ハロの話を聞いたジョンは思わず額に手を当てた。
連中が普通じゃないのは分かってはいたが、ここまでオカルト集団だとは思わなかった。
しかもその連中にとって自分は王子様だという。
ストライクに変身できた時点で自身がナガラ衆と同じような力があるとは思っていたが、ここに黒歴史の話が出てくるとなるとジョンの常識の範疇を大きく超えてくる。
『ナガラ衆ハ自分達ニ相応シイ王ヲ探シテイル。ソノ候補ハジョントモウ1人イル』
そんなジョンを見ながらハロは自身に内臓されているプロジェクターモードを起動した。
ハロは内部のスペースに余裕があり、こういった機能をオーナーごとにカスタマイズすることができる。
ハロが投影する光をピンクちゃんが横切っていく。
『久しぶりだね、ジョン・マフティー・マティックス。オルフェ・ラム・タオとはもう誰も呼ばないか』
ハロが投影した映像はニャアンと再会した日でありマチュと現実で初めて会ったあの日、幹線道路で遭遇した全裸少年の姿だ。
『5年ぶりだね』
あの時、ジョンが撮影するようにしていた映像をハロは保存していた。
『やっぱり、ニュータイプは癌だ。今度は負けないよ、僕がイオマグヌッソを使ってニュータイプを滅ぼせばいい。ジョン、その時僕とまた戦おうよ。5年前のリベンジだ』
『シャロンの薔薇…月の処女、ララァ・スンは世界を変えれない。彼女の騎士も愚か者だ。世界を変えるのはナガラの力を持つ者だというのに』
『僕は昔から赤ちゃんが嫌いなんだ、お母さんと赤ちゃんをいっぱい殺せるイオマグヌッソはいいね』
『眠たくなってきちゃった、まだ本調子じゃない』
『今度会うときはちゃんとOPPAI-SENSEを使えるようになってね』
記録された映像は雨の中なのであまり画質は良くない。
雨の音で声がかき消されているはずだった。
そんな状態でも少年の声ははっきりとハロに記録されていた。
あれから大して時間は経っていないはずだが、随分前のことのようにジョンは感じていた。
『アレハナガラ衆カラハ棺ノ王ト呼バレテイル者ダ』
「ハロ、なんでもっと早く言わなかった」
映像の投影を終了したハロにジョンは言った。
あの少年…棺の王のことをハロが知っているならもっと早くジョンに言う機会もあったはずだ。
何で今の今まで黙っていたのかジョンは不思議だった。
『アノ映画館デ話ソウト思ッタンダガナ、シモダノセイデナ』
あの竜頭蛇尾に終わった話し合いか…とジョンは額に当てた手の力が強くなった。
『ナガラ衆ハ棺ノ王ト君ヲ戦ワセヨウトシテイル、勝ッタ方ヲ王ニスル』
自分がストライクになれるのなら棺の王も何かしらMSになれるのだろうとジョンは思った。
「しかし、何なんだ月の処女って」
振り返ってみると色々気になることを言っている棺の王だが、ジョンは月の処女という単語がきになった。
『ナガラ衆ハ月ニ秘密ヲ抱エテイル、グラナダノ地下ニ何カガアルミタイダ』
「知らないのか?」
このハロの正体は謎だが、何でも知っている訳ではないようだ。
『何デモ知ッテイル訳デハナイ』
僅かにハロの機嫌が悪くなったとジョンは感じ、気になっていた別の話題に変えた。
「ハロ、連中はマチュやニャアン、シュウジ達の事を知っていた。奴らはマチュ達をどうする気なんだ?」
自分のことはともかくジョンはテロの被害がマチュ達に及ばないかが心配だった。
訳分からん事態の中で少なくとも自分が問題の渦中の近くにいるのだろう。
『ドウモシナイ、彼ラハ君ト棺ノ王ノドチラカヲ王ニスルコトガ最優先ダ。手ハ出サナイ。タダ…』
「ただ?」
『ナガラ衆ガ世界ヲ制スレバ、ナガラ衆ヲ除イタ全人類ハ滅亡スル』
「想像以上だな…神話の世界だ」
黒歴史の世界からやってきたのなら神話というのも間違いないだろう。
ジョン一個人でどうにかできる話ではない。
だからといっても警察や軍にハロを連れて行って全部説明したとしても何とかなる未来は全く見えない。
ハロの説明だけならジョンはこの話を信じなかった。
マチュとの明晰夢、ソドンでの一件、棺の王、セカンドVと自身が変身したストライクというのを身をもって経験した。
ある程度までは超自然現象が実在していることを信じられる下地があった。
「とにかく、ナガラ衆はマチュ達に今後手を出すことはない。そう思って良いんだな」
『ソウダ。奴ラガマチュ達ニ注目シテイタノハパラレルワールドデノ動向ダカラナ』
「…今度はパラレルワールドか」
『ナガラ衆ノ信仰スル神ガ司ッテイルカラナ』
黒歴史の次はパラレルワールドか、と思うとジョンはどうしようもなくなってきた。
パラレルワールドのことをとりあえず脇に置いてジョンは考える。
マチュ達を殺すつもりがナガラ衆にはないのであれば、ジョンは多少安堵できた。
ならば、元々のジオン行きの目的自体はそこまで間違ってはいなかった。
「ハロ、正直お前の言ってることは訳が分からない。だが、相当にまずいことが起きているのは分かった。何故僕がそこまで関わっていることをこれまで言ってくれなかったんだ?シモダの件以外でも話す機会はあっただろ」
『…正直、君ノ記憶ガ戻ッテクレルノヲ待ッテイタ』
ここにきて自身の記憶の話かとジョンは思った。
ニャアンの言っていたピンクの悪魔と呼ばれた話にマチュの自宅にあった写真などパズルのピースはあった。
ハロは待っていたのだ。
ジョンの記憶のパズルが戻るのを待ってから話そうとしていたのだ。
パズルのピースを埋めようとしても全く埋まらずにジョンはストライクになった。
『今ノ君ニ話シテモ混乱スルダロウト思ッテナ…話スノガココマデ遅レテシマッタ。
本当ニ申シ訳ナイ』
ハロの合成音声のトーンはこれまでと変わらないが、その中身は本当に申し訳なさそうにしていた。
「実際、混乱はしているしな…とにかく今の所はマチュ達に迷惑が掛からないのならそれでいい」
それを言うとジョンは天を仰いだ。
天井は思ったより綺麗だ。
綺麗な天井を見ながらジョンは今後について考える。
失われた記憶とナガラ衆の因縁、それが火の粉どこらか大火事として迫ってきている。
そして今の自分が置かれた状況はマチュから離れるためにジオンに行こうとしている。
それがどうなるかは不透明にしても半ば頓挫した当初の目的、マチュとその周囲から離れるためのジオン行きの目的が復活しようとしていた。
ナガラ衆がマチュ達を巻き込む気がないのであれば、巻き込まれるのは自分だ。
ならば…
「結局、元の地点に戻ってきちゃったな」
『ジョン?』
「マチュ達を巻き込む訳にはいかない。ジオンに行こう」
マチュが無罪放免ならば数日以内にはイズマに帰せるだろう。
ニャアンとシュウジにも問題はない。
ナガラ衆の謎が月にあるのであればちょうどいい。
それにジオン工科大学のバイオセンサー研究所があるのはグラナダだ。
『マチュハ君ニ付イテクルダロウナ』
そもそもマチュがジークアクスに乗ることになったのはジョンが原因である。
『君ガアマテ・ユズリハノ人生ヲ滅茶苦茶ニシタコトヲ忘レルナ』
責めようにも責めきれないトーンでハロは話す。
「忘れはしない」
それでもジョンは引けなかった。
「マチュは無理矢理でもイズマに帰ってもらう」
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ