時間が日を跨ぐ少し前から暗闇に乗じてカンチャナ達は動き出していた。
カンチャナ達は倉庫内に保管してある小型発電機の燃料タンクからガソリンを取り出していた。
「結構たっぷりあるね」
「使いもしない物を物置に置いて」
ボヤを起こせるくらいにガソリンを撒いたカンチャナ達は倉庫から出ていく。
容器の中にあるたっぷりあるガソリンを手に持ち、裏口から館へと入って行く。
「ヴァーニは?」
「お姉さまと客人を抜け道に連れて行ってる」
「…それじゃ、やろっか」
カンチャナと共に動いている3人の同僚の内、2人は事務室がある方向へと向かう。
残ったカンチャナと同僚の1人はガソリンが入った容器の蓋を開ける。
「金勘定は大好きな割に金庫の暗証番号は変えてないんだよね」
「ここに撒いた後は私達も2人の所へ行く」
「なぁ、もう倉庫には撒いたんだし火をつけてみんなと合流しない?」
同僚の発言を流してカンチャナはガソリンを撒いていく。
「ここと事務所回りに撒いてしまえば館は全部燃える。何もそこまでしなくても…」
「いいの」
満足するくらいにガソリンを撒いたカンチャナはガソリンを残した容器を手に持って2人が去った方へと歩いていく。同僚はカンチャナを追って走る。
「全て燃えてしまえばいい」
厨房の管理員はウーマくん達が眠る馬房の鍵を一つずつ開けていく。
管理員の手元をジョンは端末のライトで照らす。
「これで明日から仕事がなくなってしまう」
眠っていた所を起こされた馬達は管理員の突然の来訪に驚きと苛立ちが混じった眠け眼で2人を見る。
「元々は倉庫だけ燃やす予定だったみたいだが、女どもは館まるごと燃やすつもりらしい」
「止めなかったのですか?」
「女どものここに対する恨みはすごいぞ。全員が今回の騒ぎに協力している」
アマテとララァの脱出計画にはヴァーニとカンチャナだけが参加している訳ではない。
ヴァーニとカンチャナ以外のメイドと娼婦全員が脱出計画に協力している。
彼女達は今回の騒ぎに乗じて自分達もカバスの館から脱出することを計画に入れていた。
脱出後の資金を工面するために館の売り上げを一時保管している金庫から現金を盗み、館から出た後の足としてトラックやバスの手配を以前から水面下で進めていた。
「男衆もそれなりに巻き込まれてね。知らないのはオーナーと管理人、警備くらいだな。後はみんな何かしら関わっている」
巻き込まれた側の管理員は最後に残ったウーマくんの馬房の施錠を解く。
「俺は馬達を頼まれてね。断れなかったよ」
他の馬とは対照的にウーマくんは既に起きており、ゆっくりと起き上がる。
初めからジョン達が夜中に来るのを分かっていたようにウーマくんは馬房から出てジョンへと寄っていく。
ウーマくんを撫でながらジョンは管理員と共に厨房の外へと出ていく。
その後ろをウーマくんを含めた4頭の馬が追従して歩く。
「ここのスポンサーにジオンに関係のある会社がいくつか名を連ねている」
「ええ」
おかしな話ではない。
ジオン軍の高級将校と付き合いの深い会社が金を出す、という話自体はジョンにはそれなりにリアリティがあった。
「ここではジオンの将校はお得意様だ。ところで最近マンガルールの方に新しく娼館が出来た。秘密というのはベッドで思わずポロリと漏れる。王子はスパイ映画は好きか?」
「ここにマタ・ハリでもいるんですか?」
「そんな器用なことできる女はララァさんくらいだ」
管理員の言葉を聞きながらジョンは警備員の見回りがこないか周囲を気にする。
「その娼館、聞いたこともない名前の会社がいくつかスポンサーになっているんだ。アマラカマラ商会とかいうのもあった」
「アマラカマラ商会、聞いたことがある」
アマラカマラ商会はイズマ・コロニーで棺の王子が破壊した空調機の交換作業時にジョンは名前だけは聞いたことがある。
破壊された空調機の交換用の空調機の購入でアマラカマラ商会はイズマ支部と取引先として関わっていた。
その頃のジョンはジオン行きでバタバタしていたので大して関わってはいないが、はっきりと覚えている。
アマラカマラ商会との取引で来たのが空調機ではなくサイコガンダムだったという事実とと共に…
「その娼館、まさか連邦の?」
サイコガンダムはジョンにとっては向こう側の世界であるここにも存在していた。
写真と動画で見る限り見た目はジョンとシュウジが戦った赤いガンダムと同一と見て良いだろう。
スケボーで下から覗いたサイコガンダムの作りが地球連邦のMSの作りに類似していたこともあってジョンは関連性を疑ってしまう。
「地球連邦の息が掛かった娼館にジオンの将校を招いて情報を抜き取ろうとしている…今回の火事はそれを助けることになる」
管理員はそう言うと自分の隣に立った馬を撫でる。
「俺はジオンが嫌いでね。だから協力した。ちょっとはジオンを弱らせたくてな」
「違いますね」
ジョンはそう言いながら鼻で焦げ臭いを嗅ぎ取る。
ここからは見えないが、カンチャナ達が火を放ったのだろう。
「ウーマくん達を焼き殺したくなかったからでしょう。みんな管理員さんのことを気に入っているみたいですよ」
管理員の周囲にウーマくん以外の馬達が寄り添うような姿を見てジョンはそう言った。
そんな馬達の姿を見て管理員は目を閉じて首を振った。
「プロフェッショナル失格だよ。俺は」
匂いだけだった炎がだんだんと大きくなっていくのが見える。
放火された倉庫の火は大きくなり、館へと火が移っていく。
最低限の消火設備が設置されているだけの館に対して火が大きくなっていく。
「始まった」
ジョンの呟きで管理員の目が開く。
その目には涙が浮かんでいる。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ