エグザベとHi-MD男がイズマ・コロニーの宙域で会敵を果たし、戦闘を始めた数時間前。
グリニッジ標準時で朝を迎えたコロニー内を走る鉄道の一区間で、人身事故が発生していた。
駅のホームから男が飛び降りたのだ。
安全柵やガイドバーが完備されている駅であり、自分の意思でホームに進入し、電車に飛び込まない限りは死ぬことはない。
要は、早朝の通勤ラッシュの中で男が電車へ向かって飛び込み自殺をしたのだ。
この人身事故の影響でダイヤが遅延し、多くの人々の通勤・通学に影響を及ぼした。
この影響をマチュはもろに受けた。
人身事故が発生したのは、よりにもよって通学でいつも使っている路線だった。
運行再開まで一時間近くかかるという放送が入った時、マチュは「遅刻確定だな」と確信した。
最寄り駅で降りて、そこからバスを併用して移動となると、どう頑張っても遅刻は免れない。
半ば不可抗力で遅刻することへの罪悪感はあまりない。
だがここから学校、友人、タマキへ連絡することを思うと、面倒だ。
マチュ以外の車内の人間も、同じような感情を抱いていた。
空気が苛立ちと殺意に近い悪いものに変わっていくのを、マチュは肌で感じた。
マチュの隣に座る他校の女子生徒からも周囲からも自殺した人間への哀れみは感じられなかった。
マチュは膝に置いたリュックの中へ手を入れる。
リュックのポケットには、マチュが大事にしている御守りが入っている。
御守りの感触を指先で感じると、マチュの顔が綻んだ。
そのままの穏やかな表情で、マチュは御守りを優しく握った。
駅構内では、人身事故の対応に追われた職員と軍警が、手と口を動かしながら、遺体を覆ったブルーシートの前で携帯端末片手に話し込んでいた。
人が少ない中で警察、救急、そしてなぜか駆けつけた軍警相手に仕事をしなければならない職員たちの疲労は確実に蓄積していた。
「なんでまた自殺なんかするんだろうな」
「その時にならないと分かりませんよ。照合できました」
軍警の男が、婦警の持つタブレット端末の画面を覗き込んだ。
ズタボロになったIDカードを照合した結果が表示される。
その名前に、軍警の男は首を傾げた。
ブルーシートで覆われた現場と轢死体がホームから運ばれていくのを、ニャアンは横目で見ながら足早に去った。
言葉は悪いが、こういう状態なら軍警に捕まりづらい。
早く受取人の場所へ行ける。
仕事が思った以上にスピーディに終わる。そうニャアンが思いながら通路の曲がり角を曲がろうとした、その時だった。
「お仕事ご苦労様、ニャアンちゃん」
曲がり角の先にはロベリアの花束を持った虹色のビキニを着た若い女性が立っていた。
ニャアンは無視して進みたかったが、ビキニの女性が横ステップで妨害してくるので逃げられない。
もともと人通りの少ない通路を選んで移動していたこともあり、この場にはニャアンとビキニの女性しかいなかった。
明らかに場違いだ。
ニャアンは目線に困り、虹色のビキニを見ると、そこにはユニコーンのマークが描かれていた。
何か話して距離を取ろうと考えるが、うまい台詞が出てこない。
「誰?」
少なくともこのビキニの女性は、自分の名を知っている。一体何者なのか。
「ナガラ衆の1人。そしてあなた達の敵」
それと、とビキニの女性は言葉を続けた。
「失礼ながらニャアン、あなたの服装は目立ちすぎる。あたしのような格好の方が良いわ」
「そっちの方が目立つでしょ、どう見ても」
ニャアンはさすがにツッコミを入れたが、ビキニの女性の後ろから複数の軍警が走ってくることに気づいた。
ビキニの女性も、それに気づいたようだ。
「いたぞぉぉぉぉ! いたぞぉぉぉぉ! 変態女だぁぁぁぁぁ!!」
軍警の一人が、ビキニの女性に十手を構えながら叫んだ。
ビキニの女性はその言葉に激昂したように叫び、走り出した。
「変態じゃない!! この姿は誇りだ!! その言葉を取り消せ!!」
「お前、その格好、常識が無いのかぁ!?」
ビキニの女性は、ニャアンに手を振りながら叫んだ。
「また会いましょう!!」
ビキニの女性と軍警たちは、「ドタバタ」という音が似合うように通路から立ち去った。
その場に残ったのは、呆然としたまま彼女らを見送るニャアンだけだった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ