おっぱい大作戦   作:そらまめ

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第16話 静かな夜に
16-1 鷹


視界が赤一色に包まれた途端、ジョンの視界はブラックアウトした。

フリーダムどころか、自分の手元すら見えない。

自分が一体となっているストライクのコンピューターは、まったく反応を示さない。

何も見えない、完全な暗闇の世界だった。

マチュとの明晰夢よりも、さらに何も存在しない。

 

(死んだら無になる、というのはこういうことなのか?)

 

そう思ったジョンだったが、無になるのであれば自分の意識すら消えているはずだ。

聴覚もストライクのセンサーも何ひとつ反応を示さない。

 

「…ョン」

 

困惑していたジョンだったが、どこからか声が聞こえてくることに気づいた。

 

「ジョン」

「ジョー」

「ジョン君」

「ジョン」

「ジョニー」

「ジャック」

 

懐かしい声だ。もうずっと聞いていなかった声ばかりが、遠くから響いてくる。

 

(父さん、母さん、アキコ、ニャアンのお母さん…)

 

自分を呼ぶその声は、間違いなく親しい人たちのものだった。

新年でも仕事をしていた父。ニャアンの母と一緒に正月料理を作っていた母。

近所のシローお兄さんの妹のアキコ。

学校で仲の良かった悪ガキ達。

だが、ジョンはもう二度と彼らの声を聞くことはないはずだった。

なぜなら、彼らはすでに全員死んでいるからだ。

 

(だったら死神の客引きか)

 

客引きならイズマ・コロニーの歓楽街でやってくれとジョンは思いながら、声がやむのを待った。

それでも、声はだんだんとジョンの方へ近づいてくる。

身構えようにも、身体がないのでどうしようもない。

 

ジョンを呼ぶ大合唱がピークに達したその瞬間、突然声が止まった。

代わりに別の声が聞こえてくる。

 

「ジョン」

「ジャック」

 

マチュとニャアンの声だ。

 

「ジョン」

「ジャック」

「ジョン」

「ジャック」

 

互いの声が交差して響き渡る。

 

「ジョン」

「ジャック」

「ジョン」

「ジャック」

「ジョン」

「ジャック」

 

耳を塞ごうにも塞ぐ手がない。

声が段々とヒートアップしていき、怒号のような声へと変わっていく。

一瞬の沈黙が入り、2人の声が重なる。

 

「「逃がさない」」

 

 

 

憾のこもった二人の声がジョンに向けられる。

 

二人の声を聞いた直後、急激にジョンの視界が回復していく。

赤い光の粒子を纏いながら、ストライクとフリーダムはゼクノヴァから解放されていた。

 

ゼクノヴァでどこかに転移したのだと思ったジョンは、復活したストライクのセンサーを介して周囲を見渡す。

ジョン達は海の中ではなく、宇宙にいた。

 

(ゼクノヴァで海から宇宙に転移したのか?)

 

ゼクノヴァ発生時にはフリーダムにしがみついていたはずだが、今のフリーダムはストライクから離れた場所で浮遊している。

 

自分の身体となっているストライクの動きがぎこちない。

センサーも性能が低下しており、まともに周囲を索敵できない。

ストライクのコンピュータが、機体各部の機能低下を警告してくる。

 

(まずいぞ、隙だらけだ)

 

ゼクノヴァに巻き込まれた際に、機体に何らかの負担がかかったのだろう。

一度変身を解除した方がいいのだが、ここは宇宙空間だ。

変身を解除したら窒息して死ぬ。

 

コンピュータからの警告を脳内に表示して確認していくジョンだったが、コンピュータはある異常を警告していた。

 

『機体の電力バランスをセーフモードに設定。フェイズシフトの設定を初期値に戻します』

 

警告の直後、ストライク本体に異変が生じた。

赤色に設定されていた装甲の色合いが急激に変化していく。

ストライクのピンクがかった赤が、みるみるうちにトリコロールの配色へと変わっていった。

 

(どうなってるんだ!?)

 

ジョンの困惑をよそに、ストライクのコンピュータは淡々と処理を続けていく。

 

『フェイズシフトの設定完了。現在、機体の性能は40%に低下』

 

トリコロールに変わったストライクのボディを見て、ジョンは困惑を隠せなかった。

 

焦るジョンに追い打ちをかけるように、ストライクのセンサーがアラートを鳴らす。

遠くにいるフリーダムの頭部が、ストライクに向けられていた。

 

ジョンの目覚めとほぼ同時に再起動していたフリーダムも、ストライクと同じようにぎこちない。

そんな不安定な動きのまま、両腰に装備された三つ折りの砲身が展開され、二門の砲がトリコロールになったストライクへと向けられる。

 

ラウンドムーバから供給される電力によってストライクのフェイズシフト装甲は色が変わったとはいえ展開できているが、あの砲の正体が分からない以上、どうにか回避しなければならない。

何とかラウンドムーバを動かそうとするジョンだったが、フリーダムの方が早かった。

 

両腰から放たれた砲弾が、青色に変わったストライクの胴体に直撃する。

 

(レールガン!?)

 

ジョンはその武装の正体にようやく気づいた。

フェイズシフト装甲に守られているためダメージはないものの、高威力のレールガン砲弾の直撃によって、ストライクは吹き飛ばされる。

 

吹き飛ばされながらも、どうにかストライク本体のスラスターとラウンドムーバのバーニアを併用して体勢を立て直そうとする。

だが、フリーダムは容赦なく腰のレールガンを発射してくる。

向こうも本調子ではないのか、ソドンの時のように近接戦を仕掛けてはこない。

 

相手は砲を使えるが、ストライクはIFFを変更できないためラウンドムーバにマウントしたビームライフルを発砲することも、イーゲルシュテルンを使うこともできない。

左腕に構えたジークアクスのシールドも安全装置が起動したのかIフィールドは既に機能を停止している。

 

ストライクはフェイズシフト装甲で守られているが、ラウンドムーバはそうではない。

もしレールガンの砲弾がラウンドムーバに直撃して機能が停止すれば、打つ手がなくなる。

 

ジョンは一気に窮地に陥っていた。

 

本調子ではないフリーダムの発射は間隔が空き、その隙を突いてラウンドムーバにマウントされていた対ビームシールドをどうにかパージし、ストライクは左手に構える。

 

対ビームシールドはジークアクスのシールドより防御範囲こそ広いが、その防御力は未知数だ。

ストライクの機能が回復するまで、どうにかラウンドムーバを守り切ればいい。

ただでさえフェイズシフト装甲がトリコロールに色が変化したので防御力がどう変わったのかも分かったものではない。

ジョンはレールガンの第二射を覚悟した。

 

が、突然フリーダムの体勢が崩れた。

四方八方から射撃が飛び交い、フリーダムはストライクに攻撃するどころではなくなった。

 

フリーダムに射撃を浴びせている存在を、ストライクのセンサーが捉える。

 

(ガンバレルだ!)

 

ガンバレルストライカーに搭載されていたものに似た四基の兵装から放たれた砲弾が的確に、そして隙を与えずフリーダムを攻撃していた。

有線で繋がれたガンバレルの根元をストライクのセンサーが追っていく。

 

フリーダムに攻撃を加えているのは、宇宙戦闘機のような機体だった。

形状はガンバレルストライカーによく似ている。

角ばったガンバレルストライカーとは対照的に、各部に曲線が設けられているが、決定的な違いがある。

 

白いのだ。

 

今のストライクと同系色の白色に塗装されたその宇宙戦闘機は、ガンバレルを巧みに展開し、フリーダムの装甲が剥がれた箇所を正確に狙って攻撃を加えていく。

 

その動きはまるで鷹のようだ。

 

さすがに堪らないと判断したのか、フリーダムはぎこちない動きのままバーニアを噴かし、その場を離脱した。

 

ジョンは離れていくフリーダムを追撃しようとしたが、ボディはようやくまともに動き始めたばかりで、追うほどの機動力はまだ回復していない。

結果的にジョンは、フリーダムが遠ざかっていくのを見送ることしかできなかった。

 

やがて、ストライクの横に四基のガンバレルを格納した宇宙戦闘機が横付けする。

その機体のコックピットハッチが開き、ノーマルスーツを着た一人の男がワイヤーガンを発射した。

その戦闘機は、ガンバレルストライカーを一回り大きくしたようにも見える。

 

『大丈夫か、ガンダム?』

『ありがとうございます。助けていただいて…』

『さっきのゼクノヴァでここに来たんだろう。ここじゃ、またあんな奴が現れるかもしれない。コロニーに戻ってから話をしよう』

 

ジョンは謎の宇宙戦闘機に乗る男に感謝しつつ、改めて周囲を見渡した。

ストライクの位置から少し離れた宙域には、いくつものスペース・コロニーが点在している。

 

『すみません、ここはどこですか?』

『ここはサイド3の宙域だ』

『…ということは、僕はジオンに?』

 

あのνガンダムの言葉が正しかったかどうかは別として、ジョンは自分が元の世界に帰ってきたのだと理解した。

まさか別の世界の地球にあるインドから元の世界のサイド3宙域に転移しているとは思いもしなかった。

 

『ゼクノヴァに巻き込まれたんだから無理もない。アマテラスに着いたらまずは休んでくれ』

 

この宇宙戦闘機のパイロットは、アマテラスから来たらしい。

「アマテラス」という名に、ジョンは一時期暮らしたことのあるサイド3のマハルで聞き覚えがあった。

アマテラスは農業用プラントとして、最先端技術が集積されたコロニーであり、ジュウゾウ・アマトという人物が領主を務めていると、当時は仲の良かった人物から聞いたことがある。

 

そうなると、この宇宙戦闘機はアマテラスの防衛隊所属ということか。

本調子ではないストライクでここに留まるのは危険だ。

ジョンは、とりあえずこのパイロットの指示に従うことを決めた。

変身を解除するかどうかは、アマテラスに着いてから考えればいい。

 

『そういえば、まだ名乗っていなかったな』

 

宇宙戦闘機のパイロットはストライクを見上げながら言った。

ヘルメットのバイザー越しに、天然パーマの髪がのぞいている。

 

『俺の名前はクワトロ・バジーナ。アマテラスの防衛隊に身を置いている』

 

クワトロは人懐っこい笑みを浮かべ、白いストライクと視線を交わした。

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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