周囲の自然の音を聞きながらララァはアマテの手を引いて林の小道を走る。
月光とソリテールの光のおかげでアマテ達は明かりには困らずにコアファイターへと向かっている2人だったが、遠くから火災報知器の警告音が鳴り響いていることに気付き、思わず足を止める。
振り返るとカバスの館が炎に覆われている。
炎に焼かれた建物の匂いと熱をアマテは今更ながらに気付いた。
「すごい、燃えてる」
「あの子達、ここまでやらなくても…」
「行きましょう。ララァさん」
ララァの指示では館から離れた倉庫を燃やして警備を陽動、ヴァーニの誘導でアマテを館から逃がすという算段だった。
いざアマテを逃がすという時になってララァはアマテに連れられてこうして館から抜け出している。
館に残っていれば館から脱出するメンバーと共に行動を取ることになっていたのでどちらにしろ変わらないとはいえ、グダグダもいいところだ。
焼けていく館を背後に2人はコアファイターへ向かって走る。
火災報知器の警告音と炎を背景にオーナーと警備員達は館から離れた場所に集まっていた。
「建物内に残っている者はいないな!?」
「はい、館に残っていた全員がここに集まっています」
「ただ、娼婦達とメイド達がどこを探してもいないんです」
「逃げたか…」
この日は館で寝泊まりしていたオーナーだったが、突然の火事に内心では半ばパニックになっていたが、感情を表に出さず、警備のチーフ達に指示を出していく。
「誰が逃げた?」
チーフ達から言われるまでもなく恐らく全員だろうとオーナーは思った。
「分かりません…全員かも」
案の定である。
「消防に電話はしたか!?」
「12分前に連絡済みです。到着までは30分くらいかかるそうです」
「消火器が全部すっからかんになるまで消火を続けろ、一酸化炭素を吸わないように気を付けろ!!手持無沙汰な奴は逃げた女達を探せ」
なぜこんなことになったのかと内心で思いながらオーナーは警備員達に指示を出していく
この火の燃え方は寝たばこではないだろう。
恐らくは意図的な放火だとオーナーはパニックになりながらも思考のどこかで冷静に分析していた。
かすかにガソリンの匂いが建物から漂っている。
火を放ったのはララァ達か野盗か、最近出来た同業他社か。
原因を考えるのは消防が来てからでもいい。
現場の指揮を専念しようと決めたオーナーは支配人に連絡を入れるために端末で電話を始める。
オーナー達は失念していることがあった。
彼らは客人扱いのジョンとアマテの存在を完全に忘れていた。
それに合わせてウーマくん達のことを気にも留めていなかった。
そんなオーナー達の背後をジョンと管理員を乗せた4頭の馬が館の正面から堂々と出ていく。
火事の対応に追われるオーナー達はジョン達に気付くことはなかった。
森の中にある獣道に近い山道をジョン達は歩く。
遠くに見える燃える館を見ながらジョン達は森の中を進んでいく。
「王子はこの後どうする?」
「アマテ達と合流します。もう少し離れた場所で別れましょう」
ジョン達が進んでいる道を進んでいけば管理員が森の中に隠してある自動車にたどり着く。
管理員としては森の中にウーマくん達を放してジョンと共に車でマンガルールに向かう予定であった。
最後までウーマくん達の面倒を見たい管理員であったが、ウーマくん達が無事であることがオーナー達に発覚すると火事に自分が関与していると疑われてしまう。
それにウーマくん達の維持できるほど管理員に資金はない。
管理員がウーマくん達に出来ることは彼らを野生に放すしかなかった。
「ここからマンガルールまで歩くと結構時間がかかるぞ。いいんだな?」
「構いません」
ジョンとしては元からコアファイターに3人乗りは不可能である以上、ストライクに変身して夜の闇に紛れて遠くへと離れるつもりであった。
アマテとの合流は絶望的だが、こうするしかない。
移動に関して娼婦達が予め車両をチャーターしていた理由というのもここにある。
歩いていたらオーナー達に捕まるのは目に見えている。
カバスの館から脱走するためには水面下で相当な駆け引きなあったのだろう。
(もしかしたら娼婦の中に連邦軍のスパイがいるかもな)
管理員が語った通り、連邦軍の息のかかった娼館が存在する以上、カバスの館に連邦軍の内通者がいても不思議ではない。
カバスの館を燃やすこと自体、内通者が焚きつけたとしたらある意味納得はできる。
カンチャナ達はそれに上手く乗せられてしまったのかもしれない。
(よそう、全て憶測だ)
ジョンの推理が合っていたとしても今更何の意味もない。
森の中を進み、ジョン達の前に車が一台通れるくらいの林道が現れる。
林道には車が一台停車しておりジョン達は車の後ろへと向かう。
「本当にいいんだな?」
馬から降りた管理員は車の鍵を開けてエンジンをかける。
コロニー内ではエレカが幅を利かせているが、地球では給電施設が不足気味なので従来の内燃機関の車が広く活躍している。
エンジンを掛けた車から出た管理員はウーマくんに乗るジョンの前に立つ。
「短い間だったが、楽しかったよ」
「こちらこそ」
4頭の馬が管理員を見つめる。
「すまない、お前達を連れて行きたいんだが…すまない」
気にするな、と言いたげにウーマくんがいななく。
「最後の挨拶と言っては何だが、戦死した親父がソロモン諸島の生まれでな。どこの島だかは知らないんだが挨拶でこんな言葉があるらしい」
別れを惜しむように馬を撫でていく管理員はそう言いながらジョンの方を見る。
「カサレリアっていう言葉だ」
「カサレリア?」
聞いたことのない挨拶だ。
「こんにちわ、さようならっていう意味らしい」
馬達を撫で終えると管理員は車へと向かっていく。
「王子、また会おう」
「もちろんですよ」
もう会うことなどないだろう。
ジョンはアマテ達を追い、管理員も館の件で苦労が今後を襲う。
ウーマくん達は野生で生きていくことになるから明日生きているのかも分からない。
それでもまた会えるかもしれないという期待を持ってジョンは車に乗り込む管理員を見守る。
ドアが閉まり、窓が開く。
開いた窓から管理員の頭を出し、ジョン達の方を見て言った。
「カサレリア」
その言葉を聞いてジョンも言葉を返す。
「カサレリア」
管理員はその言葉を聞き終えると頭をひっこめると窓を閉める。
車はゆっくりと発進していく。
林道に轍を作りながら車は森の外へと消えていった。
そのゆっくりとした動きに管理員の未練のような物を感じ取ったジョンだったが、もう車は視界の外へと去って行った。
『探しましたよ。王子』
ジョンの後ろから響いてくる声を聞いて振り返る。
先ほどから後ろに妙な気配を感じていたが、振り返っても何も無かった。
今はジョンの後ろに1機のMSが立っていた。
ジョンからはかなり離れて見えるが、MSからすればわずかな間合いだ。
ツートンカラーで肩にユニコーンのマークが描かれたMSがジョンを見下ろしてる。
「νガンダム…ナガラ衆か」
ジョンはこの機体に見覚えがあった。
以前、ニャアンに見せて貰った動画の中に映っていたMS、そしてその名をジョンは知っている。
『帰りましょう。私達の場所へ』
デュアルアイがジョンを捉えジョンに近づいてくる。
「お前達に聞きたいことがある。色々とな」
戦おう、とジョンは決意した。
馬具から身をよじらせてジョンはウーマくんから降りる。
ウーマくんから離れ、ジョンはνガンダムに向かって歩き出す。
M-65の内ポケットからニット帽を取り出して被るジョンをウーマくん達は見つめる。
当初は出来なかったストライクへの変身が今では出来る。
そんな確信の元、ジョンはνガンダムの前へと歩いていく。
ジョンの脳裏がマチュのイメージで埋め尽くされる。
エンデュミオン・クレーターの時と同様だ。
身体がストライクになっていくような感覚を味わい、その直後にジョンの身体が一瞬で消える。
ジョンがνガンダムと対峙している一方でアマテとララァはコアファイターへと辿り着いていた。
「すぐに追っ手が来るわ。早く行って」
火事の陽動があるとはいえ、脱走はすぐに露呈するだろう。
警備員達はアマテ達とは異なりトラックでの移動もできるので捕まるのは時間の問題だ。
ララァの言葉をアマテは首を振って否定し、ララァの手を引っ張ってコアファイターへと向かう。
「あなたも一緒に来るんです」
ここでララァが乗らなければヴァーニ達の努力が水泡に帰す。
『ただ、今回はララァさんやカンチャナ達の人生が掛かっているんだ。僕も出来る限りは協力する。君もコアファイターの操縦とララァさんを頼む』
ジョンの言葉を思い返し、アマテはララァに言う。
「これただの飛行機じゃなくてモビルスーツの一部なんです。詰めれば二人乗れるし、あなたにはもっとふさわしい場所があります」
アマテは力強くララァの手を引いて歩く。
「宇宙ならあなたはもっと自由になれる!」
アマテ達が近づくとコアファイターのキャノピーが開いていく。
開かれたキャノピーからニット帽を被った白いハロがコックピットから顔を出す。
『マチクタビレタゾ マチュ』
白いハロの姿を見て安堵するアマテだったが、急にララァの足が止まりよろけてしまう。
信じられない物を見るような目でララァは森の一角を見ていた。
「連邦の白いモビルスーツ…」
コックピットから飛び降りた白いハロをキャッチしながらアマテもララァが見ている方向を見た。
森の中に月光に照らされた2機のMSが立っていた。
場所が遠い上に夜の闇の中なのでアマテからはその全容は分からないが、2機のMSはシュウジのガンダムにどことなく似ていた。
MSの1機がビームサーベルを引き抜く。
サーベルの光がアマテ達からもはっきりと見えた。
そのMSの姿を見た白いハロが震える。
「大丈夫、ハロ?」
尋常ではない怯え方をする白いハロを気に掛けるアマテだったが、白いハロの震えは止まらない。
『ニューガンダム バカナ』
「ニューガンダム?」
アマテはここまで白いハロが怯えている理由が分からない。
突然現れた2機のMSの影をアマテはコアファイターに乗ることを思わず忘れてしまうくらいに見てしまう。
『ナゼココニイルンダ ガンダム』
機械的な声でハロは叫ぶ。
その叫びの直後、遠くに見えるサーベルの光が宙を舞う。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ