まるで地獄絵図だ。
死人はいないが、まともに休めている人はいなんじゃないか?
ソドンは航行能力自体はあるが、片方のエンジンは壊れてるし戦闘能力もない。
なにかあったら随伴しているケルゲレンに何とかしてもらうしかない。
幹部は一体何枚の行政文書を書かなければならないのか、そう思うと今頃CPは地獄だろう。
そんなことをぼおっと思いながら上等兵の1人は隣で死にそうになっている伍長を見た。
3本目のエナジードリンクに手を出そうとした伍長の手を上等兵は止めた。
「糖尿病になっちゃうすよ、そんなに飲んだら」
「飲まなきゃやってらんないんだよぉ~」
「酒じゃないんだから」
チューハイ缶も大概砂糖は多いと思いながら伍長が飲もうとしたエナジードリンクを手に取る。
そしてそのままエナジードリンクを飲んだ。
ここにいる上等兵と伍長はジークアクスの件を詳しくは知らない。
マチュがジークアクスを持ち出したことを知っているのは艦橋にいたメンバーと限られた者達しか知らない。
ソドンにいる大勢はジークアクスが機体の避難の為にメカニックが操縦してそのままケルゲレン預かりになった程度の認識だ。
コモリはタンクトップ姿のシャリアを連れてジークアクスが格納されていたハンガーにいた。
大穴が空いた場所はトリモチと応急修理で塞がられている。
ハンガーの片隅にはジークアクスの予備の装備がシートで覆われて係留されている。
シートの隙間から頸部バルカンのベルトリンクの金属の輝きが照明の光を反射していた。
「ある意味、アマテさんには助けられた形になりました」
感情がない声でシャリアは話す。
「あの戦いでGクアックスまで失ったら目も当てられませんでした。ジョン君とアマテさんには感謝ですね」
「無理矢理でしたけどね」
ジークアクスを巡る騒動についてはコモリも事情はある程度までは理解していた。
マチュがジークアクスに乗り込んだこと、ゼクノヴァから現れたガンダムにジョンが乗っていたかもしれない、という話だ。
ゼクノヴァから現れたガンダムとシャアの赤いガンダムはロスト、軍警も必死に捜索しているが見つからない所を見ると上手くコロニー内に隠したか、既にコロニーから出て行ってしまったのかもしれない。
(訳わかんないことばっかだな)
ゼクノヴァからMSが出てきただけでも大事件だ。今頃、本国で調査は進められているはずだが、ゼクノヴァのガンダムがシャアの赤いガンダムと行動を共にし、2機ともロストした。
ジョンとマチュはケルゲレンにいる。
(多分、2機の赤いガンダムはケルゲレンにいる)
ジョンとゼクノヴァのガンダムが関係しているというのはコモリの推測でしかない。
それでもコモリには確信があった。
(あの夢の中に出てきた金髪イケメン、ジョン君に似てた)
コモリがジョンと直接あったのはバーで泥酔していた時で自分が何を話したのかも分からないコモリだが、ジョンの顔ははっきりと覚えていた。
そしてあの夢、バイオセンサーが見せたとしか思えない夢の中に出てきたオルフェがジョンとどことなく似ていた。
オルフェは灰色のガンダム、ストライクを気に入っているようだった。
そしてゼクノヴァから出てきたガンダムはストライクに似ていた。
何かが関係しているとしかコモリには思えなかった。
「コモリ少尉は一年戦争はどちらが勝ったかはご存じですね」
コモリが気が付かないうちにシャリアはどこからか持ち出したバランスWiiボードの上に立っていた。
「ジオンです。それがどうかしたんですか?」
シャリアは英雄のポーズを取った。
「もしも地球連邦が勝っていたとしたらどうしますか」
急に唐突な話をしだすシャリアにコモリは困惑しながらも、そのもしもについて思考する。
まず、ジオン公国という言葉が消える。
国は解体され連邦のいうことをハイハイきくしか能がない国ができるだろう。
それに独立のためにあらゆる手を尽くしてきた。
散々世間から言われるコロニー落としもコモリからすれば
「仕方ないじゃん」
と軽く思われるくらいの認識だが、ジオンはあらゆる手段を使って独立を果たした。
仮に負けたとしてもリベンジのために部隊ごとゲリラ戦をしても不思議ではない。
シャリアは犬のポーズを取った。
「私が戦った小型MS、コモリ少尉は戦闘記録で見ましたね?」
「ええ…」
キケロガを撃破しコロニー内でメガ粒子の光の翼を広げた所属不明のMS、アンノウン2と命名された小型MSはナガラ衆のMSだという。
「今回の件で確信しました。彼らは向こう側の世界から来たのでしょう」
コモリの思考が一瞬停止する。
「ゼクノヴァからやってきたガンダムと同様、ナガラ衆は向こう側から来たんです」
向こう側、有り体で言えばパラレルワールドからやってきたという話だ。
ありえないというのが普通だが、ゼクノヴァとシャロンの薔薇の存在で否定できない。
シャロンの薔薇の存在についてはコモリは噂程度しか知らない。
ただ、ゼクノヴァによって違う世界からやってきた遺物であるという話は聞いていた。
シャロンの薔薇の存在もあったのでコモリはゼクノヴァからやってきた赤いガンダムの存在をある程度までは受け入れることができていた。
シャリアは立ち木のポーズを取った。
「ジョン君、彼はナガラ衆から目を付けられています。彼の出自、洗い直した方が良いかもしれませんね」
ケルゲレンのMSハンガーの中でジークアクスは異彩な雰囲気を漂わせていた。
トラロープでジークアクス周囲のキャットウォークは閉鎖されており、誰も近寄れない。
ジョンはトラロープなんてお構いなしにジークアクスを間近で眺めていた。
シュウジは赤いガンダムをコンテナの中に隠すためにこの場にはいない。
「マチュ…」
ジョンの隣にマチュはいない。
マチュは事実上、無罪放免とはなっていた。
だが、ソドン側との擦り合わせがちゃんと決まっていない以上、とりあえず使用していない居室で軟禁状態になっていた。
その決定を決めたケルゲレンのクルーにジョンは抗議したが、聞く耳持たずだ。
ジークアクスはマチュが乗っていた時にはあったV字アンテナに似たようなパーツは非展開となりデュアルアイは見えなくなっていた。
(これからどうなるか)
あの時のマチュに化けたガンダムが言うにはOPPAI-SENSE、ストライクに変身できる能力が使えるようにはなったが、これで状況が良くなったわけではない。
ナガラ衆の懸念は絶えず残っているし、マチュやシュウジ達を今回の件で面倒なことに巻き込んでしまったと見ていいだろう。
ジョンのジオン行きも現状保留だ。
ラビアンローズでとりあえず降ろされるようだが、その後はどうするべきかまるで分からなかった。
「どうすっかなぁ」
ガンダムに変身できても問題を何も解決できていない。
サイコガンダムを撃退できただけ御の字だが、ニュースで聞く分の被害は想像以上だ。
それを思うとジョンの気が重くなっていく一方だ。
ジークアクスのキャットウォークのトラロープ前に誰かが歩いてきたことにジョンは気付いた。
ジョンが振り返るとそこにニャアンが立っていた。
ニャアンは紅白のパイロットスーツを着込んでいた。
パイロットスーツでなければ冬物のスポーツでも通用しそうな良いデザインだ。
「ジャック、久しぶりだね」
照明が反射してイエローの瞳がジョンを見据える。
「ああ、仕事には慣れた?」
「全然、まだ一週間しか経ってないんだよ。ドヤされてばかり」
「良いんだよ、ドヤされても」
ジークアクスから離れてジョンはニャアンに近寄る。
「ねえ、お腹空いてない?」
マチュの食事の運搬について話そうとしたジョンだったが、まるで先読みするようにニャアンは言った。
「少しは」
状況が状況だけにケルゲレンでの食堂ではジョンはあまり食欲が湧かなかった。
「カオマンガイ、作ったんだ。食べない?」
ニャアンが笑顔でジョンに言った。
『ちょっと待ってくださいよ、マチュは悪いことしてないですよ!!』
『しかしね…我々としては彼女を監視しなければいけない立場にあるのだから』
『トイレとかどうするんですか!?』
『女の子のトイレは気にしないの!!居室に備え付けだからホテル並み、安心して』
マチュを連行するクルーとジョンの押し問答をニャアンは当事者から見えない通路の陰から見ていた。
クルーらの言っていることは正しい。マチュが軟禁される居室はケルゲレンの中では最高クラスの部屋だ。
最高クラスの部屋に泊める辺り、決してケルゲレンはマチュの待遇を軽視してはいない。
それでもケルゲレンの都合で軟禁することには変わらないからジョンの抗議自体はニャアンにも分かった。
ニャアンはマチュの方を見た。
何か言いたげな顔を浮かべながらもマチュは軟禁部屋へと入って行った。
『マチュ』
マジかよ…と言いたげなジョンをクルーが遠くへと連行していく。
同時にニャアンはマチュの口元が歪んでいることに気付いた。
(あれは危険だ)
マチュからは何か危うい物をニャアンは感じていた。
ジョンに向ける自身の笑顔がマチュのその顔に似ていることにニャアンは気付いていなかった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ