誰がどう見ても落ち込んでいるジョンをハロ達が心配そうに眺め、通路を挟みシャリアはココアシガレットを咥え、雑誌を読みながら2人の様子をチラッと見る。
(幸せになれるチャンスを何で手放そうとするんだろう)
恋バナ大好きコモリからすればジョンの思考がイマイチ理解できなかった。
あの落ち込みようを見るにジョンが本気でマチュに入れ込んでいるのは傍目からでも明らかだ。
マチュの方もジョンを追いかけてここまで来たのだから互いに両想いなのは疑いの余地はない。
それなのにジョンはマチュに別れ話を振ったという。
ゆるキャラとのドンパチは見物だったが、あの場でのジョンの言動を見る限り、コモリはジョンが自罰的な男に見えた。
シャリアが言うように身分の差が彼にとって相当なコンプレックスになっていたのだろうとはコモリも多少は考え直していた。
コモリ自身は愛の持つ力を信頼しているが、同時に愛が成立する男女交際は互いのエゴイズムのぶつかりあいでもあるという認識があった。
生まれた場所から育った環境、社会での立ち位置、自分では変えようのない部分まで容赦なく物差しで測られてしまうのだ。
ジョンはどこかのタイミングで気付いてしまったのだろう。
マチュと自身の身分が絶望的な程釣り合っていない。
交際の成功はお嬢様と難民の少女が仲良くなる以上に困難、ロミオとシンデレラ以上の溝がある。
その釣り合いのなさが今後に悪い方へと影響してしまう。
コラテラルダメージが最小限に済むのが今しかなかったのだろう。
別の視点で考えよう。
ジョンとマチュ、互いの両親が認め合っているのなら問題はないだろう。
コモリはジョンの身の上話を知らない。
マチュと同年代でコロニー公社で働いている状況を見るにジョンの両親が健在かどうかも怪しい。
マチュの両親が認めているのならジョンの気にしすぎだろう。
(多分この話、アマテの親には通してないよね)
もしもジョンがこの話をマチュの両親に話さずに一方的にマチュに話して終わり、であるのならばジョンの自分勝手というべきか、更に問題を作ってしまっている。
(大丈夫なのかな)
コモリはジョンとマチュの今後が心配になってきた。
(そういえば見たこともないサブフライトシステムだな)
多少気分が落ち着いてきたジョンは搭乗時は大して興味を持たなかったサブフライトシステムに少し興味を持った。
一年戦争時代のジオン軍は爆撃機のド・ダイにMSを乗せる運用方法を行ったことがある。
そこからMSを運搬するサブフライトシステムという分野の航空機が生まれた。
地球上での運用以外にもジョン達が今乗っているように宇宙でのMS運搬や人員輸送に対応しているモデルがある。
イズマ支部でも導入の話が持ち上がったが、一年戦争後の予算削減の煽りを受けて没になってしまった。
ジョン達の乗るサブフライトシステムは宇宙での運用を前提にしており、少人数の人員輸送とMS2機分の輸送に対応している。
ガンダムG3とその他の物資を積載するには十分なペイロードがあり、ジョン達の座席も旅客機のエコノミークラスのシート程度の快適性は確保している。
トイレと洗面台も完備しているので軍事用との航空機としては居住性も悪くない。
(思った以上に洗練されている)
生まれたばかりの分野であるサブフライトシステムだが、この機体はジョンの想像以上の完成度を誇っている。
どんな分野であれ黎明期に生まれた物というのは発展途上であり無駄が多くなってしまうことが多い。
このサブフライトシステムは生まれたばかりだが、異様に洗練されているようにジョンには思えた。
「ジョン君には言ってませんでしたね。私達が乗っているのは85式ベースジャバー、最新鋭のSFSですよ」
ジョンの思考を読んだのかシャリアはココアシガレットをかみ砕いて答えた。
ジョンから離れて無重力を浮かんでいたハロはその声を聞いてランプを光らせた。
『妙ダナ…』
『モシモシ』
ピンクちゃんはコモリの手元まで耳のような部品をパタパタと動かして飛んでいく。
ジョンとシャリアが話している中でコモリは自身の元に来たピンクちゃんに小声で聞いた。
「ピンクちゃんはジョン君のことどう思う?」
『アスラン』
どうやらピンクちゃんの中ではジョンはアスランという人物に似ているらしい。
「アスランって人に似ているのね」
『アンマリ似テナイ思ウンダガ』
ピンクちゃんを追ってハロがコモリの所へとやってくる。
『ミトメタクナイ』
『女性ノ扱イニツイテハ触レテアゲナイデクダサイ』
『オマエモナ』
アスランという人物についてジョンに後で聞いてみようかと思いながらコモリは2体のハロの言い争いを楽しそうに眺めていた。
「ジョン君、猿から人への進化におけるミッシングリンクの話をご存じですか?」
ベースジャバーの話が終わり、シャリアは唐突に話の方向性を変えた。
「猿から人へ…」
そういえばこんな話を明晰夢時代のマチュから聞いたことがある。
デイヴィッドという世界史の教師が話していた。
「サヘラントロプスでしたっけ、アフリカで発見された最古の人類とかいう」
サヘラントロプスが最古の人類か否かというのは現在でも意見が別れている。
授業の小話としてサヘラントロプスの名を冠したロボットが存在したらしいという都市伝説をマチュから聞いていたのでジョンはそれとセットで覚えていた。
「MSは歩兵と兵器をつなぐ歯車になる」
サヘラントロプスの話をスルーしてシャリアは話を続ける。
「私のマヴがその話をしてくれました」
シャリアのマヴ、その言葉の意味を考え、ジョンはすぐに答えに行きついた。
「シャア・アズナブル…」
「あなたには色々と話をしなければなりません。巻き込んでしまいましたからね」
そういうとシャリアは箱からココアシガレットを2本取り出した。
ココアシガレットの片方をジョンに向けた。
それをジョンは受け取り、ココアシガレットを口に咥えた。
ジョンの口に咥えたココアシガレットを見たシャリアは自身の口にココアシガレットを咥えた。
ジョンは思う。
金属の歯車、その言葉がどうも魅了的な響きに思えてならなかった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ