機動戦士ガンダムSEED Apocalypse~アプカリポス~ 作:さけのうえのふらち
ラクス・クラインが殺された世界にて、キラ・ヤマトは、救世主「キラ」として愚かな人類を断罪し、新たなる神となっていく。
キラは言う。
「より善き人間だけが生きることができる、優しい世界を、僕は生み出す役割を与えられたのだ」
しかし、この世界の誰も知らない。彼の絶望を。そう、私たちは知らないのだ。
あなたの手は血に汚れている。愛する人を救うこともできず、時間が止まったまま、ただそこにいるだけ。動けずにいる。
キラ・ヤマト、あなたは死なないだけの、単なる「屍(しかばね)」に過ぎない。
C.E.の歴史は、悪意がさらなる邪悪を生む、死が死を呼ぶ、考えられる限り最悪の「永久機関」になり果てた。
混沌の七日間、人はそう呼ぶ。マスコミが煽り、すでに学者の定見も決まっている。
ラクス・クライン暗殺事件から十年の時を経て、キラ・ヤマトという存在が表舞台に出てきたのは、すでに死んだ身の彼女にとって痛恨の事態だろう。彼の魂は、彼女の死によって永劫の闇に堕ちたのだ。
戻ってこられない。
絶望に狂った、と言うことは容易い。だが、だ。キラのあの笑みは彼女にとって辛い。
霊魂となったラクス・クラインは悲しみに沈む。
誰も思わないのだ。この世界にいる誰もが。
ラウ・ル・クルーゼの遺産を糧に、キラ・ヤマトが、世界を破滅に導こうとしていることを、誰も気づかないでいるのだ。
魂だけとなったラクスクラインは祈る、彼の平穏を。
しかし、破滅の歯車はすでに動き出していた。さびついたそれが、軋み、歪みながら正常な判断を置き去りにして、再び世界は業火に包まれる。
その前兆は、悪意の種はすでにまかれていた。
新たなる戦乱が、今はまだ導火線に点けられたわけではない。だが、スーパーコーディネーターの類い稀なる才能が、善きことではなく、世界の滅亡へと使われている。
ほんの少し、まさにほんの少しの一握りの人間だけ、そのことに気づいている。
神は嘲笑う。
人に、火を、科学など与えるのではなかったと。
科学技術は、工業製品を生み出し、その結晶としての巨大な人型機械を生み出す。愚かな戦争のためだ。否、戦乱があるからこそ科学は発展する。それこそがモビルスーツという「かたち」なのだ。
だが、その無残さは人にとって幸せなのか。
そして、今、キラ・ヤマトは宗教の教祖として、壊れたC.E.の世界に君臨していた。
遍く世を照らす、救世主の顔をして。
今はまだ、少女は気づかない。
何故なら、彼女は崇拝しているからだ。コーディネーターである彼女は、スペシャルを。
選民意識に囚われた少女は、その肥大した自意識により、傲慢となり、彼女たちを排斥するブルーコスモスの逆を行く。
より善き選民が、愚かな旧人類を導き、時には裁く。その思考に酔う。彼女は思春期の情動と選民意識を混同しているのだ。
愚かなどとは言えまい。
神がもし存在したなら、思うのだ。
我を模して造られしものよ、塵より生まれしもの、塵へと戻れ。
地獄の業火に焼かれながら、ラウ・ル・クルーゼは眺める。新たなる地上の笑劇(ファルス)を。
死せるラクス・クラインは涙を流す。その悲劇に。
触ることもできず言葉を交わすこともできない。観客としての二人の魂が見つめるのは、二人。
魔王としての役割を与えられたスーパーコーディネーターと、勇者としての役割を与えられたコーディネーターの少女。
混沌の世界はさらなる混沌へと包まれていく。
それがこの分岐世界の行く末なのだ。
そして。ミャアコ・ファラベル。
アプカリポス・ガンダムこそ、彼女の運命の枷なのだ。
(続く)
オリジナル主人公、少女パイロットの「ミャアコ」は、大和、飛鳥、京都(みやこ)の続きから。
新たなる神「キラ」を殺すための、神殺しの話DETH(デス)。そんな設定を、皆さん、ノーと(note)言わないで。てへ。