申し訳ありません。
5年前 0079.9.18
珍しく諜報部が仕事をしたな、とドレンは思った。
偽情報ばかり掴まされる諜報部が地球連邦軍の怪しげな作戦の情報を掴んできた。
話によると地球連邦軍がV作戦という名の下にMSの開発をしており、部品の搬入、組み立てがサイド7で行われているという。
ジオン軍が優勢なこの戦争だが、地球連邦軍が独自にMSを作れるようになったらまずいことになる。
MSというアドバンテージを地球連邦軍が優位に立つようになったらジオン軍は劣勢に立たされる。
諜報部がジオン公国総司令部に齎した情報により司令部の面々は側から見れば異常なくらいにパニックに陥っていた。
ただ、総司令部にとっては幸いというべきか話には続きがあった。
ジャブローから発進した新型戦艦がサイド7で組み立てられたMSを回収するのだという。
その新型戦艦を追いかければおのずとV作戦の実態を知ることができる。
ジオン公国総司令部はシャア・アズナブルの率いる部隊にV作戦の偵察を命じた。
ムサイ級ファルメルにザクを詰め込み、ジャブローから宇宙に出た「木馬」というコードネームを名付けられた新型戦艦を追尾しながら彼らは進む。
V作戦の謎を追うためにシャア達はサイド7の奥地へと向かった。
木馬が1バンチコロニーの宇宙港へ入港したのを確認するとデニム達はザクの出撃準備を始めた。
段取りはあらかじめ決めていたので準備は澱みなく進んでいく、はずだった。
「V作戦のVはvictory(勝利)って意味ですかね」
メカニックに軽口を叩きながらジーンはザクのコックピットに乗り込んだ。
武装はザクマシンガン、コロニーに穴を開けないようにホローポイント弾を装填している。
コックピットハッチが閉まり、ザクが動き出す。
やる気満々のジーンを微笑ましそうにメカニックが見送る。
ジーンのザクが一歩目を踏み出した時だった。
突然、ザクの歩みが止まった。
デニムとスレンダーのザクがファルメルから問題なく出撃することができた。
2機のザクを艦橋から確認したドレンは3機目、ジーン機を待った。
ドレンの席に設置してある艦内電話の着信音が艦橋に鳴り響く。
受話器を耳に当てたドレンはそこから悲報を聞いた。
「ジーンのザクが機能停止した?」
申し訳なさそうに話すチーフメカニックから艦内電話で伝えられた内容を聞き、どうするかなとドレンは考えた。
『コンピュータが起動エラーを起こしており、コンピュータの再起動と自己診断を行なっています。ただ、偵察任務には…』
「間に合いそうにないな」
ドレンが手に持っていた受話器をシャアは奪い取り、チーフメカニックの声を聞いた。
シャアはドレンの顔を見てニヤッと笑った。
「私が出よう」
シャア・アズナブルはエースパイロットである。
ルウム戦役での活躍が認められて赤いパーソナルカラーを認められた青二才のことがドレンは好きだった。
向上心とベテラン達への気配りを欠かさないというのがドレンのシャア評だったが、今回のように自ら出撃することは珍しくない。
メカニック達もそれを理解しているために専用機のザクをいつでも出撃できるように準備はしていた。
「少佐が出るぞ!!」
コックピットハッチすら開かなくなったジーンのザクを赤いザクのモノアイが横目で見るようにして進んでいく。
ジーンのザクからザクマシンガンを手に取ると赤いザクはMSハンガーから出ていく。
『ドレン、今回の任務は偵察だ。だが、場合によっては連邦のMSを破壊、もしくは奪取する』
宇宙に飛び出した赤いザクがファルメルに近づき接触回線でドレンに話しかける。
「戦力はザク3機です。連邦の戦力が分からない以上、積極的な攻撃は避けるべきでしょう」
薄々ドレンは分かっていたことだが、やはりシャアは偵察だけでは終わらせないみたいだ。
『正論だ。だが、ただの偵察で終わらせると後々禍根を残す気がする。コロニー内に突入するのは私とデニム、スレンダーは待機させる。もし私とデニムがやられた場合はスレンダーをファルメルに戻らせる。そうしたらすぐにサイド7から離れ、最寄りの基地へと向かうんだ』
「死ぬ気は無いでしょう」
『勿論だ』
赤いザクがファルメルから離れていく。
3機のザクが1バンチコロニーへと向かう後ろ姿を見ながらもファルメルはその船体を宇宙に漂うデブリの中に隠した。
この一帯はミノフスキー粒子を大して散布していないためファルメルの電子装備が問題なく使用できる。
レーダーを駆使して周囲をくまなく調べていく。
ファルメルの電子装備が使えるのであれば、逆にいえば連邦軍が開戦前に誇っていた電子の目も十分に生きているのだから偵察には細心の注意が求められた。
ファルメルに残された戦力のザクは動くなったジーン機だけだ。
メカニック達が大忙しでジーン機を何とか戦力復帰させようとする。
コクピットハッチを爆裂ボルトで強制的にパージして困惑気味のジーンを外に出した後はOSの再起動を試みる。
だが、ザクのモニターはブラックアウトしたまま何も反応を示さない。
10代の若いメカニックが手慣れたように自己診断装置のケーブルをメンテナンスハッチ内にある端子口に刺していくが自己診断装置は正常を示している。
「ジーンのザクの修理はまだか?少佐は既にコロニーの中だぞ」
電話口で状況を説明するメカニックにドレンは苛立ちを隠せなかった。
『何故少佐が自ら出向いたんです?ジーンを少佐のザクに乗せれば…』
メカニックとは思えない素人意見だ。
チーフメカニックに文句を言ってやろうと思ったドレンだが、電話の向こうのメカニックはつい最近ファルメルに補充で着隊したばかりであることをドレンは思い出した。
自分の思考を落ち着かせることを含めてドレンは電話の向こうのメカニックに簡単に説明することにした。
「少佐のザクは専用のカスタマイズが施されている。ジーンでは使いこなせない。それにだ…」
オペレーターが慌ただしくCIC用のタブレットを手に持ってドレンの元にやってきた。
タブレットはコンピュータの子機として利用されており、通信内容や艦の状態が表示されている。
手元にやってきたタブレットに表示されている内容を見てドレンは「やっぱりか」と呟いた。
『ドレン少尉?』
「…今回の偵察だが、状況によっては連邦軍のMSの破壊、もしくは奪取するようにと命令されている。そういった判断を下すには少佐が自ら行かれるというのは合理的な判断だ」
ミノフスキー粒子で通信手段が著しく制限された戦場ではある程度までは独断専行が許容されるケースが多い。
今回の場合に関してはMSの破壊と奪取は命令の中に含まれているので独断専行と言い難いが、戦力の差を考えれば偵察で留めるのが常識だ。
初めからシャアは偵察で終わらせる気は無かったようだが、そんな極端な行動を取った理由をドレンはシャアの普段の口癖で思い返す。
「赤い彗星のSENSE、だろうな」
『SENSE?』
メカニックは意味が分からなそうに呟く。
「少佐もお若いからな…これから忙しくなるぞ」
それだけいうとドレンは受話器を置いた。
オペレータから渡されたタブレットにはスレンダーからの通信内容が記録されていた。
『連邦軍のMSを確認、部品と完成済みのMSをシャア少佐とデニム曹長のザクで破壊、シャア少佐は連邦軍のMS「ガンダム」の奪取に成功、ガンダムに搭載されている木馬の艦橋の破壊しこれを鹵獲した』
タブレットには大急ぎで書かれた文書とデニム機のザクが撮影した艦橋が焼かれた木馬とガンダムの写真が添付されていた。
新型MSと木馬を鹵獲に成功するとは、やはりあの青二才は切れ味が違う。
「忙しくなるぞ」
書かれている内容と添付された静止画像を見てドレンは今後の事に頭を回すことにした。
「このペガサスとやらのサブブリッジの舵輪はムサイの航路をトレースさせとけばいい」
「曳航ケーブルはそのまま、エンジン出力はファルメルのテレグラフに同期させます」
鹵獲した木馬をファルメルで曳航するために木馬のエンジンルームの中からデニムとスレンダーが作業を行っている。
応援でジーンも行かせているので木馬には現状3名が四苦八苦しながら作業を進めていた。
「ここはまだ連邦軍の庭だ。給弾が済んだら手持ち式のビーム砲と盾も装備させるぞ」
ガンダムと木馬を鹵獲できたらそれで終わりではない。
さっさとサイド7の宙域から離脱しなければならない。
ファルメルのハンガーに格納されたガンダムの出撃準備をシャアとメカニックが進める。
「どうだ、V作戦のコアデータにアクセスできたか?」
ガンダムの頭部に内臓されたガドリング砲に給弾する轟音の中でシャアが大声で話す。
「まだです。少佐がメインブリッジを焼いちゃったんで時間かかりますよ」
「他に手段がなかった。君の手を煩わせてしまうな」
メカニックの駆る愚痴を受け流しながらシャアは轟音が鳴りやんだことを確認した。
ガドリング砲の給弾が終わったのだ。
シャアはハンガーにある内線電話の所まで行くと受話器を手に持ち、テンキーを押した。
「ドレンか?私だ」
『ワッケインのことですか?』
流石ドレンだ。自分の考えていることを理解しているとシャアは思った。
「そうだ。そろそろ追撃が来るはずだと思ったが…」
『今の所サラミスの機影もありません。ミノフスキー粒子も散布されておらず、不自然です』
「同感だ」
1バンチコロニーであれだけドンパチしたのならば必ず追撃部隊が来るはずだ。
それなのに不気味なくらい何も音沙汰がない。
今の状態で追撃されたらまずいことになる。
ジーンとデニムのザクは実戦に参加することはできない。
ファルメルは木馬を曳航しているために戦闘機動は取れない。
現状の戦力はガンダム、赤いザク、スレンダーのザクのみで近くにあるルナツーから追撃部隊が出てきたらどうしようもない。
追撃部隊に警戒しながらもファルメルはサイド7の宙域を抜けていく。
彼らが連邦軍の追撃部隊と遭遇することはついに無かった。
シャア達の懸念は杞憂に終わった。
0079年9月18日の長い一日はこうして終わった。
この日は世界初のモビルスーツ同士の戦闘が行われた日として記録され、
地球連邦軍はMS開発計画を大幅に変更することを余儀なくされた。
戦後に出版された歴史書には当分の間、そう記録されることになる。
サイド7の宙域を抜けていくファルメルと力なく曳航されていく木馬をデブリの陰から監視している1機のMSがいた。
そのMSはザクより小さく、15m程の大きさしかない。
ザクにもガンダムにも似ない、ガスマスクのような顔をした小型MSはデブリの陰からゆっくりと顔を出し、その身をデブリから飛び出した。
去っていくファルメルを背中に小型MSはどこかへ飛び去って行った。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ