バイオセンサー研究所の事務室に電話がひっきりなしに鳴りひびいていた。
休日に出勤していた少数の事務員だけでは対処が追いつかずに研究室で仕事をしていた研究員を引っ張り出してまで対応をしている。
ブラジャー部長は事務室のテレビを見ながら受話器の向こうにいる相手に苛立ちを覚えていた。
テレビにはグラナダ市街地にある民間の宇宙港にある大型貨物搬入口から宇宙へと飛び立っていく未確認の巨大MSが映し出される。
30m近い巨体が搬入口ギリギリを絶妙な操縦で潜り抜けていく光景が監視カメラに記録されており、厚化粧のアナウンサーがわざとらしい驚愕の表情を浮かべており、それですらブラジャー部長の癪に障った。
「正気ですか!?テロリストに武器を渡すなんて!?」
『しょうがないだろう!!シャリア中佐とマティックスも人質になったんだ!!』
「グランドスラムはともかく、クアックス用のライフルの改造品もあるんですよ。それをナガラ衆と名乗っているテロリストに渡せと!?」
休日と飲み会の二日酔いの合わせ技で自宅で気持ちよく休んでいたブラジャー部長は緊急の呼び出しを受けてバイオセンサー研究所にかっとんできた。
研究所に行く道中のカーステレオのテレビからジオン軍人がナガラ衆を名乗るテロ組織に拉致されたという速報が流れてきており、自分が呼び出されたのもこれだろうとブラジャー部長は思いながら車を飛ばした。
研究所の事務室に飛び込んだブラジャー部長は電話の向こうにいるグラナダ基地から電話をかけてきた幹部から開口一番にこう言われた。
『シャリア中佐と君の研究室に所属しているジョン・マフティー・マティックスがナガラ衆に拉致された。
ナガラ衆はジオン工科大学第8研究室に保管されているガンダムG3用の武器一式を引き渡せと言ってきている』
連絡を入れてきたナガラ衆はシャリア達を誘拐したことを伝え、その口で武器を強請ってきたのだ。
ジョンの誘拐もショックだが、軍隊ふぁ馬鹿正直にテロリストの要求を呑もうとしていることにブラジャー部長は苛立ちを隠せない。
テロリストをグラナダに立ち入らせたのは明らかに行政の怠慢でしかない。
その標的に自分達が面倒を見ている少年が巻き込まれたのだ。
「軍は救出部隊を出すんですか?出すのであれば準備しますよ。弾を抜いて」
『救出については電話では応えらない。弾はちゃんと装填するんだ。不発弾や変な工作はせずに十全に撃てるように!!』
電話は平行線だが、ブラジャー部長は端末で第8研究室で休日出勤している研究員達に連絡を入れる。
バイオセンサー研究所の武器庫に保管されているG3用の武器一式をハンガーにあるコンテナに入れるように指示を出していく。
「G3はどうしますか?」
『G3は渡すようには言われていない。渡した所で何の役にも立つまい』
「…分かりました」
ガンダムG3はオーバーホールと改修を兼ねてグラナダ工廠へと搬入されている。
寄こせと言われても今頃ガンダムG3は切り身になっているだろう。
幹部の発言に苛立ちながらもブラジャー部長は電話を切ろうとする。
『…待ってくれ』
電話を切ろうとしたブラジャー部長を幹部が引き止め、受話器から空気を切るような音が聞こえる。
幹部から電話相手が変わったようだ。
『急な話ですまないな。ガンダムの武装を引き渡す決定を下したのは私だ』
その声を聞いてブラジャー部長はビクッとなった。
「キシリア様」
『救出部隊については現在準備を進めている。マティックスを必ずや救出してみせよう』
電話の相手が一幹部からキシリア・ザビに代わり、ブラジャー部長は「はい」としか言えない。
「…ジョンをお願いします」
『任せてくれ』
キシリアが電話を切ったのを確認するとブラジャー部長は乱暴に受話器を戻した。
その音に周囲にいた事務員がビクッと反応する。
苛立ちを隠せないブラジャー部長は次の行動に移ろうとした。
「何やら大変なことになっていますね」
後ろから掛けられた声を聞いてブラジャー部長は振り向いた。
振り返るとそこには目元まで長い金髪を伸ばし、緑を基調とした服装をした男が立っていた。
その男の姿を見たブラジャー部長はオーバーリアクションの驚きを見せた。
「シロウズ君じゃない、どうしてここに?」
ブラジャー部長の目の前にいるのはシロウズだった。
「ミス・ティルザからグラナダに来ているのならジョンに会ってこいと言われてしまいまして…休日なので日を改めようと思ったのですが、何やら揉め事があったようですね」
「何呑気なこと言ってるの!?ジョン君が拉致されたのよ」
ブラジャー部長とシロウズは互いに見知った仲であった。
彼女から見ればシロウズはイオグマヌッソの開発責任者であるレオ・レオーニに従事する何でも屋の社長だ。
サイド6の何でも屋の若手社長がどういう訳かイオグマヌッソの建設に携わっているのかはブラジャー部長としても謎だったが、機密の多いイオグマヌッソにおいては些細な問題として大して気にもしていなかった。
ジョンがバイオセンサー研究所に来るという時になってシロウズからブラジャー部長へ電話が掛かってきた。
『ジョンの面倒をお願いします』
聞けばジョンはシロウズの何でも屋の社員でコロニー公社イズマ支部に出向しているのだという。
ジョンを含めた社員達にはシロウズがイオグマヌッソにかかりっきりでしばらく顔を見せておらず、機密もあるために中々会いに行けてない。
その分の面倒を見て欲しいと言ってきたのだ。
小僧一人の面倒自体はさしたる問題ではない。
ただ、そのシロウズの言動には多少の怪しさこそあったが、ブラジャー部長は仕事も多忙なので深入りしなかった。
「ニュースで言っていたのはこういうことでしたか」
シロウズはエンデュミオン・クレーターが映し出されたテレビを指さす。
ナガラ衆から警告があったにも関わらず、「ごきげんグラナダ」のテレビクルーがプチモビルスーツでクレーターの近くまで接近していた。
「電話口の声が零れていたので聞こえてきましたが、ジョンのガンダムの武装をナガラ衆に引き渡すみたいですね」
「えぇ…キシリア様も何でテロリストのいうことを」
ブラジャー部長の端末にコンテナへの搬入が完了したという連絡が入った。
「行ってくるわ」
コンテナについては軍のシャトルで持っていくことに算段が付いている。
その責任者としてブラジャー部長も同行することになっていた。
事務室から出るブラジャー部長の後ろをシロウズが追いかける。
「どうしたの?」
「ジョンのところに武器を持っていくんですよね。同行してもいいですか?」
「私はいいけど向こうがなんて言うかな」
本来ならシロウズはこの局面では部外者だ。
シロウズはジョンの出向元の社長ではあるが、この場においては関係ない。
だが、ブラジャー部長の「勘」というべきものがこの男を連れて行った方が良いと囁いた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ