「今夜のうちにあんたを逃がす」
「どうして?」
「お姉さまの指示だ」
突然部屋にやってきたヴァーニから放たれた言葉にアマテは呆気に取られていた。
自分達の友達だと名乗るジョンを気味悪く思ったアマテは半ばジョンを部屋から追い出して1人でいた。
自分の記憶と照らし合わせて引っかかる部分があるにはあるが、あの時のアマテは気味悪さが勝った。
少し落ち着いて考えればあの時のジョンは自分と対話をしようとしていた。
互いによく分からい状況の中で交流を図ろうとしてそれを自分から振り払ってしまったという事実に気付いて少し後悔していた所にヴァーニが身を潜ませるように部屋に入ってきての開口一番だ。
「手はずはこっちでやるから大丈夫、まかせて…」
いずれにしてもカバスの館に留まる訳には行かない。
ジョンが言っていた通り、自分はお尋ね者なのだ。
いつジオンが来てもおかしくないし、早くコアファイターに戻るべきだろうという考えがアマテも考えてない訳ではなかった。
ただし館の周囲を警備員が囲い、出ようにも出られない状況ではあったのでヴァーニからの提案はアマテにとっても渡りに船であった。
「でも一つ頼みがあるんだ」
「ん?」
「お姉さまを一緒に連れ出してほしい。館の女の子みんながずっとこの日を待っていたんだ。あんたならお姉さまを宇宙へ連れて行けるはず」
「お姉さまにはここなんかじゃないもっとふさわしい居場所がある」
アマテがカンチャナと脱出計画を話しているのとほぼ同じ頃、ジョンはカンチャナから同様の計画を聞かされていた。
先ほどのだらしない姿勢から一変して真面目な顔になったジョンはカンチャナの言葉に耳を傾ける。
「お姉さまに話してもたぶん納得しない。だけどお姉さまをジオンの赤い人に会わせたい」
ララァはアマテがカバスの館へ来訪を予期した時点から脱出計画を彼女達に話していた。
ここにアマテを置いていてもロクなことにならないのは分かり切っている。
コアファイターが無事である以上、アマテをそこまで送り届ければ良いとララァは考えているのだ。
ただ、カンチャナ達はアマテの脱出計画に協力するのと同時にララァをカバスの館から解放してほしいと思い続けていた。
インドの地から離れ、宇宙へ行ける手段…それがアマテとコアファイターだ。
「王子様も手伝ってほしい」
ジョンの登場は彼女達にとっては想定外であったが、カンチャナはジョンにも脱出計画に協力してもらおうとここにいる。
「いいのか?全てを失うぞ」
脱出計画の是非に関わらず、計画が露見した時点でカンチャナ達の肩身が狭くなるのは間違いない。
今よりも生活が厳しくなる可能性があるにも関わらず、カンチャナはジョンの言葉に動じない。
「私達が今生きていられるのはお姉さまのおかげ。お姉さまが幸せになれるのならそれでいい」
カンチャナのその言葉にジョンは彼女の半生に暗い影が差しているのだろうと思った。
幼いながらここで働いている以上、相応の過去があるのだろうというのは余裕で察せられた。
「後が辛くなるぞ。それでいいんだな?」
ジョンのその言葉にカンチャナは揺るがない。
アマテの部屋からヴァーニが去った後、入れ替わるようにジョンが部屋へと入ってきた。
「カンチャナから君達に協力するように言われてきた」
相変わらず自分を不審そうに見るアマテと視線を合わせずにジョンは開封していたマクビティを一枚手に取る。
「作戦をおさらいしよう」
そう言うとマクビティを箱にジョンは戻した。
「0200、カンチャナ達が倉庫を放火、その隙に君達は予め準備されている抜け道から外に出る」
「知ってる」
「ここからコアファイターまでは歩いて30分、夜道を歩くことになるから時間はかかるだろう。これを持って行ってくれ」
ジョンはキーケースの中からソリテールを取り出してアマテが座るベッドに置いた。
「ライト?スマホがあるからいらない」
「違う。よく見て」
興味なさげなアマテの目の前にジョンはソリテールを見せる。
ソリテールの先端には赤いビニールテープが巻かれていた。
「多少見づらくなるが、暗闇でも目立たないはずだ。電池も新しい物に交換してある」
「ダサいし、どうせ使わないよ」
「分かった、でも持って行ってくれ。君のためじゃなくてララァさんのためにだ」
ジョンの言葉にアマテは渋々ソリテールを手に取った。
「外に出たらコアファイターのある場所までララァさんと移動、コアファイターに乗って君達はここから離脱する…」
もっとも、その後のことなどジョンを含め誰も考えていない。
考えないようにしているというのがただしいか。
現状、この場を最速で離脱できる乗り物はコアファイターしかない。
コアファイターにアマテとララァを乗せて離陸までは何とか行けるだろうとはジョンも思っている。
だが、コアファイターでどこに行けばいいというのか?
そう思った時、ジョンは先ほどの話を思い出した。
「そういえば、さっき君がララァさんと挨拶していた時、君は薔薇と男の子を探していると言ってたけど…」
それは何なんだ?と聞こうと思ったジョンだったが、アマテは露骨に嫌そうな顔を浮かべながらジョンから視線を外す。
「僕は『君』のことは何も知らないんだ。知っているのはニュース記事だけだ。そんな嫌そうな顔をしなくてもいいだろう?」
マチュのことなら嫌でもしっているジョンだったが、目の前のアマテについては何も知らない。
嫌そうな顔を隠さないのは別に構わないが、アマテとララァの命運が12時間後には起きるのにこの態度はジョンにはいただけなかった。
「…君はどうするの?」
ジョンからは顔を隠したままでアマテはジョンの動きについて気に始めていた。
計画ではアマテだけで練られているのでジョンはあまり必要ではない。
「館に残ってカンチャナ達の手伝いだ。やることは倉庫を燃やすだけとはいえ、彼女達はこれに便乗して色々やるみたいだ」
カンチャナ達は火事で混乱する館からアマテ達と同様に抜け出すつもりらしい。
内容自体は深くはジョンに話されなかったが、殆どの娼婦や小間使いが館の現状に不満を持っているため、脱出したい人間は脱出するつもりらしい。
ジョンはその支援をしてほしいという話だ。
「それに延焼するようなことがあってウーマくん達が焼け死ぬのは勘弁だ」
館を歩き回ったジョンだったが、建物全体の消火設備というのがイズマ・コロニーの建物よりも脆弱に見えてしまう。
インドにも消火設備を定めた法律はあるだろうが、カバスの館は消火設備については最低限でかなりおざなりになってしまっている。
万が一、逃げ遅れた人達やウーマくん達が犠牲になるようなことはジョンは避けたい。
「正直言えば君達と一緒に行きたいが、あのコアファイターに3人は乗れない」
アマテと行動を共にすればシャリアと接触できる可能性はある。
とはいえ、今はアマテとララァの脱出が最優先だ。
ウーマくん達の安全を確保できればジョンはアマテ達とどうにか行動を共にできないかと思ってはいるが、コアファイターのスペース的に3人乗りは無理だろう。
「どこかで合流できればいいが、難しいだろうな」
ただでさえアマテから不信感を抱かれている中で後先を考えない脱出計画を実行しなければならないのだからジョンは流れに身を任せるしかない。
「君が僕のことを嫌ってるのは分かっている。身の上話をしたくないのも分かる」
ジョンからはアマテの表情は見えない。
「ただ、今回はララァさんやカンチャナ達の人生が掛かっているんだ。僕も出来る限りは協力する。君もコアファイターの操縦とララァさんを頼む」
そういうとジョンはアマテの方に頭を下げる。
「…分かった」
つっけんどんな言葉でジョンの言葉をアマテは突き返す。
先ほどよりも拒絶の意は薄れたが、相変わらずの態度だ。
(最悪、ストライクに変身して陽動と脱出も考えなきゃな…)
アマテの態度を鑑みてジョンはストライクの投入を本格的に考え始める。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ