊。”

 

”対策委員会のみんなは幽霊に憑かれて。そしてアヤネは”

 

 

”幽霊にじゃなくて、ずっと嘘に、吐かれ──憑かれ続けてた”

”それが今回の事の原因。そして多分二日前と言わず、もっと前から”

 

 

二日前、より前?でも、みんなの言動がおかしくなったのは二日前からの筈。……?

私の顔に浮かんだ疑問に答える様に、先生が言葉を重ねた。

 

"今までの話が1、2に関わっていた話で、ここからは2、3に関わる話になるんだけど”

”例によって、アビドス高校の倉庫からなにか発掘しなかった?特に、この一週間以内で"

 

そう言われて……記憶を巡る。しばらく逡巡して。あ、と一つ思い至る。でもあれは、あれ?

 

「……ッ!?」

 

さらに深く思い返そうとした時、頭蓋骨の裏側を引っ掻かれるみたいな、思い出すことを拒むかのような痛みが、脳裏を走った。

 

それを無視して強引に記憶を想起する。

……その日は珍しく対策委員会のみんなで倉庫内を探索していて、何かを見つけたような……気がする。ただそんな気がするだけで上手く記憶の糸を手繰れない。何日前だったのか、何を見つけたのか、肝心なところに靄がかかっている。

 

”やっぱりね。多分その時に見つけた何かが原因だよ。そしてこれは3の話だけど、その何かを壊せば今回の件は全部解決する”

 

私の目を見ながら、先生はそう断言した。

 

───

──

 

”じゃあ上記三つが分かった所で、時系列順に整理していこう”

”まず何日か前、対策委員会のみんなが倉庫内の「お宝探し」を敢行し、何かを発見した。そして発見した「それ」を、保管した。多分……部室、なんだと思う”

”「それ」には吐憑(つっつき)が住み着いていて、その場の全員に憑いて影響を及ぼした。嘘を吐く様に。でも、なにがしかの理由でアヤネはその影響下を抜け出した”

 

”あとはアヤネが覚えている通りだね。憑かれたみんなと憑かれていないアヤネ……つっつき達はこれ幸いとアヤネをターゲットにして悪戯を始めた”

”つまり、アヤネに対してだけ嘘を吐くように”

 

”噓の内容は推測だけど……アヤネが無理しない様にって言葉が歪んだんじゃないかな?”

”ほら、アヤネってここ最近マスク付けてるって話だったし、体がちょっとだるかったって言ってたから。「無理しないでね」の意が思ってもいない形に変換されて無理やり嘘にされてたんだと思うよ”

 

そう言われて思い返せば、みんなの言っていた棘のある言葉は大体私を排除しようとする物。極端に言って、その言に従えば私は何も動く必要はない、との解釈もできる。

少し大げさだがそうした色眼鏡を意識的に自分にかけ、ここ二日間のみんなの言動を思い返す。

 

 

対策委員会のスケジュールから遠ざける。休めと。

スイーツに関しては……多分「アヤネちゃんの分もありますよ☆!」以上の意図は無くて。

 

体育の授業では体調の悪化を防ぐように。見学していて欲しいと。

銀行襲撃計画は……シロコ先輩はそもそも、ホシノ先輩に止められることありきで言ってるところあるし。それを見越した発言だったのなら確かに私は(というか誰も)要らない。

迷惑だから何もするなと言うのは多分、セリカちゃんの性格まで含めるのなら「迷惑だから何もするな(ゆっくり休んでね)」、だと思う。

「この話は関係ない」と言うのも……私が居ない場所で起きた話を、聞かれてないのに話してしまって自分で自分が恥ずかしくなってしまった……という事になるのだろうか?

 

吐憑(つっつき)があくまで嘘を吐かせるだけ、と言うのなら。私を叩いたり物を隠したりなんてせずに、言動のみが変だったのにも納得がいく。

 

幽霊だのなんだのと飲み込み難い大前提を除けば、今の説明は随分と腑に落ちる感覚があった。

 

”じゃあ、夜になったらアビドスに向かおう。その原因になった何かを探して壊さないと。みんないつまでもおかしいまま、自分じゃそれに気づけない”

 

「な、なんで夜なんですか?別に今からでも……」

なるべく早く、そんないわくつきのモノは壊してしまいたいのに。

 

”今から行くと、まだみんな学校に残ってる時間でしょ?……あんまりない可能性だと思うんだけどね。憑かれている他の対策委員のみんなが万が一、本体の破壊を阻止しようと「体を張って」向かってきたら……さ?”

 

言われるがまま、その風景を想像する。

ホシノ先輩が盾を掲げて前衛を張って、セリカちゃんとシロコ先輩が中衛、ノノミ先輩が最下段からミニガンをぶっ放し、その照準の先に居るのは──。

 

慌てて(かぶり)を振って浮かんだ光景をかき消した。……私と先生の二人組で阻止できるような戦力ではない。

 

 

「は、はい!私も夜に学校に行くのが良いと思います!」

 

”う、うん……理解して貰えたようでなにより……”

先生も心なしか顔を青くして私の言葉に賛同を示した。多分想像した光景は一緒だったのでは……。

 

そんな冗談を考えられるくらいには私の心も持ち直してきていた。

シャーレに駆け込んで来たさっきまでは、途方に暮れていたも同然の状態だったのに。

 

そして余裕が出てきた頭で少しばかり寄り道した思考が走り。一つの疑問、今まで何故思い浮かばなかったのか不思議なくらいの疑問が浮かんできた。

 

「あの、先生。私も「吐憑(つっつき)」の影響を受けていた、んですよね?その、倉庫から発見した何かを忘れている訳ですし」

 

”うん。そうだね。なんというのか、「自分に嘘を吐くような状態」って感じかな?吐憑(つっつき)自身に危害が向かない様に住み着いている「元」の記憶を隠したんだんだね……ほかのみんなも今はその状態だと思うよ”

 

”アヤネにきつい態度を取った自分にも嘘を吐かされている筈”

 

やっぱりそうだ。それなら私の記憶のつじつまの合わなさに合点がいく。

 

「では、なぜ私は。他の対策委員会のみんなのように、嘘を吐く側ではなく、嘘を吐かれる側に回ってしまったのでしょうか?」

 

 

”ああ。簡単だよ。吐憑(つっつき)って「口から入って」、「嘘と共に口から出る」ものなんだ。ほら、漢字で書くと「嘘」も「吐憑」も「口」が一番左にあるのに出口が無いでしょ?なら入った口から出るしかない。だけどアヤネは──自分で塞いだから”

 

つい、と先生が指を刺した先には。私のマスクが。

 

あ。

そういえば私は。体調が悪くなったから、みんなにうつさない様にって思って……マスクを付けた。それが二日前の朝の事。

 

”こういうのは概念的な意味が大きいからね。アヤネの口が塞がれたから吐憑(つっつき)が入る余地が、入口が無くなり……同時にその影響から解放されて、かつ嘘を一方的に吐かれるようになってしまったんだ”

 

”……大体疑問点は解決した?”

 

先生がそう聞いてくれば、私の返答は決まっている。

「はい、大方。そして……非常に勿体ないですが私達が発掘した「何か」は壊してしまうのが最善だと思います」

 

”うん。私も同じ考え。一緒だね”

 

そんな風に私に笑いかける先生に持ち直した心で微笑みを返して……本当に久しぶりに、心から笑みを浮かべる事が出来た。

 

次は、対策委員会のみんなと。心から笑えるように。

そのままシャーレで夜を待つ。

 

それが、私が日常へと戻る最初の一歩だった。

 

─────

───

 

その後の事は特に語ることも無く。

無事にアビドスにたどり着いた私達は、部室内のロッカーの上に置いてあった木彫りの鳥……のような物──恐らく私達が物理的に手を出しずらい位置に置かされていたのだろう──を先生が燃やして。燃えカスを先生が持っていき。

 

あれほど私を恐怖に陥れた三日間(体感)はあっけなく終わりを迎えたのだった。

 

そして迎えた翌日。

もう大丈夫だと、緊張を抱えつつ校内に足を踏み入れ。そして。

 

「おはようアヤネちゃん。うへ~、なんか今日は一段と元気いっぱいじゃない?おじさんはもう付いていけないよぉ~」

「あ、おはようございますアヤネちゃん!体調も戻ったみたいで嬉しいです!」

「おはようアヤネ。……あとでホシノ先輩には内緒で「シロコちゃーん?」……なんでもなくなった」

 

「おはようアヤネちゃん!……もう体は大丈夫なの?」

 

 

そんなみんなの「普通」の挨拶を聞いて。私を気遣う一言を聞けて。歓喜のあまりみんなの所へ飛び込んだのだった。

 

──一人残らずみんなからあやされて頭を撫でられて、年不相応な扱いをされてしまったけれど。今の私には全く些細な問題だった。

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