アマテラス・コロニーは、開放型であるイズマ・コロニーとは異なり、密閉型を採用しているコロニーだ。
開放型を採用するコロニーのほうが多いが、密閉型がマイナーというわけではない。
サイド3、現在はジオン公国を名乗っているスペースコロニー群においては、開放型よりも密閉型の採用例が多い。
もともとスペースコロニーは多種多様であり、それらをまとめた動画を見るのが、ジョンの暇つぶしだった。
『最近何か大きな、MS同士の戦いとかはありませんでしたか?』
白い宇宙戦闘機の横をどうにか追いながら飛ぶストライク。
ジョンは、宇宙戦闘機に接触回線を介して、クワトロに話しかけた。
『月面でのゼクノヴァのことか?』
『月でゼクノヴァ? エンデュミオン・クレーターの戦いですか?』
『知ってるじゃないか。グラナダの生中継を見ていたが、びっくりしたぞ』
エンデュミオン・クレーターでプロヴィデンスと戦った話が出てきたということはどうやら元の世界に戻ってきたと考えてよさそうだ。
クワトロはフェイズシフト装甲の特性を知らないため、今のトリコロールカラーのストライクを「ストライクの亜種」だと思っているらしい。
しかし、この宇宙戦闘機は見れば見るほどガンバレルストライカーに似ている。
ハロの言うところのコズミック・イラの産物かと思ったが、その割に防衛隊に所属している。
少なくともストライクのように個人が変身してどうこうするものではなく、きちんとした実体を持ち、税金で運用されているようだ。
『こいつ、戦闘機にしか見えないだろ?』
『ええ』
『でもな、ジオン軍としてはこいつ、MAとして扱っているらしい』
この宇宙戦闘機は、ビグ・ザムと同じくモビルアーマーの分類に入るらしい。
確かにMS並みの大きさで、4基のガンバレルも加わるとかなり巨大に見えるが、ビグ・ザムほどの代物には見えない。
『このビットみたいなのはガンバレルっていうやつだ。まあ、君なら知っているだろう』
あのガンダムと同型機に乗っている君なら知っていて当然だ。
そう言いたげなクワトロはあまり気に留めていない様子だった。
『エンデュミオン・クレーターの時にも、ガンダムが似たような装備を使っていたが、あれにはビーム砲を積んでいたようだな。だが、こいつにはザク・マシンガンを積んでいる』
ハロが変形したガンバレルストライカーは実体弾とビームを切り替えられたが、クワトロの機体では1基のガンバレルにザク・マシンガン2門、計8門の火力を備えているようだ。
さらに機体下部には、ビームライフルのような大型砲も装備されている。
『結構な大火力だな…』
『ビーム兵器が普及しているこのご時世じゃ、火力不足だ。ところで、君はなんていうんだ?』
クワトロの問いに、ジョンは少し迷った。
そもそもクワトロがなぜここにいるのかも分からない。
アマテラスへ行く以外の選択肢がないとはいえ、無闇に信用していい相手でもない。
とはいえ、名乗らないわけにもいかない。
『…ストライクです』
『ストライクガンダム、か』
ジョンからはクワトロの姿は見えなかったが、どこか納得して頷いているような気がした。
『俺が乗っているMAは零式だ』
『零式?』
『メビウス・ゼロというのが正式名称だ。詳しい話は着いてからにしよう。そういえば、君自身の名前をまだ聞いていなかったな』
メビウス・ゼロ、どこか懐かしい響きだ。
『ジョン・マフティー・マティックスです』
『よろしくなジョン』
名前を聞けて、クワトロは満足そうに笑った。
スペースコロニーには、宇宙港以外にも内部へアクセスできるゲートがいくつか設けられている。
イズマ・コロニーでイズマ支部がコロニー外で作業を行う際に使用していたゲートのほかにも、一年戦争時にシャアが1バンチ・コロニーへ侵入した際に使用した通路のようにとにかくスペースコロニーの出入りに関しては、ザルな部分が多い。
イズマ支部で働いていたジョンとしても、そのザルさについては、ある程度やむを得ない面があると思っていた。
U.C.0085年の現代では、多くのスペースコロニーで老朽化の進行が問題となっている。
特に初期、西暦1960年代の技術水準で建造されたコロニーは悲惨な状態で、宇宙線が平気で内部に入り込んでくるという。
一方、アマテラス・コロニーは比較的新しい部類に属しており、老朽化の悲哀とは無縁だった。
ストライクとメビウス・ゼロは、外壁部の中でも目立たない位置にあるゲートを通り、コロニー内部へと進入した。
真空の宇宙空間から1気圧の世界へ、その変化にジョンはわずかな安堵を覚える。
プロヴィデンスとの戦闘の時と同じく、ジョンはノーマルスーツを着ていない。
もし変身が解除されてしまったら、そう考えると気が気ではなかった。
(そもそも、よく分からないままこのストライクの力を使っているんだよな…)
ここに来てジョンは、自分がストライクの力を手探りで使っていることをようやく自覚した。
そんなジョンの思いとは関係なく、メビウス・ゼロはスラスターを駆使して機体をカタパルト状のプラットフォームに固定する。
どうやらここは、メビウス・ゼロのハンガーとして改造された貨物スペースのようだ。
機体の固定が完了すると、メビウス・ゼロのコックピットハッチが開き、中からクワトロが現れた。
彼はノーマルスーツのヘルメットを脱ぎ、素顔をあらわにする。
茶色の天然パーマの髪がふわりと揺れ、オレンジ色のノーマルスーツが光を反射して目を引いた。
「ここは、メビウス・ゼロを一時的に格納できるよう改造した貨物スペースだ」
クワトロの視線が、ストライクのコックピットハッチを見上げる。
「ここにいるのは、俺と君だけだ。誰にも見られることはない」
そう言いながら、メビウス・ゼロから降りたクワトロはストライクの足元へと歩み寄った。
「ジョン、その姿を解いてくれないか?」
笑顔を浮かべるクワトロを見て、ジョンの背筋が凍った。
なぜこの男は、自分がストライクに変身できることを知っている?
そもそも、なぜ人目のない貨物スペースに自分を連れてきた?
クワトロ・バジーナとは何者なのか。
『あなたは一体…?』
ジョンが疑問を口にしようとした、その時だった。
「アム…クワトロ!!」
突然、貨物スペースの作業員用出入口から、女性の怒号が響き渡った。
「さっきから私に気づかず、そんな言葉を吐くなんて…甘々よ!!」
プンスカしながら作業服を着た女性は、キャットウォークを歩いていく。
「まぁまぁ、セイラさん」
クワトロは頭上にいる作業服姿の女性、セイラをなだめるように声をかけた。
「ジョンもこうして連れてきましたし、いいじゃないですか」
「…まぁ、いいか」
ストライクの頭部カメラと目線を合わせる位置まで歩くと、セイラは立ち止まった。
(社長にそっくりだな…)
その顔つきを見て、ジョンはシロウズのことを思い出す。
ララァとのキラキラの中で、シロウズがシャアであると判明してもジョンはさして驚かなかった。
というより、どことなくシャアとシロウズを別人のように感じていた。
最近は会っていないが、一年戦争後からイズマ・コロニーに至るまで、ジョンとシロウズの付き合いは続いている。
セイラという女性は、どことなくシロウズに似ている。
「初めまして、ジョン。シャリアからあなたのことは聞いているわ」
セイラの青い瞳が、ストライクを見定めるように鋭く光る。
『えっ?』
ジョンは、セイラの言葉に耳を疑った。
「シャリアに連絡するたびに、あなたの話を聞いてるの。耳にタコができるくらいね」
『シャリア中佐のことを知っているんですね』
どういう関係かは分からないが、目の前の女性はシャリア・ブルの仲間らしい。
自分の知らぬところで名前が出ていたことにジョンは困惑したが、そろそろ変身を解除するべきだろうと思った。
三度目の変身の際、プロヴィデンスとの戦いで損耗したエネルギーや、イーゲルシュテルンの弾数が回復していたことから、変身を解除すれば、補給や修理のような形でリセットされるのではないかとジョンは推測した。
ストライクがいまだ本調子でない以上、変身を解除して回復できればというのが、ジョンの希望的観測だった。
ここに来て、手探りでストライクの力を探ってきたことの皺寄せが来ていた。
本来であれば誰にも見られずに変身を解除すべきだが、この二人なら自分の変身を受け入れてくれる。
そんな直感がジョンにはあった。
『クワトロさん、セイラさん。今からちょっと、びっくりするようなことが起きます』
「解いてくれるのか、ジョン」
クワトロの期待に応えるように、ジョンはストライクの姿を解除した。
傍から見れば、突然ストライクが消滅したようにしか見えない。
消えたストライクの足元の床に一人の少年が立っている。
そんな光景を目の当たりにしても、クワトロとセイラは、多少の驚きを見せつつも、やはりそうかと言わんばかりに、冷静に受け止めていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ