グラナダに住む民間人の避難は遅々として進んでいなかった。
エアーズ市を始めとした自治都市はグラナダからの避難民の受け入れを表明しているが、何万人もの民間人を捌く余裕などない。
殴り込み艦隊が出撃した後でのグラナダ基地でもソロモンを迎撃するための準備が進められていた。
グラナダ郊外に迎撃ミサイルシステムを展開し、複数のミサイルランチャーが月面に迫ってくるソロモンへ向けられる。
並行して車両搭載型の大出力ビーム砲も準備が進められる。
月面迎撃の臨時指揮所となったパープルウィドウ艦内では喧々諤々の中で迎撃準備が進められていく。
ビーム砲の運用を任せられたアレクサンドロ・ヘンメは自分と同じくベテランの部下に指示を飛ばす。
「ヨルムンガンドがあれば…」
モニターの向こうに見えるソロモンを睨みつけながらヘンメは自身の仕事を続けた。
グラナダ基地の指令室に月面からの追撃の準備完了の報告が上がってきた。
それと同時に大型テーブルの上に置かれたスピーカーに接続したキシリアの弁当型携帯FAXに観測所からの着信が入る。
月面迎撃のためのデータ収集のために複数の観測艇とグラナダにある天文台を改造した観測所がソロモンの監視と共に殴り込み艦隊の状況をリアルタイムに把握していた。
ミノフスキー粒子が散布されているためグラナダから殴り込み艦隊に対して無線での連絡は不可能であったのでグラナダ基地から作戦の成否を知るためには彼らの観測が必須となる。
『スワメル轟沈、トクメル大破を確認』
『ソドンはソロモンへの揚陸を成功、現在キャメルとキケロガが上陸地点を護衛しています』
作戦の第一段階は終了した。
第二段階は自爆ザクの設置だ。
観測所からの報告を聞いて指令室にはつかの間の安堵感に覆われた。
この作戦の一番の問題は地球連邦軍の直掩艦隊からの抵抗だったのでここさえ超えれば成功の兆しが見えてくるという話だ。
『連邦軍の直掩艦隊が引いていきます…直掩艦隊を攻撃しているMSがいます!!』
『機種不明、新型か改造機と推測』
安堵感は突然に終わった。
殴り込み艦隊のソロモン上陸を直掩艦隊は必ず阻止しようとするはずだ。
それなのに直掩艦隊は急速にソロモンから離れていく。
しかもその直掩艦隊に攻撃を加えているMSがいるという。
「どこの所属だ?」
幹部の1人が受話器を持った。
『距離が遠すぎて不明、IFFも受信できません』
「引き続き観測を続行せよ」
『了解』
電話終了の直後、観測所と観測艇からのデータが指令室に届いた。
キシリアは観測艇から撮影された写真をタブレットに表示した。
「どういうことだ?」
写真にはキシリアが見たこともないMSが撮影されている。
ミノフスキー粒子散布の影響と距離が遠いことが重なり、全体像ははっきりとしない。
分かることは背中に何やら大きな背負い物があり、デュアルアイを持った顔立ちはどこか赤いガンダムに似ているということだけだ。
「クアックス、フレド…違う。私以外にもいるのか?」
キシリアの呟きは誰の耳にも入らなかった。
「最終目的地点に到達」
閉鎖されていたソロモンの宇宙港のシャッターを突き破ったソドンはその巨体を宇宙港へと叩きつける。
強襲揚陸艦としての頑丈さの見せ所だ。
舌を噛むほどの揺れが収まった後、ドレンは新たな支持を下した。
「MSハンガーハッチ解放、出撃だ」
待ってましたと言わんばかりに解放されたハッチから4つの小隊が飛び出して行く。
ザク、ゲルググ、ドムで構成された小隊は4機の自爆ザクを担いでハンガーから出てくる。
ここまで来るのに殴り込み艦隊からは多くの犠牲が出た。
この場にいる全員の士気は最高潮に達していた。
MS全機がソドンから出撃したのを確認するとシャアは指揮を取ろうとした。
シャアに悪寒が走った。
シャアは悪寒の先に残っていた2基のビットの内1基を飛ばした。
その先はソロモンの外、ソドンが破壊したシャッターの向こう側だ。
この場にいる全員がハテナマークが浮かんだ次の瞬間、ビットが爆発して吹き飛んだ。
「流れ弾だ」
ドレンはヒヤリとした。
ビームか実弾かは分からないが、ビットが被弾しなければソドンのエンジンブロックに直撃するところだった。
『違う、新手だ』
シャアがソドンに接触通信で応える。
ドレンは機銃手に警戒を続けるように指示を出し、キャメルとキケロガにも敵の排除を伝達しようとした時だった。
宇宙港の外を警戒していたキャメルの船体を無数のビームの光が貫いてく。
突然のビームの嵐に耐え切れず、エンジンブロックの被弾が決め手となりキャメルが大爆発を起こした。
『キャメル…轟沈』
キャメルと同じく警戒態勢に入っていたシャリアは目の前で起こった事態をソドンへ無線を送った。
信じられない光景だった。
シャリアの目の前には大量のビームの嵐が見えた。
すぐさまキケロガの有線ビーム砲台を展開して敵の排除を行おうとする。
あれだけ大量のビームを発射できるので一個小隊が襲撃に来たのだとシャリアは思った。
「全てのセンサーを使って敵部隊の場所を割り出せ、機銃、ミサイルの独自判断での使用を許可する。自爆ザク設置部隊はシャア大佐の指揮で作業を開始」
ドレンも直掩艦隊からMS部隊が阻止のために来たと思った。
ソドンがソロモンに上陸したことは直掩艦隊も把握しているはずだ。
追手が来ても不思議ではない。
『新手の排除を頼む』
『大佐、後は頼みます』
シャアとシャリアの会話を聞きながらドレンはモニターの向こうで爆発してスクラップになっていくキャメルを見た。
ドレンはキャメルのクルー達を助けたかった。
だが、クルー達を助けるための人員も装備も全て自爆ザク設置のために割り振ってしまっている。
あったとしても時間がない上に規模不明の部隊がいる。
キャメルの生き残りを見捨てるしか最善の選択肢が無かった。
幸いにもキケロガが残っているために辛うじて防御は何とかなる。
ドレンは冷徹な思考の元で感情を抑え込む。
小隊を率いてソロモンの奥へと消えていく赤いガンダムがソドンに対して敬礼をした。
ドレンも赤いガンダム、シャアに対して敬礼を返した。
敵機の反応がまるでない。
ミノフスキー粒子散布下でも十全に機能するキケロガのセンサーには反応すらない。
「どこからの攻撃だ?」
シャリアは自分の中に宇宙を作るイメージを抱いた。
キケロガを中心に心の中の宇宙を広げる。
ソドン以外戦闘不能になってしまった殴り込み艦隊、遠巻きに自分達を狙ってくる砲撃、破壊したMSと艦艇のデブリ…
その宇宙の中に決定的な違和感を持った影がある。
心の宇宙から現実の宇宙へと戻ったシャリアは
「誰だ!?」
キケロガのバーニアを全力で吹かした。
キケロガがいた場所には無数のビームが飛び交う。
ビームがキケロガを狙って飛んでくる。
凄まじいGが機体とシャリアに掛かる。
シャリアの動体視力はそのビームを発射する魔物の正体を見た。
『中尉、敵はビットを使っています!!』
シャリアからの無線連絡を聞いてドレンは顔を顰めた。
(連邦軍もサイコミュを使うようになったのか…するとシャア大佐と同じくニュータイプか?)
サイコミュはジオンの専売特許だと思っていたが、まさか連邦軍が実戦投入してくるとはドレンは思ってもいなかった。
『ガンダムのビットよりも小型です。ビームも30発以上撃てるみたいです』
「何だって!?」
ブリッジに残っていたチーフメカニックが驚いた声を上げた。
ドレンはチーフメカニックの顔を見てアイコンタクトで説明を求めた。
チーフメカニックもそれに頷いた。
「地球連邦軍にビットのノウハウがあるとは思えません。サイコミュは我が軍でも最先端の兵器なんですよ」
先程のキャメルが轟沈した時の光景をドレンは思い浮かべる。
あの大量のビームは確かに赤いガンダムのビットとは毛色の違う力だ。
それにそんなサイコミュ兵器を実用化しているのなら今頃ルナツーの防衛に使った方が効果的だ。
「中尉、相手の脅威が分からない以上深入りするな!!外の守りは中尉しか…」
「MS1機の機影を確認」
「本艦に向かってきます!!」
未知の相手とは対策が出来るまでは極力戦うべきではない。
シャリアにはソドンに敵機が近付かないようにして欲しい。
そう伝えようとした時、オペレーターが悲鳴を上げるように報告を上げた。
「機銃、ミサイルをありったけ撃ち込め!!」
IFFへの応答がないMSにソドンは可能な限りの攻撃を行った。
人力での機銃の射撃と個艦防空ミサイルをVLAから発射される。
CIWSが起動してMSを狙う。
MSには着弾しているはずだった。
1機のMSには過剰なくらいで普通なら消滅しているはずの攻撃を受けても尚、そのMSは傷一つ付かずにソドンへと向かってくる。
(そうか、そのためにキケロガを狙ったのか)
ドレンは先程のビット攻撃の意味を察した。
邪魔なキケロガを撃墜出来なくてもソドンから引き離すためにビットを展開したのだとドレンは思った。
「来ます!!」
ドレンは自分以外のブリッジに残った要員を避難させようと指示を出そうとした。
だが、指示を出す前にそれは現れた。
MSがソドンの迎撃を掻い潜った速度でUターンを決め、ブリッジの前に現れた。
ブリッジにいる全員がそのMSの容姿を見て絶句した。
そのMSは間違いなくガンダムだ。
V字のアンテナとデュアルアイの目を持った顔、胸部に設けられた排気口はガンダムの見た目そのものだ。
赤いガンダムと比べると全身がマッシブな印象で胴体からはケーブルが剥き出しになっている。
何より目を引くのがそのガンダムの背中にある物だ。
背中には光背のような装備を携えており、それがビットなのだろうとドレンは判断した。
「神なのか…?」
宗教の美術で使われる光背を背負ったガンダムを見た時、ドレンは自分が放ったとは思えない言葉を発した。
右腕に大柄なビームライフル、左腕にシールドを携えたその姿はガンダムだ。
だが、目の前にいるガンダムは兵器の域を超えた存在のようにドレンは思えた。
いや、この場にいる全員が同じような感想を抱いていた。
神のようなガンダムが左腕のシールドをブリッジへ向けた。
シールドには2門の砲が備え付けられており、ガンダムが何をしようとしているのかドレンはすぐに分かった。
CIWSは弾切れを起こし、ミサイルは近すぎて発射できない。
複数の機銃がガンダムに向かって射撃を始めるが、全く傷が付かない。
「ブリッジ要員は全員退避!!」
ドレンの言葉と共にガンダムのシールドがブリッジに近付いた時だった。
ソドンの後方に広がる宇宙から巨大な赤いビームが宇宙港内部に飛び込み、ソドンに襲いかかるガンダムに向かって飛んできた。
赤いビームはガンダムの左腕に着弾し、シールドごと消滅させる。
それだけでは満足しないように赤いビームはガンダムの後ろ側にある隔壁まで消滅させる。
ガンダムも後ろへと吹き飛ばされる。
『ご無事ですか!?』
シャリアの無線が飛び込んでくる。
ブリッジのモニターに後部の光景、シャッターを破壊した出入り口から装甲がボロボロになったキケロガが顔を見せる。
ドレンは一瞬、キケロガからのビーム砲台からの攻撃だと思った。
しかし、キケロガから放たれたビームではないとすぐに分かった。
キケロガの上に巨大なビームキャノンを両手に持ち、立膝をついて構える1機のMSがいた。
どうやらあのMSに助けられたらしい。
そのMSはキケロガから離れ、肩に装着しているガドリング砲を隔壁にぶつかって倒れ込んでいるガンダムに向けて発射した。
それでもガンダムに傷付く様子は見られない。
MSは宇宙港の中に飛び込み、ソドンに近づく。
遠くからでは分かりづらかったそのMSの様子がブリッジからでも分かった。
そのMSもまたガンダムだった。
ソドンを襲ったガンダムよりスマートな見た目をしており、色合いは赤いガンダムによく似たカラーリングをしている。
赤いといっても色合いはピンクに近い。
イエローのデュアルアイがブリッジの方を向き、接触回線が開く。
『敵対の意思はない。作戦行動が可能であればそのまま遂行してほしい』
機銃が赤いガンダムの方に向けられる。
接触回線で届いた声は少年、まだ10代前半くらいの幼い声だ。
少年兵が乗っているのかもしれないとドレンは思ってしまった。
「お前の名は何か?」
本来ならもっと気にするべきことはあるはずだが、ドレンは思わず聞いてしまった。
『オルフェ・ラム・タオ…古い名前だが、他に名乗れる名もない』
オルフェと名乗る少年はそういうと接触回線を切った。
そしてソドンから少し離れると赤いガンダムの姿が変わった。
先程まで持っていたビームキャノンと肩の兵装は無くなり、一瞬で背中に羽のようなバックパックが装着されていた。
ビームキャノンの代わりに右腕にビームライフル、左腕にシールドを携えている。
まるで魔法のような所業を見せた赤いガンダムは左腕のないガンダムに向かって飛んで行った。
左腕のないガンダムも起き上がりシャア達が作戦のために向かった奥部へと逃げ込んだ。
赤いガンダムもその後ろ姿を追って突入した。
後に残されたのはソドンとキケロガだけだった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ