ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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ホラ吹きおじさんと新型MS

「だからな、やっぱり見るべきポイントは下半身なんだよな」

 

 目の前に立つ男たちに向かって、オレはしみじみと言い聞かせる。

 

「お前らみたいに若いうちは、顔がどうとか胸部がどうとかにまず目が行くだろうが、オレに言わせればまだまだ青い。オレぐらいの成熟した男になると、まずは下半身のスタイルに注目するもんだ。それはもう、穴が開くほど観察するな。そこからだんだんと細部を──」

 

「あの、中尉……」

 

 オレが若者たちの将来を憂いてこんこんと自説を語っていると、メカニックの一人がゲンナリした様子で挙手をする。

 

「どうして、俺たちはこんな話をずっと聞かされているんですか?」

 

「だからなぁ」

 

 オレは身体をひねり、背後にたたずむ巨体を親指で示した。

 

「お前らは知らないんだよ、本当のザクってものを。見ろよ、あのゴテゴテした締まりのない下半身を。本当はもっとシュッとしていて、何より動力パイプが脚部から露出していてな」

 

 そう。現在、オレは本当のザクの姿を皆に知らしめる啓蒙活動の真っ最中である。この前の戦闘シミュレーションの時もそうだが、何かの拍子に、現在の愛機の造形に対して違和感を抑えられなくなる時がやって来るのだよな。

 悲しいことに、どれだけ力説しても賛同を得られた試しはない。

 

 ……あまり考えたくないが、おかしいのはオレの記憶の方なのか?

 

 心当たりはある。まさかとは思うが、グラナダで何度も何度もつき合わされた、あの怪しいにもほどがある実験の数々。ゼクノヴァ研究のためだと聞かされていたが、本当は、偽りのザクの記憶をオレに植えつけるために……。

 

「ザ、ザクとは? オレの記憶の中にあるザクは、本当のザクではなかった?」

 

「ザクの話はもういいですよ。それより、中尉に教えてもらいたいことがあるんですって」

 

 そうだった。それでMSドックに呼ばれたんだったな。

 

 メカニック連中に差し入れするためにたびたびMSドックを訪れているオレだが、今日は珍しいことに向こうから声をかけてきた。で、ドック内で愛機の姿を目にした瞬間、胸に秘していた想いを抑えきれなくなったというのがこれまでの流れだ。

 

「いったい何を聞きたいんだ?」

 

「今度、新型のMSを受け取るそうじゃないですか! メカニックの間じゃその話でもちきりですよ!」

 

「なんだよ。もう噂になっているのか」

 

 ずいぶんと耳の速いことである。やはり新型MSという言葉は、人を惹きつけるものだよなぁ。

 ア・バオア・クーにいた時も、後発組の学徒兵が最新鋭のゲルググをもらっているのを見て、ザクに乗ってるオレの同期たちは羨望の表情を浮かべていたものだった。

 まあ、オレはな。ザクこそ原初にして至高のMSだと自負しているからな。ゲルググに乗っている奴らを見ても、少しもうらやましく感じることはなかったが。本当に。これっぽっちも。決して。

 

 最新のMSに対して目の色を変えるのは、パイロットもメカニックも差はなしか。こいつら、エグザベ少尉のギャンが来た時もうかれまくっていたからな。 

 

 しかし新型の情報と言われても、どうしたものか。

 

「教えられるほどのことは知らないぞ。オレより、コモリ少尉とかコワル中尉の方が詳しいんじゃないか」

 

「でも、あの人たちも忙しいでしょうし。時間を割いてもらうのも悪いというか」

 

 オレならいいのかよ。

 

 まあ、せっかく声をかけてもらったが、もうオレの口から言えることはない。もしサイコミュ搭載、条約違反の厄ネタとばらした場合の反応は気になるが。

 

「しかし、とうとうエグザベ少尉にも新型が届くのか。こいつは、いよいよオレのザクじゃ歯が立たないかもな」

 

「やだなぁ、中尉。まるで今まで少しは戦えてたみたいな言い方じゃないですか」

 

 ハッハッハ。ぶんなぐっ……修正してやろうか、こいつめ。

 

「どんなMSなんだろうなぁ、新型。整備のしやすい機体だったら助かるんだけどさ」

 

「それもいいけど、やっぱり新しい技術にお目にかかりたいだろ。コアブロックシステムとか、あの噂になっている関節の摩擦を緩和するやつとか」

 

 おっ。マグネット・コーティングのことだな。オレの記憶がたしかなら、開発したのは連邦のモスマンとかいう博士だったはず。

 本当なら一年戦争の終盤にはガンダムに採用されたはずの技術だが、こっちではシャア総帥がはっちゃけたあおりを食らってしまい、未だに日の目を浴びていない。この分だと、可変MSが登場するのもあと何年かかるのやら。

 

 それはともかくとして。だいぶメカニックたちが盛り上がっているが、ちょっと忠告をしておくか。

 

「色々と考えるのは自由だが、あんまり期待しすぎない方がいいぞ。事前に散々もてはやされた新型も、実際に送られてきたら、こいつがとんだ肩透かしということもあるんだ」

 

 オレの経験からいうとガザCとか、ガザCとか。あとガザCとか。

 

 まあ、新型に乗れるだけありがたく思えという話ではある。ネオ・ジオン時代に聞いた噂だと、0093になってもグフやゲルググでがんばっていた同志たちもいたらしいからな。まったく、ジオン残党暮らしは地獄だぜ。

 ……あと、ドラッツェも現役で使われているという話も聞いたのだが、さすがにデマだよな。そうであってくれ。

 

 ところでガザCで思い出したんだが、期待を裏切られたMSといえばザクⅢもあったな。

 ザクⅡの正統後継機が完成したと聞いたオレは、それはもうワックワクのドッキドキで見に行ったのだが。いざ実物を目にしたとたん、スンとしてしばらく固まってしまった。

 どう言葉に表わせばいいんだろうな、あのなんとも絶妙なザクじゃない感は。誰だよ、ビーム砲を口と腰に仕込もうと考えた奴は。カタログスペックを見る限り、優秀な機体であったことは間違いないのだが、しかし……。

 

「ザクと言えばザク……。けど、ザクとしては、なんかこう……魂に響かないのが」

 

「ザクザクうるさいな。このおっさん」

 

 ちなみに、ザクⅢと次世代量産機の座を争った末に採用されたのがドーベン・ウルフである。その詳細を知ったオレの反応をありのまま述べると、「正気かッ!?」というものだ。

 本気であの全身で兵器の展示会開いてるようなMSを量産するつもりだったのかよ、アクシズは。あんなの大量配備されたら、MSよりも先にパイロットとメカニックが潰れるだろ。

 

 一介のパイロットには理解の及ばない事情があったかもしれないが、MSはシンプルであればあるほど良いというのが信条のオレとしては、評価の難しい機体だった。

 

「あの袖無し髭マッチョは喜んで乗っていたがな。ファッションだけでなくMSのセンスもいかれてやがった」

 

「袖無し髭マッチョ?」

 

 その点、ドライセンをもらったオレは幸運だった言えるだろう。

 本当にあいつに初めて乗った時は、完成度の高さに心底感動したものだ。それまで乗っていた愛機がひどすぎた反動はあったかもしれないが。

 

 ドライセンは、あの名機であるドムの流れを汲む設計の信頼性、多様な戦場に対応できる汎用性、そして何より性能のバランスに優れた傑作機だった。数年後に愛機となるギラ・ドーガもそうだが、正にオレの理想とするMSそのものである。文句のつけようがない。

 

 あのトライブレードとかいうシュリケンもどきだけは、最後まで使い道が分からなかったがな!

 

「どうもビーム・ナギナタとかハクジとか、扱いに困る武装を持たせたがるよな。技術者の奴らは」

 

「だからなんですかビーム・ナギナタって。それにギャンのハクジは優秀な武装でしょう。すごいですよ、エグザベ少尉の戦闘ぶり」

 

「バカタレ。あれはエグザベ少尉だからだよ。普通のパイロットがあんなの使いこなせるか」

 

 なんだよ、超大型ランスに推進器とレールガンを積み込みましたって。

 まあハクジはキシリア閣下の親衛隊にのみ配備されているからな。エリート部隊限定の武装について、癖がどうのこうの言うのもお門違いだろうが。

 

 ……これはどうでもいいことだが、あのハクジのレールガンがメガ粒子砲にしか見えなくて気になっているのは、オレだけだろうか。

 

「大丈夫だろうな、今度送られてくる新型とやらは。蓋を開けてみたら、こっちが頭を抱えるような代物だったらどうする?」

 

「それはさすがに心配しすぎですよ」

 

 そうは言うがな。別に、オレだって根拠もなしにここまで不安に思っているわけではない。深い理由があってな。

 いるんだよ。キシリア閣下の抱えている技術者たちの中に、ぶっちぎりで頭のいかれた奴が。

 

 技術方面にはとことん疎いオレにも分かる。あいつはやばい。

 オレがドライセンやギラ・ドーガの話をしてもつまらなさそうに聞き流すくせに、ドラッツェやゲゼのようなゲテモノの話をする時に限って恍惚とした表情を浮かべるんだよな。

  

 グラナダに帰るたびにオレを訪ねてくるせいで、すっかりそいつとも顔馴染みになってしまった。この頃はオレが接触を避けているのを察してか、毎回グラナダの宇宙港で出待ちしてるんだよなぁ……。

 

「今度グラナダに帰った時はどうやって逃げたものか。換気ダクトを使った逃走経路は、そろそろ嗅ぎつけられそうな気配があるんだよな」

 

「借金取りにでも追われてるんですか?」

 

 まあ色々と性格に問題のある奴だが、技術者としては天才らしい。元はツィマッドに所属していたのを、キシリア閣下が直々にスカウトしたほどと聞く。

 なにせ、あの名機ヅダの開発にも関わっていたと自慢していたからな。それを知った時は、オレも安心したよ。

 

 お、そうだ。新型MSといえば。

 

「エグザベ少尉には、くれぐれも新型を盗まれるなよと注意しておかないとな」

 

「いやいや、何を言ってるんですか?」

 

 オレは真剣に言っているのだが、メカニックたちは皆一様に苦笑を漏らした。

 

「MSを盗もうとする奴がいるわけないじゃないですか」

 

 あー、お前たちがそう思うのもしかたないだろうがな。なぜか知らないが、新型MSってちょくちょく盗難の対象になるんだよ。ガンダムは特に。

 そうやって油断していると、とんでもないことになるんだぞ。オレだって、ちょっと目を離した隙にクソガキどもにガザCを……。

 

 いや、やめよう。あの屈辱は歴史の闇に封印すると決めたのだ。クソガキどもが元気にオレの愛機を乗り回している光景なんて、二度と思い出したくない。自分で取り返すまでエンドラに戻ってくるなと、マシュマーに追い出された記憶もだ。

 

「……まあ、たしかにオレの考えすぎか」

 

 新型を受け取ってから向かうのは、サイド6だ。ソロモンの悪夢やシャングリラのクソガキどもならいざ知らず、あの平和ボケしたサイド6の住民の中に、ガンダムを盗もうとするいかれた奴なんているはずもないか。

 

「……」

 

 なんか一瞬、背筋がヒヤッとしたのだが。

 気のせいだよな?





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