ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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本当にお待たせいたしました(土下座)





ホラ吹きおじさんとおじさん

「どうぞ、ジコッテ中尉」

 

 赤いガンダムに関する話し合いを終えた後、理由は知らないがオレだけ中佐の部屋に呼ばれたのだが。正直、気が重い。

 現在進行形で「オレの直属の上官が生存した日数ランキング」を更新しているお人なのだが、未だにその人物像は掴みきれない。飄々とした雰囲気の裏で何を考えているのやら、昔から妙な緊張感を覚えることがあるのだよな。

 最近は、特に。

 

「失礼いたします」

 

 シャリア・ブル中佐に先導され、入室する。

 相も変わらず私物の一つも見当たらない、救国の英雄にしては質素な部屋だ。これも中佐の人柄なのだろう。

 

「特に何もお出しできませんが、くつろいでください」

 

「はぁ……」

 

 くつろいでください、と言われても。かなり面倒な予感がするので、早めに切り上げたいのだよな。口には出さないが。

 

「ご心配しなくても、そう長くはかかりません」

 

 だから心を読まないでください。

 

「……中佐。それはやめてくださいと、申し上げているでしょう」

 

 オレはため息をこらえながら、このいまいち考えていることが分からない上官をいさめる。

 

「特に、先程のようなことは」

 

「ほう?」

 

 どうして「えー、全然心当たりないけどなぁ?」みたいなリアクションなのか。どうせ分かっているだろうに。

 

「読心ですよ。自分たちの話し合いの結論を読み取ったでしょう」

 

 正直、もう何十回この話をしたか数えきれないのだが。

 

「百歩譲って、心を読むことはいいのです。ただ、心を読めることをほのめかすような言動は控えていただきたい」

 

 ニュータイプがどうかは知らないが、世の中の大多数は自分の考えが他人に覗かれることを許容できる人間ではない。仮に中佐の能力をクルーたちが知ったとして、これまでのように中佐の指揮下で円滑な行動を取ることができるだろうか。

 それを試す必要はないし、試したくもない。

 

「もし指揮官が部隊で孤立するようなことになれば、どうするのです」

 

「ああ。さっきのことなら大丈夫でしょう」

 

 オレは割と真剣に言っているのだが、中佐はケロリとした表情で受け流した。

 

「位置関係を考えれば、サイド6よりもサイド1を優先することは必然です。少尉たちも、ただの論理的な帰結と納得するでしょう」

 

「しかし、無暗に危険を冒すのは……」

 

「彼らも優秀な軍人です。その程度のことで軍務に支障をきたす部下は、ソドンにいません。指揮官として私はそう信じています」

 

 ああ言えばこう言うな、この人は!

 

「ああ、そういえば」

 

 オレが内心でもどかしさを押し殺していると、不意に中佐がつぶやいた。

 

「私も思い出したのですが、中尉。グラナダからあなたの言動についてまた苦言を受けていまして」

 

「苦言でありますか?」

 

 はて。全然心当たりがないが?

 

「分かっているのでしょうに。常日頃からクルーにあなたの……歴史についての話をしているでしょう」

 

 ああ、そのことか。

 

「あなたの素性は、グラナダの上層部でも極一部しか知らされていないのです。無暗に公言するのは控えてもらいたいのですが」

 

「しゃべったところで、あんなものいったい誰が信じるというのです。ただの風変わりな中年男がホラを吹いているだけですよ」

 

「ですが、自分から言いふらすことはないでしょう」

 

「自分は器用な人間ではありません。隠していても、どうせいつかボロが出ます。それならば、いっそ普段からデタラメばかり言うことで、発言から信用を取り除く。木を隠すなら森の中、ということですな」

 

「ああいえばこう言いますねぇ、あなたは」

 

 中佐はどことなく呆れた様子で片眉を上げる。

 

「あなたの言動について、アサーヴ中尉からもまた警告の文章を送られています。あなたにも見せるようにとのことなので、後でチェックしておいてください」

 

「アサーヴぅ? あのキザ野郎の話なんて、聞くことありませんよ。この前も送ってきたばかりだというのに、いつも細かいことをウダウダとやかましい奴ですな」

 

 これ見よがしに顔をしかめて言ってみせたのだが、中佐は素知らぬ顔で端末を操作して「はい、転送しました」とつぶやく。

 うーむ、全く躊躇がない。現状、つき合いが一番長い部下なのだから、もう少し手心があってもいいと思うが。

 

「それはそれ、これはこれです」

 

 あっ、また心を読んだ。言ったそばから!

 

「誤解ですよ。あなたは表情が分かりやすいですから。それに何度も言っているでしょう。……あなたの考えていることだけは、私にもほとんど見通せないと」

 

 シャリア・ブル中佐は、深く思案するようにオレの顔を見つめる。

 

「あなたが思っているほど、便利なものではありません。どこまで思考を感じ取れるかは、相手によって様々です。しかし、初めてですよ。ここまで考えを読めない人というのは」

 

「それ、本当ですか。初めて会った時には、ずいぶん色々と見えていたようですが」

 

 アクシズで謎の光に飲み込まれた後、ソドンのベッドで意識をとり戻した時のことを思い出す。

 オレが自分の置かれた状況を理解するよりも先に、こちらの素性を迫真の表情で言い当ててきたからな。あれはかなりの恐怖体験だったぞ。

 

「そうですね。たしかにあの時は、あなたも例外ではなかった。ですが、それっきりです。以来、あなたが何を考えているのやら、私には何一つ見通すことができません」

 

「はあ」

 

 我ながら煮え切らない声が出た。どこまで本当のことを言っている?

 まあ、意味もなくそんなウソをつくような人ではないことぐらいは、五年のつきあいで分かっているつもりだ。オレが中佐の読心の対象外というのは、信じてもいいのだろう。

 

 …………とっくに、その真偽を気にかけてもしかたない所まで来てしまったしな。

 

「理由は分かりません。あなたの特殊ないきさつのせいかとも思いましたが、どうもしっくりこない。それに、あの時の不可思議な感覚……あれは、まるで」

 

 中佐はうつむき、自分自身に問いかけるようにつぶやく。そのまましばらく沈黙していたが、唐突に顔を上げた。

 

「ところで以前から気になっていたのですが、中尉はもしかしてお子さんがいたりしませんか? 二人ぐらい」

 

「いませんよ!?」

 

 頭の中で何がどうつながったら、そんな話の変わり方するんだよッ。かなり意味深なことを口にする流れでしたよね!?

 

「……あの、中佐。そろそろ本題に入りませんか?」

 

 軽く頭痛を覚えながら提案すると、中佐は「おや。うっかり忘れるところでした」なんて言いながら頷いているのだが。どこまで本気なんだ、この人。

 

「ソドンのクルーなら近いうちに知ることになる情報ですが、あなたにだけは先に伝えておこうと思いまして。今度ソドンが受領する新型MS、ガンダム・クァックスについて」

 

「ガンダム・クァックス? さっきは別の名前で呼んでいましたが」

 

「ジークアクスとも呼ばれています。私はクァックス呼びの方が好みですがね」

 

 中佐はわずかに肩をすくめ、多少の沈黙を挟んでから口を開いた。

 

「このガンダム・クァックスには、新型のサイコミュが搭載されています。脳波コントロールにより、パイロットの意志による機体の制御を可能とする、オメガ・サイコミュが」

 

「ああ。サイコミュですか」

 

 オレの淡白な反応が意外だったのか、中佐は少し拍子抜けといった表情を浮かべた。

 

「おや、驚かないのですね。一応は条約で禁止された兵器ですが」

 

「条約とは破るためにあるものでしょう?」

 

 少なくともオレの経験ではそうだった。敵も味方も破りまくりだったぞ。

 

「……あなたの認識については、また別の機会に話し合いましょう。とにかく、クァックスはサイコミュを搭載した条約違反の兵器です。存在そのものが新たな火種になりかねないということを肝に銘じてください」

 

「承知いたしました。しかし、よくグラナダが貸し出しに応じましたね」

 

「サイコミュを搭載したガンダムを相手にするには、こちらにもサイコミュが必要不可欠です。ただ、クァックスを借り受けるにあたってはサイコミュの不使用が絶対の条件とされました。残念です」

 

 あ、これは使うつもりだな。

 

 全く悔しさをにじませていない中佐の雰囲気を見てピンときた。いざとなれば平然とサイコミュの使用を命じて、コモリ少尉たちをアタフタさせている様子がありありと想像できる。

 

「使いませんよ?」

 

 ……本当に読めてないんだよな?

 

 

 

 

 

「ふううううううッ」

 

 中佐との話を終えて自室に戻ったオレは、こらえきれずに大きく息を吐きだした。

 そんなに長いこと話していたわけではないのだが、疲労感がすごい。やっぱり一度あの人のペースに乗せられるとダメだな。

 

「それにしてもサイコミュ搭載のガンダム、か」

 

 どうしても、六年前の光景が脳内に思い起こされる。ガンダムを中心に広がる光の帯が、アクシズを押し返そうとするMSたちを払いのけ、ついにはアクシズそのものを地球から遠ざけるという、ふざけた光景が。

 オレはそれを誰よりも間近で見ていた。暖かい光の中で意識が薄れていくさなか、ふと、何かの影がオレの方へと近づいて──

 

「つぅッ!」

 

 ダメだ。その後のことを思い出そうとすると、決まって頭を抉られるような痛みに襲われる。

 

「……なんにせよ、またぞろ宇宙がきな臭くなってきた」

 

 自分のあずかり知らないところで、だんだんと舞台が整えられているような感覚。何度も何度も、呆れるほどに繰り返された、クソッタレの戦乱が近づいている独特の匂いがする。

 理屈ではない。十三年も戦火にさらされている内に、いつの間にか身につけた嗅覚だ。

 

 ……いや、ほとんど途切れることなくドッカンドッカンしてたからなぁ。それっぽいこと考えていたら当たって当然だった気もする。

 

 何にせよ、オレはずっとお偉い方々が用意した名目と計画に従って戦っていただけの男だ。どんな陰謀や計算が裏で動いているかなど、千光年先の彼方のように知るよしもない。考えるだけ無駄だろう。

 

 それでも、気になることは一つある。

 

「中佐は、どっちだ?」

 

 オレと同じように使われている側なのか。それとも舞台を整えようとしている側なのか。

 

 シャリア・ブル中佐は、かつてシャア大佐の()()だったという。

 本人の口から聞いたことはないが、オレは、あの人がシャア大佐の目論んでいたザビ家の排除に賛同したと確信している。

 

 では、今は?

 

 浮世離れした言動の裏に、シャア大佐を見つけ出して再びザビ家打倒のために動き出すという野心を隠している可能性はないのだろうか。オレやエグザベ少尉たちに本心を隠し、独自の意図で動いている可能性が。

 

 そんな風に考えると、今日オレを部屋に招いたことも怪しく思えてくる。

 いずれクルーたちが知る情報なら、わざわざオレにだけサイコミュについて先に教える理由はないはずだ。単にオレがサイコミュと深い縁があるからという見方もできるが。

 

 あるいは、気づいているのか。オレの本当の目的に。

 

 オレの心を読めないというのはやはり嘘で、あえて秘密を明かすことでオレがどう動くか試しているのでは──

 

「ああああ! ダメだな、こいつは」

 

 思考が良くない方向に流れかけているのを自覚して、無理やり中断する。疑念ばかり大きくしても、オレにできることなど何もない。今はただ、目の前の仕事を愚直にこなしていけばいい。どうせ、修羅場というものは望まなくても向こうからやって来るのだ。

 

 とりあえず、今のオレが取りかかるべき行動は。

 

「チェックしとくか……。アサーヴの奴が送って来た警告文……」

 

 ゲンナリとしながら端末を取り出す。

 昔は普通に無視していたのだが、少し前から毎回反省文を返すようにしているから、読まないわけにもいかないのだよなぁ。なんとかならんか、これ。







お待たせした身で申し訳ないのですが、別に書いているシリーズの次話を先に完成させたいので、また間が空きそうです。
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