ジョンがララァのタブレットを使って情報収集をしていたのは、ジョンの端末側の問題によるものだった。
ジョンの端末自体は故障していないが、自身の失踪により携帯会社から利用停止処分が下され、モバイル通信ができなくなっていた。
そのため、完全にオフラインとなったジョンの端末は、ニット帽と共にM-65のポケットの住人となり、外部への情報収集はララァのタブレット頼りになっていた。
「三ヶ月か…」
インターネット上に流れるニュースとSNSのページは、あれから三ヶ月も経っていることをまざまざとジョンに証明していた。
自分がいなくなっていたのは三ヶ月間だ。
イズマ支部やバイオセンサー研究所の面々には迷惑をかけてしまった。
ニャアンたちにも心配をかけているだろう。
できることなら、自分が生きていることを伝えたい。ジョンにはそんな思いがあった。
シロウズは相変わらずどこにいるのか分からないが、イズマ支部や研究所には一報を入れるべきだろう。
そこまで考えた時、ララァが目を開ける。
「ジョン、言ってなかったことがある。世間的に君はテロリストに拉致されて行方不明の扱いのまま。今、ジョンが生きていることが知れ渡ったら大変なことになるよ」
まるでジョンの思考を読んでいるかのように、ララァは言った。
「ナガラ衆の考えは分からないけど、少なくともキシリア様は君とストライクの関連性を疑っている。君はストライクが戦っている現場のすぐ近くにいた。そりゃあ、怪しまれるさ」
ジュウゾウの話では、向こう側への侵略を目論んでいるのがキシリアだという。
MSに変身できる人間がいることも、彼女は把握しているだろう。
ストライクが現れた現場にジョンがいたことなど、三ヶ月もあれば調べがつく。
ジョン=ストライクという発想にまでは至らなくとも、何らかの関係性を疑うのは当然だ。
「君がアマテラスにいると分かったら、キシリア様は君をグラナダに連れてくるだろうね。やり方を問わず」
「さっきのジュウゾウ様の話ですか。向こう側を侵略するっていう」
ジュウゾウが懸念していた通り、キシリアはナガラ衆と同じ力を持つストライクの能力を掌の内に収めたい。
そう考えるのは自然だ。
そして、それはジュウゾウも同じだとジョンは思った。
彼が自分に嘘をついているとは思わない。
だが、嘘をついていないからといって、本当のことを言っている証拠もない。
ジュウゾウがジョンと敵対しないため、あるいはストライクを掌に収めるためにキシリアの悪行を誇張している可能性もある。
あるいは、あの場でジョンに伏せている情報がある。
そう考える方が自然だった。
そう思うと、ジュウゾウが言う「キシリアが向こう側の世界を侵略するためにイオマグヌッソとジェガンを建造している」という話も、鵜呑みにはできない。
「ジュウゾウ様は君を守るために、別人の個人情報データを準備しているんだ。ここまでやってくれる人は、そうはいないよ」
「なんでそこまで…」
領主がわざわざジョンを別人に仕立て上げるために手を貸す理由が、ジョンには分からなかった。
ストライクの力が欲しい、あるいは敵対しなければいいだけなら、アマテラス・コロニー内に軟禁するか、コロニー到着時点で変身を解除した時点でクワトロにジョンを殺させれば済む話だ。
「君、考えが顔に出すぎ。そこまで深く考えなくてもいいよ」
ジョンはどうも、思考が表情に出やすいタイプらしい。
ララァは呆れたように言った。
「ジュウゾウ様は一年戦争で君に助けられたんだ」
「えっ?」
「一年戦争ではジュウゾウ様も出陣していた。詳しくは知らないけど、戦場で君に助けられたらしい。ジュウゾウ様は政治家でもある。君を敵に回さないように手中に収めたいという下心もある。けど、第一に君を助けたいという思いもあるんだ」
ジョンにとっては、まったく身に覚えのない話だ。
だが、ジョンが覚えていないだけで一年戦争中にストライクで戦っていた、という可能性もある。
虫食いだらけの記憶が、またしてもジョンの足を引っ張っていた。
「君が生きてることがキシリア様にバレたら、君の周囲の人間に危害を加えるだろうね」
実際、もし自分がキシリアの立場なら、ジョンの親しい人間を洗い出して居場所を突き止めるだろう。
その過程で犠牲が出ても、国家権力ならお構いなしだ。
「ジュウゾウ様は、イオマグヌッソの問題が解決するまで、君にはここにいてほしいと思ってる。悪い話じゃないでしょ?」
ジョンはララァを見る。
綺麗な作業服姿で、長い髪を団子にまとめている。
カバスの館にいたララァの雰囲気はなく、その口調も相まって、男勝りな性格に見えた。
「もしも断ったら、どうなるんですか?」
愚問だと分かっていながら、ジョンは尋ねた。
どんな理由であれ、国家のVIPに弓を引こうとしているのだ。
トップと直接面会した以上、ジョンはただでは済まない。
向こうはジョンの秘密を知り、ジョンの知り得ない情報まで握っている。
断れば口封じ。
良くて軟禁。
だが、MSに変身できる人間だと知っているのなら、軟禁も無意味。
殺されるだろう。
「あなたの考えている通り。顔に出すぎ」
曖昧な微笑みで、ララァはジョンを見る。
(心が読めるのか、この人…?)
カバスの館のララァはニュータイプだった。
アマテラスのララァもまた、ニュータイプなのかもしれない。
ジョンはそう思った。
「言ったでしょ。今から死ぬ覚悟はあるかって」
あまりにも軽々しくそう言うララァにジョンは軽い苛立ちを覚えた。
今のままでは事実上、ジュウゾウに従う以外の道がない。
タクシーから降りたら根掘り葉掘り聞こうとジョンは思いつつ、車窓の外を眺める。
イズマ・コロニーとアマテラス・コロニー、名前の響きは似ているが実際のところはまるで違う。
居住用のコロニーと農耕コロニーの違いだろうかとジョンは思った。
ララァは寝転がったまま、自動タクシーに備え付けられたタブレットに目をやった。
自動タクシーのタブレットは、タクシーメーターや地図、トラブル時の通話などの機能を一括して扱えるようになっている。
専用メーターやカーナビを取り付けず、大量生産品のタブレット一枚で済ませているあたりが、涙ぐましい低予算運用だとジョンは思いながら、ララァと同じように画面を見た。
どうやら目的地が近いようだ。
ジョンはこのままクワトロの家に行くのかと思っていたが、タクシーは街中に入っていく。
「本当に十月になったんだなぁ…」
街中のコンビニエンスストアに貼られた「クリスマスケーキ予約開始」の広告を見て、ジョンは思わずつぶやいた。
地球と同じような季節感を出すため、アマテラス・コロニーの居住区では中心軸に設置された擬似太陽ライトによって光と温度が調整されている。
道ゆく人々が秋物の服を着ているのを見て、ジョンは季節の移ろいをまざまざと実感した。
「今からどこへ行くんですか?」
「あっ、言ってなかったね。家に寄る前に迎えに行くんだよ。クワトロの…」
ララァはシートのリクライニングを戻す。
「奥さんですか?」
「そう、綺麗な人だから失礼の無いようにな」
会計のため、自身の端末を操作しながらララァは言った。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ