ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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ホラ吹きおじさんとお仕事

 オレは、今になってしみじみ思うことがある。

 人間、あまり便利なものに慣れてしまうのも考えものだ、と。

 

 一度でもラクができる方法を知ってしまうと、もし何らかの原因でその方法を失ってしまったら、それまで気にもしなかった不便さというものが目についてしまう。どうしても、「本当ならこんな苦労しなくてもいいのに」とか考えてしまうわけだ。

 

 まあ、まさに今のオレのことなんだが。

 

「全天周囲モニターとリニアシートがあればな……」

 

 久しぶりに搭乗したザクの操縦席で、オレはやるせなくつぶやいた。

 

 ドライセンやギラ・ドーガといった未来機体に乗っていた身としては、MSの始祖とでも言うべきザクに物足りなさを覚えてしまう。

 モニターで確認できる視界は限られているし、ちょっとした衝撃やGがダイレクトに身体へと伝わってくるし。パイロットへの負担が大きすぎる。こうしていると、どれだけ自分がテクノロジーの進化に助けられていたのかを思い知らされるな。

 

 過去に戻ってからしばらくは、「そうそう、昔のMSってこうだったよな」と呑気に思っていたのだが。年齢を重ねるごとに、身体への負担が無視できなくなっている。

 

 キシリア閣下。せっかくグラナダに現物があるんですから、せめてリニアシートだけでも普及させてくれませんかね。 

 

「まさか、ガザCを恋しく思う日が来るとはな」

 

『え? 中尉、何か言いましたか?』

 

「すまん。独り言だよ」

 

 思わず愚痴を漏らすと、すぐそばをギャンで進むエグザベ少尉から通信が入る。それに短く答えて、オレは周囲の警戒に戻った。

 

 現在のソドンが航行しているのは、一年戦争で壊滅的な被害を受けたサイド4に近い宙域。その中でも、とりわけスペースデブリが密集している危険な場所だった。少しの油断が、致命的なダメージにつながりかねない。

 オレとエグザベ少尉はソドンと一定の距離を保ち、進路上の危険物を監視する任務に就いていた。

 

「ソドン。十一時の方向から岩が接近中。直径、およそ十メートル。取り舵三十度でかわしてくれ」

 

『了解』

 

 オレの指示にベノワ伍長から返答があり、ほとんど間を置かずソドンが進路を変える。オレが想定した動きそのままだ。タンギ曹長の操艦技術は一級品だな。

 

「ソドン、進路を戻せ。速度そのまま」

 

 そんなやり取りをそれから何度も繰り返した後に、ようやくベノワ伍長から通信が入った。

 

『目的地に到着しました。危険物の監視にはクルーが出ますので、MS隊は周囲の捜索をお願いします』

 

「おーう。了解」

 

 オレはコントロールレバーを操作し、ザクにカメラガンをかまえさせる。本来はザクの強行偵察型などに配備されている、なかなかにレアな武装だ。

 とりあえず近くにあるデブリ群へとカメラガンを向け、一つ一つを拡大してモニターに映し出す。 

 

 オレたちが何をしているかというと、この宙域で発生したというゼクノヴァの痕跡を探しているのである。

 

 どうもゼクノヴァという謎現象、それなりの頻度で発生しているらしいのだ。ソロモンを削り取るような大規模破壊が何度も発生してたまるかと思うのだが、戦後に観測されているのはかなり小規模な、あくまでゼクノヴァっぽい何か止まりのものらしい。

 

 ゼクノヴァといえば、シャア・アズナブル失踪の原因でもある。シャア・アズナブル捜索任務の一環として、こうしてゼクノヴァっぽい何かが観測されたという場所を調査するのもソドンに課された仕事なのだ。

 

 ……なのだが。

 

「これといって変わったものはないぞ。本当にこんなとこでゼクノヴァが起こったのか?」

 

 モニターを埋め尽くすのはスペースデブリばかり。元々は人々の生活を支えたコロニーや商船の一部だったのかもしれないが、今となっては等しくゴミだ。

 

『ミノフスキー粒子の相反転現象は、たしかに確認されたということですが』

 

 オレのぼやきに応じるエグザベ少尉の声も、自信なさげだった。

 

「しかたない。二手に分かれて捜索するぞ」

 

 内心でどう思おうと、仕事は仕事である。給料をもらっている身としては、全身全霊をもって任務にあたるのみだ。オレはザクのスラスターを吹かし、あるかどうかも定かではない痕跡を見つけるために進み始めた。

 

 

 

 

 

「ダメだ。なーんも見つからなかったわ」

 

「かるいなー」

 

 本日の捜索任務を終えてから、ソドンのMSドックに着艦した後。ザクのハッチを開けて肩をすくめると、目の前に浮いている若い兵士が苦笑を浮かべた。

 

「今回は成果なしですね」

 

「そうだな」

 

 ヘルメットを脱いで額の汗をぬぐいながら、気の抜けた声で返す。今回どころか、これまで何一つ見つけたことがないのだが。

 

「あ! 中尉、またコクピットに酒を持ち込みましたね。コモリ少尉にでもバレたら始末書ものですよ」

 

 オレの腰に目をやった兵士が、呆れ声をこぼす。

 

「そう言うな。未開封だよ、何年もな」

 

 オレがウイスキーのミニボトルを持って揺らすと、そいつはあからさまに怪訝な視線を向けてきた。

 

「なんでいつも飲まない酒を持ち込むんですか?」

 

「思い出の品でな。昔、まだ酒が飲めない歳の部下と、いつか一緒に飲もうと約束したのさ。懐かしいね。我ら生まれた日は違えども、死す時は同年同日、同じ戦場で。オレたちはそう固く誓い合って──」

 

「どいてもらっていいですか? 色々とチェックするんで」

 

「おーう、よろしく頼む」

 

 兵士の肩をポンと叩いてから宙へ跳ぶと、メカニックの集団が出迎えてくれる。

 

「お疲れ様です、中尉。ザクの調子はどうでした?」

 

「やっぱり右腕がなぁ。どうも動きが悪い。今は問題ない程度だが、嫌な予感がするんだよな」

 

「は、はあ。メンテナンスしたばっかりなんですが」

 

 ザクの不調について訴えてみるのだが、あまり反応はよろしくない。こういう長年の勘というものは、言葉で伝えるのが難しいからな。杞憂ならいいんだが。

 

「しっかし、久々にMSに乗れるのはいいもんだ。ようやく仕事をしてるという気分になれる」

 

「毎日が仕事じゃないですか」

 

「そうなんだが。やっぱりMS乗りとしてはな」

 

 戦闘シミュレーションや事務作業も必要な仕事だと理解しているが、こればっかりはな。

 

 終戦から時間が経つにつれて、ジオン軍では実機訓練などのMSに乗る時間が削られていく一方だ。

 理由は明白。金がないのだ。MSというものは動かすだけでパーツは劣化するし、推進剤は消費するし。とんでもない金食い虫だからなぁ。

 

 ジオン残党時代はよかったな。空腹に悩まされることも多かったが、それでも執念でMSを動かすリソースを確保していた。

 こっちでは飯は充分に食えても、MSを思うように動かす余裕がない。ままならないものだ。

 

 そんなわけでMSに乗る時間は減ったオレだが、その代わり、事務作業に費やす時間が激増した。ブリーフィングに使う資料や報告書の作成だな。ところが、これが頭痛のタネで。

 

「この宙域での任務が終わったら、また報告書を作らないとな。ノイローゼになりそうだ……」

 

 報告書といっても、たいていは「がんばったけど、何も見つかりませんでした。ごめんなさい」ぐらいしか書くことがないのだが。

 当然そんなものを上に送るわけにはいかないので、虚偽報告にならない範囲でポジティブな表現を散りばめつつ、それっぽい内容に仕上げなくてはいけない。

 

 勘弁してほしい。そういうのが一番苦手なんだよ。ただでさえ学がない上に、士官教育もまともに受けていない名ばかり中尉なのだから。

 昔はMS乗りとしての腕前さえあれば、そこら辺はなあなあで済まされていたのだが。さすがに正規軍では通用しなかった。

 

 もう五年も前のことになるが、ソドンに来て最初の報告書をシャリア・ブル中佐に提出したんだよ。そしたら、眉間を抑えた中佐に「さすがに、もうちょっと……どうにかなりませんか?」という苦言と共に突き返されたんだよなぁ。

 

 しかし、五年もの月日に死ぬ気で勉強を積み重ねたおかげで、オレの事務処理能力は見違えるほどに改善した。

 そうだな。五年前を旧ザクレベルだとすると、今はザクタンクぐらいはあるんじゃないか?

 

「今回の任務は長くなりそうですか?」

 

「そうだな。コモリ少尉が言っていたが、最近はグラナダの方でもこれといった情報を得ていないらしい。ま、しばらくはここに留まることになるだろう」

 

「グラナダに帰るのが待ち遠しいですよ。すいぶんと長いこと帰ってないでしょう?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 言葉では肯定したものの、正直、オレの胸中は複雑だった。

 ソドンではオレの他にシャリア・ブル中佐しか知らないことだが、グラナダではオレに特別なお仕事が用意されている。ゼクノヴァ研究に協力し、被検体になるという仕事が。

 

「あー、嫌だ嫌だ」

 

 昔はグラナダに寄るたびに、妙ちくりんな実験につき合わされていたものだ。体液を採取されたり、ゴツいヘッドギアをかぶって脳波を測定されたりするのは序の口で。

 目を覆うタイプのディスプレイを装着して、玉虫色をした無数の球体がうごめく映像を延々と見させられたこともあった。あれ、どんな目的で何を試していたんだ?

 

 なんか、薬品を飲まされて急に眠気が襲って来たと思ったら、意識をとり戻したとたんに「もう帰っていいよ」と言われたこともあったのだが。眠っている間に何をされたんだよ、オレ。

 

 正直、逃げ出したくなる。しかし、ジオン軍に復帰できるようにキシリア閣下に手配をしてもらった時に、必ず協力しろと脅は……説得されたからな。

 これ、アレだろ? 本当に実験から逃げようとしたら、頭蓋骨パッカーンとかそこら辺のルートで廃人一直線のヤツだろ? さすがに分かるぞ、それくらい。

 

「……ゼクノヴァ、か」

 

 最後にグラナダで実験に参加したのは、もう二年近くも前になる。あんなに執着していたゼクノヴァの解明を、あきらめたとは到底思えない。実験自体は続いているのだろう。

 オレが呼ばれなくなったのは、単にオレには何をしても無駄だという結論に至ったか──あるいは、もうオレを必要としないほどに研究が進んだか。

 

 前者ならまだいいんだが、もし後者だとするなら……おじさん、すっごい嫌な予感がするな!

 

「ハッハハハ。こういう予感に限って、当たる気しかしないのはなんでだろうなぁ!」

 

「……なあ。中尉、頭でも打ったんじゃないか?」

 

 宙を仰いだオレが乾いた笑い声を垂れ流していると、メカニックたちがヒソヒソと気味悪そうにささやき合う。

 笑いでもしないとやってられないんだよ。

 

「もうおしゃべりはいいだろ。オレはもう部屋に戻るぞ。どうせ明日もデブリに囲まれてお仕事なんだからな」

 

 せっかくなのでエグザベ少尉と一緒に帰ろうと思ったが、メカニックと真剣な表情で話し込んでいるのが見えたのであきらめる。

 

 今日の調子では、今回の任務も成果なしだろう。今から報告書の内容について頭を悩ませながら、オレはMSドックを後にした。







ゼクノヴァってしょっちゅう発生してるんだ……(再上映記念舞台挨拶)じゃあ、ソドンはこんな仕事もしてたんじゃないかなぁ

→でも、コモリ少尉が過去に観測されたゼクノヴァは三回みたいなこと言ってたなかったっけ?(アニメ11話)

→他に観測されたのはゼクノヴァっぽい何かということにしとこう


これぐらいのゆるさで、このシリーズは書かれています。
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