おっぱい大作戦   作:そらまめ

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14-3 森の中の洋館

数時間前

 

ジョンは白馬から降りて少女に近づく。

開いたコックピットに手をかけてジョンは少女の額に触れる。

 

「大丈夫か!?」

 

少女の顔はマチュそのものだった。

三日月のイヤリングと鼻の高さ、遠目では赤髪に見えるその髪は染めたもので近くで見れば黒に近い地毛が見える。

 

目の前の少女がアマテ・ユズリハであることに間違いない。

 

だが、どこか違う。

ジョンの知っているマチュとは何かが決定的に違う。

 

それにマチュがここにいるはずがない。

マチュはパルダ・コロニーのサンライズカネバンの社長宅にいるはずだ。

それに今朝のニャアンとの電話でマチュはシイコと共に出かけていたはずだ。

 

仮にマチュがラビアンローズに赴き、ジークアクスに乗るようなことがあったとしても何故ここにいるのかが分からなかった。

 

自分を追ってきたのかとジョンは思ったが、月から地球への大移動を即座に把握できるような能力があるのならジークアクスではなく地球に駐屯しているジオン軍が今頃飛んでくるはずだ。

 

言葉に言い表せない不気味な感触がジョンにはあった。

それでも目の前で負傷している人間がいるのは事実、ジョンは少女を降ろそうとしてコックピットの中に入った。

 

『マチュ ダイジョウブカ』

 

コックピットの中には見慣れた白いハロがいた。

ジョンが白いハロと最後に会ったのはサイコ・ガンダム戦の時以来だ。

あの時とは異なり、白いハロはジョンの持っているニット帽と同じデザインのニット帽を被っていた。

 

「久しぶりだなハロ、どうしてコアファイターに乗っているんだ?」

 

サイコガンダムとの戦いから9日程しか経っていないが、ジョンは白いハロとはしばらく会っていないような気がした。

 

白いハロはジョンの姿を見て首を傾げるような動作をした。

 

『キミハ ダレダ』

 

まるで初対面の人間と会うようなリアクションを白いハロは取った。

 

「墜落のショックで忘れたのか?この子をコアファイターから降ろすぞ。死んではいないが手当が必要だ」

 

ジョンは少女の身体がコックピットの突起物に引っかからないように器用に動かしていく。

少女の身体を抱いてジョンはゆっくりと地面に降りる。

比較的岩や突起物がない場所に少女を寝かせるとジョンはコックピットに戻った。

 

「サバイバルキットを借りるぜ」

 

以前、ジークアクスの無線機を使って軍事無線を傍受した際にジョンはコックピットに搭載されているサバイバルキットの位置を把握していた。

 

普段は邪魔にならない位置に取り付けてあるサバイバルキットをジョンは取り出す。

先程から自分を不思議そうに眺めている白いハロを空いている手に持ってジョンは地面に降りた。

 

地面に寝かされた少女の安否を白馬は気遣うように顔を少女に向ける。

 

「死ぬような怪我はしていない。パイロットスーツで身体を固定していなかったから打撲と擦り傷、あばら骨が折れている可能性はある」

 

ジョンは白馬と白いハロに語り掛けながら少女への応急処置を始める。

サバイバルキットから救急セットのパッキングを開封し、中身を鑑みて止血と消毒をしようとジョンは決めた。

 

ソリテールを口に咥え、少女にはサイズが合っていないジャージのような衣類を脱がせる。

 

先程の自分の発言を振り返り、ジョンは自身もなぜここにいるのか?と問われる立場であると思い出した。

 

「エンデュミオン・クレーターでゼクノヴァに巻き込まれてな、気付いたら海の中にいたんだ。参ったよ、死にかけた。

助けを呼ぼうと思ってたら君達のコアファイターを見たから追ってきたんだ。クレーターでプロヴィデンスと戦ってからどれくらい経ったのか分からない。腕時計も壊れたし、端末も圏外で正しい時間が分からないんだ」

 

白いハロは返答に困っているような揺れ方をしている。

 

「どうして君達がジークアクスに乗っているんだ?ジークアクスは海に投げ込まれたようだし…ラビアンローズからここまで来たのか?

あれからどれくらいの時間が経ったか分からないが、パルダからイズマに帰ったんじゃないのか?」

 

応急処置が最優先とはいえ、ジョンは少女がコアファイターに乗ってきた理由が気になっていた。

 

ジークアクスで大気圏突入は装備している高性能シールドによって力業で突破可能であることをジョンはソドンのメカニックから聞いてはいた。

 

海没したジークアクスの水柱を見る分に、少女は宇宙からやってきたはずだ。

マチュに殺されるくらいの恨みを持たれている自覚がジョンにはあったが、お札参りのためにジークアクスで地球に乗り込んでくるはずがない。

 

『ドウイウコトダ』

 

ジョンは白いハロの頭上に大量のハテナマークが浮かんでいるのが見えたような気がした。

疲労もあるのでジョンは自分の説明不足だと思いながら応急処置を終わらせて少女の衣類を着せ戻した。

 

「近くに屋敷がある。そこにこの子を搬送する。地球の病院で保険が降りるかは分からないが、死ぬよりはマシなはずだ。ハロも来てくれ」

 

少女の身体に負担が掛からないように気を遣いながらジョンはお姫様だっこの要領で少女を抱き上げる。

 

『ココニ ノコル』

 

少女を抱いたまま白馬に跨ったジョンに白いハロは言った。

 

『コアファイター ホウチ デキナイ』

 

確かに軍事機密の塊であるコアファイターを何の機密保全もせずに放置するのはまずいだろう。

 

『マチュヲ タノム』

「…留守を頼む」

 

少女の容体が急変しないうちに早く適切な治療をするべきだろう。

白馬はジョンの意思を察したのかゆっくりとコアファイターから離れていく。

 

『キミノ ナマエハ ナンダ』

 

ジョンの後ろから白いハロが問いかける。

 

「ジョンだ。本当に覚えていないのか?」

『ハジメテ キイタゾ ジョン』

 

 

 

 

 

現在

 

「お姉さまの「夢見」はホントに当たるんだ」

 

少女を屋敷で待機していた救急隊に引き渡した後、ジョンはシャワーを借りることができた。

全身から海水を浴びていたので衣類の洗濯とシャワーと着替えの貸し出し、急遽宿泊用の部屋を手配して貰っていた。

 

「お姉さまはあの子が落ちてくるって知ってたんだ。だから部屋とお医者様を手配してたんだ」

 

シャワーを浴び終え、替えの服に着替え終えたジョンに小間使いのヴァーニが事情を説明していた。

宿泊用の小さな部屋にあるソファでジョンは出されたダージリン・ティーを飲む。

 

(ここは娼館だな。それも最高クラスの)

 

ヴァーニの説明をジョンは頭の中で整理する。

 

ジョンが今いる場所はインドのマンガルール市の郊外にある「カバスの館」という名の娼館だ。

利用客は富裕層、ジオン軍の高級将校が多く利用しているという。

 

このカバスの館には名物娼婦がいる。

 

ヴァーニが「お姉さま」と呼ぶ娼婦は「夢見」というある種の未来予知ができる人物であり、少女の来訪を予知していた。

そのために万全の用意をして少女を待っていた。というのがヴァーニの話だ。

 

MSに変身できる人間がいるなら未来予知できる人間がいても不思議じゃないと思い、ジョンはその話を素直に受け入れた。

未来予知できるなら自分も助けて欲しかったと多少の小言がジョンの脳裏によぎる。

 

「でも王子様のことは予知できなかったみたい」

 

ヴァーニは不思議そうにジョンの顔を見つめた。

いつもは目が隠れるくらいの長い前髪は後ろに流しているのでジョンの顔がよく見えていた。

 

「王子様?」

 

一体誰の事を指しているのだとジョンは思ったが、ジョンはヴァーニの視線を見るに恐らく自分だろうと察した。

ナガラ衆のメンバーからは星の王子だとか言われてきたが、なぜヴァーニが自分のことを王子などと呼んだのかが分からなかった。

 

ジョンの疑問に答えるようにヴァーニは空になったティーカップにダージリン・ティーを注ぎなおす。

 

「王子様が乗った馬、ウーマくんって名前なんだけどあんまり人を乗せたがらないんだ。優しい子なんだけどね」

「ウーマくん…」

 

馬に日本語の「ウマ」と名付けるカバスの館のネーミングセンスに疑問を感じるジョンだったが、なんで自分が王子様などと呼ばれているのかが分かった。

 

アンダルシアのウーマくんは白馬、白馬に乗ってきたから王子様といった連想ゲームみたいな話だろう。

当事者であるジョンからしたら生き死にが掛かっていたのでそんなことを考えている余裕は無かった。

 

「王子様も疲れるでしょ、部屋で休んで」

 

ヴァーニはそれだけ言うと部屋から出ていってしまった。

その後ろ姿を見送った後、ジョンは紅茶を飲み終えて用意されていたベッドへと足を進める。

 

「あれから何日、経ったんだ?」

 

部屋にはアナログ時計しかなく、時刻は午前5時を針が示していた。

日付は分からない。

疲労も相まって思考が大して働いていない。

 

(一回、寝よう…)

 

少女は治療を終えて安静にしている。

その事実だけでもジョンは安心して寝れる。

一度寝て身体を休めたら、マンガルール市の警察署に行こうとジョンは決めた。

 

端末のアラームを設定した後、ジョンはベッドに身を任せる。

 

 

 

目を閉じてこれまでのことを振り返る。

 

とんでもなく長い一日だった。

 

何度も死んだと思ったし、ゼクノヴァでテレポートという現象を身をもって味わった。

 

マチュに似た少女が無事で良かったと思った時、ジョンは自分の中にある矛盾に気づいた。

 

(僕はあの子の事をマチュだと思っていないんだ)

 

ジョンはコアファイターに乗ってきた少女のことをまるで他人のように扱っていた。

白いハロがいるからマチュであることには違いないのに、ジョンの本能はあの少女をマチュだとは認識してしていない。

 

顔が同じだけの他人だと認識しているのだ。

 

「…どういうこと、なんだ…」

 

マチュがコアファイターに乗ってきたなら自分は今頃、少女の部屋の床で寝てでもそばにいるはずだ。

何なら救急隊員の治療現場から離れずにずっとそばにいたはずだ。

 

なのに自分は今、平気で離れて寝ようとしている。

イズマ・コロニーから遠く離れたインドの地にいる少女、いやマチュをまるで他人のように扱っている。

 

それに何もかもおかしい。

 

 

 

『どうして自分はインドにいるのか?』

 

『コアファイターに乗ってきたマチュと白いハロは何者なのか?』

 

『カバスの館にいる「お姉さま」は何者なのか?』

 

『「夢見」とは何か?』

 

『人質になったシャリア達はその後どうなったのか?』

 

 

 

自分に対してだんだんと不気味な影が迫ってきている。

 

湧いてくる疑問と自分の意味不明な思考回路を解析しようと思ったジョンだったが、その前に睡魔が勝り、そのまま眠ってしまった。

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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