ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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あの、四話を投稿してから、あっという間に評価バーが真っ赤に染まったんですが……。

多くのUA、評価、感想をありがとうございます。
今回は、感想を読んでいて急遽思いついた内容と、自分がアニメ七話を再視聴してからモヤモヤしていた箇所に手を加えるためのちょっと短めの話です。


ホラ吹きおじさんと専用機

 カツン、カツン、と。

 二人分の靴音だけが、静寂の中に響き渡る。

 

 オレは、とある人物に先導されて、どこまで続くか分からない暗い通路を歩いていた。

 

「この通路の先に、いったい何が存在するのでありますか。キシリア閣下」

 

 オレの問いかけに、現在ジオン公国を二分する権力者であるキシリア・ザビは、鋭い眼光をこちらに向ける。

 

「もうすぐなのだがな。辛抱のできぬ男だ。ならば、暇つぶしにおしゃべりでもしてみるか?」

 

「……」

 

「シャリア・ブルがお前を拾ってきた時は驚いたものだ。最初はとても信じられなかったが、あのようなMSを見せられてはな」

 

 キシリアは歩みを止めないまま、マスク越しに口元を歪める。

 

「正直、戦慄する思いだった。たった十四年で、兵器とはあれほどの隔絶を有するものなのだな。そこに至るまで、何が人を突き動かしたのかと考えると、な」

 

「憎悪ですよ」

 

 一瞬、十四年の間に目撃したあらゆる光景が、目の前に浮かんでは消えていった。かつては身を引き裂かれるような悲しみや苦痛を抱いた地獄を前にしても、今となっては特に感慨は湧いてこなかった。

 

「人の憎しみは、決して消え去ることも薄れることもありません。積み重なり、いつか感情の所有者もろとも潰れるだけです。……今になって思えば、それを石ころの一つや二つで変えようなどと、とんだお笑いぐさだったのかもしれません」

 

「見てきたかのように言う。いや、見てきたのだったな。……到着だ」

 

 二人が前に立つのを待っていたかのように、ドアが音もなくスライドする。

 

「ジコッテ中尉。ここに、お前のMSが待っているぞ」 

 

 グラナダの最深部に位置するドックに足を踏み入れると、オレは目を見開いた。

 

「これは、まさか」

 

「全く。配下の技術者どもも、あまりの破損ぶりに手を焼いたものだ。だが、お前の話にインスピレーションを受けて、ついに完成した」

 

 数年ぶりの再会だが、間違いない。目の前にあるのは、オレと共に虹の彼方を渡ったギラ・ドーガだった。

 

 ブレードアンテナのついた頭部と、胴体に左腕。しかし、他の部位は記憶とは大きく異なる。その全体のフォルムは、通常のMSとは似ても似つかない。

 オレの愛機は、おぞましい異形となり果てていた。

 

 ……いや、待って。このフォルム、見覚えがある。すんごく見覚えがあるんだが?

 

 胴体下部に接続された二つの燃料タンク、バックパック代わりにくっつけられた粗雑なスラスター、両肩の球形スラスターポッド。

 

「くれてやる。時を渡った末に完成した決戦兵器にして、人の革新を成し遂げる尖兵────」

 

 

 

「“ネオ・ドラッツェ”だ」

 

 

 

 

 

「嫌だぁあああああああああ!?」

 

 絶叫とともにベッドから跳ね起きる。

 

「ハア、ハア…………。ゆ、夢か。良かったぁ」

 

 何度も寝室のあちこちに目をやってから、安堵のため息を吐いた。

 

 数日前に、ドラッツェのことをメカニックに話したせいなのか?

 たしかにギラ・ドーガを返してほしいとも考えていたけどな。夢の中の出来事とはいえ、なんでまたガトルとニコイチされて返ってくるんだよ!

 

 はあ、本当はもうちょっと寝ていられたはずだったんだが。とてもではないが、またベッドで横になる気分ではない。

 制服に着替えたオレは部屋を出て、ソドンの通路を歩き始めた。

 

「しかたない。エグザベ少尉でも捕まえて、暇つぶしするか」

 

 ベテランMS乗りとして、かわいい後輩に貴重な経験を語るのは、もはや義務とさえ言っていい。このロートルの昔話を、若者が糧にしてくれるんだからな。

 そうだな、どの話がいいか。巡洋艦エンドラに所属していた時、アホのマシュマーが大事にしていた薔薇をすり替えて、いつ気づくか試した時の話でも……。

 

「大丈夫ですか? ずいぶんと顔色が悪いですが」

 

「おーう、平気だよ。ただ、ちょっと変な夢を見てな」

 

 背後からかけられた声に、オレは手をヒラヒラ振って応じた。そんなに心配されるほど、メンタルへのダメージでかかったのか、アレ。

 

 ん? 敬語を使われてはいるが、この妙な色気を感じさせる声は……。

 

「失礼をいたしました、シャリア・ブル中佐!」

 

 オレは慌てて振り返り、直立不動の姿勢を取る。

 

 そう、目の前で柔らかい笑みを浮かべる男性こそは、オレの直属の上官。ジオン最強のニュータイプであり、ソドンの実質的なトップでもあるシャリア・ブル中佐だった。

 

「かまいませんよ、ジコッテ中尉。それにしても、よほどひどい悪夢だったようですね」

 

 そう言って、中佐は目を細めて「フフッ」と小さく笑う。

 

 ううむ。オレがやったら気色悪いだけのしぐさが、ずいぶんと絵になっている。オレよりも一つ年下のはずなんだが、色気と貫禄がすごい。

 いや、オレはアクシズ落としからゼクノヴァまで九ヶ月ぐらいの時間をすっ飛ばしているので、実質は同年齢と言えるんだが。

 

「ありがとうございます。……しかし、中佐、つくづく思い知らされました。MSというものは、どうせ壊すなら粉微塵になるまでやらなければいけませんな。さもないと、どんなキメラを作られるか分かったものではない」

 

「本当にどんな夢を見たのですか、あなたは」

 

 中佐は少し怪訝な顔をしてから、「そうそう」と愉快そうに続ける。

 

「エグザベ少尉とのシミュレーション、私も見ましたよ。よくもまあ、旧式のザクであそこまでギャンと戦えるものです」

 

 よりによって、その話題かぁ。

 

「ありがとうございます。戦うたびに思いますが、エグザベ少尉、あれはまだまだ強くなりますよ」

  

「でしょうね。せっかくですから、専用機に乗ったエグザベ少尉とあなたの戦いも見てみたいものです」

 

 完全に観客気分ですね。かれこれ長いつき合いになるんだが、未だに何を考えているのかよく分からないんだよな、中佐のことは。

 

 ……ん? 何か、聞き捨てならない単語を聞いたぞ!?

 

「エグザベ少尉の専用機!?」

 

「おお。びっくりしました」

 

 言葉とは裏腹に、中佐はわずかに目を見開いただけだ。だが、今はそんなことにかまっていられない。

 

「え? 専用機とは、エグザベ少尉だけのために用意されたMSがあるということですか?」

 

「はい。それが専用機ですから」

 

 ウソだろ。未だ実戦に出ていないエグザベ少尉に専用機? 二十年MSに乗っているオレは、そんなもの用意されたことがないのに?

 フラナガンスクールの首席とは聞いていたが、そこまでの待遇だったとは。扱いに、埋めきれないほどの差を感じる。

 

 こんなことなら、シャア総帥から「お前のギラ・ドーガだけどさあ、パーソナルカラーっている?」と尋ねられた時、かっこつけずにもらっとけばよかった。

 

「彼が現在使用しているギャンも、武装は共通しているのですが。さすがに専用機をソドンに乗せるわけにはいきませんからね」

 

 そんな。まだ本来の実力は出し切れていないのか、エグザベ少尉。おじさん、ちょっと怖くなってきた。

 

「ちなみに中佐、なぜ専用機はソドンに乗せられないのですか?」

 

 オレの問いかけに、中佐はニコニコ笑うだけだった。

 あ、これは深入りしない方がいいやつだな。話の矛先をそらそう。

 

「専用機といえば、中佐は新しく機体を受領しないのですか? キケロガはおいそれと持ち出せませんし、何よりもう六年前の機体でしょう」

 

「ああ。あなたにはまだ言っていませんでしたか。私のキケロガ、一年戦争後に改修を受けまして。今では、MS形態への可変機構も備えているのですよ」

 

 あの、今はまだ0085ですよ? あのバカでかいキケロガが? MS形態に?

 

「ハッハハハ! キケロガの変形ですか、それは自分も見てみたいものですな!」

 

「……」

 

「ハハッハ!」

 

 い、いかん。ツボに入ってしまった。大笑いしているオレを、どこか残念なものを見るような目つきで眺めて、中佐は去っていった。

 

 あー。ひとしきり笑ったおかげか、少し気分も持ち直してきた。ひょっとしたら、中佐も落ち込んでいるオレに気を使って冗談を言ってくれたのかもしれん。

 

 しっかし、あの人もあんなホラが言えたんだな。







(七話再視聴後)
エグザベくんのギャン、勝手に動いているような描写があったぞ。サイコミュなのか?
→載せてない方がおかしいか。でも、2話でギャンがソドンにあると書いてしまったんですが
→ここのエグザベくん、禁止されたサイコミュ搭載兵器を、堂々とソドンに持ち込んでいることになるのでは?

というのを修正するための話でした。
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