15-1 友達
「そうか、やはりあったか」
事務室の一角で3人の男が神妙な顔で話をしている。
専用デスクに座ったオーナーと彼の前に2人の従業員が立っていた。
この2人は墜落したコアファイターを偵察に行った2人で館のオーナーに結果を報告のために出頭していた。
オーナーに差し出された若い男の端末のディスプレイには撮影していたコアファイターの写真が表示されており、それを確認したオーナーは端末を若い男の手に戻す。
「あの娘は明日にマンガルールの警備隊に引き渡そう」
アマテを警備隊に引き渡すこと自体はララァの夢見を聞いた時点から検討していたため、オーナーにとってはある意味計画通りだ。
ジオン軍の戦闘機に乗ってやってきた素性の知れない小娘なんて厄介なネタでしかない。
さっさとお引き取り願いたいというのが館の責任者の立場としてのオーナーの思いであった。
「あの娘、館に置いとけば人気でますよ」
若い男がボソッと呟く。
その言葉を聞いてオーナーは苦笑いを浮かべた。
「私もそう思ったんだがね、世の中には傾国の美女という言葉もある。若くて綺麗でもここに置いておけば館の運営に支障が出るかもしれない」
若い男を隣に立っていた先輩が小突く。
余計なことを言うなという意味合いだ。
「例の王子様、飯を持って行った時どうだった?」
この2人はジョンとアマテの昼食の運搬も担当しており、コアファイターの報告時もそれを終えてからだった。
「良い子でしたよ。ちゃんと礼は言うし、手伝ってくれた。赤髪の子は…」
「王子から注意されなきゃ…ねぇ」
その光景を思い浮かべ、オーナーは苦笑いを浮かべた。
「君達も家庭を持ったら子供の躾はしっかりしろよ。
…それはともかく、警備隊の所に行く際に王子も同行させよう」
「確か月から来たんですよね?」
若い男の先輩が放った言葉にオーナーは頷いた。
「先ほど面談した時も警備隊に同行することには同意していた。このまま外に出れば野盗に襲われる可能性があると説得したからな」
ララァの夢見ですら登場が予期できなかったジョンだが、少なくともアマテより取り扱いは容易な方だろう。
オーナーの見立てでは海外旅行でパスポートを取られて途方に暮れている観光客に見えるが、実際よく分からない少年だ。
自分がインドにいることすらかなり疑っている様子なのでジョンが本気で困っているのは誰の目で見ても明らかだ。
オーナーとしてはジョンを客人として丁寧に扱うつもりであった。彼はいつの間にか館から脱走していたウーマくんを館に戻してくれたし、アマテを救急隊よりも早く救助してくれた。
どういった経緯でジョンがここにいるのかは分からないが、自分達が出来るのはジョンをマンガルールまで安全に送り届けるくらいだ。
ただ、面談の時にオーナーは気がかりなことがあった。
ジョンの顔つきが同世代であるアマテと明らかに違っていた。
とても17歳の顔つきと雰囲気ではない。
恐らく彼は少年兵あがりだろうとオーナーは推測するが、もちろん根拠など無い。
インド出身の地球連邦軍の帰還兵がジョンのような顔つきであったというだけだ。
「聞きたかった話は聞けた。業務に戻ってくれ」
オーナーはそう言うと2人は頭を下げて去っていく。
「お尋ね者か」
7月13日付の新聞を読んでいたアマテは大きなため息を吐く。
ララァと別れた後、ジョンとアマテは館に戻り昼食を取っていた。
その後にジョンがオーナーとの面談のために席を外し、1人になったアマテはジョンから手渡された新聞を読んでいた。
アマテに用意された部屋で新聞の紙を擦る音だけが室内に響く。
読み進めているとイズマ・コロニーでのテロ事件とアマテが国際指名手配を受けたことが掲載されている。
ソドンで返却された際に確認した端末に母のタマキや父、ハイバリーハウス学園の友人達からのメッセが届いていたのは覚えている。
どんなことが書かれているかは検討が付くが、今は読む気にもなれなかった。
部屋のドアが開く。
ドアを開けたのはジョンだ。
チョコレートが塗られた1箱のマクビティと2本の小さなペットボトル、そして何枚かのコピー用紙が入ったクリアファイルを小脇に抱えていた。
「ララァさんからだ。恋人さんから貰ったと言ってた」
「ララァさんは今どうしてるの?」
「恋人さんとの付き合いが終わったばかりで休んでるよ。だいぶお疲れだな」
ジョンはアマテの座るベッドのサイドデスクにマクビティとペットボトルを置いた。
ペットボトルの中身はミルクティーはイズマ・コロニーのコンビニエンスストアでも販売されるくらいありふれたブランドの物だ。
ジョンは近くにある椅子に座りアマテから距離を取る。
「館の人は君をジオン軍に突き出すつもりらしい」
クリアファイルからコピー用紙を取り出しながらジョンは言う。
面談でのオーナーは紳士然とした男であったが、言葉の節々に自分達への不信感を抱いているのが散見された。
そう思われるのも無理もない話だとジョンは思いつつ、どうもオーナーはアマテをマンガルールに連れて行きたそうな口ぶりをしていた。
面談後にジョンは事務室のパソコンを借りてネットニュースを印刷させて貰うのと共に事務員に地図サイトで周辺を見せてもらっていた。
地図上にあるマンガルール市の周辺を確認すると郊外にジオン軍の基地の存在を確認していた。
オーナー達は今日の夜か明日にもアマテをジオン軍に引き渡す算段だろうとジョンは推測する。
「…私、お尋ね者だもん」
「お互い、身の振り方を考えなきゃならないな」
仮にジオン軍にアマテが引き渡されるのならイズマ・コロニーに送還され逮捕後に裁判にかけられるだろう。
「ジョン、あなたが向こう側から来たって話、本当なの?」
疑念の視線をジョンに向けるアマテを見てジョンは頷いた。
「僕が一番信じたくないよ」
目の前の少女が『マチュ』ならば、彼女が国際指名手配になってしまった状況を打破するためにジョンは死に物狂いで動いている自負がある。
だが、身体と自分の『感』というべきものが、目の前の少女を『マチュ』だと認識しない。
『マチュ』とアマテは見た目と声が同じで性格も多少似ている。
それでもジョンの本能はアマテのことを初対面の訳あり家出少女、赤の他人だと認識し、無意識の内にジョンはアマテに対して『マチュ』とは違う態度で接する。
『マチュ』であれば親身に接したであろうジョンだったが、アマテに対しては多少の距離を置いていた。
「現状確認出来るだけのニュースは読ませてもらった。本当なのか?君がジークアクスを盗み、クランバトルに参加したというのは」
ジョンは椅子から立ち上がり、新聞の記事とコピー用紙に印字されたネットニュースをアマテに見せる。
コピー用紙は1ヶ月前の日付のニュースでイズマ・コロニー内部で赤いガンダムとジオン軍のMSが戦闘を行ったという内容の記事が印字されていた。
「写真に写っているジークアクスと赤いガンダム、乗ってるのはエグザベさんとシュウジだな?」
「…シュウジのこと、知ってるんだ」
「色々面倒を見てもらったからな」
一息置いてジョンはアマテの姿を改めて見る。
やはり『マチュ』とそっくりだ。
同一人物と見ていいくらいだ。
それでも何か『マチュ』とは決定的に何かが違う。
アマテもジョンと同じくらいに相手の容姿を観察していた。
ジョンはシュウジに似ている。
髪型と髪色が違うくらいで後は殆ど同じと言っても良い。
だが、中身は全く違う。
「アマテの友達にニャアンという名前の子はいるか?」
その言葉にアマテは目を見開いた。
自分のマヴであるシュウジと友達のニャアンを初対面の少年が当然のように知っている事実がアマテにとって不気味でしょうがなかった。
「ジョン、あなたはなんで私達のことを知ってるの?」
猜疑心に満ちたアマテの問いにジョンは困ったような様子を見せた。
「…友達、だからかな。向こう側の」
シュウジとニャアンはともかく『マチュ』に関しては友達とは呼べなくなってきてしまったとジョンは思う。
その原因が自分にあると思いつつ、ジョンは『マチュ』とシュウジ、ニャアンの顔を思い浮かべながらアマテに言った。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ