ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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ホラ吹きおじさんとエリートたち

「……誰も見てないな」

 

 周囲の人影を確認しながら、忍び足でソドンの廊下を進む。そんな不審者丸出しの行動を繰り返し、オレは目的の部屋に到着した。

 最後に周りを確認してから扉をくぐり、正面のモニターへと歩み寄ると、手早く映像データを映し出す。

 

「正直、オレが何度もボコボコにされてるのを見るのは嫌なんだが」

 

 人目をはばかって何を見ているのかというと、これまでの戦闘シミュレーションの記録である。全てエグザベ少尉の操縦するギャン相手のものだ。

 

 エグザベ少尉に十連敗を喫してから数日。

 あれから暇があるたびに、オレはシミュレーションルームの中で、積み重なった敗北の記録を再生していた。そろそろ上官としての面目が保てるかどうかの瀬戸際だ。こんなに負け続けたら、どの口でMSに二十年うんぬん言えばいいんだよ。

 

「しっかし、何度見てもお手本のような操縦してるな。これ、どう攻略すればいいんだ?」

 

 なんといっても、こっちはザクで向こうはギャン。性能差がでかすぎる。

 この前のように白兵戦に持ち込むのが困難な戦場でなら、まだある程度は戦えるんだが。たいていの場合、距離を詰めようと隙を伺うエグザベ少尉と、必死に弾幕を張りながら逃げ回るオレという図式になる。おかげで、ギャラリーからの評判はあまりよろしくない。

 

 最初こそあの手この手でかき乱してやったものだが、常人離れした対応力で搦め手をさばいてくる。むしろ最近は、こっちの戦い方を引き出して研究しようとする余裕すら感じるんだから恐ろしい。

 

「やっぱりエリート様は違うねぇ」

 

「その言い方、良くないんじゃないですか」

 

「ああ、すまん。今のはオレが悪かった」

 

 で、なんでいつの間にかコモリ少尉が横にいるんだよ。オレ、けっこう誰にも見られてないか警戒してたんだぞ。ニンジャかよ。

 

「中尉がコソコソしてるから、気になったんですよ。つまみ食いでもするつもりじゃないかと」

 

 ひょっとして、オレの威厳ってとっくに地に落ちきっているのか? 地球の重力に、オレもまた囚われているとでもいうのか。 

 

「どうしてあんなにコソコソしてたんですか?」

 

「いや、オレにも男の見栄ってもんがな。何せオレは」

 

「MSにもう二十年乗ってる、ですよね」

 

 オレのセリフを先取りされた。コモリ少尉、ニュータイプの素質があるぞ。

 

「いっつも耳にタコができるぐらい言ってるんだから、分かりますよ」

 

 それもそうか。

 

「さっきの言い方は悪かったが、エグザベ少尉の操縦はクセがない。その上に柔軟な動きができるんだから、さすがはフラナガン機関の首席ってとこだ」

 

「エグザベくんの出身はフラナガンスクールですよ」

 

 そうだった。オレとしては、フラナガン機関と学校というイメージが、全く結びつかないのだが。どうしても、ひそかに人体実験とかやってないだろうな、とか考えてしまう。

 ニュータイプ研究にはオレも少し関わったことあるが、倫理も人権もあったもんじゃないからな。さすがにこの歴史では、デザイナーベビーや強化人間のような、なりふり構わないことはしてないと信じたいが。

 

 …………どうせ、してるんだろうなぁ。

 

 考えてたら気分が落ち込んできた。話題を変えるか。

 

「エリートと言えば、コモリ少尉も士官学校を成績上位で卒業したんだったな。そういうのにさっぱり縁がないオレにはよう分からんが、二人とも立派なもんだ」

 

 これは正直な気持ちだった。エグザベ少尉もそうだが、お高くとまらずクルーに馴染んでいるのは素直にすごいと思う。

 何より常識をわきまえているのがいい。オレの知っている年下のエリートといえば、常に胸ポケットに薔薇を差している騎士様だとか、MSに乗ったらエクスタシー感じるツートン女とか、強烈なのが多かったからな。

 

 あとは、なんだ。ギュネイの奴は、あいつエリート枠に入れてもいいのか?

 

 とにかく、そんな例に比べるとはるかに接しやすくて助かる。我ながら基準が狂っているとは思うのだが。

 

「褒めても何も出ませんよ。それに、中尉だって士官学校に行ったことぐらいはあるでしょう」

 

「ないぞ」

 

 オレの返答に、コモリ少尉は「へ?」と間の抜けた声を漏らした。なんでそんなに驚くかね。

 

「中尉が現場の叩き上げっていうのは知ってますけど、尉官に上がる時に士官教育は受けましたよね?」

 

 ああ。そういえば、平時は士官学校で数週間の教育を受けないと、曹長より上にいけなかったな。

 

「オレが尉官にまで上がったのは戦時中だったからな」

 

 より詳しく言えば、グリプス戦役の直後に少尉への昇進が内定した。まあ、オレが評価されたというよりは、現場の人間が上も下もバッタバタ死んでいったために席が空いたんだが。

 

 そんなせっぱ詰まった状況だったので、正規の教育なんて受けている暇はなし。「これでも読んどけ」と教本を数冊渡されておしまいだった。数ページ読んだだけで「あ、これは無理だわ」とギブアップして、以降はただの置物となっていたが。

 

 そんなことを詳細をぼかして伝え終わると、コモリ少尉は頭痛をこらえるかのように額を抑えていた。

 

「えぇ……。でも、戦後に行くチャンスはあったんじゃ」

 

「いんや? オレ、ずっとシャリア・ブル中佐の下でシャアそうす……大佐を捜索する任務に就いてるからな」

 

「……ヤッバ」

 

 おい、そんなにドン引きすることはないだろ。

 これでも、ソドンに来てからはツルツルの脳みそ使って、少しは勉強しているんだぞ。任務の性質上、各サイドとどんな取り決めしてるとか、疎かにしたらしゃれにならん。

 

 一応、キシリア閣下には事情を伝えたんだが。架空の戸籍や軍歴と一緒に、なぜかネオ・ジオンの時の階級がそのままあてがわれた。

 キシリア閣下、本当にこれでいいんですか? 自分で言うのもなんですが、テロリストが中尉を自称してただけなんですよ?

 

「その、中尉は今のままでいいんですか。どれだけまじめにがんばっても、それじゃ大尉より上にはなれませんよ」

 

 今頃はグラナダで悪だくみしているであろうお方のことを考えていると、コモリ少尉がいつになく真剣な顔で言ってくる。

 

 さすがに佐官になると、MS隊の指揮どころでは権限が済まなくなるからなぁ。オレの経験では、総大将クラスでもMSに乗って最前線とか割とポピュラーなんだが。

 

「伍長からスタートしたオレが、尉官で終わるなら上々だろ。そもそもハイスクールにもロクに行かず、ほとんど軍の飯を食ってきたから、そんなレベルのお勉強についていける気がせん。一般教養とかなら、その辺の新兵にも余裕で負けるぞ」

 

「すみません。本当に頭痛がしてきました」

 

「熱でもあるのか? ほら、測ってやるからおでこくっつけてみろ」

 

「本当にセクハラで訴えますよ」

 

「えッ。いや、すまん」

 

 感情の削げ落ちた声音で注意され、オジサンはびびった。え、そんな声出せたの? 軽い冗談だったのだが。

 

 あれだろ、コンプライアンスだろ。 

 

 なんだか、過去に戻ってからよく聞くようになった単語なんだが、正直今でもとまどうことがある。そんなの、前の歴史では聞いたことなかったんだが。

 オレが所属していた軍では、生意気な部下を拳で修正するとかちょくちょく見る光景だったんだが。今では一発退場ものらしい。

 

 ひょっとしたら、ギュネイの奴には悪いことをしていたかもしれん。「操縦席を尻で温めていた年数が長いだけで偉そうにするな」とか、オレに暴言吐いてくるたびに修正してたからな。まあ、あいつはいつも殴り返してきたし、なんだったら先に殴りかかってくるような奴だったし。よし、問題なし。

 

 オレがそんなことを考えていると、コモリ少尉は「はあ」と大きくため息を吐いた。

 

「ああ、もう! いっつもそんないい加減な調子なんですから。シャリア・ブル中佐も何考えてるのか分からない時があるし。異動願い出そうかな」

 

 ずいぶんな言われようである。中佐については同意見だけど。

 だが、異動願いか。その話題を出してくれたのは、ちょうどいいかもしれない。この際、前から気になっていたことを言ってみるか。

 

「あー、なんだ。その、軍人として別の仕事をしたかったという気持ちはあるのか?」

 

 デリケートな話題なので、なかなか切り出せなかったのだが。今の任務内容に対して、不満をためていないかということだ。

 シャリア・ブル中佐には悪いが、五年も前にMIAになった軍人の捜索なんか、まともな任務とはいえない。明らかに出世コースから外れているし、コモリ少尉やエグザベ少尉のような有望株には、もっとふさわしい仕事があるだろうと思っていた。

 

 それに、どうせ異動するなら早い方がいいだろう。

 ソドンの空気は良くも悪くもゆるい。オレとしては文句はないんだが、新兵がこの艦をスタンダードだと勘違いすれば、絶対によそに行った時に苦労すると思うのだ。

 

 オレも何回か艦内の雰囲気を引き締めることを意見具申してはいるんだが、肝心のシャリア・ブル中佐がノレンに腕押しだからなぁ。

 

 とにかくオレとしては、優秀な若者がこんな任務に従事している現状に、内心思う所があるのではないかと危惧していたのだが。

 

「いえ、別に。私は与えられた任務をこなすだけですから。ガンガン出世したいわけでもないし。けっこう雰囲気は気に入ってますし、そんなに不満はないですよ?」

 

 ……お、おう。何というか、ずいぶんとドライだな。もうちょっと、野望とか功名心とか持ってもいいんじゃないか。

 ギュネイの奴とか、オレどころかシャア総帥にも敵対心が満々だったぞ。いや、コモリ少尉に「私はいずれギレン総帥を超える女です」とか言い出されても困るんだが。

 

「エグザベ少尉は何か言ってなかったか? 仲いいだろ?」

 

「特に聞いたことはないですね。あ、中尉への愚痴はいつもしてますけど」

 

 ……上官相手に気を使っているようでもないし、オレの考えすぎだったのか? 

 戦争が終わってから年数も経つと、やっぱり価値観とかも変わるのかねぇ。二人とも経歴も能力も充分に上を狙えるんだから、もっと野心マシマシでもいいと思うんだが。

 

 戦時中とは軍人の意識が違うと頭では理解していても、どうにも若い世代の考えは分からん。

 というか、考え方どころか、姿からしても違う気がする。身体のパーツというよりは、土台が違うというか。戦争ばっかりしてると、外見にも影響が出るもんなのか?

 

「なんで私の顔をじっと見てるんですか?」

 

「いや、美人だなと思って」

 

「そーですか」

 

 割とストレートに褒めたんだが、なぜかジト目になるコモリ少尉。オレといる時は割とこんな調子なんだよな。

 出会った当初は、かなりの頻度で冷たい視線をもらっていたものだ。今ではこうして他愛ない話にも付き合ってくれるから、嫌われてはいないと思うんだが。たぶん。

 

 年の離れた部下との接し方とか、軍の教本に載ってないもんかねぇ。

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