おっぱい大作戦   作:そらまめ

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第14話 時獄の底へ
14-1 決意のゆくさき


水の中にいる。

身体がそれを認識し本能的に呼吸を止める。

口に僅かに入ったその水は塩辛い。

その水は緩やかに流れ身体を揉みくしゃにする。

 

海だ。

自分は今、海の中にいる。

 

(まずい!!溺死するぞ!!)

 

ジョンは大急ぎで浮上しようとする。

目を開けて上を目指す。

着ている服が重く感じるが、脱いでいる場合ではない。

特に重く感じるニット帽はジョンの頭に密着して離れない。

 

体内の僅かな空気を消費しながらどうにかジョンは海上へと目指す。

10秒か1分かも分からないくらいの浮上への格闘を繰り返し、ジョンはなんとか海上へと辿り着いた。

 

新鮮な空気を吸い、時には海水を飲みながらジョンはようやく安堵した。

 

波に揺られながら、ジョンは周囲を見渡す。

 

月光に照らされた夜の海に自分が漂っているにいることにジョンは初めて気付いた。

月光に照らされた世界でジョンのすぐ近くに砂浜となってる海岸があることに気付く。

 

海岸までジョンは平泳ぎで進んでいく。

海水に触れた目が空気に触れて染みるのが不快だったが、気にしている場合ではない。

 

一体どれくらい長い時間泳いでいたのかも分からない。

空気を吸える分、浮上の時よりもジョンの心に少し余裕ができる。

海岸に近づくにつれてだんだんと陸地が近づいてきた。

 

陸地が近いが安堵はできない。

安堵できるのは上陸できてからだ。

暗い夜の中をジョンは一人泳いでいく。

 

ジョンの手が砂浜の感触を感じる。

そして身体全身が砂浜へと辿り着く。

砂の感触を手のひらに感じながらジョンは這っていく。

 

どうにか波にのまれないくらいの距離まで移動するとジョンは砂浜に仰向けで倒れた。

体内に入った海水は既に吐き出した。

濡れた衣類を脱ぐ気力も無く、ジョンは星空を見上げた。

 

疲れて眠い頭をどうにか回しながらジョンは自分が置かれた状態の異常さに気付いた。

 

(何で、僕は地球にいるんだ…?)

 

ジョンが地球に降りたのは一年戦争、穴だらけの記憶ながら覚えている。

この重力、空気、感触は間違いなく地球の物だ。

 

何でも屋の仕事で行ったフランチェスカの砂浜、観光名所の嘆きの丘は中々に立派だったが、この感触はフランチェスカのようなものではない。

 

(エンデュミオン・クレーターでゼクノヴァに巻き込まれたはずだ。どうして僕は地球にいるんだ?)

 

ゼクノヴァについてジョンの知っていることは少ない。

どういう理屈で月のクレーターから地球の海にいるのだろうか。

 

「理屈に合わないぞ…」

 

理屈に合わないことをこれまで散々味わってきたジョンだったが、さすがに月から地球への大移動は理解し難い現象だった。

 

腕時計で時間を確認しようにも風防が割れており、そこから浸水したために完全に壊れてしまっている。

だるい上体を長い時間をかけて頑張って起こし、ジョンはM-65のポケットをまさぐった。

 

M-65のポケットは海中でも中身を落とさずに保持してくれていた。

ジョンは全てのポケットから物を取り出す。

幸いにも道中で脱落した物は無かった。

 

続いてジョンは頭に被っていたニット帽を脱いで絞った。

膝の上に絞ったニット帽を被り直し、ジョンは端末の画面を開いた。

 

ジョンの端末は耐久性を重視した造りをセールスポイントにしているので海水に浸かっただけでは壊れない。

 

無事に画面は開いたが、電波は圏外を示している。

時刻は

「0085年7月21日午前12時20分」

を表示しており、拉致された時から大して経過していない。

電波が圏外である以上、端末の時刻の自動修正が働いていない。

 

ジョンは全裸になり、海水に浸かった衣類を絞っていくことにした。

全裸のまま衣類を絞るという情けない格好を晒し、ある程度満足するくらいに水分を切ったら再び着直していく。

磯臭くなるが、全裸のままで体温が夜の寒さで奪われるよりはマシだ。

 

元々速乾性の衣類で揃えていたこともあったので乾燥自体は早い。

宇宙世紀に時代が移り変わり、進化した紡績工業の発展の恩恵をジョンは受けていた。

 

ジョンは衣類を絞りながら考える。

 

結局の所、ジョンは現在時刻も現在地も何も分からない状態にあった。

分かっていることは月のエンデュミオン・クレーターから地球のどこかの海に投げ込まれたということだけだ。

 

その原因はゼクノヴァにあるのだろう。

 

エンデュミオン・クレーターで発生したゼクノヴァはジョンを消滅させたのではなく、ジョンを地球へと転送した。

ストライクだってゼクノヴァの中から現れたのである意味では実績のある話だ。

 

(消すんじゃなくて、移動させるのがゼクノヴァかもしれないな)

 

第2次ソロモン会戦のゼクノヴァでシャアとソロモンの大質量が消滅したという事実からジョンはゼクノヴァは物質を消滅させる超常現象だと思っていたが、自分の生存という形で認識を改めなければならないも思った。

 

(…じゃあ、ソロモンの大質量はどこにいったんだ?)

 

自分がこうやって生きている以上、消えたシャアも生きている可能性はある。

だったら、シャアと共に消えたソロモンの一部はどこに行ったのか?

 

(今はそれを気にしてる場合じゃない。気持ちが落ち着いたら人がいる場所を探そう。ヒゲマン達が心配だ)

 

自分はどうにか生きているが、シャリア達の安否は分からない。

ゼクノヴァに巻き込まれたのかもしれないし、その前にクレーターから離脱できたかもしれない。

 

端末で連絡が取れない以上、近くに住む人を探して現地の警察を探そう。

警察に相談して近くにあるサイド6の大使館に掛け合ってもらい、何とかイズマ支部とバイオセンサー研究所へ連絡を取れるようにしなければならない。

 

ジョンはシャリア達の安否とその後の状況が気になってしょうがなかった。

とにかく外部と連絡を取れるような場所へ向かわなければならない。

 

乾燥の始まった靴下と濡れたソールの感触を感じながらジョンはM-65のポケットに出していた物を収納していく。

 

振り返ればジョンの後ろには光が1つもない森が広がっている。

森の中へ通じる道がジョンから少し離れた場所に見える。

 

ジョンは持っていたキーケースをポケットに入れる前に中からソリテールを取り出した。

ソリテールはAAA電池1本で動くフラッシュライトだ。

これをジョンは気に入り普段から持ち歩いていた。

月光と暗順応で何とか周囲を見ることが出来ていたが、これからはソリテールの明かりを頼りにジョンは夜の森の中を歩かなければならない。

端末のライトもあるが、バッテリーの温存のために使う訳にはいかない。

 

ジョンは森へ通じる道に向かって歩き出す。

本来なら朝を待つべきだ。

ただでさえ遭難している状況なのにどこかも分からない夜の森の中へ入るのは遭難にダメ押しする行為に過ぎない。

端末には地球上の地図のオフラインデータを保存しているが、場所が分からない以上、全く意味がない。

ストライクへの変身もどうやら出来ないようでストライクになって森を走破するということはあり得ない。

 

頭でそれを理解しながらもジョンの歩みは止まらない。

 

誰も助けに来ない暗闇の中をボロボロになった身体と小さなライトの頼りにジョンは進まなければならなかった。

 

 

 

遠くからバーニアのけたたましい音が聞こえる。

 

ジョンが海の方へ振り返ると遠くでMSらしき影が海面に落下する光景が広がっていた。

 

「何だ!?」

 

MSは凄まじい水柱を上げて海へと沈んでいった。

 

水柱の上を1機の航空機が空を飛んでいく。

 

航空機の機影は夜の闇の中を切り裂いて飛んでいく。

ジョンの動体視力はその特徴的な航空機の機影を捉えた。

 

「コアファイターだ…」

 

バーニアが2股に分かれたあの姿はコアファイターに間違いない。

しかもジークアクスが採用しているタイプだ。

 

(なんでジークアクスが地球にいるんだ?)

 

ジークアクスはソドンと共にラビアンローズにいるはずだ。

ここにいるはずがない。

 

ジョンは一瞬だけ自分を救助に来たのかと思ったが、ジークアクス以外にMSが見られないことから救助隊ではないだろうと思い直した。

 

ジフレド・カルラの可能性も考えたが、あれはグラナダ基地にいるはずでジークアクス以上にありえない。

 

謎のコアファイターはジョンの上空を飛び去り遠くへと飛んでいく。

機影は遠くなっていき見えなくなる。

 

何が起こっているのかジョンには分からない。

ただ、ジョンが森の中に入る理由が追加された。

 

(あのコアファイターが飛んでいった方向に何かある)

 

コアファイターが飛んでいった方向にジオン軍の施設、もしくは人が近くにいるかもしれない。

 

ジョンは意を決して夜の森の中へと入っていった。

 

 

 

一年戦争時に従軍したジオン軍の兵士が戦後に発表した小説をジョンは読んだことがある。

雷を連邦軍の新兵器だと誤解した兵士の話や地球の埃を嫌ってマスクを付けていた兵士のこぼれ話が多く書かれており、はっきり言って滑稽な話ばかりが書かれていた。

 

ジョンはその小説の中で森の中で蜘蛛の巣でパニックになる兵士の話が妙に印象に残っていた。

森の中に張られた大きな蜘蛛の巣、水たまりに沸く大量の小さな虫、手が汚れても真水が少ないので手を洗いづらい環境…

 

幸いなことにジョンが歩いている道は最低限の整備はされており、蜘蛛の巣や水たまりが出来るような窪地はなかった。

 

ジョンは身体を低くしながら夜の森を進んでいく。

 

森の中を歩いてしばらく経った頃、ジョンのすぐ近くから馬のいななきを聞いた。

 

いななきが聞こえてきた方向へとジョンは道を外れて進んでいく。

 

道を外れていった先に草地があった。

月が見えないほど木々が生い茂っていた森の中では見えなかった月がその場を照らしている。

 

草地には美しい白馬が立っていた。

 

月光に照らされた立ち姿は神秘的であるのと共にたくましく、風格と気品がある。

 

白馬はジョンの姿を見つけると蹄を鳴らしながら彼に寄ってきた。

近くでその姿を見たジョンはこの馬が「アンダルシアン」と呼ばれる品種の馬であると気付いた。

 

白馬は馬具を付けており、少なくとも野生の馬ではない。

近くに乗ってきた人がいるはずだが、ジョンは周囲に人の気配を全く感じない。

 

「相方はどうした?」

 

英語が通じる相手かは分からないが、ジョンは白馬に話しかける。

白馬はジョンの姿をじっと見る。

無言の間が出来る。

 

ジョンは白馬の放つ雰囲気から「乗れ」という意思を感じた。

 

「乗っていいのか?」

 

白馬がその言葉を肯定したようにジョンは感じた。

ジョンは馬具のあぶみに足をかけ、さっと白馬に跨った。

リウ・メイリン仕込みのネオ・チャグチャグ馬コの馬術の賜物だ。

 

自身の身体にジョンが乗ったことを認識した白馬はゆっくりと森の中へと歩みを進める。

 

(初めから僕を待っていたみたいだな…)

 

そんな事はないだろうとジョンは思いながら、この馬に道中を任せることにした。

 

ジョンと彼を乗せた白馬は森の中を進んで行った。

 

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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