おっぱい大作戦   作:そらまめ

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14-4 ララァ・スン

ジョンがニット帽を被るようになったのはマチュがきっかけだった。

 

ジオン行きまで一週間を切ったある日、塾帰りのマチュをバイクで政府官舎まで送る道中でのことだった。

その際、マチュのお願いでビル街の中にあるアパレル店にジョンはマチュと共に立ち寄ることになった。

 

店内は洒落ている、というよりもジョンが普段から利用している安物のアパレル店と比べれると明らかにレベルが高い店でマチュはともかく、明らかにジョンは場違いだった。

 

この時のジョンは居心地の悪さを感じ、店員と話すマチュから離れようとしたが、その姿を見て不機嫌になったマチュからアームロックを掛けられて動けなくなってしまった。

 

薄い化粧とパンツスーツ姿の店員はマチュにアームロックを掛けられたジョンを見て苦笑いを浮かべながらカウンターの中へと入って行った。

 

『ジョン、何で離れようとしたの?』

『邪魔しちゃ悪いかなと』

『全然邪魔になってない。迷子になったらどうするの?』

『なるわけな…』

 

マチュの力が強まる。

 

『ジョンはこういうお店来た事ないでしょ、社会勉強だと思って』

『そもそも何をしにここに来たんだ…』

 

その問いに答えるように店員がカウンターから戻ってきた。

アームロックを続けている2人組に苦笑いを浮かべた店員が手に持っている物を見てジョンは納得した。

店員は梱包された2個のニット帽を手に持っている。

 

『いいデザインでしょ。受注生産品なんだ』

 

ジョンにとってはよく分からないセンスのロゴが付いたニット帽を店員から受け取ったマチュは嬉しそうに拘束しているジョンに器用に被せた。

 

そしてもう1個のニット帽を被ったマチュはこう言った。

 

『これでお揃い』

 

ペアルックとはこういうことかとジョンは思った。

 

イズマ支部でペアウォッチを着用している先輩を見たことがあったが、自分がまさかマチュとお揃いの帽子を被ることになるとは思いもしなかった。

 

『マチュ…嬉しいけどそろそろ解いてくれないか?』

 

支払いは既に済ませているようで店員からの催促はない。

マチュはアームロックを解いて今度はジョンの腕にしがみ付いた。

誰から見てもカップルだと主張するマチュの行動にジョンは戸惑う。

店員を始めとした周囲の温かい視線の元、2人はアパレル店を後にした。

 

 

 

端末のアラームに設定していた『Plazma』の音でジョンは目覚めた。

 

ジョンは久しぶりに夢を見ていた。

この2年間は明晰夢でマチュとほぼ毎晩会っていたので明晰夢以外の夢を見る余地は無かった。

もっとも、夢で見た時のような時期にはもう戻れない。

 

「どんな夢を見ていたの?」

 

綺麗な英語がジョンの耳に響いてきた。

気付くとベッドの横には備え付けの椅子に女性が座っていた。

浅黒い肌に緑色の目、年齢は20代前半といったところだろう。

黒いドレスを着用しており、その立ち振る舞いにジョンは気品を感じた。

 

「人生でもっとも楽しかった時の断片です」

 

ジョンは目の前の女性が「お姉さま」だろうと何となく思った。

「お姉さま」はジョンの言葉を聞いて静かに笑った。

 

目の前の高級娼婦が自分にただの世間話をするために来たわけではないだろう。

 

「薔薇を追ってあの子が来ることは分かっていた。でも、王子様が来るなんて分からなかったわ」

(薔薇?薔薇とはなんだ)

 

言葉のニュアンスから「薔薇を追う子」というのがあのマチュに似た少女であることだとジョンには分かったが、その「薔薇」というのが分からなかった。

 

「夢だけでは分からないことがあるなんて、世界って面白いわね。お名前、聞いてもいいかしら王子様」

「ジョンです。ジョン・マフティー・マティックス」

 

「お姉さま」はジョン・マフティー・マティックスの名前を何度も呟き、次第に楽しそうな表情を浮かべたことにジョンは気付いた。

 

「あなたは導かれた人なのね」

 

「お姉さま」はマフティー、と呟く。

 

「マフティーはアラビア語で導かれた者、救世主という意味があるの」

 

そういえば前にマチュがそれに近いことを言っていたことをジョンは思い出した。

「お姉さま」の微笑みを見ていたジョンだったが、部屋の扉がゆっくりと開かれていくことに気付いた。

扉を開いたのは小間使いの少女だった。

 

「そろそろ恋人さんが来ます。準備を」

「あら、もうそんな時間?」

 

カバスの館では娼婦が相手をする人物を「恋人さん」という隠語で呼ぶようだ。

ヴァーニと同年代の小間使いの少女は恋人さん、という言葉に多少の憎しみを込めているようにジョンには思えた。

 

「お姉さま」は椅子から立ち上がる。

 

「また会いましょう。王子様」

 

名乗ったのに王子様呼びが続いているのが納得いかないジョンだったが、「お姉さま」はそんなジョンのことなど気にせず扉へと向かう。

 

「そういえばまだ私の名前を言ってなかったわね」

 

「お姉さま」はふと、思い出したようにジョンに振り返った。

 

「私の名前はララァ、ララァ・スンよ」

 

 

 

時刻が午前7時を差した頃、ジョンの部屋に朝食と日刊紙が運び込まれてきた。

トレーの上に置かれた朝食はBLTサンドとインディアンコーヒーだ。

日刊紙についてはジョンの希望でカバスの館が客のために取っている物の一部をジョンに回して貰っていた。

 

端末が繋がらない上にテレビやラジオで情報を集めようにもカバスの館を探索するのをジョンは躊躇していたために見る機会がなかった。

 

そもそもカバスの館に待機していた救急隊に少女を引き継いだ後はシャワーを浴びて速攻で部屋に入ったので周囲を確認する余裕がない。

 

出来立てのBLTサンドを食べながらジョンは日刊紙を読み始めた。

日刊紙は英字新聞のためジョンでも読むことが出来た。

読み進めると奇妙なことに気付いた。

 

(あれ?日付が古い)

 

新聞が発行された日付が7月13日になっている。

 

今から9日前の新聞だったが、ビニール袋に入っており帯も切られていない新品そのものだ。

うっかり古い新聞を持ってきたというのも考えづらい。

 

怪訝な顔を浮かべながらジョンは新聞を読み進めていき、ある記事を読み始めた時、ジョンの動きが止まった。

記事はそこまで大きくはない。

だが、そこに書かれていることが問題だった。

何度読み返してもその記事は変わらない。

 

「ヴェエエエエエッ!?」

 

珍しくジョンは驚愕を隠せなかった。

その記事の題は

 

『サイド6イズマ・コロニーで大規模テロ』

 

記事の中にはテロの実行犯とされる人物の写真が貼られている。

問題なのはその人物だ。

国際指名手配者と書かれた文字の上にある顔写真はどうみてもマチュだったのだ。

 

 

 

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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