ララァの夢見は彼女が眠っている時に起きる。
向こう側の世界を覗く時は基本的に向こう側のララァの視点を通して見ることになる。
そのために向こう側のララァが知りうる範囲の情報しかララァは知ることが出来ない。
午後に予約していた恋人さんが帰った後、シャワーを浴び終えたララァは仮眠室のソファで横になっていた。
ブランケットを被り、端末のアラームを設定してひと眠りしようとしたララァだったが、意識が朦朧とする中で夢見を経験する時の感覚がララァを襲う。
行為後の仮眠に夢見が来ることはたまにあるが、ララァ本人としてはこういう時の夢見は嫌だった。
恋人さんとの行為後に赤い士官服の将校、シャアと交わる夢見を見るのはララァとしては精神的に抉られるものがある。
夢見に空気を読んでほしいと思うララァであったが、だからといっても自分で夢見のON、OFFが出来ない以上、睡魔に身を任せるしかない。
今回の夢見は特殊なタイプだ。
向こう側の自分の視点ではなく、自分自身が第三者としてその世界を見ている。
現場の空間から距離を置き、自分が一切干渉できないような映画のような感覚でララァはその場にいた。
こういった夢見は無いわけではないが、かなり珍しい。
映画館の観客のようにララァは見ず知らずの家の中にいた。
恋人さんが時折写真で見せてくれる大きな家よりも小ぶりだが、それなりに立派な造りをしている。
マンガルール市内にあるような伝統的な家の作りではない上に見慣れない家具がいくつか置いてある。
少なくともこの家がある場所はインドではないだろう。
そんな家の中にあるリビングには家族が集まっているようだが、その空気は部外者であるララァから見ても重たい。
ソファには日系人の女性とその隣には白いボールと角ばったオレンジの2体のペットロボットが遊んでいる。
日系人の女性はその様子を楽しそうに見た後、テーブルを挟んで向こう側に座る2人の少女を先程の表情から一変し、強張った表情のまま細目で見つめる。
「そんなお通夜みたいな顔になってもしょうがないでしょ」
アマテに似た髪を赤く染めた小柄の少女とそれとは対照的に赤髪の少女より背が高い黒髪の少女、この2名は今にも死にそうな表情を浮かべていた。
「ジャック、ゼクノヴァに巻き込まれたんですよ…」
「あの赤いガンダム、ジョン君が乗ってるのね」
「…はい」
猫みたいな少女の言葉を聞いて日系人の女性は細めた目と同じくらいに口を細めた。
「ジョン、死んじゃ嫌だよ…」
「…アマテが殺したようなものでしょ」
赤髪の少女を隣に座る黒髪の少女が睨みつける。
「ジャックはアマテのためにグラナダに行ったんだよ」
「私は行って欲しいなんて思ってない」
赤髪の少女もまた隣の少女を睨みつける。
ギスギスした空気が部屋に充満していく。
2体のペットロボットはその嫌な空気を感じ取り、チラチラと2人を覗き見る。
「2人ともやめなさい。今は連絡待ち。少しは頭を冷やしなさいな、特にニャアンちゃん」
ニャアンは日系人の女性の言葉を聞いて俯く。
「でも最悪のことは覚悟しておいてね」
嫌な空気だと思いつつ、ララァはここから逃げられなかった。
早く夢から覚めて欲しかったが、目覚める気配は一向にない。
しばしの沈黙の後、玄関の扉が開く音がリビングに聞こえてくる。
「戻ったで」
玄関から中年の声が聞こえてきた直後、リビングに作業着姿の少年が入ってきた。
日系人の女性は少年を見て微笑む。
「お帰りなさいシュウジ。ジョン君の件、どうだった?」
「シイコさん、その…」
死にかけている2人を見てシュウジは言いづらそうな表情を浮かべる。
シュウジの後ろから中年の男がリビングに歩いてくる。
「シャリア・ブルと連絡が取れたんでな、あのゼクノヴァの話を聞いてきた」
顔を上げた2人が不安そうな表情を浮かべる。
「シャリア・ブルとその仲間達は無事やったんやが、ボンは別行動を取ってたみたいで別れた後の行方は分からない。
ジオンもあのクレーターの周囲を捜索しているみたいやが、ガンダムの破片1つも見つからないみたいで参ってるみたいや」
「結局、ジャックは死んじゃったってことじゃ」
「まだ見つかってないだけや、どっかで生きとるやろ。もしかしたら電話してく…」
「死んだと考えた方がいいんじゃないかしら」
「シイコ!」
「機体も見つからずに死んだパイロットなんていっぱいいるわ」
中年の男の叱責にも応じず、シイコは淡々と語る。
「ゼクノヴァ現象に巻き込まれて助かった人間なんてこれまで確認されてない。正式な発表はそのうち出るでしょうが、少なくとも五体満足で生きてるとは思わない方がいいわ。ニャアンちゃんとマチュちゃん」
シイコの発言を聞いてニャアンは思わずマチュの襟首を掴んで立ち上がる。
「あんたのせいだ!あんたのせいでジャックは死んだんだ!!ジャックを返してよ!!」
大人しそうな雰囲気から一変してニャアンはマチュに怒りをぶつける。
マチュも負けじとニャアンの襟首を掴み返した。
「ジョンに死んで欲しいなんて思ってない!!」
「訳わかんない夢の中でジャックと結ばれてさぁ、あんたなんかのせいでジャックは地獄に行ったんだ!!」
「私からジョンが離れて行ったんだ!!それを繋ぎ止めるために」
「何をしたんだよ!!あんたはジャックを苦しめただけじゃない。ジャックはみんなを気遣って色々やってくれたのに、あんたは自分のことしか見てないでしょ!!」
「私の半分はジョンで出来てるんだ!!ニャアンはジョンのために何をしたんだ!?」
「あんたにジャックを譲ったんだよ!!」
ニャアンはテーブルを蹴り飛ばしてマチュを床に投げ飛ばす。
シュウジは掴み合いをしているマチュとニャアンに近づこうとする。
中年の男が叱責しようと声を上げようとする前にニャアンは叫ぶ。
「ジャックはあんたのことが好きなんだよ!!だから戦いに行ってグラナダに行って死んだんだ!!」
その言葉にマチュの動きが止まる。
「私もジャックが好きで…でもジャックはアマテのことが好きで…だからずっと我慢しようと思ってたのに」
ニャアンの怒りが再びマチュに向かう。
「ジャックが私以外の人が好きならそれでも良かった。ジャックが幸せならそれで良かったのに…なのにあんたのせいでジャックは!!」
ニャアンは拳を振り上げる。
マチュも対抗してニャアンの首元を両手で絞めようとする。
『ヤメロ!!』
静観を決めていたが、耐えられなくなったのか白いペットロボット2人に突進する。
「うるさい!!」
振り上げていた拳でニャアンは白いペットロボットをぶん殴った。
その拳を殴った勢いのままニャアンはマチュにぶつけようとする。
だが、拳はグローブをはめたシュウジの手によって止められた。
もう片方のシュウジの手はニャアンの首を締めようとするマチュの手を振り払う。
「今こんなことやっても意味ないでしょ」
シュウジが2人を睨みつける。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ