13-1 横恋慕
自分は夢を見ているのだろう。
ぼんやりとマチュは首元のネクタイに触れた。
ハイバリーハウス学園の制服はイズマ・コロニーの自宅に置いてきた。
ウィンザーノットで締めたネクタイとカーディガンの肌触り、これは自身の制服で間違いない。
しかし、パルダ・コロニーにあるはずがない。
ここにあるはずのない制服を着ている理由が分からず、マチュは身なりを気にしてるとどこからか声が聞こえてきた。
「…パワーエクステンダーの換装、だいぶ掛かっちゃったね」
「…バッテリーの容量が増えるだけでも助かる。エリカさん達には感謝だな」
「…ルージュと同じ赤色にするの?」
「…俺は青と白のストライクが気に入っているんだ。同じ色になったらカガリとペアルックになるぜ」
「…オルフェ」
「…妬くなよ、キラ」
マチュが顔を上げるとそこは見知らぬ部屋だった。
部屋の雰囲気からケルゲレンのような戦闘艦の居室だろうとマチュは思った。
その居室にあるベッドの上で2人の男女がまぐわっていた。
男がオルフェ、女がキラという名前なのだろう。
2人はマチュに気付くことなく行為に及ぶ。
無意識の内にマチュは2人に向かって歩き出した。
近くで見る彼らの幼さが残る顔立ちを見るに年齢はマチュと大して変わらない、少年と少女だ。
オルフェの上に馬乗りになったキラはポニーテールに纏めた髪を揺らし、紫色の瞳でオルフェを凝視する。
ベッドの柵には2人分のMS用のパイロットスーツが掛けられており、サイドテーブルにはボディタオルと封が切られたコンドームの箱が置かれている。
「零式がビームを使えたら便利だと思うんだけどな」
「メビウスゼロ、アークエンジェルにまだ置いているらしいよ」
「今度改造してみるか」
「今度、か」
少年の言葉を聞いて少女の動きが強くなる。
「今度なんてあるのかな」
「ある。みんながいる」
涙を湛える少女の顔を見てマチュは綺麗だと感じた。
化粧はマチュよりもずっと控えめだが、涙で歪んだ顔ですらマチュには綺麗に見えた。
「ストライクも前より強くなった」
「でも!!」
キラの悲痛な叫びが部屋中に響く。
オルフェは右手をキラの頬を撫でる。
「キラは死なないさ、俺とストライクがいる」
「オルフェは?オルフェはどうなの?」
「…神のみぞ知る、だろうな」
その言葉を聞いてキラの動きが早くなる。
マチュはオルフェの顔を見た。
その綺麗な金髪と優しげな顔立ちを見てマチュは思わず呟いた。
「ジョン…?」
ジョンとオルフェは何もかも違う。
名前も顔も身体の作りも全て違う。
普通に考えれば他人でしかない。
それなのにマチュは目の前のオルフェがジョンだという確信があった。
魂というべきものが同一のようにマチュには見えた。
「ジョン!?こんなところで何やってるの!?」
マチュはベッドの上のオルフェに触れようとした。
だが、オルフェに触れることができない。
透明な結界のような物に阻まれてしまう。
一昔前のビデオゲームのようにマチュは彼らの近くに立つことは出来ても彼らに指一本触れることができない。
「ジョン、何でエッチしてるの!?」
マチュの問いにオルフェは答えない。
2人の喘ぎ声が部屋中に響く中、マチュは叫ぶ。
「止めてよジョン、私以外としないでよ」
「ジョン、私の事を好きだって言ったよね、あれは嘘だったの?」
「この女と付き合いたいからあんな電話したの?あんな屁理屈なんてどうでも良いのに」
「無視しないで何か言ってよ!!」
行為が最高潮にまで達し、オルフェの身体にキラが倒れ込む。
キラを抱いたオルフェはキラの髪匂いを嗅いだ。
ポニーテールの結び目に鼻を当てると息を少し切らしたキラが両手でオルフェの頭を掴んで自分に向けさせた。
「…ポニーテール…ずっと結んでたな。匂うよ」
「好きでしょ…オルフェ」
「…髪が薄くなっちゃうぜ」
「それまで…生きていれるかな」
オルフェの頭を解放したキラは互いの両手を握った。
「ジョンから離れろよ!!」
「何でジョンとエッチしてるんだ!!そこは私の居場所だろ!!」
「あんたなんかより私の方が先に好きになったんだ!!」
「離れろよキラ!!」
マチュの怒号などまるで聞こえないような2人は行為の疲れからか急速に眠りに落ちていくように静かになった。
自身の胸板の上で眠るキラをひと撫でしたオルフェは優しげな視線をキラに向ける。
「髪が全部白くなって、髪が薄くなるまで生きるんだ」
眠りに落ちたキラにその声は聞こえない。
「俺は地獄に行くが、お前は来るなよ」
オルフェはキラにそう呟くと幸せそうに目を閉じた。
目の前の光景が夢であることなどマチュにはどうでもよい。
どう見ても他人にしか見えないジョンとオルフェを同一人物とすることへの違和感などもっとどうでもよかった。
あれだけ恋焦がれている少年が自分よりも綺麗で可愛い少女とベッドの上で愛し合っているという光景自体が受け入れ難い光景そのものだった。
その光景を目の前にしながらも一切手を出せず、あまつさえその行為を特等席で見せられる。
叫び続けたマチュは息を切らしてベッドの上の2人を睨みつける。
マチュは2人を引き離したかった。
引き離して怒りをぶつけたかった。
だが引き離せない以上、言葉で訴えるしかない。
叫ぶしかできない自分が惨めでしかたなかった。
いくら自分が叫んでも2人には決して聞こえない。
痛みのない拷問だ。
そんな地獄のような時間を味わいながら、マチュの意識は次第に薄くなっていった。
汗でシーツを汚しながらマチュは目覚めた。
枕の横に置いてある端末を開き、通知画面の時刻を見ると午前3時21分を表示していた。
額の汗を拭ってマチュはベッドから起き上がった。
社長宅の使われていない小さな部屋に簡易ベッドを置いただけの部屋でマチュは窓の外の光景を眺める。
『マチュ ダイジョウブカ』
マチュと共にベッドで眠っていた白いハロは気遣うような声色でマチュに話しかける。
「悪い夢を見てたみたい…」
部屋の片隅に置いたリュックサックの中が光っている。
リュックサックの中にあるT字型の金属片が鈍い光を放つ。
気遣うハロを撫でながらマチュは自分の心が濁っていくことに気付かない。
眠れない中、マチュはある事を決意して夜が明けるのを静かに待つことになった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
-
ジョン・マフティー・マティックス
-
アマテ・ユズリハ(マチュ)
-
ニャアン
-
シュウジ・イトウ
-
シャリア・ブル
-
シロウズ
-
サンライズカネバン社長
-
シイコ・スガイ