ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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劇場で機動戦士Gundam GQuuuuuuXを見てから、思いつきのままに書いていた話です。
かなりの不定期更新になると思います。

作者はガンダム初心者なので、ご容赦ください。







ホラ吹きおじさんとソドン

「終わったな。地球も、オレも」

 

 ギラ・ドーガのハッチを開けてから目に飛び込んできた光景に、オレは力なくつぶやいた。

 アクシズは二つに割れ、巨大な破片が地球に向かって落ちつつある。そして、オレの乗っているギラ・ドーガは、その落下する破片の表面に取り残されていた。

 

 両脚と右腕を失った愛機はすでに機能を停止しており、慣性から脱出することは不可能だ。このままだと、オレもアクシズと運命を共にすることになる。

 パイロット用の推進装置を頼りにイチかバチかの脱出という手も残されているが、生きようという気力が湧いてこなかった。

 

「十三年もジオン残党やって、最後には大気圏で人間花火か。派手でいいな」

 

 ギレン・ザビにエギーユ・デラーズ、ハマーン・カーンと何度も指導者を変え、最後にはシャア・アズナブルの下でアクシズ落としに従軍した。これ以上、生き恥をさらすこともないだろう。

 

「シャア総帥もやられたな。逃亡もできなかったか」

 

 サザビーの脱出ポッドがガンダムに握られているのを見て、苦笑が漏れる。赤い彗星もここまでというわけだ。

 

「ギュネイ、なんでオレより先に死んでるんだよ。クェスもレズンも逝った。もう別れを言う相手もいないのか」

 

 とりとめもなく浮かんだ思考を口にしていると、だんだんと視界が赤く染まっていく。アクシズが大気圏への突入を始めようとしているのだ。

 

「……ああ、終わった」

 

 と、オレは完全に死を受け入れていたのだが。

 

 それから起こったことは、未だに夢か現実なのか分からない。オレの視界は一面の虹に飲み込まれ、どこかに引いていかれる感覚が全身を襲ったのを最後に、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 宇宙世紀0085。シャア・アズナブルが光の中に消えてから、六年の歳月が過ぎた。

 

 一年戦争序盤のルウム戦役において、五隻の敵艦を撃沈したエースパイロット。

 教育型コンピューター、ビーム兵器、ガンダリウム合金。それらの地球連邦の全技術を総動員したガンダムを奪取、連邦の反撃計画を大きく狂わせた偉大な軍人。

 戦争終盤には質量兵器と化したソロモン内部に突入し、グラナダを破滅の運命から救った英雄。

 

 しかし、シャア・アズナブルはソロモンにおける謎の発光現象――現在ではゼクノヴァと呼ばれるサイコミュの暴走と共に行方不明となった。

 一年戦争が終結してからも、未だに彼の捜索は続いている。

 

「また空振りだったか……」

 

 ジオン公国の軍艦ソドンの食堂で、エグザベ少尉は疲れをにじませた声でつぶやいた。

 

 シャア・アズナブルを探して宇宙を駆けずり回る日常には慣れたが、何一つ成果が出ないとなると、さすがにやるせなさが義務感を上回る。

 何せ、シャア・アズナブルの名前を騙る人間が多すぎる。人が住んでさえいれば、宇宙のどこでも湧いてくる偽物に振り回されているのが現状だ。

 このままだと、木星にまで行くハメになりかねない。

 

「いったい、いつまでこんな任務が続くんですかね?」

 

 テーブルの対面に座る年下の伍長が、パンをちぎりながらつぶやいた。

 

「シャリア・ブル中佐は、なんとしても見つけるつもりのようだ」

 

「あの人はシャア大佐のマヴだったんですよね。生きていると信じたいのは分かりますけど、どうせ……」

 

「そこまでにしておくんだ」

 

 さすがに聞き流せず、エグザベ少尉は話し相手をいさめた。

 続く言葉は、自分たちの軍務そのものを疑問視することになる。軍人としてライン越えだ。

 

「す、すみません」

 

「気にしなくていい。せめて、大佐の乗っていたガンダムでも見つかれば、糸口がつかめるんだが」

 

 それだけ言って、ミルクをストローですすった時だった。

 

「おーう、ガンダムの話をしてる奴がいるなぁ?」

 

 大声と共に、バァンと豪快に背中を叩かれる。このアンブッシュを受けた結果、ミルクが勢いよく気管へと流れ込んだ。

 

「ごっほぉ!?」

 

 しばらく口を押えて悶絶する。ようやく落ち着いてから涙目で振り返ってみれば、いてほしくなかった中年男性のニヤけ顔が見えた。

 

「よう。エグザベ少尉」

 

「その、中尉。ボ、ボクは……」

 

「相変わらず勉強熱心だな。隣、いいか?」

 

 返事をする暇もなく、椅子にドカッと腰を下ろした中年の士官は、上機嫌で語りかけて来る。

 

「ガンダムのことが知りたい? そういうことならオレに任せろ。何せ、オレはMS(モビルスーツ)にもう二十年乗ってるんだからな」

 

「いえ、MSが実戦に投入されてから、まだ六年で……」

 

 誰でも分かるウソに、思わず反応してしまう。が、相手は聞く耳を持たず、無精ひげの残るアゴに手を当てて何やら考え込んでいた。

 

「そうだな、ガンダムタイプとは何度かやりあった。味方だったこともある。どの話をしてやろうかな……」

 

 ニュータイプのひらめきがなくとも分かる。

 

 コレ、めちゃくちゃ長くなるやつだと。

 

 助けを求めて正面の伍長に目をやったが、そこはすでに空席だった。周りの人間も、誰も目を合わせようとはしない。どうやら、ここに味方はいないらしい。

 

 内心で絶望している間にも、中尉の考えは決まったようだ。

 

「よーし。せっかくだから、とびっきりのエピソードを話してやろう。サービスだぞ?」

 

 

 

 

 

「――その時、核パルスエンジンが点火! 我々の作戦通り、とうとう核兵器をミッチミチに詰め込んだ小惑星は、地球に向けて落下するコースに向かい始めた」

 

 時間が進むのが、ひたすらに遅く感じる。

 

「しかし、敵は二度目の小惑星落としを阻止しようと必死だった。オレの指揮するMS小隊は、弾幕の嵐の中をくぐり抜け、敵機をちぎっては投げ、ちぎっては投げ――」

 

 最初こそ一応は上官相手なので、「はあ」とか「へえ」とか相槌を打っていたのだが、今となっては無言で昼食を口に運んでいた。

 

「遠方で突然の大爆発ッ。核パルスエンジンを破壊すべく敵艦が放った核ミサイルを、味方が見事に撃ち落としたのだ。やったぜギュネイくん! そうこうしている間にも、アクシ……小惑星は重力に魂を囚われた者どもに鉄槌を下すべく、地球に迫る!」

 

 いや、誰ですかギュネイくんって。

 思わずそう言いかけて、エグザベ少尉はギリギリでこらえた。

 

 拳を握りしめ熱弁を振るう中尉は、良くも悪くもソドンクルー内で有名な男だ。

 

 年齢は三十六歳だったはず。若い軍人の多いソドンではそれだけで目立つのだが、問題はデタラメな戦場エピソードばかり話すという悪癖だった。

 現在進行中の話にしても、ジオン軍が一年戦争で小惑星を落とそうとした事実はない。ずいぶんと真に迫った語り口だが、結局はホラ話を延々と聞かされているだけだ。

 

 現実逃避にそんなことを考えていると、とうとうこの場に救いの神が現れた。

 

「ジコッテ中尉!」

 

「ん、なんだ。コモリ少尉も聞きたいのか?」

 

 話に割って入ってきた若い女性士官に、ジコッテと呼ばれた中尉は朗らかに片手を挙げて応じる。

 

「ほら、ここに座れよ」

 

 自分に向けられる冷めきった視線に気づいていないのか、ジコッテ中尉は呑気に椅子を動かしている。コモリ少尉のこめかみがピクピクと波打ち、危険信号を送り始めた。

 

「しっかし、いつ見ても細い身体だなぁ。少尉はちゃんと飯を食ってるか? 食うもの食わんと、大事なところに肉がつかんぞ」

 

 とどめとばかりに繰り出されたセクシャルハラスメントを受けて、ついにコモリ少尉がキレた。

 

「いい加減にしてください中尉! エグザベくんだって迷惑してるでしょう!」

 

「そんなに怒るなよ。いつものことだろ?」

 

「最っ悪。コンプラ相談の窓口、確認しとかないと」

 

 現在進行形で異性の部下からの評価がドン底に落ちているジコッテ中尉は、耳をほじりながら食堂のモニターに目をやった。

 

「もうこんな時間か。まだガンダムも出てきていないってのに」

 

「その話なら、何度も聞きましたよ。最後は中尉のMSが大破して、小惑星に不時着したんですよね」

 

「おい、ネタばらしするなよ。エグザベ少尉がガッカリするだろ」

 

 しないので、安心してほしい。

 

「中尉、どうしてそんなホラ話ばっかりするんですか。口を開けばいいかげんな話ばっかり。ソドンのみんなも呆れてますよ」

 

「ホラ話ねぇ」

 

 ジコッテ中尉はどこか寂し気につぶやいて、急に声を低めた。

 

「なあ、少尉たち。ここだけの話なんだが、オレがさ、八年後の未来からタイムスリップして来たって言ったらどう思うよ?」

 

「バカじゃねーの、って思います」

 

 上官に向けられたものとは思えない、辛辣な返事をするコモリ少尉。しかし、ジコッテ中尉はただ腹を抱えて笑い声をあげるだけだった。

 

「ハッハハハ! だよな。オレだってそう思う!」

 

 

 

 

 

「部下への過ぎたダル絡みはパワハラ! 今度こそ覚えておいてくださいね!」

 

 怒り心頭のコモリ少尉は、叩きつけるように言い残して去っていった。

 あの様子だと、連れられて行ったエグザベ少尉もとばっちりを食らっているだろう。「嫌なら、ちゃんと言わないとダメじゃん!」とか。不憫な姿が簡単に想像できるが、強く生きてほしい。

 

「やっぱり、若いとあれぐらいの元気が欲しいよなぁ」

 

 一回り年下の部下から説教をくらうという、もはやルーティンワークと化したイベントを終えて、オレはしみじみつぶやいた。やはり若者との交流はいい。刺激がもらえる。

 

「それにしても、ホラ話か」

 

 二人とも、いったいどんな顔をするだろうか。さっきまで話していた内容が、オレがリアルで経験したものそのままだと知ったら。

 

 八年後の未来、オレにとっては六年前の光景を脳内に思い浮かべる。コモリ少尉にも話していない、あの戦場の結末について。

 結論から言うと、アクシズは地球には落ちなかった。二人のニュータイプが生み出した光によって押し返されたからだ。

 

 光は、もののついでとばかりにオレを包みこみ――

 

「なんだったんだろうな、あの光は」

 

 アクシズと一緒に死ぬはずのオレだったが、意識をとり戻した時にはベッドの上だった。なんでも、ゼクノヴァが発生した後、宇宙空間を漂うギラ・ドーガをソドンが発見して保護したらしいが。

 それからの経緯は省いて結論から言うと、オレは十数年ぶりにジオン軍人に復帰して元気にやっている。

 

 昔はSF小説によくある歴史の修正力とかいうものを警戒していたが、杞憂だった。ワンチャン、0083になったらまた穀倉地帯にコロニー落とせと命令されるかと思っていたんだが。身構えていたオレをよそに、宇宙はピリピリした平和を謳歌している。

 当然、ティターンズなんていうクソ組織は影も形もない。つまりはグリプス戦役や第一次ネオ・ジオン抗争など、オレの参加した争いはもう起きないとみていいだろう。

 

 いや、別にいいんだが。戦争狂というわけでもないし、人類が平和であるならそれに越したことはない。

 随分とオレの知る宇宙世紀とはかけ離れてしまっている。オレの記憶の中の戦場は、永遠にホラ話のままだろう。

 

「それにしても……」

 

 こんなにも歴史をかき回した犯人について考える。

 

 サイド7でガンダムをパクッて、ソロモンを謎の光で削り取り、行方不明となってからも周囲を振り回し続けているとは。

 

「少々はっちゃけすぎじゃないですかね、シャア総帥」

 

 オレは未来の上司のやりたい放題に、そう言わずにはいられなかった。

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