沈黙が車内を支配する。
ジョンはシャリアと目を合わせない。
(やっぱりバレるか)
シャリアの放ったことばを聞いてジョンは存外冷静に受け入れていた。
さすがはニュータイプだとジョンは思い、話をどうするべきかと悩んだ。
シャリアは常日頃から飄々とした男だが、決して軽薄な人間ではない。
ジョンがシャリアと直接接したのは軍警本部ビルでの面会とイズマ支部でのやりとりくらいしかないが、その短い期間であってもジョンはシャリアにある程度の信用を置いていた。
ストライクに変身…OPPI-SENSEの話をシャリアにするべきだろうかとジョンは思っているとシャリアはサイドブレーキの横にある小物入れからコーラシガレットを2本取り出して自身の口に咥えた。
「人の心を覗きすぎるのは良くない。我々の間には隠し事など無くなるのだからな…」
シャリアのその言葉はシャリア自身の言葉ではない、誰かの受け売りだろうとジョンの直観が示す。
「大佐が最高級のボルドー産のワインを開けてくれた時にそんな事を話してくれました」
大佐というのはシャリアのマヴであったシャア・アズナブル大佐だろうとジョンは思った。
以前ソドンを訪れた際に疑似重力ブロックをジョン達は見学させてもらったことがあるのでその辺でのやり取りだろう。
「大佐はシャア・アズナブルという生き方を嫌っていました」
その言葉にジョンの頭にハテナマークが浮かんだ。
『ドウイウ意味ダ』
ジョンに代わってハロがその言葉を問う。
「大佐の父親は大佐に対して『英雄』として生きるように強要してきました。
『大宇宙の戦士となり、どんな船よりも速く自由に天駆ける騎士となり、ニュータイプとして世界を救う』
…大佐は日頃から父親に言い聞かされたようです。幼少期から徹底した英才教育と戦士としての才能を鍛えられたので相当鬱屈としていた」
ジョンはシャアの半生を知らない。
一年戦争中の活躍こそ知れど育ちのことなどまるで知らない。
シャリアのその言葉からはシャアの苦労が滲みでているようにジョンは感じた。
「ジョン君はグラナダの発展の歴史はご存じですか?」
「サイド3の建造のための開発拠点ですよね。サイド3のコロニー建造が落ち着いた後は重工業で発展、一年戦争後は重工業以外にも流行の文化の一翼を担っていると研究所の人が言ってました」
飲み会でのブラジャー部長の言葉を思い出しながらジョンは言った。
「80点です。残りの20点を話しましょう」
シャリアはコーラシガレットを少し噛んだ。
「グラナダの開発初期の頃です。地中レーダー探査が行われていた時、どうやら地下に巨大な空間があることが分かりました」
「当時の人々は地下に巨大な空間があるので居住スペースに活用できると大喜びしたそうです。喜び勇んでその空間に穴を空けて入りましたが…」
シャリアは言葉を噤んだ。
「そこにはこの世の物とは思えない物が眠っていたそうです」
「何があったんですか?」
月の地下空間に怪物が眠っていたのかとジョンは思ったが、シャリアは指を振った。
「大佐は何が眠っていたかは話してくれませんでした。ただ、その場に居合わせた大佐の父親はそこで何かを見た。
…そこで見た光景から大佐を『英雄』として育てようとしたみたいです」
ジョンは悪目立ちしないように端末でそれらしい話がないか検索を掛けた。
月の都市伝説こそ昔からあるが、シャリアの語るような話は見られない。
「検索してもないと思いますよ。私も気になって色々調べましたが、それらしい話は見つかりませんでした。ただ…」
シャリアはコーラシガレットの残り半分を噛んだ。
「その穴はグラナダ基地に残されており、その巨大な空間を知る者からは『天国の記憶』と呼ばれているそうです」
「天国の記憶…」
大層な名前だとジョンは思った。
都市伝説の域を出ない話である。だがつい最近、この話に近いことをジョンは聞いた。
『ナガラ衆ハ月ニ秘密ヲ抱エテイル、グラナダノ地下ニ何カガアルミタイダ』
ケルゲレンでハロが話したことをジョンは思い出した。
(シャアの父親は黒歴史を見たのか?)
『アンノウン1… ブルーデスティニーヲ含メテ、コノ宇宙世紀デハ生マレテクルコトノナイMSダ。アノMSハ前ノ宇宙世紀デロールアウトシタ』
『違ウ。ストライクハコズミック・イラノ時代ニ誕生シタMSダ』
『宇宙世紀以外ニモイッパイアルゾ。未来世紀、アフターコロニー、アフターウォー、リギルド・センチュリー』
ハロの言葉を反芻してジョンは考える。
ハロが言っていた『前の宇宙世紀』、そこにもシャアは存在しており、今と同じく英雄であってそれに纏わる物をシャアの父親は見たのではないか?
「天国の記憶はキシリア様と極僅かな人間しかアクセス手段を知らないそうです。
私がこの話を知っているのは大佐から聞いたにすぎません」
ナガラ衆と関係のあるかもしれない天国の記憶、その存在を知るキシリア・ザビのことを考えるとジョンは寒気がした。
国家どころか世界転覆を目論むテロ組織とジオンのトップが繋がっている可能性が出てきたのだ。
「何てことだ…」
シャリアに自分がストライクになれることがバレる以上にまずいことが進行している。
ハロからの説明を聞いた時以上に頭が痛くなってきた。
「この話を知ってしまった以上、もう助からないかもしれませんね」
シャリアは残っていたコーラシガレットを全て嚙み砕いた。
「私と大佐はどうもキシリア様からの覚えが悪いみたいで、こういった話からはかなり遠ざけられてます。
おかげでキシリア様が何を考えているのかさっぱりです」
それって嫌われているのではとジョンは思ったが、シャリアは首を横に振った。
「木星の船団が地球圏に帰還した後、キシリア様が歓迎式典に参加されてました。
ただ私の顔を見た瞬間、滅茶苦茶嫌そうな顔をしてましたからね。生理的に嫌いなんでしょう」
涼しい顔でシャリアは言う。
「最初の話に戻りましょう。ジョン君、君があのガンダムのパイロットで間違いないですね」
少々誤解があるが、シャリアの認識は概ね正しい。
ナガラ衆からは星の王子とオルフェ・ラム・タオと呼ばれているのは事実だ。
変身については語弊があるが、ストライクを動かしているのはジョンであることに間違いない。
「…あのガンダムの名前はストライクです」
ジョンはシャリアの言葉を肯定した。
「ガンダム・ストライク…違うな。ストライクガンダムの方が良い。中々良いメドレーです」
シャリアもまたジョンの言葉を冷静に受け入れた。
「ジョン君、君とストライクのことを私は誰にも言いません。ただ、聞きたいことがあります」
「あなたはアマテさんとどう向き合うつもりですか?」
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ