ビームライフル、ビームサーベル、曲面シールド、腹部に小口径の砲…
頭部は軽キャノンのゴーグルタイプに似ているが、意匠が微妙に異なる。
機体色は二種類のブルーで塗られていた。
『軽キャノンのマイナーチェンジか』
軽キャノンの改良型であれば、性能については概ね察せられる。
ガンダム・クアックスなら苦戦する間もなく倒せるはずだ。機体を無力化してソドンへ連行し、パイロットから話を聞かねば。
つい先ほどまでそう考えていた自分を、エグザベは罵倒したくなった。
第一、堂々と自分の前に現れて自己紹介してくるような奴が、普通であるはずがない。
敵機はガンダム・クアックスに難なく追従してくる。
ビームライフルをマウント状態でマニピュレーターから離し、両手にビームサーベルを構えて、ガンダム・クアックスの正面で腕組みをしている。
ガンダム・クアックスの頭部バルカンで敵機を牽制しつつ、最大出力でスペースデブリの間を抜ける。
上、上、下、下、左、右、左、右。
頭部バルカンの残弾が少なくなり、ガンダム・クアックスは左腕でビームサーベルを抜いた。
まだビームの刀身は展開しない。
ビームライフルは戦闘開始直後、右腕ごと相手のビームサーベルで切り落とされた。
メインアームと右腕を損失したことで、エグザベは逃げつつも距離を取り、反撃の機会を伺おうとした。
しかし、相手は腕組みをしているにもかかわらず、まったく隙を見せない。
『良い判断だ。エグザベ少尉』
敵機のパイロットの声が無線から聞こえてくる。
エグザベは怒鳴り返したかったが、そんな余裕はない。
『ビームライフルを損失し、僚機もいない。こういう時は身を隠すのがベターだ。しかもバルカンの残弾数も気にする繊細さ。ちなみにバルカン残弾数はあと120発、といったところかな』
我ながら馬鹿正直だと思いながら、エグザベはモニターに投影されているバルカンの残弾数を確認した。
ぴったり120発だ。
スペースデブリ帯を抜けると、ガンダム・クアックスの機体を無理矢理別方向へ転回させた。
このままだと、ソドンの存在を敵機に気づかれてしまう。
当初の作戦としては、敵機をソドンへ誘導しつつ無力化。
ミノフスキー粒子が薄くなったら無線でソドンへ連絡し、無線が使えないならレーザー通信で敵機の存在を伝える。
そのはずだった。
だが、いきなり右腕を切り落とされた。
逃げの一手になりつつも作戦を切り替えられず、ソドンへ連絡しようとスペースデブリ帯を抜ける。
ミノフスキー粒子はまだ濃いままだ。
レーザー通信を試みようにも、その隙に敵機に討ち取られるのがオチだ。
あまりのグダグダさに苛立ちながらも、せめて敵機がソドンの存在に気づかないよう、距離を置くしかない。
それが甘い見通しだと、エグザベ自身理解していた。
サイド6にジオン軍所属機が単機で来るはずがない。
自分だったら母艦が近くにあると考える。
あの蒼いMSを駆るパイロットは、自分以上の技量と視野を持っていると考えるべきだ。
そう思うと、ソドンの存在に気づいていても不思議ではない。
「ナンブサン!!」
エグザベは吶喊した。
ガンダム・クアックスは左腕にマウントしたシールドを構え、敵機へと突っ込む。
バーニアの炎が一直線に敵機へ突き進む。
敵機は腕組みを解除し、サーベルを十字に構えた。
その姿は冷静沈着に見えたが、どこか獣のような本性をひた隠しにしているようにも思えた。
その十字を構成したサーベルを、そのままガンダム・クアックスへ投げ込む。
「なんとぉっ!」
予想外の一撃だ。
シールド表面のIフィールドと干渉し、ミノフスキーの光が絡み合う。
思わずのけぞったガンダム・クアックスに対して、敵機は胸部バルカンを容赦なく撃ち込んだ。
その弾はガンダム・クアックス本体を狙ったものではない。
左腕のビームサーベルの筒を狙っていたのだ。
60mm口径の弾が6発ほど命中し、ビームサーベルの筒を左手ごと粉砕した。
その光景が、エグザベにはスローモーションのように見えた。
『シールドでサーベルを隠して切りつけようとしたか、悪くないな』
「うるさい!!」
両手が使えなくなったガンダム・クアックスは、180度一気にバーニア出力を切り替え、敵機から離脱を試みた。
頭部バルカンの残弾120発を、狙いもつけずに敵機へと発射し、牽制する。
敵機は回避運動を取るはずだ。
そう読んで、どこへ移動しても当たるように弾幕を張る。
当たらなくても、その場に釘付けにできればいい。
だが、エグザベの心を読んだように、敵機はその場から動かず、曲面シールドでバルカン弾を弾き返していった。
『エグザベ少尉。すまない、ちょっと抜けるぞ。勝負はお預けだ』
敵機はそう言うと、機体を反転させてガンダム・クアックスの視界から離れていった。
「何言ってんだ、こいつは…」
この蒼いMSとそのパイロットには、自分の常識がまるで通じない。
ガンダム・クアックスはもう戦闘できる状態ではない。
両腕は使えず、バルカンにも弾がない。
残っているのは、予備のビームサーベルとシールドのみだ。
推進剤にはまだ余裕がある。追跡は可能だ。
ガンダム・クアックスに鞭を打ち、エグザベは敵機を追う。
戦闘で破損した箇所以外は、まだ健在。
軽快な動作を期待しながらも、エグザベの胸中には嫌な予感が強まっていった。
敵機が去った方向、それはソドンがいる方向だった。
(まさか、蒼い奴はソドンへ向かったのでは…?)
自分が懸念した通り、母艦の存在を嗅ぎ取ったのではないか。
そう考えると、エグザベは恐ろしくなった。
ソドンのクルーとスペックなら、もしあの敵機が襲ってきても返り討ちにできるだろう。
奴は何者だ?
海賊? 傭兵? それとも連邦軍の特殊部隊か?
今になって敵機の所属が気になりだした自分の間抜けさを呪いながら、エグザベは追跡を続けた。
敵機を追うガンダム・クアックスの目の前に、ソドンが駐留していた。
追跡の果てに、ソドンまで辿り着いてしまったのだ。
しかしそのソドンは、出撃前に見た姿とは大きく異なっていた。
主砲の砲身は折られ、CIWSは消滅、イルミネーターの一部は粉砕されている。
対空火器もごっそり失われていた。
艦内が阿鼻叫喚となっているのは間違いない。
エグザベは、その混乱を生み出した張本人にすぐ気づいた。
あの敵機が、ブリッジの前に陣取っている。
敵機はシールドにマウントしていた三本目のビームサーベルを抜き、刀身を形成せずにブリッジへ向けた。
『このために勝負を抜けなきゃいけなかった』
敵機の意図に、エグザベはすぐ気づいた。
「やめろ!!」
叫ぶより早く、敵機はビームサーベルの筒をブリッジのキャノピーに寸止めした。
刀身を展開すれば、ブリッジのクルーは全滅してしまう。
エグザベの背筋が凍る。
だが敵機は、ブリッジを破壊せず、サーベルをシールドへ戻した。
突っ込んできたガンダム・クアックスをシールドで押し返すと、敵機は接触回線でソドンと通信を開いた。
『ガンダム・クアックスとそのパイロットは最善を尽くして戦った』
『しかしだ。先ほど俺が行ったキャノピーへの攻撃、あれは君たちの先輩が行った所業だ』
『あの攻撃でペガサスのブリッジクルーは全員戦死した。降伏勧告すらせずにな』
『戦いは何でもありの残虐ファイトではない。死体の一部を剥ぎ取るのは犯罪だし、婦女子をレイプするのも人道ではない。だからこそハーグ陸戦条約や赤十字がある。
もっとも、俺たちの大先輩が過去の戦争で絶滅戦争まがいのことをしたせいで、信念が歪められたのだがな』
『そしてジオン公国は、またそれを歪めてしまった。勝者は敗者の意思を継がなければならない。なのに、ジオン公国はそれをしなかった』
『君達には人道というのが、これっぽっちも頭にないのだろう』
言いたい放題に言い残すと、敵機は頭部をイズマ・コロニーの宇宙港へと向けた。
『次の仕事があるので失礼する。決着は持ち越しだ』
敵機はシールドに搭載された閃光弾を周囲に発射し、一気にソドンのブリッジから離脱した。
イズマ・コロニーの宇宙港へ向けて加速する。
ソドンの生き残った対空火器とVLSからミサイルが発射されたが、弾は一発も当たらず、追いすがったミサイルも頭部バルカンで撃ち落とされた。
エグザベはすぐに追撃しようとしたが、ソドンから着艦命令が下り、追跡は不可能になった。
現実的に見ても、今のガンダム・クアックスではどうしようもない。
ソドンの甲板への着艦は自動で行われる。
トラブルが起きてもいいように気を抜かず操作を続けながら、エグザベの心には重い石のようなものが載っている錯覚があった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ