セーフモードに切り替えた端末に表示されたタイマーアプリ内にあるストップウォッチ機能を見ながらジョンは馬上から改めて周囲を見渡す。
相変わらず森の中に人の気配はない。
乗馬してから2時間は経過するが、一向に森を抜けれる気配はなく緑に塗りこまれた世界が続いていた。
(マチュに会いたいな…)
自分から別れ話をした癖に未練がましいとジョンは思い、被っていたニット帽をM-65の内ポケットの中に入れる。
プロヴィデンスとの戦いの前の自身の発言とニット帽を被り続ける行為自体がジョンがマチュに対しての未練が剥き出しになっていた。
ニャアンの好意すら裾にしたのにいくらマチュのためとはいえ、一方的に振ったのだ。
2人に一生恨まれても仕方がないことをジョンはしてきた。
「あのまま死んだ方が良かったかな…」
あのまま海で溺れ死んだ方が2人もせいせいしただろう。
だんだんとマイナスに傾いていく思考を振り払い、ジョンは思考を生きるための方向にシフトし直した。
衣類は殆ど乾き、かゆみもない。
腹は減ったが飢えてはいない。
水分もあと一日飲まなくても問題ない。
尿意と便意はない。
コンディションはボロボロだが、まだ戦える。
ジョンは次第に周囲が明るくなっていくことに気付いた。
木々が薄れていく。
森を抜けるのだ。
その事実にジョンは少し安堵し、電池残量の節約のために切っていたソリテールのヘッドをひねった。
森を抜けるとそこは小さな丘の一角だった。
ジョンが抜けてきた森とその先にある森のはざま、ここには木々が生い茂っておらず、小さな草原と丘が広がる場所だ。
周囲を見渡したジョンは丘の向こう側に照明が灯っている屋敷が立っているのが見えた。
森の中にある屋敷を建築し、それを維持できているというのは相当な金持ちだろうとジョンは思った。
白馬の主も屋敷の関係者かもしれないと思い、白馬を返すことも兼ねて屋敷に立ち寄ろうとジョンが決めた時、白馬は屋敷とは逆方向に歩き始めた。
その足取りはしっかりしており迷いがない。
(何かあるな)
ジョンはそう思い白馬に付き合うことにした。
白馬は丘を歩いていき、斜面となっていてジョンからは死角になっていた場所まで彼を導いていく。
やがて白馬は立ち止まった。
白馬が立ち止まった先にある物を見てジョンは絶句した。
斜面に対して滑り込むようにコアファイターが墜落していたのだ。
墜落しているコアファイターは間違いなくジークアクスに搭載されていた機種だ。
森に入る前にジョンが見たコアファイターと同一の機種だろう。
「なんでこんなところに…」
墜落したコアファイターを見て、とりあえず搭乗員を救助しようとジョンが決めた時だった。
コアファイターのキャノピーが開いていく。
白馬はそれを見てコアファイターに歩み寄る。
ジョンは搭乗員への応急処置を考えながら開いてくキャノピーに注視する。
開いていくコアファイターから赤髪が見える。
その赤髪の人物は小柄だ。
グレーのジャージに近い服を着用しているようだが、とても戦闘機に乗って良い服装ではない。
ジョンは訝しみながらソリテールの明かりをコックピットに当てる。
白馬の足取りが止まるのとジョンがその人物の顔を視認したのはほぼ同一だった。
「マチュ…?」
ジークアクスのコアファイターにはマチュに似た少女が身体中から血を流して倒れていた。
「カバスの館に王子様がやってきた」
応急処置が施された赤髪の少女が救急隊の担架に乗せられてカバスの館に入って行く。
その姿を気遣いながら共に館へ出向く白馬に乗った金髪の少年を見た娼婦の1人は周囲にそう語った。
「お姉さま」の夢見によって戦闘機に乗ってきた少女がカバスの館にやってくることは館で働く全員が知っている。
そのために近場のマンガルール市から救急隊を手配し、少女が宿泊する部屋を小間使いのヴァーニ達が準備していたのだ。
用意した部屋のベッドに手当を終えた少女が寝かされるまではある意味予定調和ではあった。
ただ、予定調和ではない出来事があった。
「お姉さま」の夢見には金髪の少年など全く出てこなかったのだ。
金髪の少年はカバスの館から脱走していた白馬に乗り、救急隊より先に少女を救助してカバスの館に連れてきたのだ。
「ウーマくん。お前、王子様を連れてきたんだな」
小間使いのヴァーニはメイド服からジャージに着替え、館の外柵に係留されていた白馬を解放して馬房へと向かっていた。
救急隊が用意していた救急車の横をヴァーニと白馬は通り抜けていく。
「お姉さまびっくりしてたよ。いなくなったと思ったら王子様を乗せてきて、薔薇を追う人も連れてきたし…」
仕事が終わり、救急車に乗ってマンガルール市へと帰っていく救急隊員達の姿をヴァーニは見ることなく白馬を連れて厩舎の中へと入っていった。
「お姉さま、王子様のことかなり気にしてたよ。色々聞きたがってたし」
ヴァーニは白馬を馬房の中に入れる。
馬房の近くには「ウーマくん」と手書きで書かれたパネルが貼られている。
「それじゃ、あたしも王子様に会ってくるよ」
少し楽しそうに歩くヴァーニの後ろ姿をウーマくんは柵越しに眺めていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ