おっぱい大作戦   作:そらまめ

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13-9 Ξ

「そっか。私達、誘拐されたんだ」

 

ようやく意識を取り戻したコモリに経緯を話しながらエグザベはランチの窓から見える宇宙を見ていた。

不思議な話だが空腹や尿意、便意もないので漏らす心配はないだろう。

ただ、Hi-MD男達の操るMSとクレーターの表面を眺めることしかできない。

 

今頃はグラナダの行政府とズムシティ公王庁の官僚達がテロリストであるナガラ衆と人質である自分達を交渉材料にして何かしらの取引をしようとしているに違いない。

もっとも、テロリストに屈服するくらいなら自分達を見捨てるなりランチを撃ってきてもおかしくはない、そういう考えがエグザベにはあった。

 

『テロリストには譲歩しない。これは国際常識だ』

 

かつてのフラナガンスクールの同期が授業中に言っていたことをエグザベは思い出した。

 

「ナガラ衆って何考えてるのか分かんないよねぇ」

「中佐も悩むくらいだったから相当だろうね」

 

拘束されているのに呑気なことを言っているコモリを相手しながらも、実際その通りだとエグザベは思った。

テロリストというのは無から生まれてくる訳ではない。

政治の狭間で暴力で訴える事を選択肢に選んだ集団というのは決して珍しい話ではない。

反ジオンを掲げてサイド3やグラナダでテロ行為を行った元地球連邦軍人という話は枚挙にいとまがない。

 

ナガラ衆というのはエグザベから見れば地に足が付いていない、雲を掴むような集団にしか見えなかった。

ナガラ衆と2度の交戦と軍警本部ビルでの捜査を見てきた当事者の自分ですらこんな心情なのだから外部から見れば尚更だとエグザベは思う。

反ジオンや宗教をお題目に自分達を拉致した、というのであれば十分現実的だ。

ところが、ナガラ衆というのは神様の使いを名乗りイズマ・コロニーで暴れ回り、グラナダでは自分達を「王子」とやらのために拉致した。

 

ジオン公国や地球連邦政府とは異なる論理で動いている集団であることには間違いない。

存在すら怪しいとはいえMSを運用し、キシリアとも繋がりがあるので少なくとも幽霊の類ではない。

だが、彼らが幽霊のような実体のない怪物なのではないかとエグザベは思えてならなかった。

 

ランチの後部ドアが開く音がした。

 

エグザベとコモリが拘束されている船室は与圧されておりノーマルスーツを着用する必要はない。

宇宙からランチの船内に入る際、後部の進入口を通る必要がある。

誰かがランチに入ってきたことになる。

(誰だ…?)

死角で見えないが、エグザベは3人くらいの人の気を感じた。

 

「エグザベ君とコモリ君ですね?」

 

その声を聞いてエグザベは多少の驚きを覚えた。

シャリアの声が聞こえたのだ。

 

「中佐ですか?」

「ええ。捕まってしまいました、不覚ながら」

 

上司の登場に多少の安堵を感じたコモリだったが、視界の隅にいるシャリアの姿を思わず二度見した。

シャリアの頭部には「はっさく」をモチーフにしたゆるキャラの着ぐるみが装着されていた。

 

「どうしたんですか、その頭!?」

「彼らに拉致された後にジョン君と一緒に暴れたんですが、その際に付けさせられました」

「オーダーメイド品です。なかなか良いでしょう、チャーミングなはっさくフェイス。私のセンスです」

 

はっさくフェイスとなったシャリアの後ろに制服を着た少女が立っていることにエグザベは気付いた。

年齢は10代後半で校章のピンズを見るにマチュと同じくハイバリーハウス学園の生徒だ。

 

その両手には銃剣を装着した古いアサルトライフルを構えている。

弾倉は装填しており、安全装置も解除されている。

宇宙空間で扱うことに何の工夫も施されていない前時代的なアサルトライフルだが、シャリアを撃ち殺すか銃剣で刺し殺すこと自体訳なく出来るだろう。

 

「お前もナガラ衆の人間か」

 

その言葉に少女は悲しそうな顔をしてシャリアをエグザベの隣席に着かせた。

 

「私は名を頂いた方のような力を持っていません。ただの人間です」

 

2点スリングでアサルトライフルを背中に回すと少女はシャリアを座席に拘束し始めた。

 

「これから戦闘が始まります。戦闘が始まり次第、ランチの自動操縦で皆さんは安全地帯へと移動、ジオン軍の救出部隊に回収されます」

「私達をここに連れてきたのは全てジョン君を利用するためですね?」

「はい…」

 

手慣れた様子でシャリアへの拘束を完了すると少女はエグザベとコモリの様子を覗き見るように伺う。

 

「教えてくれませんか、あなた達は何者なんですか?」

 

はっさくフェイス越しにシャリアは少女を見つめる。

 

「…ありえもしない王国を作ろうとしている愚か者の集まりです」

 

少女は通路を歩いて後部ドアへと向かっていく。

 

「その王国にニュータイプとキシリア様が関わっているのですね」

「着ぐるみは爆弾等はついていません。大事にしてくださいね」

「話は終わっていませんよ」

 

シャリアの言葉を最後まで聞かずに少女は船室から去って行った。

 

 

 

『…ジョン!!…ジョン!!』

『ジョン オキロ ジョン オキロ』

 

頭痛を感じながらもジョンはどうにか目を覚ます。

ブラウ・ブロ号ごと巨大MSに拉致された後、ジョンとシャリアは引きはがされた。

その際に対人麻酔銃か何か撃たれたのだろう。

シャリアがオレンジのような着ぐるみを頭に付けさせられたのを最後にジョンは記憶がない。

 

「…ハロ、僕はどれくらい眠らされていた」

『1時間、ト言ッタトコロダ』

「ここはどこだ?」

『コックピットダガ、今ドノ辺ヲ移動シテイルノカハ分カラナイ』

 

ジョンとハロ達はMSのコックピットの中にいた。

全周が見えるモニターと宙に浮いたようなシート、ガンダムG3とジークアクス以上に洗練され尽くされたユーザインターフェースを見るにこれもまたナガラ衆のMS、それも自分達を誘拐したMSだとジョンは悟った。

ジョンは以前にこのコックピットの作りを論文で読んだことがある。

 

この造りは研究が進められている次世代MSのコックピットに採用される噂のある全天周囲モニターとリニアシートだ。

コアファイターとの兼ね合いもあるとはいえ、このMSはジオンの最新鋭機体であるジークアクスですら未採用のコックピットシステムを採用している。

 

MSは月面の上空を飛んでいる。

コックピットの操縦機能はロックされており、MSの操縦はおろか地図の表示すらできない。

ジョンは星の位置と周囲の地形を照らし合わせて今の居場所を割り出そうとした時だった。

 

『ΞGにようこそ』

 

コックピット内に設置された声から男の声が聞こえてきた。

何かが来るかもしれないと感じ、ジョンは身構える。

 

『君達を強引な形で拉致してしまい申し訳ない』

「中佐はどうした?」

『無事だ』

 

モニターの一角に宙を漂うランチがズームアップされて表示される。

MSの光学カメラが撮影した物だろうとジョンは思い、あの中にシャリア達がいるのだろう。

少なくともシャリア達と自分を殺すつもりはないのだろうと思いながらジョンはこの男のことが気になった。

 

(ΞG、クスィー、G?、ガンダムのことか?)

 

ジョンは考える。

恐らくこの男も自分と同じくMSに変身できる。

MSに変身した自身の身体にジョン達を乗せているのだろう。

 

『君達をこれからエンデュミオン・クレーターまで連れていく』

『何ヲスルツモリダ』

『君達の力を見せてもらう。棺の王子と対等の力があるか、ナガラを継ぐ力があるかどうか』

『正気ナノカ?ニュータイプノ世界ヲ創ルナドト、オ前達ガナガラニツイタノハ!?』

『君達のOPPAI-SESEを見せてもらう』

 

ハロと男の会話をジョンは黙って聞いていた。

ジョンがハロに聞かないこともあるが、ハロ自身が意図的にジョンに隠していることもどうやら少なからずあるようだ。

男の声を聞くにどうやら20代半ばだろう。

 

『ジョン君、君のミドルネームはマフティーと聞いている』

「それがどうした?」

 

ΞGの動きが止まった。

目的地、エンデュミオン・クレーターの中央に到達したのだ。

ゆっくりとΞGは地表へと降りていく。

 

『これからコックピットを解放する。君はストライクに変身してほしい』

 

他に選択肢はない。

ジョン達は生殺与奪を握られているのだ。

ここでストライクに変身しなければ宇宙に放り出されて死ぬ。

ジョンはハロ達を見た。

 

『ヤルシカナイノカ』

『ミトメタクナイ ミトメタクナイ』

「やるしかないだろ」

 

ジョンの直観はストライクへの変身が出来ると訴える。

だが、変身したらもう後戻りできないような気がしてならない。

テロリストに戦いを強要されているのでやる気など起きるはずもない。

 

ジョンは覚悟を決めた。

 

M-65のチャックを開き、内ポケットに手を入れる。

内ポケットは大きめに作られており、ジョンはそこにある物を入れていた。

『ジョン、ソレハ…』

内ポケットから取り出した物を見てハロは少し驚いた。

 

M-65の内ポケットにはニット帽が入っていた。

「死ぬときくらいはマチュと一緒にいたい。…勝手な話だな」

ジョンはニット帽を深めに被り、ハロを抱いてシートから降りた。

球体のコックピットの中を手をついて歩き、ハッチの開閉部へと手を当てる。

 

『マフティーの名を授かった者がΞGに乗ることになるとは』

 

男が感慨深そうに呟く。

 

『これも因果か』

 

ジョンは男の言っていることが何も理解できなかった。

男の言う事よりも、自分の意思の中に何かが芽生えてきたことの方に意識が向いていた。

ジョンの意思の中に「マチュ」が芽生える。

そのマチュがストライクへと姿を変え、やがて自分の姿までもが変わっていくイメージがそこにはあった。

 

 

 

僅かな時間が流れ、ΞGのコックピットには誰もいなくなっていた。

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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