坑道に設けられたレールの上を、貨物用キャリアーが走る。
坑道とは称しているが、実態としてはイズマ・コロニーにも存在する地下隔離通路とあまり変わらない。
まともに整備されていない場所が多いイズマ・コロニーとは違い、アマテラス・コロニーに関してはそれなりに金がかかっているらしく、老朽化らしい老朽化は見られない。
「シャリア達はずいぶんあなたのことを探していたわ」
メビウス・ゼロを載せた貨物用キャリアーに乗っているジョンは、手すりに掴まりながらセイラの話を聞いていた。
「あなたがゼクノヴァに巻き込まれたっていうから、シャリア達は各地にあるゼクノヴァを計測するためのカウンターを調べて回ってたの。それも三か月、あなたがどこかに転移しているんじゃないかとね」
「僕が消えてから三か月経ったんですか?」
「そうね、今は十月二十二日だから、ちょうどまるまる三か月かしら」
セイラはそう言うと、自身の端末の時計表示をジョンに見せた。
デジタル表記の日付は「0085年10月22日 午後2時12分」を指している。
エンデュミオン・クレーターでの戦闘が0085年7月21日なので、確かに三か月が経過していた。
ジョンが「向こう側の世界」で活動していたのは精々一日くらいなので、その時間差に違和感を覚えた。
「あなたは向こう側の世界にいたんでしょう。どれくらいいたの?」
「一日程度です」
「じゃあ、ちょっとしたウラシマタロウ気分でしょう」
「…驚かないんですか? 僕がストライクになったり、ゼクノヴァで別の世界に行ってたなんて話」
メビウス・ゼロをキャリアーに載せている間に、ジョンはクワトロとセイラに、ゼクノヴァに巻き込まれて別の世界に行っていたという話を簡単にしていた。
ストライクからの変身解除といい、別の世界に行っていた話といい、二人は「やっぱりそうか」と言わんばかりに疑うことなく、むしろ納得している姿を見て、ジョンは疑問に思った。
二人がシャリアと繋がっているらしいが、見ず知らずの少年の話をそう簡単に信じられるのだろうか。
「シャリアのお気に入りだしね、あなた…それに」
何か言いたげなセイラだったが、口を噤んで先を言わなかった。
「ジョン、向こうに着いたら君にはこれから防衛隊のところまで来てもらうぜ」
口を噤んだセイラの代わりに、クワトロが口を挟んだ。
その言葉を聞いてジョンは身構えた。
クワトロは防衛隊の所属であるから、不審人物である自分を逮捕するためにいるのではないかと思ったのだ。
だが、クワトロは険しくなったジョンの顔を見て笑い、違う違うと手を振った。
「君に会いたい人、というか君がここに来るのを知っている人がいるんだ」
ジョンはその言葉にデジャヴを感じた。
カバスの館でララァがアマテの墜落を予言した時のような話だ。
「ニュータイプというやつですか、その人」
「俺はそう思っている。君もニュータイプの素養はありそうだな」
「…僕はそんな者じゃないです」
「まぁ、ストライクガンダムに変身できる時点で、ニュータイプには負けてないな。もっとも、君がこれから会う人はそれ以上だ」
はっはっはっと笑いながら、クワトロはジョンの肩を叩いた。
坑道はそのまま防衛隊の施設まで接続された作りになっている。
どうやら有事の際には、この坑道でコロニーのあらゆるところに高速でアクセスできるような構造になっているようだ。
(アイランド・イフィッシュにも似たような作りだったらなぁ)
断片的な記憶にしか残っていない、かつての地獄をジョンは思い出す。
避難していたシェルターが破壊され、ノーマルスーツを着て毒ガスが充満したコロニーから脱出するために、ジョンは四苦八苦しながらサバイバルをしていた。
周囲の人間が全員死んだものと思い、ジョンは地下隔壁通路に侵入した。
ノーマルスーツのエアの残量を気にしながら、ソリテールの灯りを頼りに通路を進む。
作業用物資の搬入口まで到達し、そこから見える宇宙の闇を見て足踏みしたものだ。
このままコロニー内にいてもジオン軍に殺される。
だからといって、このまま宇宙に飛び出しても誰も助けてくれない。
酸欠で死ぬか、ジオン軍に見つかって殺されるだけだ。
エアは少しずつ、それでも確実に減っていく。
一か八か、宇宙に飛び出すか。
腹を括り、ジョンが宇宙へ飛び出そうとした時だった。
突然、後ろから強い光がジョンを照らした。
その光に思わずジョンは顔を覆いながら、自分を照らすものの正体を見ようとした。
自分を照らしていたのは、プチモビルスーツだった。
ランプで自分を照らすプチモビルスーツを見て、ジョンはジオン軍の機体か?と思い、拙いながらもCQCの構えを取った。
プチモビルスーツからの攻撃を覚悟したが、当のプチモビルスーツは何もしてこない。
なんだ…?と思いながらも、ジョンはプチモビルスーツへと近づく。
もしかしたら、自分と同じ生存者かもしれない。
そう思い、ジョンはプチモビルスーツのキャノピーに近づいた。
ノーマルスーツをプチモビルスーツのキャノピーに接触させ、振動で会話しようとバイザーをキャノピーにぶつけた時だった。
『生存者か!?』
誰何しようとしたジョンは、キャノピー越しにこちらを涙で腫らした顔で見る少女を目にした。
『ジャック…?』
プチモビルスーツに乗っていたのは、ニャアンだった。
『ニャアン、生きていたか』
毒ガスで死んだと思っていた幼馴染が、プチモビルスーツに乗って自分の前に現れた。
どうやらニャアンはプチモビルスーツに乗って難を逃れていたらしい。
『驚いたな、ニャアン。プチモビを操縦できたとは』
ここまで生き残ったということは、ニャアンも自分と同じくコロニー内部の毒ガス戦の現場を見てきたのだろう。
それを意識して、いつも通り気さくな感じで話しかけるジョンだったが、ニャアンの方は思考が止まっているようだった。
目の前にジョンがいるという現実をゆっくりと咀嚼し、飲み込んでいくと、ニャアンの表情がみるみるうちに変わっていった。
『ジャックだよね!?』
『少なくとも幽霊じゃないよ』
『ジャックが生きてる…生きてる。死んだと思って、私は…』
『その様子だと、いろいろ見てきたみたいだな』
『みんな、みんな、死んじゃった…』
『あぁ…』
『でも、ジャックは……良かった、ジャック』
腫れ上がった顔を涙と鼻水で濡らしながら、ニャアンはジョンに向けて笑顔を浮かべた。
記憶が穴抜けになった今でも、あの時のことをジョンははっきりと覚えている。
あの時のニャアンのことを、ジョンはマチュに一度も話していない。
あれから三か月が経ったということは、マチュも父親に連れられてとっくにイズマ・コロニーに帰ったはずだ。
ニャアンも、そろそろ仕事に少しは慣れてきた頃だろう。シュウジも一緒なら問題ないはずだ。
「みんな、どうしてるんだろうな…」
ジョンの問いかけは、誰にも聞こえず、騒音にかき消された。
貨物キャリアーはやがてMS用ハンガーまで到達した。
有事の際は、ここからMSを貨物キャリアーに載せるのだろう。
MS用ハンガーにはメカニックたちが集まっており、貨物キャリアーから降りてくるクワトロとセイラに向かって歩いてくる。
「お疲れ様でした。中尉、姉貴が待ってます」
貨物キャリアーから降りたジョンは、メカニックたちに頭を下げながら二人の後ろを歩いた。
「姉貴!! 来ましたよ!!」
「待ってたわ」
メカニックの一人の声に応えて、女性の声が静かながらハンガー内に響く。
「あなたがここに来ることは分かっていた。いろいろ準備させてもらっていた」
物陰からツナギを着た女性が現れ、ジョンたちに向かって歩いてくる。
その声を聞いたジョンは、耳を疑った。
「えっ?」
女性のその容姿は、つい最近まで見た姿だった。
「辛い戦いが続いたわね」
だが、ここにいるはずがない。
「あの化け物達とやり合って生きてるとは…」
女性はフフッと笑い、ジョンを指さす。
「ラッキーボーイだぜぃ」
ジョンの生存を喜ぶ女性の顔を見たジョンは絶句しかけたが、辛うじて声を絞り出した。
「ララァさん…?」
その女性はララァ・スン、その人だった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ