『あなたはジョンであってオルフェではない』
『なのにあの人達は王子を求めている』
『自分達で神様を作ろうとしている』
マチュの姿をしたストライクがジョンに語りかける。
やがてストライクの声が聞こえなくなり、ジョンは『目』を開いた。
月面の大地にグレースケールのストライクが降り立った。
イズマ・コロニーの時のようなゼクノヴァを引き起こすような派手な演出はなく、まるで最初からそこにいたような静かな立ち振る舞いだ。
そんなストライクをΞGがミノフスキークラフトで宙に浮かびながら見守る。
『ストライクニナレタミタイダナ』
ストライクの隣にMA形態のガンバレルストライカーがスラスターを吹かしながら隣に並び立つ。
『ピンクちゃんはどうした?』
ストライクには口は無いが、思念が言葉となってガンバレルストライカーとなったハロに話す。
『ココダ ココダ』
『コックピットニ搭乗サレテイル』
ガンバレルストライカーのコックピットからピンクちゃんの音声が聞こえる。
ハロがガンバレルストライカーに変身できる以上、同族であるピンクちゃんも恐らく何かしらに変身できるだろうという見立てがジョンにはあった。
今回の戦いでは手を出さないつもりらしい。
ジョンはストライクのセンサーを人間の目と耳のように扱うことが出来る。
ストライクに搭載されている自動索敵機能が10km前方に何かがいることを検知した。
コンピュータがそれをMS、敵と判断した。
ストライクから3時の方向に3機のプチモビルスーツがクレーターの縁に隠れているのをセンサーが捉えた。
プチモビルスーツの持っている大型カメラと中継機、そしてプチモビルスーツの表面にマスキングされている「テレビグラナダ」から一目でテレビクルーだとジョンは分かった。
(曲がりなりにもMS戦が行われるんだぞ。死にたいのか?)
ナガラ衆の意図がイマイチ掴みかねているジョンではあったが、テレビグラナダの面々はここにいてはならない。
彼らに退却を促そうとジョンが思った時だった。
突然、ビームの嵐がストライクに向かって飛んできた。
指令室の幹部達が慌ただしい。
グラナダ基地の指令室がここまで緊迫感に包まれているのは訓練と演習以外では一年戦争中の第2次ソロモン会戦以来だ、と古参の幹部の1人は思った。
テロリストからジオン軍への要求はガンダムG3用の武器の提供のみで後は一切ない。
グラナダ基地としては彼らからのコンタクトを待ちつつも、拉致されたエグザベ達の救出のために動いてはいた。
しかしながらその動きは低調だ。
分かっていることは少ない。
ナガラ衆を名乗るテロリストがジオン軍の士官3人を拉致、その過程でグラナダ市に未確認の巨大MSが侵入、試作MSの武器を要求、エンデュミオン・クレーターで何やら始めようとしていることくらいだ。
拉致と侵入という犯罪を犯してはいるが、彼らのたくらみをジオンの殆どの者は理解しかねていた。
ついでにグラナダとエンデュミオン・クレーターが離れていることもあり、一部の幹部にはある意味他人事のように思っている節があった。
幹部達の働きを見ながらキシリアは指令室にある自身の席に「離席中」の三角席札を置いて弁当型携帯FAXを片手に指令室の出入り口から退室した。
第2次ソロモン会戦の時と違って弁当型携帯FAXは指令室で利用されなくなっている。
キシリアの後ろ姿を一部の幹部は見たが、大して気にもせずに自分の仕事へと戻った。
「市内にMSを投入、シャリア・ブルとG3のパイロットを拉致するなどとは聞いてないぞ」
グラナダ基地内にある執務室でキシリアは弁当型携帯FAXの受話器を片手に僅かな苛立ちを持って電話をしていた。
『本来ならもっと早く、そして穏便に済ますはずでした。しかし、予定を伸ばしすぎました』
「長老、私達の関係を忘れてはいないか?」
『ナガラ衆は本来、歴史の表舞台に出てはいけない。しかし、キシリア様との縁を結ぶことが出来たおかげで夢が現実となりうる』
「それならなぜ棺の王子を出した。まだMSは直っていないはずだ」
『棺の王子の魂が消えかけているのです』
フェイズシフトを起動し、赤色を身に纏ったストライクはガンバレルストライカーと二手に別れてビームを回避する。
大量のビームが雨のように降り注ぐが、ストライクはビームを紙一重で回避していく。
ジョンはビームを発生させている物が「視えた」。
ビットだ。
1基の三角洲のビットがストライクを狙ってきている。
『ドラグーンダ、ジョン!!』
ガンバレルストライカーからの声を聞いてジョンはビットことドラグーンの位置を先読みし、その場所にストライクのイーゲルシュテルンを起動して撃ち込んだ後、ガンバレルストライカーに接近する。
75mmの無数の弾丸がドラグーンに着弾し、その機能が停止した。
ドラグーンが月面に落下するのとほぼ同時にガンバレルストライカーの機首が折りたたまれストライクの後部に合体した。
ガンバレルストライクとなったジョンはストライカーの胴体に装備してある大型レールガンを両腕に構えた。
『武器が変わっているぞ』
サイコガンダム戦ではガトリング機関砲だった武器が変わっていることにジョンは多少驚いた。
『ガンバレルノレールガンモ今回ハビームガンニ換装シテイル』
『武装を変えれるのか』
『スゴイダロ スゴイダロ』
聞かねばならないことがまた増えたなとジョンは思いつつ、10km先にいる相手に警戒しながらガンバレルの推進力で前へと進んでいく。
『ジョン、逃ゲルカ?』
ガンバレルストライカーからの声はいつものハロのように機械的だ。
だが、その声には不安が混じっている。
ジョンはドラグーンの飛来を警戒しつつ、レールガンを前方に向けた。
『ヒゲマン達を人質に取られている。その上にビット兵器を使うようなナガラ衆が近くにいるんだ。逃げればヒゲマン達がどうなるか分かったものじゃない。それに向こうは僕に完全に狙いを定めている。ここで逃げてもまた追ってくるぞ』
元々マチュの身の安全を考えてのジオン行きだったのでマチュがいない場所、今回はエンデュミオン・クレーターが舞台となったが、ジョンにとってはある意味予定通りだ。
『ハロ、ドラグーンを知っているならそれを飛ばしてきた奴のことを知っているんだろう?』
だんだんと敵MSの姿が見えてくる。
牽制のためにジョンはレールガンを発砲した。
『無駄ダ。奴モフェイズシフトノ装甲ヲ持ッテイル』
『…同族か』
フェイズシフト装甲を持っているのはコズミックイラからやってきたストライクくらいなので恐らく敵もそうだろうとジョンは思った。
『久しぶりだね、オルフェ』
以前にも聞いたような『声』がジョンに届いた。
『5年前のリベンジにしては僕にハンデが多すぎる』
敵MSが動き始める。
右腕に装備した大柄のビームライフルがガンバレルストライクの未来位置を予測して撃ってくる。
ビームを回避しながらガンバレルストライクはレールガンをビームライフルめがけて発射する。
レールガンから発射された弾丸はビームライフルを掠めて月面に着弾して塵を周囲に飛ばす。
『プロヴィデンスは5年待ったんだ』
それがあのMSか、とジョンは遠くに浮かぶMSを見た。
向こうとの距離は3kmを切っているので兵器としては近距離だ。
『君に勝てばお母さんと赤ちゃんをいっぱい殺せるんだ。癌細胞のニュータイプも一緒にね』
その言葉、豪雨の中の車両専用道路の時と同じことを言う少年をジョンは見逃す訳には行かなくなった。
この少年を放置したらマチュ達にも甚大な悪影響が出るだろう。
ジョンの中にここまで選択肢の1つ、逃走の線が消えた。
少年と少年が変身するMS、プロヴィデンスの殲滅をジョンは決断した。
自分はマチュに嫌われている。それでもマチュのためにやるべきことがある。
こいつだけは生かしておけない。
マチュが幸せに生きていける世界のためにジョンは自分の死を決めた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ