ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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ホラ吹きおじさんと赤いガンダム(?)

 赤いガンダム。

 

 サイド7で鹵獲したガンダムを赤い彗星のパーソナルカラーに塗りなおし、さらに試作型のサイコミュを搭載。一年戦争の末期に華々しい戦果を挙げた……らしい。

 

 最初にその話を聞かされた時は、悪い冗談としか思えなかった。

 

 だって、アレだろ。ガンダムで、赤い彗星の乗機で、サイコミュを乗っけてて。

 オレが知る限りでトップクラスの厄ネタを惜しげもなく詰め込んだ、悪夢の欲張りセットみたいな存在である。それはするだろ、暴走の一回や二回。

 

 シャア総帥ごと行方不明になったこいつを探して、五年間も宇宙を駆けずり回っているのがオレの現状である。

 

 で、その赤いガンダムの目撃情報が届いたので、今後の行動について話し合うために集まったのだが。

 

「なあ。シャリア・ブル中佐がいないのはなんでだ?」

 

 ブリーフィングルームにいるのは、オレの他にエグザベ少尉とコモリ少尉。オレが首を傾げていると、コモリ少尉が疑問に答えてくれた。

 

「中佐はグラナダからの通信に対応しています。こっちは私たちに任せるということでした」

 

 自由かよ、あの人は。

 

 どうでもいいことだが、本来は数十人で使用するはずのブリーフィングルームに三人だけポツンと座っていると、学生時代の居残り補習を思い出すな。

 

「ん、了解だ。それではコモリ少尉、頼む」

 

「分かりました」

 

 オレが説明を促すと、コモリ少尉は立ち上がって正面にあるでかいモニターに歩み寄る。

 

「前回の捜索任務以来、グラナダは数百件にも及ぶシャア大佐の目撃情報を確認しています。しかし、そのほとんどは誤認やいたずら、SNSへの無責任な書き込みに過ぎません」

 

 あー、あれな。エスエヌエスな。ワカル。

 

「ですが、それらの雑多な情報を選別した結果、調査の必要アリと判断されたものが二件残りました」

 

 そこでコモリ少尉が手元の端末を操作すると、正面のモニターにサイド1宙域のデータが映し出される。

 

「この数週間、サイド1において赤いガンダムらしき目撃情報が多数寄せられていました。その中でグラナダが有力視したものがこちらです」

 

 モニターに、宇宙空間を映した粗い画像が表示される。その端に、赤いMSの姿が捉えられていた。

 

 しかし、これはなぁ……。

 

「もう少し鮮明な画像はないのか? さすがにこんなひどい画質のもの見せられても、判断ができんぞ」

 

「しかたありません。これを撮影したのは、偶然ガンダムらしきものを目撃した小型商船なんです。これ以上の画質は無理ですよ」

 

 ふーむ。改めて画像のMSらしきものに目を凝らす。ガンダムと言われれば、それっぽくは見えるのだが。

 かろうじて断言できるのは、ザクではないということぐらいか。ザクを民間に払い下げ始めた時期には、ザクを赤く塗って騒ぎを起こすバカタレどもが急増したからなぁ。

 

 一応、このMSの正体については、オレの経験からある程度の推測はできているのだが。

 

「まあ、愉快犯だろうなぁ」

 

 本物のシャア総帥だとしたら、こんな不用意に姿を見られるのはあり得ない。

 やることなすこと派手な人ではあったが、いったん本気で潜伏すると決めたら、完璧なハイドを行える人でもあった。素性を偽ってエゥーゴの中枢に潜り込んでいたり、ロンド・ベルの執拗な捜査網をかいくぐってネオ・ジオンを組織したり。

 

 もし本当に生きているとしたら、こっちが予想もしないような、とんでもない場所にいるんじゃないかね。

 

 …………。

 

「な、なあ。まさかとは思うが、ソドンクルーの中にクワトロ・バジーナとかいうグラサンが紛れ込んでたりしないだろうな……」

 

「え、グラサン?」

 

 エグザベ少尉が怪訝な表情を向けてくるが、オレは応じることもせず、どうにも湧き上がってくる妙な胸騒ぎについて考え込んでいた。

 

 さ、さすがにな。いくらあの人でも、あんなことしでかしておいて、何食わぬ顔でジオン軍に潜入とかは不可能だろう。

 

 ……念のため、後でチェックしておくか。

 

「エグザベくん、私も愉快犯という中尉の意見には賛成だよ。目撃情報を分析しても、目撃者の視認できる範囲に近づいては、デブリ群などの遮蔽物に逃げ込む行動を繰り返す。これまでの偽物たちがしてきた典型的な行動パターンです」

 

「だろうな。まったく、次から次へと物好きが。どうして素顔も分からないような人間を騙ろうと思うかね」

 

「むしろ、大佐の素顔が不明というのも理由として大きいと私は思います」

 

 オレがウンザリとして愚痴をこぼすと、コモリ少尉が思案するように口元に手を当てる。

 

「常に仮面をつけていて、誰も素顔を知らない。先の戦争の英雄であることに加えて、そんなミステリアスな要素が人々の興味を引き付けているんですよ。荒唐無稽な噂話も広がっていて、実はあのジオン・ダイクンの忘れ形見だった、なんて」

 

「ホントだぞ、それ。本人が言ってた」

 

「仮面をしていたのも、自身の素性を隠すためだったと面白おかしく言われています。実際は、顔に火傷の痕があったからと聞いてますけど」

 

「火傷はウソだな。額に小さな傷痕はあったが。それはもう、オレもあんな顔してたら人生が楽しかったろうなと思うぐらいの男前ぶりで──」

 

「中尉! 真剣な話をしてるんですから茶化さないでください!」

 

 コモリ少尉の話に補足を加えていたら、怒鳴られてしまった。年頃の娘さんにあるまじき形相である。無関係のエグザベ少尉がびびってるぞ。

 

「え、えーと……。ボクもこれがシャア大佐とは思えません。そうすると、このMSについては」

 

「ああ。それについては、オレに心当たりがある」

 

 もう何年も前のことだが、似たようなことがあったんだよな。ちょうどサイド1で。

  

「あの時は、サイド1のジャンク屋が犯人だった。宇宙でジャンクを漁っている中で、状態の良い軽キャノンを発見したらしくてな」

 

 すぐに売り払えば、それで話が済んでいたのだが。

 そのアホはジャンクを寄せ集めて動かせるようにした上に、ガワにガンダムに似せた加工を施して、今回みたいな騒動を起こしていたんだよな。

 

 サイド1といえば、かつてソロモンが置かれていた宙域である。ジオンが主導する復興計画が進められているものの、未だに戦闘によって生じたジャンクが大量に漂っているのが現状だ。

 ジャンク屋がそれらを集めて、ゲテモノを産み出すのは珍しいことではない。オレも昔、ザク頭をくっつけたZガンダムとかいう、ワケの分からん存在と戦ったことがあってなぁ。

 

「というわけで、サイド1はハズレだろう。行かなくてよし。無視だな、無視」

 

「そういうわけにはいきませんよ」

 

 オレがそう結論づけると、コモリ少尉からジト目で反論される。

 

「グラナダが調査の必要アリと判断してるんですから」

 

 だよなぁ。

 

 そんなこと、オレだって分かってはいるのだが。とにかく色々と因縁がありすぎて、できればサイド1には近寄りたくないんだよ。どうしよう、もしシャングリラにでも行くハメになったら。

 まあ、今いるサイド4とサイド1は隣同士だ。順当に考えれば、サイド1に直行することになるのだろうが。

 

「次に、サイド6の情報を報告します。こちらは画像などのデータは未だ入手していません。ただ、正体不明のMSによって、現地の治安維持組織の使用するザクに被害が出ているようです」

 

 コモリ少尉によって、正面モニターにシリンダー型をしたコロニー、いわゆる「解放型」と呼ばれるものの映像とデータが表示される。

 

 ふむ。イズマ・コロニー、か。

 

「サイド6で目撃されたMSですが、行動範囲はこのイズマ・コロニーに限定されています」

 

 となると、こちらは発見まで時間がかからないか。しかし、ザクとやり合っているとなると、相当に骨がありそうだ。

 そんなことを考えながらイズマ・コロニーのデータをボンヤリと目で追っていたオレは、あることに気づいて思わずコモリ少尉に声をかけた。

 

「少尉。イズマ・コロニーの公用語は日本語なのか?」

 

「はい。正確には、準公用語みたいですけど。それがどうかしましたか?」

 

「別に任務には関係ないんだが。オレの母親が日本からの移住組だったから、懐かしくてな。オレも少しぐらいなら話せるぞ」

 

 オレがそう言うと、エグザベ少尉が「え!?」と驚愕の声を上げた。

 

「中尉、日系のハーフだったんですか!?」

 

「ああ、まあな。顔を見て分からないか? 母親に生き写しだって、昔はよく言われていたんだが」

 

「あー、その……」

 

 微妙な顔つきで、視線をそらすエグザベ少尉。

 

 まあ、今のオレの顔を見て察しろというのが不可能な話だ。偽の戸籍を製造してもらうにあたって、散々いじくられたからな。面影が残っていたら、逆に困る。

 

 ……そういえば、こっちのオレは今頃どこで何をしてるのか。今が0085だから、二十二歳だろ。家族を困らせるようなことだけはしていないと、信じたいところだが。

 

 ん?

 

「なあ、少尉たち。二人の歳はいくつだ?」

 

「なんです、突然に。私は二十三ですよ」

 

「あ、ボクもです」

 

 そうか。本当なら、オレの方が少尉たちより一つ下なのか。改めて考えると、常軌を逸した事態に巻き込まれてるんだな、オレ。

 

「すまん、話がそれたな。サイド6のMSについてだが、現地のザクと交戦して逃げおおせているなら、油断はできんな」

 

 気に食わない話だが、サイド6は金だけは持っているからな。ザクを配備するのと並行して、それなりの質のパイロットを手配しているのは想像に難くない。

 

「他に情報は?」

 

「特に気になるものは……。ただ、正体不明のMSは出現した際、必ず落書きを残しているそうです」

 

 ら、落書き? 総帥、そんなことをするような人だったろうか。こっちだとまだ二十代の半ばだから、若さゆえのパッションを持て余してる可能性はある、のか?

 

 色々と疑問はあるが、とりあえず現状で確認できる情報は出きったか。

 

「結局、行ってみないと分からんということだな。とりあえず近場のサイド1に向かって、空振りならサイド6ということでいいだろ」

 

 十中八九、サイド1はハズレだと思うが。

 

「少尉たちに異論がないなら、この案で中佐に確認を取るか。グラナダとのやり取りが終わった後で──」

 

「すでに終わりました」

 

 オレが話し合いをまとめようとした時、ドアがスライドする音と共に、まさに話題に上がっていた人物の声が聞こえてきた。

 

「シャリア・ブル中佐」

 

 オレたちが起立しようとするのを手で制すと、中佐はオレたちの姿をまじまじと見つめる。

 

「なるほど。サイド1に寄ってからサイド6ですか。私も賛成です」

 

 ヌルッと人の思考を読むの、やめてもらえませんか。ほら、少尉たちが「えッ、いつから聞いてたの!?」という顔をしているでしょうに。クルーが不安になるから、しないでほしいとお願いしてるのだがなぁ。

 

「その段取りでいきましょう。ただし、サイド1での任務が終わった後、サイド6より先にグラナダを目指します」

 

「グラナダでありますか?」

 

「そうです。以前から貸し出しを要請している、例の試作MS。先ほど、グラナダとの条件のすり合わせが完了しましたので」

 

 あー。あったな、そんな話。全く進展を聞かないので、すっかり忘れていた。それにしても、中佐ともあろう人が試作品にそこまでこだわる理由はなんだ?

 

 オレの疑問を知ってか知らずか、シャリア・ブル中佐は楽し気に微笑んだ。

 

「さあ。ジークアクスを、迎えに行きましょう」









シャリア「あと、中尉にはお話があるので、私の部屋に来てください」

おじさん「えッ!?」

本文をジークアクスで締めたかったので省いたやりとり。次回はおじさん二人のやりとりがメインです。たぶん。
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