ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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ホラ吹きおじさんとマヴ

「あー、惜しかったな。今ので一機撃破かと思ったのに」

 

「でもアドバンテージは失っていないぞ。この調子じゃ、相手はもうジリ貧だろ?」

 

 夕食を済ませて食堂を去ろうとしたところ、どうにも気になる会話が聞こえてきた。なんだ、隅っこの方で盛り上がっている二人組がいるな。

 

「何を見てるんだ、お前ら」

 

「あ、中尉も見ます? けっこうすごいですよ、これ」

 

 そういって兵士が掲げたスマホの画面には、ザク同士が戦闘する様子が映っていた。どうやら二対二のタッグ戦らしく、画面の中を合計四機のザクが飛び回っている。

 場所はずいぶんとコロニーに近い宙域みたいだ。それに、戦うザクはどれもゴチャゴチャと無軌道な改造が施されている。公的な演習や訓練の映像ではないな。

 

 と、いうことは。

 

「おいおい、違法バトルか? まさか賭けているんじゃないだろうな?」

 

 ストレスの蓄積しやすい軍艦生活だからな。オレも多少のことは、ガス抜きのために目こぼししているが。さすがに限度というものがあるぞ。

 

「まさか。これは過去の映像ですよ。自分の親戚がサイド6で働いてるんですけど、データを送ってくれたんです」

 

「サイド6か」

 

 思わず声に苦々しいものが混ざる。

 

 一年戦争の最中は中立を宣言していたサイド6だが、裏ではその時の情勢によってジオンと連邦を秤にかけて賢しく立ち回っていた。そんなわけで、オレを含めたジオン残党からは「コウモリ野郎」だの「拝金主義者」だの散々な評価だったな。

 

 こっちの歴史では、現在は完全な独立国となっている。ジオンとは表向き友好国となっているが、今後の流れしだいではどうなることやら。

 

「どうかしましたか?」

 

「なんでもないよ。それより、軍務の最中にそんなのを見ているのはなぁ。アウトだろ」

 

 MS同士を戦わせる違法バトルは、ジオン軍がザクを民間に払い下げ初めてからというもの、増加する一方と聞いている。取り締まりが全く追いついていないらしい。

 正直、オレも興味がないわけではないんだが。杜撰な管理体制で死人も出ているという噂だ。さすがに注意が必要か。

 

「悪いこと言わないから、誰かに怒られる前にやめておくんだな。今回は見なかったことにしてや──おい、ちょっと待てよ。この優勢な方のタッグ……」

 

 兵士たちを諫める言葉をかける途中で、オレの視線はスマホの画面に釘付けになった。赤いザクと水色のザクのタッグが、見事な連携攻撃を繰り出すシーンが目に映ったからだ。

 

「フォースネークアイズがどうかしましたか?」

 

「こいつら、元はジオンのパイロットだったな」

 

 確信を込めて言い放つと、兵士たちが目を丸くする。

 

「え、そんなの分かるんですか?」

 

「動きを見れば丸分かりだよ。オレはMSに二十年乗っているんだぞ」

 

 そんなことを言っていると、ふと懐かしい気分になる。そういえばネオ・ジオンにいた時も、こんな風に模擬戦の動きから、パイロットの出身を当てるという余興をやっていたな。けっこう稼がせてもらった。

 

 しかし、これだけの技量を持つパイロットが違法バトルに出ているとはな。世知辛いものだ。鍛えた操縦技術を活かせているだけ幸運なのだろうか。

 噂では、あの黒い三連星もマ・クベ中将との折り合いの悪さから軍を追われたという話だ。今はどこで何をやっているんだろうな。

 

「お、相手の頭部が破壊されたぞ。これで決着がついたんだよな?」

 

「はい。サイド6では、クランバトルと呼ばれているらしいですよ」

 

「クランバトルねぇ」 

 

 いかん。注意しようとしていたはずが、つい最後まで見てしまった。

 今さら説教する空気でもないな。何より、MS乗りとしての好奇心が、すっかり頭をもたげてしまっている。

 

「他にも、このレベルの動きができる奴らがいるのか?」

 

「親戚が言うには、リック・ドムに乗っている凄腕のマヴがいるそうです。見ます?」

 

「見る」

 

 

 

 

 

「すごかったなぁ」

 

「すごかったですねぇ」

 

 あれからもう一戦クランバトルを視聴して、オレたちはまったりとコーヒーをすすりながら一息ついた。

 

 あのバイナリーズとかいうリック・ドムのタッグ、段違いの連携をしていたな。エースと言っても通用するんじゃないか。しょせん違法バトルとみくびっていたが、いるところには凄腕がいるもんだ。

 

「でも、中尉。普通のマヴ戦術とは違うっぽくなかったですか?」

 

「さあ、マヴ戦術のことはよう分からん」

 

 オレが首を傾げると、二人の兵士がそろって「え!?」と素っ頓狂な声を漏らした。

 

 なんだよ。

 

「中尉、マヴ戦術ですよ? シャリア・ブル中佐の部下なのにご存じないんですか?」

 

「シャア大佐とシャリア・ブル中佐のマヴが編み出したんですよ!」

 

「オレも存在自体は知っているんだが」

 

 M.A.V──通称、“マヴ戦術”。二機のMSによる連携攻撃を主軸とした戦術だ。

 

 ミノフスキー粒子下における有視界戦闘において、先に相手を発見して先制攻撃をしかける側が圧倒的に優位になる。この優位性を最大限に活かすために、二機一組によるコンビネーションを体系化し、敵に反撃の機会を与える前に撃破する。

 ザックリと言えば、これがマヴ戦術だ。ちなみに、戦術の相方同士をマヴと呼称する。こっちの歴史だと突撃機動軍の教本に載っているほど広まっている……らしいのだが。

 

「そもそも、マヴを組む相手がいなかったんだよ。オレは」

 

 今でこそ有名なマヴ戦術だが、シャリア・ブル中佐たちがそれを産み出したのは、一年戦争の末期も末期。それが研究されて、一般のパイロットでも習得できるレベルまで体系化されて広まり始めたのは、戦後になってそれなりの期間が経ってからだった。

 その頃になると、オレ以外のパイロットはほとんどソドンを去っていたし、残っていたメンバーも近いうちによそへ異動することが決定していた。

 

 そんなわけで、「マヴ戦術? 組む相手もいないし、ソドンでの任務には必要ないし、ノータッチで」ぐらいのフワフワした感じで今までやってきてしまったのだ。

 

 そもそも、オレにとってマヴ戦術というのが、いまいちピンとこないんだよな。

 

 オレにとってのMS戦は三機一組(スリーマンセル)が基本だった。MS同士の連携の祖ともいえる黒い三連星もそうだし、最後にオレが指揮したMS小隊も三機編成だった。

 それでも、オレも戦場の場数だけは踏んでいるので、二機での連携を必要とされた経験はそれなりにあるんだが。急に二機一組(ツーマンセル)で動けと言われても、無様をさらさない自信はあるぞ。

 

「本当に、今までマヴと呼べるような相手はいなかったんですか?」

 

「そうだな」

 

 いなかった、と答えようとした瞬間。オレの脳内に、とある人物の顔が浮かんできた。

 

 ……ああ、いたな。たった一人だけ、短い期間だったが二人一組で行動していた相手が。マヴとか相棒とか呼べる関係だったかは怪しいし、たぶん向こうは不服そうに否定してくるだろうが。

 まあ、今はあいつの話はいいだろう。

 

「ああ、いなかったよ。これからもマヴとは縁がないだろう」

 

 肩をすくめて見せると、兵士たちは不思議そうな表情を浮かべる。

 

「今はエグザベ少尉がいるじゃないですか。二人で訓練とかしないんですか?」

 

「ああ。それはだな──」

 

 オレが説明しようとした瞬間、背後から聞き慣れた声がした。

 

「無理だよ、それは」

 

「コモリ少尉」

 

 振り返ると、いつの間にやらコモリ少尉がオレの後ろに立っていた。え、全然気づかなかったぞ。最近もこんなことがあったが、オレ限定のスニーキングミッションでもしているんじゃないだろうな。

 

「無理ってどういうことですか?」

 

「MSの性能差が大きすぎるの。ギャンとザクだと、連携なんて取れるわけないじゃん」

 

 兵士の疑問に対するコモリ少尉の答えは、正にオレが言おうとしたことそのままだった。

 特にエグザベ少尉のギャンはな。あのハクジとかいうランスが外付けの推進器も兼ねているから、機動力がザクとは段違いだ。あれでビュンビュン飛び回られたら、オレのザクだとノタノタついていくのがやっとだろう。

 

 と、それはそれとして。

 

「…………」

 

 コモリ少尉が、お馴染みのジト目をしている。これはマズいな。あの目尻の角度は、呆れが三割でイライラが七割といったところか。しょっちゅう怒られているオレには分かる。

 

 案の定、コモリ少尉は「そんなことより!」と怒気を含んだ声を発した。

 

「そんな違法バトルの映像を、ソドンの中で見るなんて非常識でしょ。中尉も、どうして一緒に鑑賞しているんですか。本当なら中尉が釘を刺さないといけないんですよ!」

 

 うーむ。何かしらの言い逃れをしたいんだが、あまりに正論すぎて逃げ場がない。が、ここで簡単に投了を選んでは、ジオン残党の名折れだ。

 

「これはな、オレが二人に頼んで見せてもらっていたんだよ。任務の役に立つかもと思ってな」

 

「シャア大佐を探すのと、こんな違法バトルにどんな関係があるっていうんですか」

 

 分からんぞ。案外、このクランバトルとやらが今後の鍵になるかもしれないだろ。

 

 ……我ながら、苦しいな。

 

「ゼクノヴァに巻き込まれた後、間一髪で生還したシャア大佐。しかし、代償は大きかった。赤い彗星としての記憶を全て失っていたのだ。天涯孤独の身になった大佐だったが、唯一その身に残された天性の操縦技術でクランバトルに身を投じていく。そうして戦いの日々を生きる大佐だったが、やがて図らずもサイド6全体を揺るがす陰謀の渦中へと──」

 

「そのヨタ話、まだ長くなりそうですか?」

 

「もうすぐチャプター3ってところだ」

 

 ダメだ。コモリ少尉のこめかみが危険なひきつけを起こしている。テキトー言って煙に巻く作戦は逆効果だったか?

 

「はあ……」

 

 内心で祈りながら様子を見るオレの前で、コモリ少尉は額を抑えてため息を吐いた。

 その様子から読み取れるのは、イライラをやや上回った呆れの感情。

 

 勝ったな。

 

「あなたたち。今日は見逃してあげるから、もう行きなさい。違法バトルのデータは消すこと」

 

「はい。すみませんでした」

 

 うなだれて席を立っていく兵士たち。すまんな、オレが流されて注意を怠ったばっかりに。これでも被害は最小限に抑えたから、許してくれ。

 

「それじゃ、オレもこのへんで」

 

「中尉にはまだお話があります。座っていてください」

 

「あ、はい」

 

 浮かせかけた腰をそそくさと椅子に戻す。

 

 この日、オレがコモリ少尉から受けた説教は、最長記録を更新した。







おかしいな。いくら待ってもジークアクス十三話が放送されない……。
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