2-1
その日の夜、各種メディアで二つの事件が大々的に報じられた。
自宅のマンションのリビングで、マチュは部屋着に着替え、テレビを見ながら時折携帯情報端末のディスプレイを眺めていた。
塾帰りの勉強思考のまま、テレビのニュースと端末から流れているニュースを見比べる。
マチュにとって気がかりなことといえば、ソドンの件だった。
会計監査局に勤めるタマキは外交第三部の部長であり、恐らく今回の事件でも何かしら対応に追われていることは間違いない。
数年前のマチュなら、こうしたニュースを自分から見ることはなかった。
ジョンからの助言と、今後の面接試験対策を兼ねて、興味のない話題でもあえて触れるようにしている。
以前、明晰夢の中でジョンが話していたことを思い出す。
『OSINT――オープン・ソース・インテリジェンスは、公開されているニュースや情報を分析する諜報活動のことだよ。
小さなニュースやあまり関係のなさそうなデータでも、集めて分析することで意外なことが分かるかもしれない。
ジオン公国のガンダムを奪取した話も、非合法な諜報活動があったとは思うけど、OSINTで得たデータも生かされたかもしれないね。
OSINTはマチュに役立つ……とは思えないけど、まぁニュースでも見ていれば面接のネタにはできるんじゃないかな』
ジョンのことを考えると、自然と体が熱くなってきた。
ニュースのことを少し忘れるように努め、ジョンに握ってもらった左手を股に挟む。
(OSINTって、なんかエッチな響き…)
ジョンは下ネタで言ったわけではない。
マチュの今夜の目標は決まっていた。昨日は逃げられたので、今日の明晰夢で居場所を洗いざらい話してもらう。
そしたら……。
マチュはテーブルに置かれた進路希望調査の用紙を見て、改めて決意を固めた。
手の動きが激しくなろうとしたその時、端末のバイブレーションがテーブルに響いた。
不機嫌な顔を隠そうともせず、マチュは端末のディスプレイを見た。
タマキからの着信だった。
表情を少し和らげ、マチュは電話に応じた。
『ごめんね、立て込んじゃって』
タマキは申し訳なさそうに言葉を綴った。端末のマイクはタマキの声だけでなく外の音も拾っており、外に出て話しているとマチュは思った。
「いいよ。でも三者面談には絶対来てね」
進路希望調査の用紙を見返しながら、マチュは明るい声で返した。
そこに書かれていることが、マチュにとっては重要だった。
『えぇ、でも不思議ね』
「?」
『アマテ、嫌がるんじゃないかと思ったから』
「そんなことない。むしろ来てもらわなきゃ困る」
『……一体何があったっていうの? そういえば今日、学校遅れちゃったの大変だったでしょ』
「水泳の授業には間に合わなかった。泳ぎたかったのになぁ」
タマキとの雑談は数分間続いた。
ジョンにはよく言われるのだ、家族や隣人を大切にしろと。
『そろそろ戻るわね』
「頑張ってね、お母さん」
自然とマチュの表情は笑顔になり、惜しむように通話を切り上げた。
「さてと……」
マチュは左手を突っ込んだまま、浴室へ向かって歩き出した。
時刻が23時を半分過ぎた頃、ジョンに意外な話が舞い込んできた。
「ジョン、YOUはソドンへ行ってもらうぜ」
コロニー公社イズマ支部の中にあるMS運用部の事務室で文書を作成していたジョンと、彼の後輩の前に部長が現れた。
部長は事務室へムーンウォークしながら入室し、開口一番にバインダーに綴じた文書をジョンへ渡した。
受け取ったジョンは、その文書がすでに決済済みであり、明日にはソドンへ行くことが決まっていることを確認した。
ジョンもマチュと同じように、ソドンが襲撃を受けたニュースを知っていた。
「分かりました。しかし急ですね」
「何せ、襲ってきたMSがイズマ・コロニーの中へ逃げ込んだって言って聞かないんだ。立ち入り調査を名目に明日にはコロニーに入るらしいが、面倒になるぜ。明日のマスコミは絶対言うぞ、『占領時代に逆戻りだ』ってな」
「管制空域下はジオンのままですし、自分たちを襲った奴を捕まえたい。そのために軍警なり行政に圧力をかけている、という感じですかね」
「70点だ。少なくともソドンには頭の切れる奴が乗ってるぞ」
ジョンは事務所の自分用ロッカーから、コロニー公社の制服を取り出した。
出向の身であるため、公社の制服を着るように指導されていた。
チラチラと制服にシワや埃がないか確認すると、再びロッカーへ戻した。
部長はダンスを続けながら言った。
「それに書いてある通り、ジョンにはソドンのMSを見てきてもらうぜ」
「わざわざMSを見る必要があるんですかね」
「ソドンというより、そのボスが今回の事件の捜査をソドンの乗組員とイズマの行政が連携して行うよう要請してきたんだ。まぁ、変なものを積んでないか、一応見てこいってことさ」
「なるほど…」
「まぁそこまで本格的じゃないさ。向こうでランチでも食べて、リラックスしてこい」
「俺は仮眠室に行くぜ」
と言いながら、部長はムーンウォークで退室していった。
「先輩、何か食いたいのあります?」
部長とジョンの会話が終わるのを待っていた後輩が、財布を片手に声をかけた。
「野菜スティックを頼むよ」
「先輩、たまにはドーナツにしましょうよ」
「一番いいので頼む」
「了解です」
後輩がウキウキで事務室から退室するのを見送り、ジョンはつけていたテレビに目を向けた。
画面では、難民による犯罪件数の多さが報じられていた。
(ニャアンは元気にしてるかな…)
仕事はほとんど終わっている。
後輩のドーナツが来るまで部屋の掃除でもするかと思い、ジョンは立ち上がった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ