シャリアのその声には多少の非難が混じっていた。
ブラウ・ブロ号の運転を自動運転に切り替えたシャリアはジョンの方へと顔を向ける。
「私がジョン君に説教するのはお門違いです。
私が君達を引き裂いたと言われても仕方ない。
しかし、何も別れ話をすることは無かったのでは」
「前にも話した通りですよ。ナガラ衆とそれに加えてストライクの件もあります。これ以上マチュを巻き込めません」
「グラナダ出張は3か月、ジョン君は3か月後、イズマ・コロニーに帰ったらどうするつもりですか」
「幼馴染にも同じことを言われましたよ」
電話越しでのニャアンの言葉を思い出しながらジョンはハロに額を当てる。
ニャアンに話した通り、何事もなくグラナダからイズマ・コロニーに帰れた後をジョンは何も考えていなかった。
仮に帰れたとしても出来ることは限られている。
せっかく交際を認めてくれたタマキに頭を下げに行くのは既定路線であるが、MS運用部にも相当な迷惑が掛かってしまっている。
もう元の生活は戻ってはこないだろう。
マチュとの関係を清算、いや事実上の絶交だろう。
何でも屋を辞めてイズマ・コロニーを離れるのも有りかとジョンは思った。
ジョンは何でも屋に至るまで各地を転々とする流浪の旅を続けてきた。
パルダ・コロニーに顔を出してニャアンの生活が安定しているのを見届けたら流浪の旅を再開するのも選択肢にある。
(イズマに来たのが2年前、それまでは社長と旅をしてきた。今度は1人旅だが、それもいいか)
「逃げるんですか」
ジョンの心を読んだシャリアは先程よりも強い非難を込めて言った。
シャリアの非難は正しい。
ジョンとしてはマチュを巡る問題はどんな形であれ決着を付けなければならない。
ただ、今の自分が決着を付けなければいけない問題は別にある。
「ナガラ衆ですか」
思考を読んだシャリアが小さくため息をついた。
不幸が逃げない程度の小さなため息だ。
ジョンもそれにつられてため息をつく。
「そのためにグラナダに来たんですから」
もっとも、当初の目標からズレにズレまくって今がある。
ジョン1人で考えられる限界でもあったが、出来上がった絵図は相当に複雑だ。
「ジョン君はナガラ衆の秘密を知りたい。そう考えてますね?」
新たなココアシガレットを箱から1本取り出してシャリアは口に咥えた。
ナガラ衆についてジョンが知りうる知識はハロからの情報くらいしかない。
そのハロですら意図的に情報を省いている節がある。
日頃からハロと接しているジョンだったが、ナガラ衆とオルフェについて話すことはグラナダについてから話すことはあまりなかった。
ハロから話を聞いてしまったら、もう元には戻れなない。
そんな気がしてしまい、ジョンは聞けずじまいになっていた。
「ジョン君が考えている通り、キシリア様はナガラ衆と手を組んでいると見て間違いないでしょう」
シャリアはココアシガレットの箱を取り出した。
「グラナダ基地の地下にある天国の記憶、大佐を苦しめてきた『何か』がそこにはある。そして…」
シャリアが言いたいことがジョンには分かった。
「ナガラ衆の秘密がそこにある」
ジョンの膝の上にいるハロがゆっくりと動きシャリアに視線を向ける。
シャリアは微笑み、ココアシガレットの箱から1本取り出す。
「私と組みませんか?ジョン君」
差し出された1本のココアシガレットを見てジョンは手に取った。
「私は大佐を探しています」
ココアシガレットの箱をブラウ・ブロ号の小物入れに戻す。
「恐らく君は覚えていないでしょうが、大佐が消えた理由はナガラ衆にある」
『第2次ソロモン会戦ノ話ダナ』
『ナツカシイ ナツカシイ』
これまで黙っていた2体のハロが喋りだした。
「君達も普通のロボットではありませんね」
『少々訳アリダ。ジョントシャリアノ害ニナルヨウナコトハシナイ』
「これまで黙って聞いていたのは私を見定めていた。そうですね?」
『2人ノ話ガ気ニナッテイタダケダ』
「そんなに喋るなら最初から話してくれよ…」
饒舌になったハロに対してジョンは呆れながらピンクちゃんをM-65のポケットから出した。
窮屈そうだったピンクちゃんは両手両足を展開して解放された喜びを表現し、ジョンの頭上に居座る。
「君はナガラ衆の正体を掴み、あわよくば無力化を考えている。私は大佐の捜索でナガラ衆の謎を追っている。利害は一致しているでしょう」
ジョンは頷いた。
実際、ジョンはナガラ衆の無力化を考えているのは事実だった。
元来であればそういうのは警察と軍の仕事であるが、あんな超常現象テロ組織、行政がどうにかできるような相手ではない。
無力化は出来なくともナガラ衆の実態を掴むことができれば多少の自衛は出来るだろうという考えがジョンにはあった。
「それに君には借りがあります。覚えてはいないでしょうが…」
どういうことか、とジョンが聞き出す前にシャリアの端末から着信音としてアレンジした『欲しいものすべて』がブラウ・ブロ号の車内に響き渡る。
「失礼」
シャリアは端末を通話モードに切り替えて通話を始めた。
端末のストラップホールに吊るされたキケロガの巨大なストラップが揺れる。
「…何ですって、分かりました。すぐに戻ります」
先程の飄々とした態度から急変したシャリアにジョンとハロは顔を合わせる。
通話を切ったシャリアはブラウ・ブロ号を自動運転から手動運転へと切り替えた。
「大変なことが起きました」
シャリアはブラウ・ブロ号を交差点でUターンを決めて元来た道を戻り始めた。
「どうしたんですか?」
シャリアの焦り方は尋常ではない。
「いいですか、落ち着いて聞いてください」
長年昏睡していた患者に語りかけるような口ぶりでシャリアはジョンに言った。
「エグザベ君とコモリ君がナガラ衆に拉致されました」
ジョンの思考が一瞬フリーズした。
「これからグラナダ基地に戻ります。ジョン君にも来てもらいますよ」
「…こんなの嘘だろ、何故なんだ…」
『イヨイヨカ』
ジョンの呟きにシャリアは応えずにそのままグラナダ基地へと向かう。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ