「王子は何見てるの?」
「ドゥールダルシャンを見てるみたいだ。月から来たとか言ってたし、自分のニュースが気になるんじゃないか」
「あたしに日付を聞くくらいだし、時差とかも気にしてるんじゃない?テレビで見ればすぐに分かるし」
「今日は7月13日と言っても微妙な顔を浮かべてたし、間違いないね」
カバスの館の事務室の一角でジョンは唸りながらテレビを見ている。
「恋人さん」の予約が入っていない娼婦2人に事務室を案内してもらったジョンがやったことはテレビを借りることだった。
ジョンは新聞に書かれていることが信じられないでいた。
数日前の日付とそこに書かれていた記事の内容というのがイズマ・コロニーの巨大MSが引き起こしたテロにクランバトルの選手であるマチュが関与しているという記述、テロを鎮圧したのがジオン軍のMA「キケロガ」であるというニュース記事はジョンには全く覚えのない話だ。
「なんでマチュが指名手配されているんだ?」
ジョンにとっては意味の分からない話ばかりがテレビのニュース番組で放送されている。
7月13日未明にサイド6のイズマ・コロニー内部でクランバトルが行われた。
クランバトルとはMSを用いた2対2のタッグバトルを行う非合法な掛け試合である。
クランバトルに参加したトゥエルブオリンピアンズとポメラニアンズが大規模な破壊活動を行い、甚大な被害が生じた。
トゥエルブオリンピアンズの巨大MSはイズマ・コロニーに展開していたジオン軍の軍艦ソドンとMA「キケロガ」によって鎮圧された。
ポメラニアンズについては取り逃してしまい、現在テロへの関与が疑われている女子高生のアマテ・ユズリハは国際指名手配、彼女の知人である運び屋に対して捜査が進められている…
朝のニュース番組としてはそれなりの尺でイズマ・コロニーでのテロ事件が取り上げられていた。
インドから見ればサイド6の一基のコロニーで発生したテロ事件に過ぎない。
それでもテレビ局からはこの件をかなりセンセーショナルな話として捉えたのだろう。
テロが起こってから大して時間が経っていないので情報に誤り等がある、と前置きをするくらいにはそれなりに丁寧な報道がされていた。
ジョンは事務員が用意してくれたパイプ椅子に座って天を仰ぐ。
「訳分かんねぇよ…」
番組のあらゆるところにジョンはツッコミを入れたかった。
ニュース番組開始の日付の表示が新聞と同じ7月13日でやはり時間が巻き戻っている。
クランバトルは既に合法化されており、以前にエグザベとテレビで観戦した時のようにテレビ局が放映権を取るくらいにはスポーツとして人気がある。
サイコガンダムがイズマ・コロニーで暴れたのはジョンの認識通りだが、サイコガンダムと随伴MSを撃破したのは自分とシュウジのはずだ。
ソドンとキケロガはけっこう早めにナガラ衆によって退場させられており、テレビに映るような活躍はしていなかった。
マチュについてはジークアクスを窃盗したのは事実だが、あれは表沙汰にならなかったはずだ。
グラナダでもマチュが指名手配されたという話は全く無かったし、仮にそんなことがあるようだったらニャアンから連絡が来ている。
そして指名手配犯の知人の運び屋というのは
「ニャアンだろうな…」
番組内では名前、年齢、性別は出ていなかったが、その知人がニャアンだろうという不思議な確信がジョンにはあった。
自分とシュウジの名前が出てこないことが気がかりなジョンだったが、それ以上に気がかりなことが多すぎる。
あらゆる常識を否定されたというには重い、いや意味不明な話ばかりが入ってきてジョンはどうしようもなくなってきた。
天を仰ぎすぎたジョンはパイプ椅子に座ったまま後ろに倒れてしまう。
「ウェ!?」
それを見た娼婦の1人と事務員が駆け寄ってくる。
「だいぶ疲れてるね」
傍から見れば今のジョンはだいぶ参っているようにみえた。
娼婦から見たジョンは生きてはいけるが、メンタルが地の底といったところという見立てだ。
「海岸からウーマくんで来たらしいから…そうだ王子、ウーマくんに乗ったら?」
すいません、と言いながら立ち上がるジョンに向かって事務員がいいことを思いついたというような顔をして言った。
「今日は乗馬の予約もない。ホースセラピーだと思って乗ってみてよ。王子けっこう上手いしどう?」
ジョンは悩んだ。
訳の分からない状況であるが、少なくとも馬に乗っている場合ではない。
あの少女から詳しい話を聞かなけばならない。
シャリア達ソドン組とも連絡を取りたかった。
ソドン組の電話番号は端末に登録しているが、宇宙にいるであろう彼らと連絡を取るのは難しい。
それでも最低限イズマ支部とバイオセンサー研究所とは連絡を取りたかった。
だんだんと自分が八方塞がりになっていく錯覚をジョンは覚える。
(このメンタルではダメだな)
今のメンタルで事態を解決しようとしても余計にこんがらがるだけだ。
少し息抜きをする必要がある。
「…お願いします。ウーマくんにも礼を言わなければ」
ジョンはウーマくんへの乗馬を希望することにした。
ヴァーニと同僚のカンチャナは少女の容体を見に来ていた。
少女の容体はジョンの応急処置と救急隊の治療により大事には至らずジョンが懸念していた骨折は幸いにもなかった。
汗が浮かんだ少女の額をヴァーニが拭おうとした時、少女の目が大きく開いた。
「あ、起きた」
少女は目をクリクリと回し周囲を見渡す。
「カンチャナ、起きたよ」
「うん」
不愛想な態度のカンチャナだったが、同僚として接してきてヴァーニはカンチャナが少女が無事に意識を取り戻したことに嬉しそうにしていることを理解していた。
「痛てて…」
起きたばかりで身体の節々が痛むのだろう。少女は痛そうに自身の身体に触れる。
「大丈夫、骨は折れてないって」
そう言うとヴァーニは近くに来たカンチャナが少女に向ける視線に気付いた。
(あんたよりも王子様の方がしんどそうだったぞ、って感じかな)
ジョンのシャワーや着替えはカンチャナが準備していた。
自分が知らないジョンの姿をカンチャナは見たのだろうとヴァーニは思った。
カンチャナの心情はともかく、今はお姉さまに報告が先だとヴァーニは判断した。
「早くお姉さまに知らせよう。恋人さん、急に仕事が入ったみたいで少し遅れるから間に合うよ」
ヴァーニはカンチャナの方を向いて言った。
カンチャナもそれに同意のようで扉の方へと足を向ける。
「ここって!?」
そういえば、ちゃんと説明していなかったとヴァーニが口を開く前にカンチャナが先に話した。
「カバスの館」
ぶっきらぼうにカンチャナが少女に言うと2人は部屋から出て行ってしまった。
「カバスの館?」
1人残された少女の呟きが部屋の中に消えていく。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ