ソドンに乗ってるホラ吹きおじさん   作:銃病鉄

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ホラ吹きおじさんと女たち

「絶対にコモリ少尉だって」

 

「違いますよ! セファ伍長の方に決まってます!」

 

 なんか、シミュレーションルームのドアが開いたと同時に、えらく白熱した会話が聞こえてきたんだが。

 

「なーにやっとるんだ、お前らは」

 

 オレが呆れて声をかけると、部屋の中央で話し合っていた二人の若い兵士が、はじかれたように顔を向けてきた。

 たしか、でかい声を出していたのは食堂の炊事兵だったな。で、もう一人はメカニックか。他兵科で仲が良いのはけっこうなことだが、よそでやってくれ。

 

「あ、中尉じゃないですか」

 

「ほら、どいたどいた。今からオレが肩慣らしするんだからな」

 

 シッシッと手を振って追い払う。だが、この暇な男どもは意に介した風もなくオレに詰め寄って来た。

 

「中尉、この分からず屋に言ってやってくださいよ。コモリ少尉よりセファ伍長だって」

 

「待てよ。いったい、何の話だ?」

 

「ソドンの女性クルーで、誰が一番可愛いかって話ですよ」

 

 くだらん。

 

 神聖なシミュレーションルームで、なんて低次元な争いをしてるんだ。絶対にその時間をもっと有意義に使えるだろ。資格の勉強とか。

 

 まあ、基本的に男所帯の軍では定番の話題ではあるが。特にソドンは、それなりに若い女性クルーが多いからな。

 オレが着任した時は、無骨なおっさんばかりのむさ苦しい集団だったのだが。時が経つごとに女性クルーの割合が増していき、今では廊下ですれ違うのも珍しくない。

 

 ここまで艦内で女の姿を見かけるなんて、ア・バオア・クーやデラーズ・フリートで生活していた頃は考えられなかったな。

 前の歴史では、グリプス戦役が終わった後から、少しずつ女性軍人も増えていったと記憶しているんだが。

 

 艦内の空気が華やかになったのはいいことだが、それを理由に風紀がたるむのは見過ごせない。

 さすがにガツンと言ってやるべきか。

 

「いい加減にしないか。いくら休憩時間といっても、軍人としての節度というものがある。だいたい、ソドンで一番可愛いのはラシット艦長に決まってるだろうが!」

 

 今は艦長席にドッシリと腰を据えているであろう、女性艦長の姿をイメージしながら言い放つ。

 もしかしたらこの瞬間にも、シャリア・ブル中佐からの無茶ぶりに頭を抱えているのかもしれん。そんな想像すると、いっそう魅力が増してくるよな。

 

「えー……」

 

 何だよ、その反応は。まるでオレが変なこと言ったみたいじゃないか。

 

「そうだった。中尉は昔からラシット艦長派だった」

 

 メカニックが脱力した様子でつぶやいているが、よく分からん派閥を勝手に作るな。

 

「多大な時間を費やして、ソドンの有志たちに聞いて回りました。やっぱりコモリ少尉派とセファ伍長派が大多数ですね」

 

 絶対にその時間をもっと有意義に使えただろ。資格の勉強とか。

 

「ちなみに、ラシット艦長派は?」

 

「……貫禄があるという意見は多かったですね」

 

 ちょっと気になったので尋ねてみると、気まずそうに目をそらされる。どいつもこいつも見る目がないな。 

 

 まあ、いいさ。オレは十年以上に渡ってジオン残党を続けた男。孤軍奮闘こそが本懐だ。

 

「いいよなぁ、ラシット艦長。あれこそプロの軍人って感じで。この前も、今度グラナダに寄ったら二人きりで酒を飲みませんかと誘ってみたんだが、ガン無視されてな。目線すら合わせてくれなかった」

 

 あの気の強さがな、いいんだよな。

 

「さすがに気が強すぎではないですかね」

 

「軍人なら、あれぐらい普通じゃないか? 欲を言えばな、もうちょっとアウトロー気質というか、怒ったらスパナ投げつけてくるぐらいの荒々しさもあればベストなんだが」

 

「なんだ、被虐趣味か?」

 

 おい、さすがに聞き捨てならんぞ。ただ、女傑といった言葉がピッタリくるような、激しい気性の女がいいってだけだ。

 

「まさか、そんな女性と出会いたくて軍に入ったわけではないでしょうね?」

 

 お前、オレのことアホだと思ってないか? 救国の志に燃えていた、少年時代のオレに謝れ。

 

 そもそもな。思い返してみれば、軍に入る前はオレもそこまで気の強い女が好きというわけでもなかったんだよ。なんか、軍人生活を続けているうちに、いつの間にか女のタイプが変わっていた気がする。

 

 そういえばデラーズ・フリート時代に、海兵隊の女性指揮官と接する機会があったのだが。その時にちょっとした不興を買って、平手打ちでブッ飛ばされことがあるんだよな。

 思えばあれ以降、勝気な女に惹かれるようになった気がする。あの時に変な扉が開いた可能性は否定できんな。

 

「いえ、そんな話を聞かされてどうしろと」

 

「お前らが振って来た話だろうが」

 

 もう完全にシミュレーションで鍛えようという気も失せてしまったので、近くの機材に腰を下ろす。

 もうちょっと話につき合うか。こうして部下とのバカ話に興じるのもいいだろう。

 

「言っておくけどな。こうしてダベっている内はいいが、あんまり軍人の身で色恋にのめり込みすぎるなよ? オレの経験からいうと、たいていロクなことにならんからな」

 

 クェスと出会った後のギュネイとか、まあ見てる方が目を覆いたくなったからな。あと、グレミーのクソ野郎も悲惨なことになっていたか。後者は、正直ざまあみろっていうところだ。

 

 そういえば、アクシズの指導者だったハマーン様に関しても妙な噂を聞いたんだが。なんでも、シャア総帥とただならぬ関係だったとか。

 シャア総帥って、オレより四歳年上だったよな。で、ハマーン様はオレより四歳年下で。オレがアクシズに合流した時には、ハマーン様がまだ十六歳だったはずなんだよな。

 

 ちょっと、こう……アレじゃないか?

 

 噂の真実は分からない。ネオ・ジオン時代に、直接シャア総帥に尋ねてみる機会もあったんだが。

 怖くて結局聞けずじまいだった。真相は闇の中ということにしておこう。

 

「中尉は、軍人生活の中で恋人を作ったことはないんですか?」

 

「いや、そっちはさっぱりだな」

 

 オレが肩をすくめてみせると、メカニックが「へえ」と意外そうな声を漏らす。

 

「なんだ。中尉のことだから、元カノ百人とか吹くものと思ってましたが」

 

 誰がそんなホラ吹くか。言う側も聞く側も、ただ悲しくなってくるだけだろうが。

 

 だいたいほとんど戦時中か、それに等しい極限状態だったから、恋人なんか作ってる余裕もなかったしな。

 唯一チャンスがあったとしたら、アクシズ時代か? 地球圏に帰還する前は、カツカツながらも比較的平穏な生活を送っていた。ただ、その頃のオレは荒れてたからなぁ。 

 

 それに当時は、ガトー少佐のような高潔な軍人に憧れていたからな。あの人のように女性関係のトラブルとは無縁な生き方ができるよう、ひたすら鍛錬に勤めていた。

 今になって思うと、若いうちにもうちょっと遊んでいてもよかったかもしれん。

 

「でも、仲のいい女性とかはいたんでしょ?」

 

「そうだな」

 

 そう問われて真っ先に思い浮かぶのは、レズンの奴か。

 ネオ・ジオンに所属していた時には、それなりにつき合いがあった。まあ、酒飲み仲間としてだが。サシ飲みに三回誘ったら一回はOKしてくれるぐらいの間柄だったな。

 

 レズンとは気が合ったので、いい酒が飲めたもんだ。飲みすぎてしまった時に、ちょっとだけ、本当にちょっとだけラインを超えたスキンシップをして、酒瓶を脳天に振り下ろされたこともあったが。

 今となってはいい思い出だ。

 

 ネオ・ジオンの女といえば、ナナイもいたな。こちらとはあんまり仲が良くなかった。というより一方的に嫌われていた。

 何せ初対面の時に与えた印象が最悪だったからな。ナナイは、最後までオレのことを野獣か何かだと考えていたんじゃないか?

 

 あと、当時の仲が良かった異性といえば、クェス……。

 いや、さすがに十三歳の少女をカウントするのはヤバい。いったん無かったことにしよう。

 

 しっかし、クェスのことを思い出すたびに、「えっと、一年戦争? それ、あたしが生まれる前だね」と朗らかに言われた時の衝撃が忘れられない。

 オレももう若くはないんだなと、つくづく思い知らされた。

 

 あと、良くも悪くも忘れられない女といえば、アクシズ時代の上官だったキャラ・スーンか。とはいっても、あくまで上官と部下の関係だったんだが。

 エンドラがムーンムーンで撃沈した後にオレは指揮下から離れたので、そこまでつき合いも長くなかったな。

 

 ただ、それからしばらくして妙な場所で再会したのだが、その時のインパクトがすごかった。

 

「まさか、かつての上官があんな穴だらけの服着て、鞭でブッ叩いてくるとはな。あれにはビックリした」

 

「じょ、上官が穴だらけで? 鞭?」

 

 こうして思い返してみると、ずいぶんと少ないな。まあ、前の歴史では女性軍人がホントに珍しかったから、しかたないか。

 いや、厳密にいうと他にもいたのだが。そこら辺を詳しく語ると、いよいよオレの社会的立場が危なくなるから。

 

 軍関係者の他に仲が良かった女といえば……ダメだ、思い当たらない。

 強いて言うならリィナなんだが、クェスよりも幼かったし……。

 

 改めて考えてみると、前の歴史でオレが関わった女たち、えらく平均年齢が低いな!? 

 

「そ、総帥のことをとやかく言える立場じゃなかったかもしれん……」

 

「え、ギレン総帥がどうかしましたか?」

 

「いや、違うんだが。とにかくもう女の話はいいだろ。オレはシミュレーションをするから、お前たちももっと時間を有意義に使え。資格の勉強とかしろ」

 

 これ以上考えているとドツボにはまりそうだったので、半ば無理やり会話を打ち切り、シミュレーションマシンに乗り込む。

 

「見学してもいいですか?」

 

「ああ、かまわんぞ。その代わり、今晩のオレの飯の量、ちょっと盛っといてくれよ?」

 

「贔屓はできませんよ」

 

「ケチだな」

 

 炊事兵とのやり取りのかたわらでマシンの設定をいじりながら、オレは小さくため息を吐いた。

 

 レズンと飲んでいた時のことを思い出したからか、どうにも女を誘って酒でも飲みたい気分が湧いてきた。男同士でバカ話しているのも、楽しくはあるんだが。

 今さら恋人とか結婚とか望んでいるわけではないが、さすがに潤いというものが無くなって久しい。ソドンの女性クルーは、どうにもオレへの対応がしょっぱいしな。

 

 どこかに、オレの好みにドンピシャな女とかいないものか。

 例えば、ちょっとアウトローなジャンク屋とかやっていて。オレと年齢も近くて。若い男を三人ぐらい子分にしているような女傑が。別に離婚歴とかあっても、オレは気にしないんだが。

 

 どこかで、そんな理想的な女との出会いとかないもんかねぇ。

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