5年前 0079.9.18
ジオンが攻撃を仕掛けてきた。
偵察部隊と思われる少人数の戦力でV作戦の成果を破壊して回っているという。
戦力はザク2機、その内1機は赤い識別色で塗りこめられている。
その第1報を聞いて「彼」はペガサスに搬入準備を進めていたRX-77「ガンキャノン」に搭乗した。
『3番機はビーム砲です!!コロニー内での使用はまずい!!それに』
「冷却に時間が掛かってしまうな」
ペガサスのオペレータからの注意を聞き流しながら「彼」はシャッターの解放を待った。
ガンキャノンの想定された運用方法は中距離支援だ。
そのための背中に背負った大砲だというのに今回の戦いに求められるのは白兵戦だ。
ガンキャノンは大砲を撃つだけしか能のないMSではない。
ガンダム程では無いが、対MS同士での白兵戦を想定した四肢の作りと重装甲を誇っている。
決してガンダムには見劣りしない。
そのことをガンキャノンが形の無い頃から開発に関わってきた「彼」が一番良く知っていた。
しかし今回は相手が最悪だ。
赤いザク、シャアが来ているのだ。
あのジオンのエースと自身のMS操縦技量は比較する必要もなくシャアが上だ。
ルナツーからの増援が来る前にシャア達はやりたい放題やって帰るに違いない。
しかも最悪に最悪が重なり、シャアがガンダムを奪取したという。
奪取されたガンダムとザク、この2機を相手に武装が適切ではないガンキャノンで戦わなければならない。
「少しでもいい…時間を稼ぐぞ」
シャッターが解放され、戦場となった外へとガンキャノンは歩いていく。
1バンチコロニーを荒らして回るザクに対してガンキャノンは挨拶代わりのビーム・キャノン砲を浴びせた。
近距離なのでザクの胴体を問題なく打ち抜けるが、「彼」は敢えてザクの肩を掠めるように撃った。
ザクの胴体を打ち抜いてしまうとザクの推進剤が爆発することを考慮して敢えて外したのだ。
不格好なくらい推進剤の詰まった下半身が爆発すればコロニーに傷がついてしまう。
ビーム・キャノン砲も極力出力を抑えたのでビームが着弾した場所は穴は開いていない。
掠めたとはいえザクは無様に地面へと転がり落ちる。
あのメガ粒子を浴びたのでザクはしばらく動けないだろう。
彼が今、対処しなければいけない問題は別にある。
「来たか」
その問題は横からゾンビのように歩きながら頭部バルカン砲を撃ってくるガンダムだ。
ガンダムは倒れたザクを庇う様に立ち塞がる。
バルカンでガンキャノンを牽制し続けたので速攻で弾が切れたようで撃ってこない。
彼はペガサスのオペレータに無線を送った。
「ガンダムの起動を確認した。シャアが乗っている」
『こちらでもガンダムの起動を確認した。ガンダムを破壊してもいい。鹵獲を阻止せよ』
「了解」
オペレータの焦りが「彼」にも分かった。
ガンダムの鹵獲に成功したシャアは次にペガサスを狙うに違いない。
そんな現実を予想しながら彼は目の前のガンダムに対してタックルを喰らわせるためにガンキャノンを走らせる。
バルカンを撃ちながらガンダムの動作を牽制、ビームサーベルを展開してガンダムのコックピットを破壊するのが理想だ。
だが、悲しいことにどちらもこのガンキャノンにはない。
タックルで距離を詰めながら、ビーム・キャノン砲をガンダムにロックオンする。
出撃前にIFFを変更しているので味方機であるガンダムにもFCSが機能した。
ガンダムもビームサーベルを展開して白兵戦の構えを見せる。
ガンキャノンの背中のビーム・キャノン砲が発射される。
それをガンダムは見切ったように回避した。
接近するガンダムのビームサーベルがガンキャノンのコックピットに迫る。
「なんとぉ」
もはや回避できない。
「彼」は大急ぎでコックピットハッチを解放した。
シートベルトを外して彼は外に充満するメガ粒子の光へと身を捧げる。
パイロットスーツをメガ粒子がズタズタに引き裂いていく。
機動中のガンキャノンから飛び出したので地面に激突したら高確率で死ぬ。
その恐怖の中で彼は見た。
ガンキャノンがシャアの操縦するガンダムにビームサーベルで貫かれる光景が、自身の血で汚れたヘルメットのバイザー越しにはっきりと見えた。
そして「彼」の身体は地面へと激突した。
『01ガンダムは何でゼロヒトなんや?マルヒトでええやん』
『ゼロイチ派もいます』
『歩行が遅い、もっと早くしないと撃たれるで』
走馬灯だろうかと彼は思った。
V作戦に参加してからの記憶が湧いて出てくる。
ガンダム、ガンキャノン、ガンタンク
この3機が歴史を変える。
01ガンダムのテストパイロットを務めていた先輩はそう常に語っていた。
今はルナツーで01ガンダムのテスト運用をしている先輩だが、思い返せば不思議な男だった。
酒、タバコ、パチンコが大好きで女性士官にセクハラをしてよく制裁を受けていた。
「彼」は当初、先輩に対して嫌悪感を抱いていた。
口の悪い物言いは先輩の悪癖であるという考えは今でも変わっていない。
だが、先輩は仕事となると途端に真摯な人間になった。
普段とは打って変わってそのような物言いは影を潜め、とにかくV作戦の為に身を粉にしていた。
脅迫信念のようなそのなりふり構わない仕事振りに思わず「彼」は先輩に聞いたことがある。
『ボンのためや、ボンをもう戦いに行かせないために、そのために強いガンダムが必要なんや』
『ボン?』
『ストライク以上のガンダムを作らなきゃいけない、今のガンダムは全然足りん』
先輩の献身でガンダムの開発は進んでいった。
実用化はもはや時間の問題だろう。
「彼」は虫の息ながらも生きていた。
泥まみれになりながらも何とか立ち上がる。
辛うじて歩ける。
痛みは鈍っていて分からない。
ズタズタになったパイロットスーツとそこから滲み出る血の量からもはやターニケットをいくら巻いても助からないだろうとは察した。
ガンダムがペガサスが係留されている宇宙港へと歩いているのが見えた。
やめろ、と呟いたはずがもはや声が出てこない。
ヘルメットを脱いで外の空気を吸い込む。
ガンダムを止めるために彼は歩き出す。
無駄な行為であるとは分かり切っていたが、それでも歩く。
倒れたザクのモノアイが「彼」を捉える。
モノアイは瀕死の中を歩く「彼」を捉え、ザクは何も手出しをしなかった。
破壊された機体の部品達が泥の中に転がる。
ガンタンクはレールガンを撃つことなくザクマシンガンに破壊された。
実弾を撃てる仕様違いのガンキャノンはもはや原型すらない。
ガンダムの部品のマニュピレータが有線ミサイルのキャニスターへとぶつかって凹んでいる。
半壊した装甲車の上部には一発も撃つことなく役割を終えたリジーナが鎮座する。
戦闘に巻き込まれた大勢の兵士の死体を遠くに見ながら彼は宇宙港へと到着した。
実の所、ガンダムとガンキャノンが戦闘を繰り広げた場所から宇宙港までの距離はそこまで遠くない。
だからこそ、「彼」は見てしまった。
ガンダムがペガサスのブリッジをビームサーベルで焼いている光景が目の前に広がっていた。
「彼」の思考は冷静に目の前の光景を分析してしまった。
「うぁ」
声にならない悲鳴が上がり、身体に力が入らなくなる。
「彼」は大地に倒れ、手に持っていたヘルメットが転がっていく。
一仕事を終えたガンダムはザクを回収するために元来た道を引き返す。
ガンダムのセンサーが「彼」の存在を捉えるが、死体となった「彼」を相手にせずにガンダムは彼のヘルメットを踏み潰して歩いていく。
「彼」の死体は去っていくガンダムの背中をずっと睨み続けていた。
自分の死を「彼」は理解した。
なのに何故、自分が宇宙にいるのか「彼」には分からなかった。
身体は動く。
だが、人間の身体ではない。
「彼」の身体はMSになっていた。
全身が蒼色に塗りこめられたMSになっていた。
遠くにジオン軍の艦艇とそれに引っ張られていくペガサスが見える。
「彼」の想像通り、シャア達はガンダムとペガサスを鹵獲したのだ。
自身に起こっている摩訶不思議な現象よりも「彼」はシャア達を止めようとMSの身体を動かす。
バックパックのバーニアを動かそうとした時だった。
『待ってくれ』
突然、どこからか声が聞こえた。
『君もナガラの使いに目覚めたのなら、俺についてきてほしい』
その声の主はすぐに分かった。
「彼」の足元からMSが飛んできた。
宇宙に足元も何も無いが、そのMSは「彼」からすれば驚くべき高機動で正面に立ち塞がった。
『お前は一体』
奇妙なMSだ。
ライトグリーンの色合いで全身に武装を取り付けている。
こんな機体がV作戦で作られているなどと「彼」は聞いたことがない。
『マイクロプラグ男だ』
『は?』
どうやらパイロットは名乗ったようだが、意味が分からないことを言っている。
コードネームか何かだろうか。
『どこの所属だ?』
『ナガラ衆だ』
『何を言っているんだ。ルナツーからの応援か?だったら』
急いでシャア達を追撃しよう、という「彼」の言葉を遮るようにマイクロプラグ男は手を振った。
『ナガラ衆は地球連邦にもジオン公国にも属さない。ナガラの元で新たなニュータイプの世界を作るために活動している。そして君はナガラの力の1つ、OPPAI‐SENSEに目覚めた』
『何を…』
『この身体の名はプロト・スタークジェガン、核兵器を搭載できる』
マイクロプラグ男はジェガンという機体を誇らしげに語る。
『君の身体はブルーディスティニー1号機、ニュータイプを殺すためのMSだ』
プロト・スタークジェガンのマニュピレータに引っ張られながら「彼」は1バンチコロニーから離れていく。
思考が正常に戻るにつれ、今の自分がとんでもない状態に陥っていることに気付いた。
だが、もうどうでも良くなってしまった。
自分が人間ではなくなってしまった。
宇宙港に自分の死体が転がっているのだろうか、と「彼」はぼんやりと思った。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ