Iフィールドで形成されたミノフスキー粒子の剣が夜の闇に煌々と輝く。
アーマーシュナイダーの切先にミノフスキー粒子の光が反射する。
フェイズシフトを切ったグレーのストライクは腰のラックから取り出したアーマーシュナイダーをνガンダムに向けながら距離を取る。
足元のウーマくん達が巻き込まれないようにストライクは慎重に間合いを取りながらいつでもイーゲルシュテルンを発砲できるように頭部を動かす。
エンデュミオン・クレーターでの戦闘で消耗したはずのバッテリーとイーゲルシュテルンの残弾は既に回復している。
ボディも整備済みと言わんばかりに快調だ。
どういう理屈でストライクに補給と整備が行われているのかは謎であるが、戦う分には申し分ない。
νガンダムの装備は頭部バルカンとサーベルくらいしか見当たらない。
ストライクとνガンダムは互いに軽装と言う他ない。
ただし、νガンダムの持つサーベルの前ではフェイズシフト装甲は大して意味もなく斬られるだろう。
フェイズシフトのオンオフに限らず、サーベル相手に装甲に大した意味がない上にストライクのバッテリー駆動による継戦能力への不安からジョンとしては現状フェイズシフトを切るしかない。
『探しましたよ。エンデュミオン・クレーターからここにいるとは』
『お前もナガラ衆なのか?』
『この姿、ニャアンちゃんから見せてもらったでしょう』
ニャアンが映像を撮っていたのは向こうも把握しているようであった。
(あるいはリークのためか?)
足元のウーマくん達が自分達から離れていくのをセンサーで感じ取ったストライクは後退していく。
向こうの装備が分からない以上、初見で対応できない攻撃が来たら死ぬ。
実弾攻撃相手にはめっぽう強いフェイズシフトを切っている今なら尚更だ。
『王子、私と一緒に元の世界に帰りましょう』
『やっぱりここは異世界みたいなものか』
『我々はここにいてはならないのです。私は王子を迎えに来ました。私と一緒なら元の世界に安全に帰れます』
『元の世界に戻ってどうするつもりだ。プロヴィデンスみたいな奴とまた戦わせるのか?』
ビームサーベルの動きを警戒しながらストライクはいつでも回避運動を取れるように姿勢を構える。
νガンダムはこれまでジョンが遭遇してきたナガラ衆の中でも話は通じそうではある。
だからといって今の状態は対話できる状態ではない。
『お前達は何者なんだ?こうやって異世界にまで出張してこれるなんて』
超自然的な団体のナガラ衆であったが、こうやって別の世界まで追いかけてくるのは恐ろしい。
『我々の中でもこうやって線を跨げる者はそう多くいません。私は例外ですが、王子のように長くはいられないのです』
『何?』
『ナガラは違う世界に渡るモノを許しません。渡ろうとしたモノは人であれ物であれ消しにかかる』
『お前達はナガラっていう神様を信仰していると聞いたが、僕をどうするつもりだ?』
会話で時間を稼ぎつつ、ジョンはストライクのセンサーで墜落したコアファイターの場所を確認する。
コアファイターはまだ起動していない。
墜落地点には2人の人影をストライクの熱赤外線センサーが捉える。
アマテとララァはまだコアファイターに乗っていないようだった。
『王子、私はここに長くはいれません。無理にでも連れ帰ります』
『そのためのサーベルか』
『手足は斬らせてもらいます。でもご安心を、時間をかければ再生します』
『お前達が普通じゃないのは分かりきってる。僕が素直に従うと思うか?』
ジョンはこの状況を分析しようとする。
ナガラ衆はプロヴィデンスと自分を戦わせ、結果的にゼクノヴァによって別の世界に迷い込んだ自分を回収しに来た。
回収担当として目の前にいるνガンダムが派遣されてきたのだろう。
比較的話は通じそうだが、暴力は辞さないようだ。
確かに元の世界に戻れるのであれば、νガンダムの話に乗るのはありだ。
ナガラ衆のこれまでの行いを無視すればという注釈付きでだ。
νガンダムに従ったところで元の世界に帰れる保証は無いし、帰れた所でナガラ衆の手に堕ちるのは目に見えている。
今の最優先事項はアマテとララァの脱出の支援であって元の世界への帰還というのは後回しにするべきだ。
『王子、御覚悟を』
『僕が勝ったら色々聞かせてもらうぞ』
後退していたストライクの脚が止まる。
νガンダムがサーベルを構えてストライクへとバーニアの力を使って突っ込んでくる。
遠くから消防車のサイレンが鳴り響く中、金属がぶつかり合う音が周囲に鳴り響く。
2体の巨人が激突している光景をアマテ達は呆然と見ていたが、白いハロがマチュの腕元から飛び出してコアファイターのコックピットに乗り込む。
それに同調するようにこれまで沈黙を保っていたコアファイターが急に起動し始める。
『マチュ ニゲルゾ』
バーニアの爆音の中で白いハロが叫ぶ。
我に返ったアマテはララァの手を引いてコックピットへと向かう。
ララァはアマテに従って歩くが、その動きは鈍い。
「ここを離れたらもう会えない気がする…」
ララァの呟きは爆音にかき消され、誰にも聞こえない。
ララァは夢見ていた。
カバスの館からシャアが自分を連れ出してくれるのを待っていた。
その夢はもう2度と叶わない。
自分を閉じ込め、居場所であった館は燃え上がり、夢の中でシャアを殺し続けてきたガンダムが目の前にいる。
ここから離れなければ死ぬ。
理想と現実の両面がララァにコアファイターへ乗るように促していた。
「乗って、ララァさん!!」
先にコックピットに乗り込んだアマテがララァに手を伸ばす。
ラダーはないがコックピットへの乗り降りはアマテが出来ている以上、ララァでも何とか乗り込める。
ドレスに汚れと傷がつくのを顧みず、ララァはコックピットへと足を踏み入れる。
多少窮屈になったコアファイターだったが、元々小柄なアマテとララァの2人なので戦闘時のような機動を取らなければ何とかなる。
2人が乗り込んだことを確認したかのようにコアファイターのキャノピーが閉まる。
密閉されたコックピットのキャノピーが周囲の状況を映し出す。
「行こう。ジークアクス」
アマテはここまで自分を連れてきたジークアクスそのものが近くにいるような気がした。
自分達はこれからジークアクスの元へと向かう。
そんな確信を持ってアマテは正面を見据えようとした。
視界の隅にビームサーベルが自分達に向かって飛んできたことに気付いたのはその直後だった。
νガンダムのビームサーベルのグリップが宙を舞う。
形成されたミノフスキー粒子の刀身が持ち主の手を離れても消滅することなく、そのままアマテ達の乗るコアファイターへと突っ込んできた。
「あっ」
アマテは間抜けな声を出した。
ララァは声を出せずに視界に迫るキラキラを睨む。
そのままであればアマテ達はビームサーベルに身体を焼かれ、コアファイターが彼女達の棺になるはずだった。
物理法則に従ってアマテ達に直撃するような軌道を取るサーベルのグリップをストライクがその両手で掴んだ。
νガンダムとの戦いの中でストライクは森から飛び出して一気にジャンプした。
サーベルを片手に持ち、コアファイターの前へとストライクが轟音を轟かせながら着地した。
ストライクの頭部がコアファイターを見据える。
「シュウジ…」
アマテの声に応えるようにストライクのカラーがグレーから赤色へと染まっていく。
νガンダムがアマテ達の妨害に来た訳ではないだろうが、MS戦の余波でアマテ達に被害を出すわけにはいかない。
『何をしているんだアマテ、早く行け!!』
着地したストライクは接触回線でコアファイターへと話しかける。
「え?ジョン?」
アマテから見れば突然現れた未知のガンダムから放たれた声が知り合った少年であることに呆気に取られる。
『早く逃げないと巻き込まれるぞ!!』
急かすジョンの声に押されてか、コアファイターのノズルが動き、垂直に離陸する。
アマテが動かしている訳では無く、コアファイターがパイロットではなく自らの手で動かしていた。
『ララァさん、アマテを頼みます』
その声にララァと白いハロがモニター越しにストライクを見つめる。
ララァは何か言おうとしたが、その前に彼女達の身体に慣性が掛かる。
離陸したコアファイターは逃げるようにその場から飛んでいった。
(ジョン、あなた何なの…?)
死ぬ一方手前から助かった安堵感の中でアマテはあの赤いガンダムについて思う。
シュウジの赤いガンダムと似たような赤いガンダムが自分達を救ってくれた。
しかもその赤いガンダムに乗っていたのはジョンだ。
一体どこにガンダムを隠し持っていたのかアマテには不思議でしょうがなかった。
シュウジと同じ顔を持ち、赤いガンダムを操縦する少年のことがアマテはますます分からなくなっていく。
ストライクの手に持つビームサーベルのグリップから刀身が消えていく。
ビームサーベルの構造上、MSの手から離れても短時間であれば稼働できる。
MSのマニュピレーターとグリップがコネクターで接続されることでエネルギーが介されてビームサーベルは初めて使うことができる。
この場合、ストライクはνガンダムとコネクターの規格が違うのでそもそも使うことすらできない。
離陸して遠くへと飛んでいくコアファイターを見送ったストライクは後ろを振り返り、迫ってくるνガンダムと向き合う。
『さすがです。サーベルをキャッチするとは』
疲弊しているストライクとは対照的にνガンダムは余裕があるように振る舞う。
CQCの構えで間合いを取ろうとするストライクに対してνガンダムは自身の左腕にあるウェポンラックへと右マニュピレータを伸ばす。
どうやらもう一本サーベルを持っているようだ。
アマテ達が危うく死にかけたことへの怒りをνガンダムへ抱きつつ、ストライクは次の手を考えようと思考を回す。
νガンダムが左腕からサーベルのグリップを取り出そうとした時だった。
突然、νガンダムのサーベルのグリップが粉砕され、左腕に施された装甲が抉り取られる。
周囲に砲音が鳴り響き、ストライクのコンピュータが警告を発する。
未知の脅威が迫っていることをコンピュータが知らせ、センサーがストライクとνガンダム以外のMSの機影を検知する。
『ナガラ衆を名乗っているのは貴女か?』
ストライクの後ろからその声が聞こえてくる。
先程まで何もなかった森の中から4機のMSが歩いてきた。
『MSに変身できるだけで偉そうにしやがって、人間のニュータイプのレベルもずいぶん下がったな?』
『事故とはいえ、ララァの姉貴を殺そうとしたことは許せんなぁ』
『ガンダムの姉ちゃんをしばきますか兄貴』
『…ギャン?』
νガンダムをデュアルアイから外さないように後ろを見たジョンは絶句した。
ストライクの後ろに4機のギャンが立っていた。
『…あなた方は!?』
νガンダムの声に驚愕が混ざる。
3機の紺色のギャンがストライクをνガンダムから守るように囲む。
その前を大型のランス、ハクジを肩に背負った白いギャンがストライクの前に立った。
『ゼクノヴァを人為的に発生させ、こちらのシマを荒らしたのはナガラ衆だな』
白いギャンが持つハクジのレールガンの銃口が熱を帯びている。
νガンダムの左腕を撃ったのはこの白いギャンだろう。
『何なんだ?一体?』
『少なくとも敵ではないぞ、坊主』
突然現れたギャン達に困惑するジョンだったが、暗い紺色の3機のギャンが語りかけてくる。
『君達はナガラ衆なのか?』
『あんな連中とウチらを一緒にしてもらっては困る』
『坊主にはララァの姉貴のところに行ってもらいたい』
『ウチらはその御守りだ』
3機のギャン達がコアファイターが飛び去った方向をマニュピレーターで指差す。
『ジョン、早くララァ達の所に行け。彼女達はガンダムが海没した地点へと向かっている』
白いギャンがそう言うと肩に担いでいたハクジを降ろし、νガンダムに対して構える。
『シャロンの薔薇と入れ替わってヤバいやつが海の中にいる。そいつを仕留めないとまずいことになるぞ』
アマテが『薔薇』を追っているというのをジョンは以前にも聞いたことがある。
それが何なのかはジョンには分からない。
あのコアファイターが向かっているのが白いギャンの言う通り、『薔薇』という何かがある場所なのだろう。
ここは謎の助太刀に場を任せてララァ達を追おう。
『君達は何者なんだ?』
3機のギャン達に誘導されてその場から離脱するジョンは白いギャンに問いかける。
『助太刀だ』
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ